アディバ
AD125/200

 長所:1中速以降の安定性 2後席居住性 3トランク収納力 4風防効果
 短所:1取り回し 2乗降性 3低速安定性 4シート下収納力

 

 今回試乗したのは台湾で製造される屋根付スクーター:アディバAD125とAD200の2009年以前のモデルである。搭載されるエンジンはSYM製RVの125.5ccと171.2ccである。

 このスクーターは図体がデカくてずっしりと重い。それもただ重いだけでなく重心も高い。加えてハンドルの取り付け位置が高いうえに幅も広くないので、取り回しに苦労する。重さは170kgを超える程度だが、200kgクラスのスポーツバイクのほうがまだ取り回しやすい。
 乗降にも緊張が伴う。車体が長いわりに運転席の位置が前寄りで、フロアが高いうえにフロアトンネルもあるので、乗り込む際に足が通しにくい。着座した状態でセンタースタンドを解除するのが難しいので、単独乗車であればサイドスタンドを立てた状態で乗り込むのが安心である。
 後席は運転者が先に着座した状態では大きなトランクを回し蹴りして乗り込むのはオープン状態とて難しいので、運転者よりも先に着座しておく必要がある。同乗者の安全を考えるならセンタースタンドを立てた状態で同乗者に先に座ってもらい、運転者は同乗者の体重の分だけ重くなったADのセンタースタンドを解除してサイドスタンドに立て換えてから自ら乗車するという方法が一番安全だと思う。
 足付き性は問題ない。フロア途中が絞り込んであるので、着座後は170cmない私でも両足がほぼべったり足が付く。
 着座姿勢。運転席は腰がかかるので背筋はピンと伸びる。ハンドル位置もフロアも高めでステップも傾斜がかかっているので、アメリカン的な若干浮き足立った姿勢になる。170cmない私でも窮屈に感じるし、これが操縦性も落としていると思う。一方の後席は殿様気分である。トランクによる背もたれと左右の囲いが安心感を生んでいる。後席のステップも互いの靴がぶつからない位置にある。オープン状態なら背筋はピンと伸びるのだが、屋根を立てたクローズ状態ではルーフの支柱にヘルメットがぶつかるので若干首を前に折らなければならない。

 

 乗降後から発進直後、そしてすりぬけ時の低速安定性は悪いと言わざるを得ない。それは重心の高さ、着座姿勢からくるものだ。単独乗車でも既に後席に大の大人を積んだような重心の高さである。フロアがもう少し低くて踏ん張りが効けば、ハンドルをもう少し低く幅を広げてくれればと思う。フロア下がこんなに開いているなら魚雷でも2本ぐらい積んでおけばいいのに。
 ところがひとたび加速を開始すると今度はビシッと安定するから面白い。前後14インチホイール、ロングホイールベース、頑張るエンジンのジャイロ効果が安定性を一気に向上させるのだろうか。低速での不安定性と中速以降の安定性、こういう二面性を持ったバイクは珍しい。停止寸前が一番ふらつくので、15km/hは常に出していたい。

 加速力AD125に85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にすると100mで50km/h、200mで70km/h、300mで80km/h、400mで90km/h、長い直線で平地最高速の100km/hを確認した。(すべてメーター読み、以下同じ)。一方、AD200は100mで70km/h、200mで90km/h、300mで95km/h、400mで100km/h、500mで105km/h、長い直線で平地最高速の115km/hを確認した。どちらも170kg以上の重量があるのに良く伸びる。
 AD125は特に回転で力を稼いでいる感があり、クラッチミートからして高回転を惜しみなく使うので結構にぎやかである。これがDIO110やアクシストリートのような非力なエンジンではこんな動きはできまい。AD125でタンデムしても主要国道でなんとか周囲の流れに乗れる。平地で88km/hまでは確認できた。単独時ほど速くはないが、タンデムでも十分実用的なパワーを持っていて、挙動も単独乗車時とあまり変わらなかったのも意外だった。
 AD200は体感的にAD125のトルク30%増しで、発進時の騒音が減り、旋回動作にも余裕が出る。どちらを買うか迷うならやはり余裕のあるAD200をお勧めしたい。AD200の最高速を115km/hとしたがエンジンにはまだ余力がありそうだった。しかしAD125もAD200も100km/hも出れば十分だと思う。というのも高速走行では風圧の影響をモロに受け、風向きが急に変わったことでフロントがごっそり持っていかれることがあり、それ以上速度が出ても怖いのだ。

 AD125/200は正面からの風防効果が特に高かった。フロントスクリーンの左右にサイドデフレクターを装着すると風の巻き込みが一段と減るが、ミラーの視界が一部欠けてしまう。また屋根の左右にルーフデフレクターを装着すると雨の滴りが減るが屋根を折りたたんで収納することが出来なくなってしまう。今回試乗した2台は片方がレスオプション車で片方が双方を装着していた。風の巻き込みが少なく屋根からの共振音が少なかったのは両デフレクター装着車だったが、風向きの変化の影響が少なかったのはレスオプション車だった。どちらも一長一短だが、構造的にルーフの建て付けが完璧ではないことは確認できた。レスオプション車の後席に座っている時のルーフ後方の微振動は正直とても不快だった。屋根を固定式にしない限りNHVと決別することはできないだろう。ホンダがモーターショウでコンバーティブルスクーターを提案したことがあるが、製品化しなかった理由もそこにあるかも知れない。

 旋回性。実を言うとAD125では暗黒の峠道を走らなかった。この区間はタイトコーナーが連続し路面が常に濡れているので、AD125の安定特性と高額製品ゆえに万が一の転倒を恐れたからである。後に乗ったAD200はトルクの強さでカバーできるから行けると思った。AD200は中速以降の直進性の高さを生かしてリーンウィズのままなら意外なほどコーナーで倒して走れた。しかしハンドルを切って曲がるほどのコンパクトな旋回は苦手である。AD125では走りたくなかった暗黒の峠道をAD200では走ろうと思った。両者の旋回性はそれくらい違う。違いはエンジンだけなのだが。

 よって比較できる燃費を計測できたのもAD200の方だけだった。AD200で比較対象区間304.7kmを走行したところ、距離計は319.8kmを示した。距離計に+4.9%の誤差があるとするならば、その区間の平均燃費は32.5km/Lになった。市街地区間では26.9km/L、高速道路では27.3km/Lになった。比較できるものではないが、暗黒の峠道を除いたAD125の平均燃費は40km/Lを超え、RV125EFIに近い数字だった。重いのに大したものだと思う。燃料計がどちらも故障していたらしく針が戻ったり進んだりという状態を繰り返していた。燃料は現行モデルで13.5Lも入るので燃料計が頼れなくても困らなかった。

 制動力。AD125/200はブレーキレバーが左右ともに非常に遠いので、構えていない限り短制動などできない。それでも試しに左レバーだけ強く握ると後輪がロックしてまっすぐ滑る。右レバーだけだと握り切るのが追いつかないせいか滑るに至らなかった。左右同時に握った場合、乾燥路面ならきちんと止まれたが、WET路面では後輪が若干滑る。リアブレーキもディスクなので手がちゃんと届く人ならばコントロールできるだろう。
 タイヤサイズ、ディスクローターのサイズはそれぞれF:120/70-14 260mm R:140/70-14 220mm(現行モデル240mm)となっている。標準装着されていたタイヤのブランドはMAXXISだった。

 操作性。  エンジン始動はセルのみである。
 ブレーキレバーが遠すぎ、ホーンボタンも内側に引っ込んでいるのでよほど手の大きい人でないとブレーキとホーンの同時操作はかなわないだろう。
 フロントスクリーンは輪郭が黒く窓枠がはっきりしている。目障りな視界ではない。
 ワイパーは払拭速度が2段あるが、その速度に大差がないので一つは間欠式にしてもいいと思った。ウォッシャー液はワイパーアームの先端から噴出する。大型自動車に多い設計である。
 バックミラーは妙な角度が付いていて後方視界が狭い。ミラーアームの取付角度といい転倒時の低ダメージを狙っているのか。ミラーの正面はLEDウインカーを兼ねている。そのレンズ面積が狭くヘッドライトからの距離も遠すぎて被視認性には問題がある。
 時計もトリップメーターもモードスイッチ1つで調整するのだが微妙な押し時間で操作を分けるので使いにくい。
 メインスイッチでシート(OFF+PUSH左)もトランク(OFF+PUSH右)も開けるが給油口は右側に独立しているので鍵を差し替える必要がある。
 ヘッドライトは35W×2。常時2灯式なので被視認性は高い。照射力はハイビームにすれば暗黒の峠道でも通用する。

 

 収納力。オーディオを装着しなければ4箇所のポケットがある。スクリーン後方のポケットは雨天時でも地図を濡らさず差し込んでおける。シート下の収納スペースは中央に大きな突起があり、ヘルメットは半キャップのそれも薄いものしか入らない。小物専用と割り切ろう。屋根を立てればトランクスペースは広大である。ジェットヘルメットを2個横に並べ、その上にデイパックも収納できてしまう。その一方で屋根を畳んで収納してしまうと、デイパックが1個入るくらいになってしまう。ヘルメットホルダーがないので、オープン状態ではどこにヘルメットをかけておこうか?

 積載性。収納がメインだが、単独乗車であれば後席を活用できる。後席に荷物を固定するためのバンドがあるのだが、なんとライディングジャケットを着た状態で私の体をシートベルトすることができた。勿論その強度は期待できないが、荷物を固定するには十分である。

 コンバーティブルでタンデムも可能にした結果、125ccながらも巨大なスクーターになってしまった。屋根を付けてこれだけ重心が高くなるならいっそビッグスクーターをベースにしたほうが安全で価格に見合う満足が得られると思う。AD125は良くも悪くも贅沢すぎる。

 

2012.10.8 記述

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