ホンダ・エイプ100

 長所:1軽快感 2運動性 3経済性 4豊富な改造部品
 短所:1シート厚 2タンデム居住性 3泥除け 4前後制動比(ト゛ラム車) 5価格(2009〜)

 ホンダ・エイプ100は2009年6月現在、国内モデルとして唯一生存している原付二種MT車である。エンジン、フレーム、懸架構造などから、兄弟車はXR100モタード(生産終了)、ベース車両はオフロードレーサー:XR100R(現CRF100)と言えるだろう。2002年に発売されたこの類人猿は他車からの流用部品が多く、比較的安価に開発できたと推測される。

 今回は2007年以前のバッテリーレスモデルに2台試乗した。1台はフルノーマル車(以下、ノーマルという)。もう1台はエンジンに手をつけないで小改良を施したものである(以下、改という)。その内容は、最高速を伸ばすためにフロントスプロケットを一丁上げ、吸気抵抗を改善するためにメインジェットとインシュレーターを交換したものである。

 まずはノーマルから行こう。

 以前試乗したXR100モタード(ノーマル)は3速でも徐行できるほどの粘り強さを持っていた。ノーマルも正にこれと同じ。半クラッチせずにどれだけ粘るか試してみたところ、1速=5km/h、2速=10km/h、3速=15km/h、4速=20km/h、5速=25km/h。(全てメーター読み。以下同じ)各ギアでおよそこれくらい速度が出ていればカタカタ言わない(ノッキングしない)。多少重いが85kgの負荷をかけても2速発進でき、3速でも徐行すりぬけができる。今まで乗ったなかではエリミネーター125(03年以降)に次いで低速トルクの頼もしい小排気量MT車である。

 その一方で加速最高速が遅いのは否めない。アクセルを全開すると約150mで60km/h、約600mで80km/hに到達する。ギアごとの最高速は1速=30km/h、2速=50km/h、3速=70km/h、4速=82km/h、5速=88km/hであった。しかし80km/hから先は長〜〜い直線じゃないと出ないので、一般公道ではせいぜい80km/hと思ったほうがいい。速さだけでみればKSR110は勿論のこと、スペイシー100にさえ劣る可能性があるのだ。これが前後ディスクブレーキを採用したXR100モタードなら見かけ倒しとして大いに不満になるだろうが、エイプ100だと許せてしまうから不思議である。

 軽快感が際立っている。車重が軽くて取り回しやすいだけでなく、ハンドリング、ブレーキ、クラッチ、シフトチェンジ、スロットル、何もかもがめちゃくちゃ軽いのだ。セルがないので、キックスタートだけは“ひと蹴り”必要だが、下り坂で発進するなら3速からのクラッチミートだけでラクに“押しがけ”できてしまう。“ひと蹴り”も“押しがけ”も自分には似合わないけれどMT車に乗りたいという人には、最もエンストしにくくセルもあるエリミネーター125がお勧めである。でも取り回しと操作の軽さで選ぶならエイプ100が断然勝る。

 クルン、クルン、ルルーン、ルウィーン〜、イイ〜ン。ノーマルのこのサウンドはどこかで聞いたことがある。飼い主に甘える小型犬の鼻笛、そして敵を威嚇する大型犬の唸り声、これらを足して2で割ったような音に私は聞こえる。この優しいデザインサウンドそして軽快感。絶対的なスピードは遅くても、癒し系キャラとしてこれはこれでもいいやと思えてきた。ただし今の進化したクルマと混合交通するには、最低限の動力性能だと思う。

 比較対象区間304.7kmのオドメーターは303.1kmだった。修正後の平均燃費45.3km/Lになった。軽量な車体に5MTだから密かに期待していたのだが、スーパーカブ90には及ばなかった。

ハンドルとバックミラーは社外品。

 次は

 ノーマルに比べて始動性低速トルクもわずかに落ちている。発進は1速でないと苦しいし、極低速走行は2速以下、それも半クラッチを要する場合もある。“乗りにくい”とまではいかないがノーマルが異常なほど乗りやすかったので、やっと普通のMT車くらいの扱いやすさになったと言えるかも知れない。

 シフトポジションインジゲーターは1速20km/h、2速35km/h、3速50km/h、4速70km/h、5速90km/hを差している。ノーマルでさえ4速で82km/hまで伸びるのだから、ギアごとの最高速を示したものではないようだ。

 アクセルを、これ以上回すとヤバイ音がする一歩手前のところまで回してみたところ、約100mで60km/h、約200mで70km/h、約350mで80km/h、約700mで100km/hまで伸びた。80km/hまでの加速性能はKSR110にわずかに負けているような気がするが、音の大きさから走っている実感はの方が大きい。ギアごとの最高速は、1速30km/h、2速50km/h、3速70km/h、4速90km/h、5速100km/h強だった。なおも限界以上に回ろうとするのが印象的だった。エイプをはじめとするXR系のいわゆる縦型エンジンはかなり高回転に強いと見た。一方で低回転での粘り強さはカブなどの横型エンジンのほうがわずかに強いと感じた。チューニングにもよるのだろうが、キレのエイプにコクのカブと言っておこうか。両方所有してフィーリングの違いを味わうのも楽しいだろう。

 比較対象区間304.7kmのメーター値は302.8km。修正後の平均燃費46.0km/Lになった。市街地区間は37.8km/Lになった。興味深いことに改のほうが平均速度は速かったのに、ノーマルとの燃費差は無視できるほどに少なかった。インシュレーターは規制適合のための吸気抵抗に過ぎないのだろうか。

 フロントフォークか、フレームか、あるいは両方かも知れないが、アクセル全開ですっ飛ばしていると路面の凹凸を拾って、車体全体が絶えずしなっている。ヨレる・ユガむ・ネジれる・ではなくシナルという言葉を使うのは、良い意味で柔軟だからである。スクーターと違って後輪はエンジンの重さから開放されている。しかも、このリアサスペンションは路面からの衝撃を的確に吸収しつつも常に接地感を失わない。大きなバウンドでも底付き感がない。良く鍛え上げられたアスリートの筋肉に例えたい。エイプは12インチ・ホイールを履いているが、14〜16インチくらいのリムスポークホイールを履かせてみたいと思った。もしかすると足の先端までもっとしなやかなバイクになるのでは。

 KSR110エイプ100(XR100モタード)、どちらにするか?これは実に悩ましい。
 KSR110はフロントサスの剛性感と下半身(膝)だけで操縦できるほどのコンパクトさが魅力である。そんなKSR110から言わせれば、CD50/90のタンクを使うエイプ100はニーグリップが甘い。また、両膝だけでねじ伏せるには大きい・身を任せるには小さい・中途半端な車体サイズでは?ということになる。
 一方のエイプ100はリアサスが良い仕事をするし、ギアの間隔が近くて加速が途切れない。そんなエイプ100から言わせれば、KSR110のキレのないエンジンに、間が抜けたギアでは、前後ディスクと倒立フロントフォークが勿体無いぞ、ということになる。
 私の好みではKSR110の車体とFサスに、エイプ100改のエンジンとRサスを組み合わせたものである。規制対応で双方とも去勢されている。本来の動力性能を引き出そうと豊富な改造部品に手を出して、深い世界に入る人も多い。エイプ100は初心者用のバイクでもあるし、改造地獄への招待状でもある。

 エイプ100に対する不満はいくつかある。

 まずはシート。見た目はしっかりしてそうだが、実際に座ると幅が狭くてクッションも薄い。着座姿勢も直立しているため尾骶骨にモロに体重がかかる。荷物を背負えば1時間、何も背負わないでも2時間で尻が痛くなる。この日は約8kgのデイパックを背負って乗り回していた。信号停止の度に立ち上がって尻を休ませたが、それでも帰路につく頃には尾骶骨が疲労骨折しているのではというほど痛くなっていた。XR100モタードよりもケツが痛くなる。このシートは2人乗りも緊急用と割り切るべきで、居住性は、女の子2人でギリギリ。カップルにもお勧めすることはできない。もしも野郎どもが幸せそうに2ケツしていたら、少なくとも草食系、同乗者の手の巻き方しだいではそっちの人であると疑ったほうがいい。

 次にフロントフェンダー。雨天走行ではフロントタイヤが雨水・土砂を巻き上げる。そのほとんどはエンジン、マフラー、フレームなどにブチ当たるが、長時間走行ではジャケットが砂まみれになり、ジェットヘルメットのシールドをくぐって鼻の穴や口の中にまで砂が侵入してきた。ハンドルロックする際も鍵穴を拭きとってからでないと砂を入れてしまう。デザイン的には丁度良く取り付けてあると思うが、ドロヨケとしての機能は皆無に等しい。

 そして、制動比。ドラムブレーキ車はノーマルでゆっくり走るなら不満のない制動力だが、前後バランスからしてフロントを強めに握る必要がある。エイプはブレーキレバーもコンパクトでアクセルも軽いから、制動操作への移行はいたってスムーズである。雨天時にわざとフロントのみで急制動してみたが、Fタイヤはなかなかロックしなかった。これはフロントサスに十分なストロークがあり、Fタイヤに一気に負担をかけないからだと思う。しかし初期制動が弱いのは否めず、エンジンに手を加える予定があるなら、ディスクブレーキを標準装備したType DXR100モタードをお勧めしたい。ドラム仕様ならエンジンをいじらない改に留めた方がいいだろう。ちなみに改でも峠道ではアドレスV125(ノーマル)やKSR110(ノーマル)より速く走れる。動力性能はどっこいだが運動性能とギアの繋ぎで勝るからである。

 このヘッドライトは原付二種としてはかなり暗いほうで夜間の峠道ではハイビームにしても照射力不足だった。ライトユニットをぐいっと持ち上げて一時的に光軸を変えられるのはモンキー譲りの技である。モンキーとの着座位置の違いで身をかがめないと正確にメーターを読み取ることができない。

 エイプ100は2008.8までバッテリーを装備していなかった。エンジンを始動しない限りニュートラルランプすら点灯しない。いざ始動してもアイドリング時は発電量が小さく、日中はメーターパネルに手を当てないとニュートラルランプ(緑)とハイビームランプ(青)の点灯状態が分からなかった。また、エイプ独特のキョン!というホーン音は周囲が警告音として認識できるか疑問である。
 しかし、バッテリー切れを心配しなくていいのは経済的だし省資源である。毎日は乗らないが走る時に限って距離が進むなら、こういうバッテリーレスバイクは重宝するだろう。

 19年排ガス規制対応モデル(2008.9発売)からバッテリーを装着してニュートラルランプが見やすくなり、盗難抑制装置を装着できるようになった。同時に、前後ディスクブレーキを採用したType Dが追加された。といっても足回りは生産終了したXR100モタードそのままなので、XR100モタードはエイプ100に統合されたと言える。今回の変更でエイプ100は税抜き44,000円アップ、Type D はXR100モタード比で税抜き46,000円アップした。2002年に税抜249,000円で登場したエイプ100も、今ではType Dで税抜349,000円である。このサイズにしてこのプライス。これが最大の欠点か?

2009.6.9 記述

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