タイホンダ
クリック125i

 長所:1軽快感 2エンジン 3キック装備
 短所:1標準タイヤ 2ライト 3積載・収納

 今回試乗したクリック125iは2013年にタイで生産されたアイドリングストップ機能付きモデルである。espエンジン初搭載がクリック125iだが、当初はアイドリングストップ機能を付加せず、バリエーションモデルとして後から追加された。

 85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にすると100mで64km/h、200mで81km/h、300mで89km/h、400mで94km/h、500mで98km/h、600mで99km/h、700mで100km/h、800mで101 km/h、900mで最高速102km/hと加速していく(メーター読み)。下り坂では106 km/hまで見たがどこまで伸びるかは分からない。espエンジン搭載車としては軽いのでもっと速いかと思ったが、Sh-modeと同程度の加速力だった。今まで乗ったespエンジン搭載車のなかでは、よりによって一番危なっかしいリード125が最も速度が伸びてしまう。

 クリック125i加速騒音は静寂性と躍動感をうまくバランスさせたもので、音質も含め私は嫌いではない。あまり煩くてもライダーを疲れさせるが、あまり静かすぎて“ひったくり”ご用達バイクになられても困る。本人にとっても周囲にとってもこれくらいがちょうどいいと思う。信号停止中に騒音・振動から解放されるアイドリングストップ機能はツーリングでも重宝するだろう。

 このアイドリングストップはエンジン停止にしても再始動にしてもPCX、Sh-mode、リード125よりわずかに反応が遅れるような気がしたが、それが問題となる場面はなかった。

 リード125のように始動直後毎の加速不良は発生しなかった。高速域においてもリード125のような後軸の不安はなかったし、Sh-modeのように前輪が膨らむ現象もなかった。低中速域においては軽快で高速域での直進性も犠牲になってない。では旋回性はすばらしいかといえばそうとも言えない。着座位置の高さからくる倒し込みの早さや細いタイヤによるヒラリヒラリとした軽快な身のこなしは認めるが、フロアステップ幅の狭さ、そして足で踏ん張るのではなく、お尻だけで姿勢を支える座椅子のような着座が、あくまでモペット延長のスクーターであることを物語っている。

 espエンジンを搭載し、コーナリングからの立ち上がりはDIO110より有利だが、あまり強固とは言えないフレーム剛性と、あまり強力とは言えないタイヤのグリップと絶えず相談しながらアクセルを開けないと旋回に自信が持てない。いくらエンジンが強力でも常にその性能が使い切れるわけではない。その点においてクリック125iスポーツスクーターと称するには強い抵抗を感じる。スポーツモペットという表現なら許せる。

 ステップスルーで着座位置が高い点はSh-modeにも似ているし、デザインはSh-modeのようにオカマ臭くもない。同じ動力性能で値段はだいぶ安い。だからと言ってクリック125iに妥協しないで欲しい。ほんの少しずつの寸法的余裕がクリック125iSh-modeとの格差を大きくしている。同じ1.5L車があるからといってプラッツアリオンを比べるようなものだ。むしろ比較検討すべきは格下のDIO110である。単独では無茶な走りはしないし、車格的にはDIO110でも十分だが、2ケツ時にもうちょいパワーが欲しかった、そういうスリムなカップルが選ぶといいかもしれない。
 騒音規制の修正で近いうちにDIO110VISIONBREEZEと仕様統一される可能性がある。現時点でクリック125iDIO110の価格差(本体+開梱組立料)は某ディーラーで5万円に収まっていたが、今後espエンジンとの性能差が縮まるのであれば、クリック125iに+5万円の価値を見出せなくなるおそれもある。

 運転席に座るとフロアからシートまでの高さはリード110/EX/125よりも余裕があり、膝は水平以下の角度に収まり腹筋・背筋に負担は来ない。その一方でフロアステップの幅が狭すぎて、両足のつま先がフロアから大きくはみ出してしまう。その着座姿勢DIO110に酷似している。

 インナーポケットが膝に迫るほど大きくて、DIO110以上に狭く感じる。シート形状もフロアステップも後ろにいくほど高くなっていくので、170?ない私が地面に両足をべったり付けて、背筋を伸ばす着座姿勢をとると後席との段差までこぶし1個余る。ハンドルは低めで少し遠く、シートも高めなのでケツを目一杯下げてしまうと上半身が軽く前傾した“すぽおてぃ”なポジションになる。シート表皮のグリップは良好でシートクッションDIO110より硬いがリード125Sh-modeほど硬くないので長時間走行でもなんとかケツは耐える。疲れてきたら尻を後方にずらして前傾姿勢をとり後席用のステップをバックステップ代わりに用いた。このリアステップはアドレスV125より高くて後ろにあるから常用には向かないが、姿勢を変える際には使えよう。フルフェイスとツナギで武装したライダーがそんなカタチで走っていればクリック125iがいかにもスポーツスクーターであるかのように見えてしまうだろう。

 後席DIO110と同じくシート幅が狭い。無理にケツをシートに留めるよりいっそのことアシストグリップとシートの境にケツを落とした方が運転者との距離がとれて同乗者のケツも安定する。このリアステップは少々高い所にあるが、同乗者の乗降性は悪くない。

 インナーポケットは左右に分かれていて左ポケットには500ml紙パックが余裕で入るほど面積は広い。その一方で高さに余裕がないのと挿入方向が“く”の字に歪曲しているのでペットボトルに向いていない。右ポケットはスマホを横に寝かせるにも幅が狭く、ガラケーやタバコの箱を寝かせる程度でしかない。
 シート取り付けヒンジ部付近にあるプラスチックの突起2つがメットホルダーであるが、ストラップの金具を通しにくくヘルメット(アライ:MZ)を引っ掛けるのに一苦労する。
 コンビニフックにはMZを引っ掛けることすらできなかった。フック自体が左右のインナーポケットに陥没していてストラップの金具をかけにくいのと、膝元にも帽体を収めるだけの寸法的余裕がないからだ。メットホルダーもコンビニフックも使いにくいとなると、ヘルメットはシート下に収納するしかないわけだが、収納スペース底面に凹凸があり、インナーパッドが圧迫されてしまう。シートを押し込んでギリギリ閉まるというのはDIO110と同様である。

 フロアスペースに余裕がないので、標準状態では積載箇所は後席上しかない。タンデムステップの付け根、サイドパネル端、アシストグリップ?リアスポイラー?などにゴムネットをフックするしかないが、上手く固定できず走行中に荷物を落下させてしまった。DIO110のリアキャリアのように後席下部を広くカバーしていないのでフックできる箇所が限定されるのだ。クリック125iの積載性・収納力は全体的に劣っている。クリック125iを買ったなら是非ともリアスポイラーをリアキャリアに換装したい。

 メインスイッチをONに捻るとメーターパネル内のアナログ速度計がスイープする。距離計は積算値のみで、トリップ、タコ、時計はない。燃料計だけは9つも目盛りがデジタル表示する。満タンから80kmを超えるあたりで目盛りがやっと1つ減り、以降15〜20km程度で1本ずつ目盛りが減っていく。燃料計のアバウトさはどのバイクも似たり寄ったりだ。タンク容量は5.5Lでツーリングなら200kmは航続できる。

 バックミラーは鏡面形状がPCXに似ている。先端部分の写像が若干歪曲しているが、全体的には立体感があって後方視認性がいい。だがミラーアームが短くて運転者の肩ばかりが映ってしまうのが残念だ。すりぬけ重視なのか。

 ヘッドライトは高く吊り上って面積の広いレンズだがポジションランプまでは備えていない。常時双灯で被視認性はそう悪くはないが、バルブはいまどき25W白熱球(笑)。ぼんやりした照射で頼りなく、暗黒の峠道では常時ハイビームにしたいところだが、クリッピングポイントが見えないので頻繁にロービームに切り替えが必要だった。100km/h出るスクーターに25Wのライトしか与えないとはいい度胸だ。

 テールライトは中央1灯が常時点灯で制動時に両脇2灯も点灯するが、3つ合わせても面積が小さい。テール下の台形部分を常時点灯するテール/ストップライトにし、現テール部分をハイストップランプとするくらいの被視認性を与えて欲しいものだ。

 ホーンウインカースイッチの上下逆転が続いている。クリック125iも例に漏れず、咄嗟のときにホーンが押せない危険を意識して頂きたい。
 キックスターターサイドスタンドを標準で装備した点は褒められる。メインスイッチから鍵を差し替えないでシート下収納スペースを開けられる点もDIO110より便利だ。

 リアサスは左片持ちだが、エンジンユニットから伸びたスイングアームが左右から後軸を挟み込み、マフラーも固定している。

 タイヤはIRC:NR73T(Z)が標準装着されていたが、VEERUBBER V338(F・RA)も指定されている。サイズはF:80/80-14、R:90/90-14とDIO110と同じ表記サイズだが、注意したいのはチューブタイプのタイヤであることだ。クリック125iスポークホイール仕様だけでなく、キャストホイール仕様にまでチューブタイヤを装着している。

 チューブタイヤはわずかな工具でタイヤとチューブを交換できるメリットがある。だが、それはビジネスバイクのように直径が大きく細く柔らかいタイヤで、取付構造が簡単だから出来るのであって、クリック125iは、チューブレスタイヤ並みに硬そうなタイヤだし、ホイール脱着に至ってはスイングアームやマフラーまで外す必要がありそうだ。
 一方、チューブレスタイヤはパンクしても一気に空気が抜けないというメリットがある。バイク通勤者であれば通勤途中でパンクしたからといって呑気にタイヤ(チューブ)交換などしていられない。チューブレスタイヤであれば低速走行で勤務先までは到着できる可能性が高い。
 それではと、チューブレスタイヤに交換したいところだが、そっくりなDIO110のキャストホイールとはバルブ付近が少し異なっているので、タイヤだけの交換が果たしてできるだろうか?ホイールごと要交換となると、安価であるはずのクリック125iを選んだ理由が半減する。

 クリック125iアイドリングストップ仕様のブレーキシステムは左ブレーキレバーで後輪ドラムと前輪ディスクが連動するコンビブレーキだが、ローター径はDIO110より小さく、ローターを押し付けるピストンも1ポットのみである。
 乾燥路面での短制動。左レバーだけ強く握るとリアがわずかに滑るが、右レバーのみや左右両方のレバーでは滑らずに止まる。“くだん”の縦溝峠トンネルでは滑りはしなかったが、滑りだしそうな気配はあった。左右レバーでフロント3ポットが全て作動するDIO110、リード125、sh-mode、PCXなどの国内モデルに比べれば明らかに制動力が劣るが、グリップが少々不安なこの標準タイヤであれば、こんなものか。

 なお左ブレーキレバー根元に握った状態をキープするブレーキロック(パーキング)機能があるが、ちんちくりんなピンをわずかに上下させるタイプで操作性も作動状態を確認するにも良いものとは言えなかった。ブレーキレバーと同じ左右方向に作動させるかつてのやり方の方が良かった。

 比較対象区間304.7kmを走って距離計が示したのは307.6km。距離計に+0.95%の誤差があるとするならばその区間の平均燃費49.1km/Lになった。

 燃費はSh-modeよりわずかに良い結果となったのは車重が軽いのと、細いタイヤで接地抵抗が少ないためだろうか。
 長時間走行時の疲労は背筋が少々。低めのハンドルに腕が伸びきらないよう猫背気味なポジションを維持していたからだと思う。夜間走行が多ければクラス平均よりも目も疲れる。

 ヘッドライト、タイヤ、ブレーキ、いずれの面も格下のDIO110に劣る。DIO110のエンジンをespに換装し、エッジの効いたデザインを与えた代わり、安全性を劣化させたスポーツモペット。これがクリック125iに対する私の素直な感想である。あなたにとって本当にお買い得なのか、買う前に良く検討して頂きたい。

2014.5.6 記述

表紙に戻る