ホンダ・CB125R
JC79

 GSX-S125と比較して
 長所:1低回転 2操縦性 3照射力
 短所:1足着き性 2高回転

 今回試乗したCB125Rは2018年にタイで生産された日本向けモデル:CBF125NAJである。エンジンスペックはCBR125Rのもの=JC39Eと酷似しているが、型式はJC79Eに更新されている。

 車体デザインからしてもっと悪い足着き性だと思っていたが、170cm未満(股下77cm、体重約70kg)の私が座って両足ともにつま先が接地したうえで足首を少し曲げることができた。しかもペダルとステップの間に足が垂れるから、ジクサーと違って、ステップで脛を痛める心配も少ない。さらに、両足ともつま先しか着かなくてもバイクを股に挟んだままちょこちょこ後退できるくらいに車軸が軽く回る。バイクから降車して取り回しても大柄な車体から想像するよりも軽かった。
 もちろんGSX-S/R125の方が取り回しは軽いし、足着き性に至っては遥かにいいが、CB125Rも良い意味で見た目を裏切っている。
 ひとつ残念なのは、サイドスタンドガイドがステップの後方にあるので、乗車したままサイドスタンドを出そうとすると、ステップに脛が当たりやすい事だ。

 運転席は長さ約26cm、横幅は先端で約10cmと絞り込まれ、後端で約30cmと幅広い。高い座面ながらも適正身長(というより股下長)の許容度が広いと思う。シートクッションは薄いがケツの形に沿ってラウンドしていて、長時間座っていてもほとんどケツが痛まなかった。長時間乗車しての疲労箇所は主に目だった。
 タンクは適度な膨らみと窪みがあり、ニーグリップがしっかりと決まる。ハンドルは実測で約825mmと幅広く、かつ開いている。わずかな前傾姿勢で着座姿勢はとても良い。足着き性では短所になる座面の高さも前方視界の面では長所になる。そしてすりぬける際も左側の縁石に引っ掛かりにくい。

 後席は座面の長さは25cmあるが、幅は先端が21cmあるのに後端は14cmに絞り込まれてしまう。シートバンドがあるのでそれに両手の指を通すか、片方の手はボディカウルを押さえるかして着座する。CB125Rに限った話ではないが、同乗者の尾てい骨はシートクッションが徐々に薄くなっていく所に当たるので座り心地は運転席ほど良くない。とはいえ、GSX-S/R125よりは実用的な後席だ。太いリアタイヤの真上に座っている感覚があり、動力性能の低さに目をつむれば短時間ならそれほど苦しくないタンデム走行ができるだろう。

 スポーツカフェとかいう呼び名が出てきたが、高い位置にライダーを座らせて、開いたハンドルにわずかな前傾姿勢をとる点ではストリートファイターと同じようなポジションである。キャスターが立っているので極低速域ではハンドルがやや軽いが、停止直後はオフ車のようにハンドルを小刻みに左右に切りながら足を接地せずに何秒か安定し続けることができる。

 操縦性はかなり良い。125DUKE(初期型)もかなり操縦性が良いが、足着き時に股が痛いのでCB125Rの勝ち。ジクサーもかなり良いが、足着き時に脛がステップに当たって痛いので、CB125Rが一勝。CB125Rは走行中にわざとハンドルを左右に振ってみた場合に前輪の方向性と後輪の方向性に若干の違和感が発生するのでジクサーが一勝。ほぼ引き分けだと思う。排気量のうえではジクサーの方が半ランク上なので、CB125Rが、上体を起こして着座する125ccネイキッド系のスポーツバイクの中では、私的には一番だと思う。公式サイトでは上質だの本格的だの謳っているが、誇大広告のホンダにしては珍しく嘘偽りがない。

 ではなんでこんなに操縦性が良いのか。それは車体のディメンションの良さ、着座姿勢の良さ、トルク特性の良さの相乗効果ではないかと思う。
 ニーグリップでしっかり車体をホールドできるし、タイヤは前後でバランス良く太く、リア主体でグイグイ曲がれる。バイクを倒し込んでいく際に、リア周りに丸みを感じる点がRS4 125にも似ていた。ちなみにGSX-R125はリア周りにしなりを持った長方形を感じたし、剛性感が目立つRC125はリア周りに三角柱を感じた。(意味不明)
 CB125Rは走行中にわざとハンドルを左右に振ってもフロントはさほど危うくならないし、ケツの振りで綺麗なスラロームを描ける。非常に素直なハンドリングで直進性旋回性も素晴らしい。着座姿勢や操縦性など全体的な感覚は125DUKEにかなり似ていて、誰もが安心して楽しむことができるだろう。

 エンジンのトルク特性は低回転型だと思う。下に粘りがあるから、発進停止の多い市街地でのすりぬけ走行も苦にならないし、GSX-S/R125だと2速まで落とさないと立ち上がりの再加速が厳しいコーナーを、CB125Rだと3速のままなんとか曲がれてしまう状況も少なくなかった。こんな場合、高回転域をキープできる人でないとGSX-S/R125CB125Rに勝つのは難しいかもしれない。

 初心者向き < 上級者向き という順に並べると、以下のようになると思う。
 CB125R < RC125 < GSX-R125 < RS4 125
 これは前傾姿勢の弱さ、低回転の強さ、と同じ順番でもあった。

 アイドリングの時はポロポロポロ、テンポよくシフトアップして走行する時はビーンビーンという音が出る。良く言えば歯切れの良いサウンド、悪く言えば、うがいをしているようなイマイチ煮え切らないようなサウンドだ。RC125も似たような感じだった。RS4 125はとにかく騒々しい。まあ125の単コロに音の色気を求めても仕方がないが、個人的にはGSX-S/R125のサウンドがモーターチックで一番好みだった。

 85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にするとGPSは次の速度を表示した。100mで53km/h(2速)、200mで71km/h(3速)、300mで79km/h(3速)、400mで83km/h(4速)、500mで87km/h、600mで91km/h、700〜900mで93km/h(途中で5速に)、1,000〜1,500mで94km/h、1,600〜2,000mで95km/h(5速)。6速は巡航用としては使えるが5速で伸ばした速度を更に上げるだけの力が得られない点はCBR125R(JC50)と同じ。このときは春の嵐だったため上体を伏せても向かい風が強くて速度が伸びなかったか。このテストコースを逆走させて頂いたところGPS表示で5速112km/hまで伸びた。追い風の協力を得て実力以上の数値が出た可能性もある。それにしても以前乗ったCBR125Rと比べると速度が伸びない気がする。機会があったら再測定してみたい。
 ちなみにGPSが112km/hを示すときCB125Rのメーターは122km/hを示したので、GPSを基準にすると速度計の誤差は+8.9%ということになる。メーカー別にみるとホンダ車が最もプラス誤差が大きいようだ。

 峠道では3速を軸にして、登坂で力不足になったら2速に下げ、下りで余裕になったら4速に上げることが多かった。

 CBR125R(JC50)よりかなり静かな騒音になったが、そのぶん加速力は落ちているようだ。また、スロットルワイヤーが引き側と戻し側の2本になったせいか、低速域でのエンジンブレーキが強くなってギクシャクするようになった。
 GSX-S/R125と比べても高回転域の加速は明らかに劣っている。だけど悲しむ必要はない。低回転域が粘るのでとても運転しやすいのだ。体重の軽い人ならばスロットルを回さなくてもクラッチレバーを繋ぐだけで1速発進できるかどうかという具合だ。そして標準体重の人が乗ってもひとたび動き出せばクラッチレバーから手を離してスロットルグリップを回さなくても1速メーター読み4km/hでトコトコ前進することが可能だ。また2速発進も半クラッチを使えば常用できるほど楽にこなす。2速に繋いだあとはクラッチレバーから手を離してスロットルグリップを回さなくても8km/hでトコトコ前進することができる。3速発進もできなくもないが中回転まで回すのがバカバカしい。ノッキングせずに半クラッチせずに再加速できる最低速度は1速4km/h、2速8km/h、3速15km/h、4速22km/h、5速30km/h、6速35km/hという具合だった。3速までは粘り強さを感じるが、4速以降は平凡なトルク感だ。5速6速は共に平地でも伸びが足りず、巡航用という感じがする。

 比較対象区間307.4kmを走って距離計が示したのは310.0km。距離計の誤差は+0.84%と推定する。その区間の平均燃費43.5km/Lになった。その区間の平均燃費計は47.5km/Lと表示され、少々盛っているようだ。

 サスペンション。フロントはフレームに近いほど剛性感が上がり地面に近いほど柔軟性が高い。リアサスは1本ものが運転席より前方で取り付けられている。単純な乗り心地の柔らかさという意味では、リンク式リアサスを採用する車種に譲るが、路面の凹凸を通過する際、フロントとリアがほぼ同時にバウンドして衝撃をいなすし、収束するのも早い。ピッチング(前後揺れ)が極めて少ない=フラット感が非常に高いと感じた。

 

 短制動。ドライでもウェットでも、フロント単独でもリア単独でも前後輪同時でも、絶妙なタイミングでABSが作動するので直立直進状態では滑らせることができなかった。意地悪く前後変則的にABSを作動させても的確に作動するし、N-MAXのように一度作動させたらチャージするような音も聞こえてこないので、CB125Rは短時間のうちに連続使用してもきちんとABSが作動してくれた。ABS作動中はキックバックがある。その際、ブレーキレバー(右手)への振動は優しく、ブレーキペダル(右足)への振動は強めに出る。
 標準装着するタイヤはCBR125Rより太く125DUKEと同じサイズ=F:110/70-17 R:150/60-17で銘柄はダンロップ(タイ産):SPORTMAX GPR-300(F) であった。いつも水滴で濡れている“くだん”の縦溝が入った峠道のトンネルでも何の不安感もなく通過することができた。やはりタイヤにはグリップだけでなく太さも重要なようだ。

 積載性は社外リアキャリアが既に発売されているGSX-S/R125に引け目を感じる。リアシートが脱着できるので、DEGNER NB-145みたいにストラップをシート下に通せるシートバッグなら簡単に装着できる。リアフェンダー取付箇所にも薄い隙間があり、一度脱着させればストラップを通すことができる。ゴムネットのフックならばリアステップの付け根とリアフェンダーを一周させて引っかけることができる。ナンバープレート付近まで引っ張らなければリアフェンダーにもそこそこの剛性はあった。

 収納力はほぼないに等しい。2つに畳んだ書類と車載工具またはETC車載器ぐらいなら入りそうな空間がリアシート下にある。ご親切にメットホルダーワイヤーが同梱されていたが、それを引っかけるフックと引っかけた後にリアシートを装着するだけのクリアランスがボディカウルとの間に無いのは新手の頭脳パズルなのか?アライヘルメット:MZのDリングならブレーキレバーに引っかけてやり過ごしたが。

 バックミラーはまあまあ。鏡面の淵付近は少々映像が歪むが、形状に変な拘りがないし、ハンドル幅が広くて自らの肩が映りにくいのか、片側で各30mmしかハンドルからはみ出していないのに後方視認性は悪くない。すりぬけ重視でミラーを引込めたい人にも後方視界重視でミラーを張り出したい人にも双方に不満の少ないミラーだと思う。

 メーターは多機能だ。メインスイッチをONにするとひととおりフル表示させた後、Let’s ride の文字が表示される。上:SELect、下:SET、2つのボタンで操作する。SELを押し続けるとODO→TRIP A →TRIP B→ストップタイマーと切り替わる。A区間B区間それぞれでSEL長押し(約2秒)で走行距離のリセットを行い、SEL+SET同時押しで平均速度計、平均燃費計(km/L)、平均燃費計(L/100km)の表示を切り替えることができる。平均○○計と時計は常時表示される。
 燃料計の目盛りは6つあり、満タンから65km走って5つに、50km走って4つに、40km走って3つに、85km走って2つに、65km走って1つになった。途中40kmと85kmで差が大きくなったのは下り区間で燃費が良すぎたのかもしれない。目盛り1つあたりの平均走行距離は61km。今回の燃費43km/L×タンク容量10L=航続距離430kmから逆算すると、最後の1目盛りが消えたあとも64km航続できることになり、規則的な目減りであり比較的信頼できる燃料計だと思う。
 褒めたいのは夜間見やすいだけでなく、パネル面の直接反射する角度さえ外せば明るいところでも文字が読み取りやすいところである。ニュートラルも緑色の警告ランプと文字表示の双方で知らせてくれるし、変速中は何の数字も表示しないのも分かりやすい。

 SELボタンが少々硬いうえに押している間にメーター全体が歪んでしまう点だけがちょっと残念だが、機能的にはこれ以上のものは必要ないので、カブやモンキーみたいな懐古調なデザインなバイク以外は横展開してもいいと思う。

 その他の操作性。
 キルスイッチ、パッシングスイッチはあるがハザードはない。
 ウインカースイッチ(下)とホーンスイッチ(上)は最近のホンダ車の例にもれず位置が逆転している。ディマスイッチも含めた3つのスイッチが親指の移動軌跡内に並んでいるので、ウインカースイッチとホーンスイッチの真ん中に親指を待機させておけば、どちらにも即座に指が届く。ホーンスイッチは誤操作に配慮して右押し式にしているが、それでも親指が通過する際に誤って鳴らしてしまうことはあった。MT車でクラッチレバーとホーンスイッチを同時に操作する機会はほとんどないだろうが、スクーターではブレーキレバーとホーンスイッチを同時操作する緊急事態に遭遇する。ホンダスクーターやホンダ以外の全メーカーのバイクとの統一性という意味において、やはりウインカースイッチとホーンスイッチは従来の位置に戻して欲しいと心から願う。

 照明は全てLEDを採用。円形レンズ内に上下に分かれた上側がロービーム。下側がハイビームパッシング。レンズ外枠に円弧上のポジションランプを上下に従えて個性的な表情を作っている。左右のフロントウインカーも常時点灯して被視認性もなかなか良い。フロントウインカーは合図を出している最中も逆側のウインカーレンズは常時点灯している点がリアウインカーと異なる。

 肝心の照射力GSX-S/R125よりずっといいが、まだ35W程度のハロゲンバルブを越えていないと思う。白いけど明るくはない。輝度が高くても光が広がらないのはLEDのクセだ。目を凝らして見ないとよく見えないので暗黒の峠道ではやはり目が少々疲れた。CB125Rはライトのデザインがそのまま路面を照射する。ロービームはライト形状が横長の帯になっているが、路面照射もそれに準じて、縦方向は手前6〜12m位に渡って、横方向は80°〜90°位の範囲で照射する。ハイビームは横幅を同じくして縦方向は遠方の青看に反射するくらいには光が届く。外枠のポジションランプはロービームより広く路面をなぞるが、所詮は太い円弧上の線である。暗黒の峠道では当然上下両方が光るハイビームに切り替えたが、クリッピングポイントは照射してくれなかった。車体を寝かせてハンドルも切っている状況でクリッピングポイントを照射するには右旋回では右斜め上、左旋回では左斜め上が光らなければならないが、直立直進状態でその部分が光っていると、すれ違いざまに対向車の運転手を眩惑してしまうだろう。バンク角が絶えず変化するバイクという乗り物と指向性の強いLEDライトは相性が悪いのか?旋回角度に合わせて点灯箇所が連続して変化するアダプティブなLEDヘッドライトでないと、従来の55/60Wハロゲンにはかなわないと思う。

 最低限両足のつま先は接地しないと話にならないが、そこさえクリアーできるなら誰にでも乗りやすいスポーツバイクである。足着きさえ良ければ教習車にしてもいいと思うくらいだった。エンジンパワーに対して贅沢すぎる車体性能は絶大な安心感を生むが、高回転がイマイチ伸びないので、ひととおりバイクの操縦を覚えたら、飽きてしまうかもしれない。

 CB125Rは125ccという枠内では最も優れたバイクのひとつだろうが、125ccという枠を外して俯瞰した場合、大きな矛盾を抱えている。せっかく初心者向きの操縦性を与えたのに値段もシートもこんなに高くては初心者が手を出しにくい。5万円ほどしか実売価格が違わないCB250Rの方が、コーナーの立ち上がりは絶対に楽だろうし、振動や燃費も相応ならCB125RCB250R(というよりCB300R)の副産物で終わってしまうかもしれない。その点において125ccに相応しい車格と振り回す楽しさを与えたGSX-S/R125は今後GSX-S/R250が登場したとしても存在価値を失わないだろう。

 実は今回の個体ではギア抜けが何度か発生してしまった。前兆現象としては低回転で走行しているわけではないのに、突然ノッキングのようにガクガク言ってしばらくするとギアが外れて力が抜けてしまうのだ。いずれも4速からギアが外れた。もっと力のかかる低速ギアが外れないで4速が外れるということは機械的に未成熟な点があるのかもしれない。ギア抜けはスロットルでリカバリーできないので旋回中だったらと思うとゾッとする。加速性能も含めて違う個体で再確認してみたい。とりあえず、ホンダが久々に妥協なく作った力作であることは間違いない。

2018.4.18 記述

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