CQモーターズ
U(ユー)

ミツオカ車・タケオカ車と比較して
 長所:1ハンドリング 2旋回性 3剛性
 短所:1価格 2後退登破性 3耐湿性

先代コムスと比較して
 長所:1乗り心地 2安全性 3被積載性
 短所:1価格

 CQモーターズはキューノでいきなりコケたが、懲りずに何台も電動ミニカーをリリースした。そのなかで最も実用性に優れ、恥ずかしくない外見をしているのが今回試乗したU(ユー)である。既に生産中止となっている。発売開始当時は130万円近くしたが、2008年頃の在庫処分時は50〜60万円にまで値段が落ちていた。それくらいならベース車両であるトヨタ車体・先代コムスより安かったので選ぶメリットはあったと思う。

 Uのオーナーさんは先代コムスの試乗経験があり、Uの方が先代コムスより乗り心地が良いとのことである。ホイール内にモーターを装備する先代コムスは後輪のバネ下重量が重く路面の凹凸を拾ってバタつく短所があった。それを補うためCQモーターズのEVミニカーは先代コムスより一回り大きく太い軽自動車サイズを、指定空気圧を1.5まで落として履かせていた。重すぎない軽すぎない315kgという車重、左右独立した駆動、そして先代コムスよりも路面の接地面積が広く指定空気圧が低いことなどから、低μ路面での安全性はかなり高いものであったと思う。軽自動車と同じタイヤなのでスタッドレスタイヤの入手も容易であった。

 踏破性が前進時と後退時で異なる。やはりホイールインモーターが重いらしく、段差のあるところに乗りあげようとする際、後退時は助走して勢いを付けないと乗り上げることができないが、前進時は前輪を段差に接触させたゼロ発進でも軽々と踏破できる。

 ベース車両よりもう一点優れていることがある。シャーシから上のパイプフレームである。コムスだと背面にしか金属フレームがないが、Uだと極太の金属パイプフレームが前後・上下・左右からキャビンをガードしている。万が一横転した場合に乗員へのダメージは減るだろうし、隠れた長所として被積載性も向上するのである。小型トラックの荷台に、そこに収まる長さのスロープ板を敷いてミニカーを積載する光景をイメージして欲しい。勾配が強すぎてコムス・U共に自力では登れないが、もう一人がパイプフレームを後ろから押してやることでUだとトラックの荷台に何とか載り込むことができるのだ。

 そして先代コムス前期モデルでは出来なかったシートの前後調整がUでは可能であった。しかし身長145cmの人に座ってもらったらシートを最前部にセットしてもペダルに足が届かなかったというオチもある。

 荷台の短いタイプのコムスをベースにしたため積載性は高くない。シート下に小物が入る空間と、シート後方にデイパックを寝かせられる面積の荷台がある。ゴルフバックを立ててパイプフレームにバンドするというような使い方もできたし、収納容積よりも防犯性を重視してカギ付きのBOXもオプションで用意されていた。

 屋根はジャイロキャノピーのより横幅があって小雨であれば運転者は全く濡れることはなかった。両サイドがガラ空きなので、横殴りの雨ではふとももや腰のあたりが濡れることはあるが、顔・胸元・股間などは濡れないので不快になることはなかった。よほどの雨でない限りカッパを持たずともタオル1枚常備しておけば駐車後に濡れたシートを拭いたり走行中に体を拭いたりできた。

 ワイパーはスイッチを入れている間だけゆっくり往復する。払拭速度は1速のみで遅く、大雨での前方視界は悪くなる。両サイドが解放されていることで、窓が曇ることもなかったし、足元まで広く見渡すことができた。夏の解放感は日差しを防げるバイクという感じである。密閉車室のアビーは夏は死ぬほど暑かった。エアコンがないなら、屋根だけ付けて横は解放したほうがいいと双方に試乗した経験で思った。寒けりゃ厚着すればいいが、夏の暑さはどうしようもないのだ。

 サイドガラ空きのデメリットとして防湿性が劣ると言えよう。専用カバーをかけて車体を全て覆っていたのだが、足回りなど室外部品が錆びないのに、なぜか室内の金属部品が錆びるのである。画像のようにペダルやステアリングシャフトなどが錆びるなどアラコ(現トヨタ車体)でも想定していなかったかもしれない。長期保管するなら要ガレージである。

 走行性能はミツオカやタケオカを同情するほど出来が違う。

 誤差は測定していないが最高速は平地で52km/h、下り坂で61km/hまで伸びた。上り坂は勾配にもよるが平均して40km/h程度、アビー4stAF61モデルで20km/hまでしか伸びなかった坂でも30km/hまで伸びる。発進加速が2st4stいずれの50ccミニカーよりも力強く、騒音・振動から解放されているのが何よりも気持ちいい。パワーというよりトルクで動く乗り物である。加減速もMC-1EVや初期型ミリューよりスムーズであった。バッテリーが寿命を迎えるころは若干の加速力低下を認めたが、航続距離以外はほぼ性能が落ちなかった。

 ハンドリングは軽快かつフワフワした感じがサンバー(TW1−RR車)に似ていた。駆動と操舵をはっきり分担した素直な操縦性は今まで乗った多くのFF車より気持ちがいい。
 その形状、乗車位置からロールは大きめに出るが、フル加速中に急ハンドルを切っても横転させることはできなかった(笑)そのために平地最高速50km/hに抑えているのかも知れない。
 制動力。普段クルマにしか乗らない人はこのミニカーのブレーキタッチをかなり重く感じるだろう。ドラムブレーキのため初期制動が鈍く、クルマより強めにブレーキペダルを踏む必要がある。回生ブレーキなので強くブレーキを踏むとカッカッカッカッという音とともに軽いキックバックをつま先に感じる。砂利道で意識的に急ブレーキしない限りスリップしなかった。アクセルもブレーキもペダルが右側寄りで踏みやすい。この点は多くのクルマが見習ってほしい。

 操作方法はクルマとほぼ同じであるが、パーキングブレーキが小型トラックで採用するようなステッキ式であるのがちょっと使いにくかった。坂道発進ではクリープが弱いので、通常のクルマと同じ位置にレバー式のものを採用して欲しかった。シフトレバーの代わりに左側にD(ドライブ)−N(ニュートラル)−R(リバース)だけのセレクターがある。充電はインパネ下にコンセントを差し込むだけである。バックミラーは縦長形状のものが左右対称に付いている。視線移動が少なく視界も上下左右に広く極めて視認性に優れている。

 4年間通って1,000km試乗したところ、航続距離は連続走行で最大でも35kmだった。走り方は交通の流れを乱さんとアクセル常時ほぼ全開である。30km/h定速走行なんて非現実的なことはしない。充電の仕方は、1回の走行で電池をほぼ使い切り走行直後にすぐに充電した。サルフェーション対策はしていない。

 航続距離は充電時の気温にも大きく左右されるようで、運用開始の夏が30km、同じ年の冬が20km。1年後もほぼ変わらず、2年後の夏が18km、冬が10km。3年後の夏は14km、冬は4km。4年後の夏が2kmでバッテリー交換となった。コムスの初期パンフでは80km(30km/h定速)航続を謳っていたがマイナーチェンジで35km程度に表記が改められた。詐欺まがいの表記でボロクソに叩かれたのは想像に難くない。

 運用中の苦労は、航続距離の短さもさることながら、その航続距離をフルに使えない点にある。メーターを見てもあと何km走れるのか分かり辛いのだ。Uは燃料計の代わりに5つ目盛りの電圧計があるが、目盛り一つごとの走行可能な距離が比例しないのである。30km航続できた時を例にとると、目盛りが5つから4つに減るまでに走行できたのが5.9km、4つから3つに減るまでに走行できたのが8.6km、3つから2つが8.8km、2つから1つに減るまではわずか1.8km、そこからバッテリー残量警告音が鳴るまでに走行できたのが4.4km、警告を無視して自動停止まで0.4km、小休憩して0.1kmだけ自走してやっと30kmだったのである。航続距離30kmといっても安心して走れるのは目盛り3つ分の23.3kmである。冬なら航続距離が20kmといっても安心して走れるのは、、、バッテリーが2年目になったら、、、正直申し上げて通勤や仕事では使い物にならないだろう。

 目盛りが減るほど1目盛りあたりの航続距離が減るので、連続走行では目盛りが減るのが早いし、休憩後には充電していなくても目盛りが1つ2つ復活することがあるが、再び走ればすぐに目盛りが減る。季節によってもバッテリーの使用期間によっても走り方によっても1目盛りごとの走行可能距離はコロコロ変わってしまう。全くメーターの意味をなしていないのである。いつ充電したか何km走ったかというメモ帳を持参していない限り、航続距離をフルに使いきることはできない。ほんとうにご近所限定なのである。コムス(COMS)の名称の由来が Chotto Odekake Machimade Suisui であることに頷ける。

 一充電あたりの夜間電気料金と航続距離からガソリン車よりもランニングコストが安いとするEV車のパンフレットをよく目にするが、私は懐疑的な目で見ている。なぜならバッテリーやエンジンの耐久性を考慮していないからだ。

 鉛バッテリーの耐久性は一般的に3年程度と言われている。航続距離が約半分になったら寿命と考えるようだが、私の試乗頻度では航続距離が半分になるのは2年だった。但し、私の試乗頻度は少なく週1〜3月に1回程度であった。航続距離が落ちるにつれて試乗頻度も落ちてきて、それが充電後の放置期間を増し、いっそうバッテリーの寿命を早めたかも知れない。4年間通って1,000km乗ったが、乗車頻度が高ければもっと走行距離は増えただろう。その一方で充放電回数も増えて耐久期間も縮まっただろう。バッテリーの耐久性は使用期間もさることながら放置期間の長さにも左右されるようだ。航続距離と充電時間(8h)からしてEVミニカーに載せた場合、鉛バッテリーはどんなに持っても10,000kmが限界ではなかろうか?(平均航続距離20km×充電回数500回=10,000km)

 では移動1キロあたりのコストを比較してみよう。EV車は一充電で航続30km電気料金120円とすれば4円/km。一方ガソリン車(ミニカー)は燃費30km/L、ガソリン150円/Lとすれば5円/kmとなる。変動費だけで比較すればEV車の方が安いが、バッテリーやエンジンの値段も入れてみよう。普通に購入すれば鉛バッテリーは15万円、再生バッテリーでも10万円以上はする。仮に10万円の再生バッテリーが10,000km持ったとしたら10円/km、先の変動費と加算するとEVミニカーのランニングコストは14円/kmとなる。一方4stエンジンを20,000km使って10万円の新品に交換したら5円/km、2,000kmごとに1,500円でオイル交換して0.75円/km、10,000kmごとに2万円で駆動系をリフレッシュして2円/km、先のガソリン代と加算するとガソリン車のランニングコストは12.75円/kmになる。もしかしてガソリン車の方が安い?ということになる。

 上記の条件はかなりEV車を有利にして計算した。EVミニカーが30kmも航続するのは夏だけだし、5〜6,000kmで売りに出される業務用EVミニカーが多いことから、実のところ鉛バッテリーの寿命はそれくらいなのでは?仮に鉛バッテリーの耐久期間が5,000kmでその期間中の平均航続距離を15kmで計算し直すとEV車のランニングコストは一気に28円/kmにまで跳ね上がる。全然安くないですね、ということになる。

 そしてもう一点は電気料金である。電子レンジやドライヤーを使ってブレーカーが落ちるような家庭は契約アンペアが限界ギリギリである。その生活にEV車の充電を加えたなら契約アンペアの変更が必要だろう。しかも深夜料金を安くするためには更に別途基本料金を払わなければならない。つまり基本料金がダブルで毎月増えるのである。自家発電機能を持ち、バッテリーを安価に入手できる人でない限り、EV車の方がエコノミーであると言い切ることはできない。

 EV車はガソリン車よりエコロジーかどうか、私が知り得る範囲では何とも言えないが、少なくとも走行中の快適性と環境負荷は50ccのガソリン車より良い。EV車はエコというよりエゴな乗り物なのだ。1人しか乗れないし、クルマと同じ料金を払って駐車しなければならない点は我慢するとして、せめて航続距離が100km程度に向上しない限り実用性は低いと言わざるを得ない。これが鉛バッテリーで走るEVミニカーに対する私の率直な感想である。

2012.7.22 記述

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