ホンダ・CT110

 スーパーカブ90dxと比較して
 長所:1走破性 2登坂力 3潜水力
 短所:1制動力 2変速操作性 3平地最高速

 このカブトレッキング110(CT110)は推定02年式のオーストラリアモデル。1981年に販売された日本国内モデルと瓜二つだが副変速機(ローレンジ)を装備している点が大きな違いである。個人オーナーさんが提供して下さったこの試乗車は一部のパーツを交換しているが機関・駆動系はそのままである。

 CT110はプレスバックボーンフレーム、リアスイングアーム、横型エンジンにこそカブらしさが残っているものの、ブロックパターンタイヤ、ギザギザのステップ(標準)、スキッドプレート、アップマフラー、テレスコピックFフォーク、ワイドハンドル、ローレンジ、キルスイッチなど随所にタフな装備で身を固めている。その一方でハンドルロック、タンクキャップキー、燃料計などがなく、センタースタンドがオプションである代わりに、サイドスタンドが左右両方に付いている。使用環境が異なると随分と装備が変わる。

 ブロックパターンタイヤを装着するからもっとゴツゴツしているかと思ったが、オンロードの数時間走行もこなせる程度の乗り心地はある。カブ90よりシートが厚いのがいいのかも知れない。ハンドルにまで伝わる振動もカブ90より少ない。

 積載性は文句なし。ヘッドライト上のキャリアはカッパや地図を挟むぐらいの機能しかないが、シート後ろの荷台面積はスーパーカブ以上、プレスカブ未満で実用性が高い。サブタンク(オプション)とマフラーをカバーする役目も与えられたワイドな荷台は荷物の大小に関わらず上手くフックを掛けることが出来る。その作りも堅牢でピリオンステップ、ピリオンシートを装着すればすぐにでも2ケツに対応できる。ただし、同乗者の右足がマフラーに触れない工夫をしたいところだ。ヒートガード付きマフラーだが、信号待ちで運転者の足元はかなり熱くなる。

 電装は6Vである。アイドリング時のライト・ウインカーの暗さが気になるが、走行中の照射力は12Vのカブと大差はないようで、非視認性を得るための最低限のライトと思ったほうがいい。

 フロントブレーキレバーは適切な角度で付いている。プレスカブ(スーパーカブ)と違って“使う”ことを前提とした作りだ。ただし肝心の制動力は頼りない。非舗装路でのスリップ防止を想定しているのだろうか?今時のバイクと比較してしまうと、このフロントドラムは『効かない』というよりも『ない』に等しい。パニックブレーキの際はシフトダウンも併用しよう。

 ウインカー、ビーム、ホーンの各スイッチは左側に集中している。ウインカースイッチは、プッシュキャンセルではないがコンパクトで位置も適正で使いやすい。ハイビーム/ロービーム切り替えスイッチはウインカースイッチの上ではなく下に付いているのが珍しい。この両者に遠慮して奥に追いやられたホーンスイッチはとっさの時に指が届きにくい。まあ、とっさの時はブレーキングだけで精一杯だろうが。

 

 CT110の操作で最も特徴的なのは、シフトチェンジである。自動遠心クラッチを採用し、左足のシーソーペダルだけで変速するのは同じだが、シフト方向がスーパーカブと逆なのだ。(一般的なバイクとは同じ)

 ?つま先で前からすくい上げる ?かかとで後ろに踏み潰す ?ペダルから足を離してつま先で後ろに踏み潰す ?〜?のいずれかでシフトアップするのだが、どれもしっくり来ない。スロットルの戻しかたを上手くやらないと受け付けてくれないことがある。シートとペダルまでの距離がカブ90より体感的に近く、これが操作性をさらに下げている気がする。

 つま先を踏むとシフトダウン。クラッチレバーがないので飛び越し変速ができない。また、停止中でも4速からニュートラルへの変速はできない。そして車輪が完全に停止してからだとギアが入りにくいというクセもある。さらにはスロットルを回した状態でのシフトダウンもほとんど受け付けてくれなかった。よって停止するまでに3回もエンブレと付き合わなければならないのだ。

 シフトチェンジの洗練度はカブ90に明らかに劣る。そして今まで乗ったことのあるバイクの中で最も慣れるのに時間がかかった。CT110に詳しいショップにも点検に出したが異常ではないという。シフト方向が異なることやローレンジを設けたことで内部構造がカブ90と異なるのかも知れない。CT110は手動クラッチにしたほうが、少なくともオンロードでは乗りやすくなると思う。

 排気量はカブ90より20cc多い105cc、ギアも1つ多い4速である。メーター内のシフトポジションインジゲーターは4速で90km/hまで刻んである。期待は膨らむのだが、標準リアスプロケ(45丁)のままではそこまで伸びない。ギアごとの平地最高速1速20km/h、2速=40km/h、3速=60km/h、4速=80km/hである。平地最高速はカブ90にわずかに劣る。

 燃費は約1,000km夏に試乗した結果、市街地短時間走行で31.7km/L。林道を含むツーリングで39.3km/Lだった。この数字はカブ90より20%近く劣る。同じペースで走ったらアドレスV125エイプ100にも負けるだろう。

 加速力もほどほどなのでバイパスクラスの道路で快適に走ろうと思ったら左側端に沿って50km/hぐらいで流したほうがいいかも知れない。全体的にローギアで、ギアの間隔も狭い。伸びは期待できない反面、低中速域では常に豊かなトルクを実感することができる。スリムなボディですり抜けやすく、シフトチェンジさえ慣れてしまえば、市街地での使い勝手は悪くない。制動力が弱いのでくれぐれも速く走ろうと思わないことだ。

 登坂時は逆にカブ90よりも速度が伸びる。傾斜が強くなるほどCT110が優位になる。ローレンジに切り換えれば舗装路面で登れない坂はないというほどの登坂力を発揮する。ちなみにローレンジでの平地最高速は4速で約40km/hである。

 意外にもタイトコーナーが連続する峠道を走っても面白かった。スロットルを戻した時の速度をほぼ維持してくれるカブならではのエンジンブレーキが下り坂での速度管理をラクにしている。下りでは3速ホールドのアクセルワークだけで目一杯攻めることができる。硬いサスはクイックな旋回には有利である。
 さすがに登りは速くは走れないが、それでもカブ90との比較なら一歩上を行く。3速しかないカブ90の登坂は2速では回し過ぎ、3速では力不足になるが、4速あるCT110だと2速で加速して3速で伸ばす、というように有効に機能する。

 CT110が本領を発揮するのはやはり林道であろう。

 砂利、土砂、水深30cm、そのいずれであってもその下の地面が硬ければハイレンジの1速でほとんど走破できる。ブロックパターンタイヤであるだけでもかなり走れるが、林道も終点付近を迎え、勾配が強くなったり、足場の悪いところに出くわすと、いよいよローレンジの出番である。切換えノブはエンジンの左側面、チェンジ ペダル付近にあるのでいったん降車しないと切換えることができない。

 4番目の画像ではハイレンジの1速で走れないこともないが、すぐ横が崖だった。ちょっとでも勢いをつけると足元の砂利ですぐに滑るので、ローレンジによる微速走行が必要だった。どんなに速度を落としても自動遠心クラッチだからエンストしない。だからセルスターターも必要としない。

 2番目の画像にしても林道から一歩外れた獣道が、雨上がりで水を多く含み、タイヤがじわじわと埋もれていく。早々と抜け出すためにローレンジによる強力な駆動力が必要だった。お勧めはしないがごくごく浅いところなら渡河も可能かも知れない。アップマフラーに付け換えただけのカブラと違い、吸気口もキャリアの高さにあり、シュノーケルの役目を持っている。

 タイヤのグリップが不足するか、ロードクリアランス(最低地上高)が不足してスタックすることもあった。ロープを持たない単独での運行だと、腕力だけが頼りである。90kg弱。これ以上重いと不整地で一人の力で持ち上げるのは難しい。

 ひとえにオフ車と言ってもトライアルが得意なシカのような奴、エンデューロで突進するバッファローのような奴、ダートでうまく向きを変えるチーターのような奴、、、いろいろあるが、CT110を例えるなら、短足で体も硬いが忍耐強く主人を運ぶロバだろうか。

 安くて丈夫さを選んだ質素なサスペンションは本格的なオフ車に比べると柔軟性が足りない。サスストロークは短くエンジンも低いが、重心が低くて低μ路面では転倒しにくい。万が一転倒しても車重が軽いからレバーやステップを折ることも稀だろう。

 CT110はオンでもオフでも先を争うようなバイクではない。しかし、気負うこと無くどこにでも入って行けるし、どこに行っても景観を壊さない、赤いトレッキングシューズである。林道が減りつつあり、その魅力が埋もれていくのは寂しい限りである。

2007.9.18 記述

表紙に戻る