ホンダ
スーパーカブ110プロ

 スーパーカブ110(JA07)標準仕様と比較して
 長所:1低速安定性 2積載性 3乗り心地 4駐車安定性
 短所:1乗車定員 2前輪制動力 3照射力 4燃費 5最高速

 スーパーカブ110 JA07標準仕様(以下110という)は2012年3月から中国生産の新型に入れ替わり、2009年10月に発売されたスーパーカブ110プロ(以下PROという)も2012年7月に中国生産の新型に入れ替わった。今回はモデルチェンジ前の2009年式PROに試乗した。

 積載性はクラス最強である。リアキャリアは110(JA07)と互換性があるが、新型カブ110(JA10)とは互換性がない。プレスカブのリアキャリアは後端が持ち上がった長方形状であるが、PROの形状は違う。荷台は後端まで水平だが、代わりに中央部しか後方に伸びていない。MD90もそうだった。BOXを取り付けるには荷台は水平の方がいいが、長方形ではなく多角形するメリットは何だろう?

 フロントキャリアはフロントフォークに直接取り付けられていて、110のオプション品とは剛性が異なる。このフロントキャリアの上にPROには大型フロントバスケットが、110MDには台座が付く。このバスケットはプレスカブやベンリィ(110)PROと型番こそ異なるが、寸法を測定したらサイズは一緒だった。フロントキャリア上にバックフックが付いているあたりもPROが110MDの副産物であることを物語っている。

 110のサイドスタンドはセンタースタンドと一体化してエンジンの下に付いているが、PROのサイドスタンドはリアスイングアームに独立して大きいものが付いている。PROのセンタースタンドを使おうとしてもサイドスタンドに隠れていてちょっと出しづらい。サイドスタンドのみの使用になるか、サイドスタンドを一度出した状態でセンタースタンドを出すという使い方になるだろうか。スタンドの安定性、とくに積載状態におけるサイドスタンドの安定性は110よりかなり信頼できる。それは110よりサイドスタンドが大きいというだけではない。110もPROもギアを入れておけば後輪は前に進まないが、PROは前輪もロックすることができる。積載状態で傾斜地に駐車する。そういう使い方ができる。

 85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にすると110と同じように加速する。メーター読みの平地最高速は110の95km/hに対してPROはまれに92km/hを見たものの、長い直線でいつでも確認できるのは90km/hまでだった。燃費は、信号停止の少ない国道を交通の流れに合わせて走行したところ、距離計の誤差は確認していないが62.6km/Lという数字が出てきた。アップダウンも全開時間も少ない今回の試乗はいつも走る比較対象区間よりも有利な条件であった。それにもかかわらず110より燃費は伸びなかった。まあ最高速や燃費で優劣を付けるほどの差でもないが。

 110の17インチホイールに対してPROは14インチホイールである。110より小回りが利く分、安定性が劣るのか?というのが普通の発想である。しかし実際には小回りは勿論として様々な場面でPROの方が安定性が高いと“私は”感じた。速度が上がれば上がるほどさすがに17インチの110の方が直進安定性は高くなっていったが、そんな高速域はツーリングでも行かない限りアドバンテージにならない。

 PROは発進直後からどっしりしている。ハンドリングを左右する要素にキャスター角トレール量というのがある。他の全ての条件が同じならキャスター角が大きいほど、トレール量が大きいほど直進性は高くなるというが、PROのそれは27度20分と64mm。一方110のそれは26度50分と77mm。どうもこれだけでは説明できないようだ。

 停止状態からの旋回発進を試みた。ハンドルの切れ方はPROの方が豪快である。特にフロントバスケットに積載しているときは重さを伴ってグイっハンドルを倒そうとする。しかしそれが不安にならないから不思議である。ハンドルが倒れるまま自分の体もイン側に倒す。と同時にリアブレーキに右足を添えながらスロットルを回せばハンドルを目一杯切った状態で足を接地させずにクルクル旋回し続けることができるのだ。
 110で同じことをやるとフロントが付いて来ないので最初の旋回だけは足を接地させないとちょっと怖い。その後のクルクルも前輪が膨らもう膨らもうとするので旋回させ辛い。

 小回りだけでなく、コーナリングレーンチェンジでも常識的な運転をする限りPROの方が安心できる。エンジン搭載位置が良くて運動性能がスクーターより高いカブならではの長所に加え、タイヤの接地感が110と大きく異なる。

 PROはキャリア等の装備でフロント回りが重くなっている。その重さでトラクションがかかる。そしてタイヤそのものグリップ力が110より高いのだと思う。PROのタイヤはフロントがIRC−NF30S 70/100-14 リアがIRC−NR35 80/100-14である。小径ながらも太さがあってフロントにもリアと同様の溝が刻んである。低燃費だけを狙った姑息なタイヤではないようだ。

 短制動を試したところ、リアだけの急制動だと割とすぐに滑り出してしまう。フロントだけの急制動ではタイヤが鳴くものの、なんとか持ちこたえる。フロントを強めに、リアを添える程度に制動すれば乾燥路面ではまず問題ない。しかしPROの前輪制動力は110のそれに比べて明らかに劣っている。こんな初期制動力で突然真横から飛び出されたら止まることはできるのだろうか。

 乗り心地は110より固めだけどサスが良く動く印象があった。幹線道路を巡航しているときは前後サスが協調して上下するので110よりフラット感が高かった。縦溝やうねりのある路面を通過する際の安心感も110より高い。その一方で段差を通過した時の衝撃は110より大きく出て、ケツがシートから浮いてしまう場面もあった。ある程度積んだ状態でベストな動きになるようだ。

 すりぬけ戦闘力はどっこいである。PROはフロントバスケットに横幅があること、最低地上高が3.5cm低いことなどにより、路肩に寄り過ぎるとステップやレッグシールドが縁石に接触するのではという不安が出てくる。その一方で110は17インチモデルのくせにそもそも極低速での安定性が怪しい。

 ヘッドライトプレスカブ(50cc)同様の30/30Wバルブである。光量も小さくマルチリフレクターでないから夜間では心許ない。昼夜問わず常時ハイビームで運用したい。

 ウインカースイッチは片手運転を想定しては右側にある。但し上下スライドではなく左右スライドに変更されている。スイッチはプッシュキャンセルではないが手応えがはっきりしている。スイッチの位置がもう少し下にあれば操作しやすかったと思う。

 メットホルダーは110と同じものが同じ場所に付いている。ここにアライ製ジェットヘルメット:MZを引っ掛けてみたところ、熱々のマフラーに直接触れてしまった。これは110と異なり、リアスイングアームにタンデムステップが付いていないからである。110と異なり乗車定員は1名なので、2ケツしたい方は良い部品を見つけて取り付けなければならない。

 ギアチェンジは、やはり停止中のシフトダウンが入り辛かった。試乗中に出会った郵便配達員に聞いてみたら、中にはちゃんと入るのもあるが個体差が大きく、初期のものは特に惨かったという。先代110でも後期型のものでいくらか入り易い個体に乗ったこともある。最新モデルならいくらか改善されている可能性がある。

 圧倒的な積載性経済性、そしてスクーターにはない登坂力、これがスーパーカブ110プロを選ぶキーワードである。これを買ったらなるべくダサいカッコして風景に溶け込もう。

2012.8.4 一部書き換え/ 2012.5.27 記述

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