ホンダ・CB125T

 長所:1快速 2快音 3快適
 短所:1デザイン 2始動性 3ハンドル形状

 ホンダ・CB125Tは国産ピンクナンバーで唯一4ストローク2気筒エンジンを採用した貴重なスポーツバイクであったが、2002年くらいに既に生産中止となっている。

 普通二輪MT車の教習料金は125と400で大差なく、125では高速道路が通行できないという市場的背景も大きいが、売れなかった原因はこのバイク自身にもある。単気筒250cc並の大きさ重さで、わずか16PSというカタログスペック、張りのないタンク形状、角目ライト、ハトの鼻のようなWホーン、竹トンボのような前方投影形状など、デザイン的にも魅力に欠けていた。

 今回取り上げるCB125Tは国内モデルに先駆けてブローバイガス還元装置を装着した98年式のEU向け製品である。エンジンは空冷4サイクル並列2気筒。基本設計はCD125Tと共通だが、ツインキャブレーターを採用して別の性格を与えられた。

 始動性はCD125Tより悪い。ブローバイガス還元装置の装着もあろうが、チョークレバーをミリ単位で合わせないと冬季にアイドリングが安定しないこともある。始動がセルのみなのでバッテリーが心配だった。

 アイドリング音はタァララララララララという心地よいリズムである。ものすごく静かに、ものすごく素早く、ものすごく優しく、太鼓をたたくとこんなサウンドになるだろうか。

 音質は、4気筒らしい低回転音が単気筒らしい高回転音に変わるのがCD125Tであるのに対し、2気筒らしい低回転音が4気筒らしい高回転音に変わるのがCB125Tである。CB125Tの高回転音はCB400SF等の4気筒モデルと同等の快音を奏でる。

 最高出力はビジネスバイク:CD125Tの1.3倍以上となる16ps(国産最終15ps)。高回転高出力型のエンジンで、回した分だけ音も力も出てくる。

 CD125Tと同じく2人乗りでの坂道発進でトルク不足を痛切に感じる。このときは6,000回転くらい回さないと発進できないのだ。エンジンの吹け上がりがCD125Tよりスムーズで、すぐに高回転まで回るのでなかなか実感しにくいが、もしかすると2人乗車ではCD125Tより低速トルクが弱いかも知れない。しかしそれ以外はCB125Tのスポーティなサウンド、パワー、レスポンスに圧倒的な優位を実感する。CD125Tは終始もっさもっさしてオジン臭いエンジンに感じてしまうのだ。

 いざ走り出す。3,000回転くらいから実用的なトルクを発揮し、静かに、滑らかに、軽快に発進して行く。シフトアップは4,000回転以上ならどこでも可能で、5,000回転(5速50km/h)以下なら早朝・深夜の住宅街でも音が気にならないほど静かである。60km/hをせいぜい4,500回転で巡航できるような6速ギアがあれば、この静寂性はもっと活きると思う。

 6,000回転付近でいったん微振動が出るものの、そこから先は振動が減り、回した分だけ力と音が大きくなる。その官能的なレーシーサウンドは単気筒では味わえない。だが、4気筒のようなレーシーなサウンドを奏でるくせに400のように景色が流れない。あくまで排気量は125ccなのである。

 体感する速度は速くないが、実際はどうだろう。アドレスV100と対決してみた。さすがに発進は負けてしまうが、全開にすれば距離にして約50m、2速9,000回転で追いつき、その後は置き去りにできた。

 トップギアの5速に入れるとスピードメーターとタコメーターの針はぴったりと平行になる。6,000回転で60km/hだからレッドゾーン直前の12,000回転まで回せば最高速120km/h出ることになる。  100km/h巡航時の安心感は今まで乗った原付二種の中で最高である。そしてあらゆる排気量のシングルエンジン車よりも振動が少なく快適である。

 5,000回転までの静寂性・リズム感と7,000回転以降のパワー・レーシーサウンド、そして全域にわたるフラットトルク・シルキーな回転、とても扱いやすいエンジンである。

 スクーターではそもそも快音は得られない。エリミネーター・CD125Tではイマイチ快速は得られない。TZR125などの2stスポーツではとうてい快適は得られない。125ccで快音・快速・快適この3つを同時に備えるのはおそらくCB125Tだけでなかろうか。

 運動性能。CD125Tでも下手なスポーツバイクより直進性・旋回性が良かったが、いかんせん設計が古く、リアスイングアームの剛性不足で車体がねじれる感覚がまだ残っていた。CB125Tは前後18インチタイヤにフロント油圧テレスコピック、リアはプロリンクサスを採用し、衝撃吸収力・路面追従性・直進性・旋回性の全てがCD125Tより向上している。

 最近のスクーターはやたらと瞬発力が良くなったが、バネ下重量が重くなるユニットスイング方式を採る限り、どんなに値段の高いサスを装着してホイールサイズを拡大したところでCB125Tの路面追従性と乗り心地の良さにかなうわけがない。

 運転姿勢はおおむねよろしいが、セミフラットハンドルと呼ぶこのハンドル形状だけはなんとも理解し難い。幅が狭くて角度の開いたハンドルが低い所に付いているのだ。まるでマウンテンバイクのようだ。直線を80km/h以上で巡航する時にしかしっくりと来ない。ハンドルの開きを絞ってもう少し手前かつ上に取り付けてもっと背筋を伸ばした運転姿勢にするべきだと思う。また、リアタイヤを半サイズ太いものに履き替えたら旋回性が向上した。

 せっかくのリアプロリンクサスペンションもこのトルク特性、ハンドル形状(運転姿勢)、前後タイヤ比ではコーナーで派手に寝かせることが出来ない。その意味においてスポーツバイクとしてはまだまだ未完成だと思う。初心者にはむしろVTR、バリオス?、CB400SFなどをお勧めしたい。

 燃費は市街地走行で25km/L前後、ツーリングで30〜35km/Lとなった。この数字はアドレスV100などの2stスクーターとほぼ同じデータだ。CD125Tの1.3倍の出力を得た分、ガソリンもそれなりに消費する。

 センタースタンド、トリップメーター、プッシュキャンセルウインカー、パッシングライト、55/60Wヘッドライト、など装備は充実している。収納は書類・車載工具・グローブぐらいならテールライト辺りに収納できる。ヘルメットは2個引っ掛けることが出来る。リアキャリアは標準ではないが、リアシート回りはどこでもフックを引っ掛けることが出来る。張りのないタンク形状もタンクバック装着の面では有利である。車体は長いがスリムなのですり抜けも意外とラクである。意外と実用性も高い。

 見た目にはオジン臭くて速くもないが、操る本人は至福のひと時を過ごす。この運転姿勢、運動性能、動力性能、爽快感、安心感など、いろんな要素を絡めるとCB125Tはクロスバイク(自転車)CB400SFを足して2で割ったようなバイクである。ファミリーバイク特約で担保できるたった1台のバイクだけを所有することを奥さんに許された肩身の狭い中年男性が、せめて通勤時間だけでも走りを楽しみたいなら、絶好の選択である。

 単気筒より快速・快適で4気筒よりも低中速トルクが強くて経済的な2気筒エンジンはもっと見直されてもいいはずである。同クラスにCB125Tのライバルは存在しない。現行機種で最小の4サイクル並列2気筒エンジンを採用するのはカワサキ・ZZ-R250である。ZZ-R250はカテゴリーこそツアラーに属しているがバリオス?に匹敵するほど操縦性が良く市街地戦も得意としている。運動性能・動力性能はZZ-R250の方が上だが、静寂性音色はCB125Tの方が優れていると私は思う。

 CB125Tは1982年5月のFMC以来大きな変更を受けることなく、長い間改良を放置されてきた。電子制御燃料噴射にして始動性と低速トルクを向上させ、ハンドル形状とタイヤサイズも見直して旋回性を向上させる。そして何より旧態依然なこのデザインを若返らせる。コストを度外視すればいくらでも改善の余地はある。CB125Tは原付二種『未完の帝王』である。

2006.11.17 記述

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