ホンダ・GROM

 長所:1剛性感 2躍動感 3経済性 4個性的なデザイン
 短所:1標準シート 2標準タイヤ 3標準リアサス 4積載性 5タンデム居住性

 タイで生産される波乗り少年グロムWAVE125iのエンジンをMT化したスポーツバイクである。海外ではMSX125(ミニ・ストリート・エクストリーム)という別名称で販売されている。今回試乗したのは慣らし運転直後の2013年初期型、日本仕様GROMとタイ現地仕様MSX125である。特に断りがない限り、両車に共通するコメントである。

 エンジンはWAVE125iベースということもあり、回転フィールはカブ110にも似ている。MSX125はアクセルを捻らなくてもクラッチレバーをそっとつなぐだけでも平地1速ならなんとか動き出してくれたが、GROMは微妙に耐えきれずにエンストしてしまった。どちらもカワサキ・エリミネーターにかなわないが、それに次ぐぐらい低回転は強い。最高速は伸びないが、低・中回転のトルクはカブ110の体感2割増しである。排気量の差を下に与えたことは日常走行でもスタントするにも正しい選択だと思う。発進加速は俊足系のスクーターとほぼ同等で、スポーツバイクとしてのメンツをなんとか保っている。仮にスクーター勢にダッシュで負けたとしても、スロットルに応じて速度や排気音が変化する充実感というか躍動感はCVT車では決して味わえないものである。

 排気音はカブ110を若干太くリズミカルにしたような音がする。カブはトコトコ鳴らせた定速走行が楽しいが、GROM/MSX125は回転を変化させた方が楽しかった。タイヤから発するロードノイズは巡航中の重量車に似ている。エイプやオフ車にも似ている。

 GROMに85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にするとメーター読み100mで72km/h、200mで87km/h、300mで92km/h、400mで94km/h、1,000mで平地最高速の98km/hに達した。取扱説明書によればギアごとの推奨速度は1速=0〜30km/h、2速=20〜55km/h、3速=30〜75km/h、4速=40 km/h〜となっているが、実際はもっと伸びて、1速=44km/h、2速=75km/h、3速=95km/h、4速=98km/hとなった。上記したGROMの推奨速度のうち、3速の75km/hを80km/hに書き換えるとカブ110(JA07)の推奨速度となる。やはり低中速重視のエンジンと言えよう。
比較対象区間304.7kmを走行したところ距離計は303.6kmを示し、メーター誤差は-0.4%となった。その区間の平均燃費58.3km/Lになった。

 MSX125に85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にすると100mで70km/h、200mで77km/h、300mで84km/h、400〜600mで87km/h、700mで88 km/h、800mで90km/h、900〜1,000mで平地最高速の91km/hに達した。下り坂では104 km/hまでは見た。
比較対象区間304.7kmを走行したところ距離計は300.3km を示し、メーター誤差は-1.4%となった。その区間の平均燃費62.3km/Lになった。
 MSX125の方が低燃費だったのは渋滞が少なかったからだと思う。一方で、最高速に差が出た原因は不明である。同一コースで測定し、どちらも慣らし運転直後の車体だった。走行状況に違いがあるとすればMSX125は多少の向かい風で走っていたかもしれないが、記憶が定かではない。にしても現地仕様たるMSX125カブ110(JA07)より伸びなかったのが意外だった。

 スポーツバイクにはたいてい5速以上のギアを与えられるが、4速しか与えられないのがいかにも横型エンジンらしい。各ギアの間隔が広く、良く言えば息の長い加速が楽しめ、悪く言えばキレが足りない。1、2速は約10,000回転に達した時点でリミッターが作動するが、3、4速はリミッターが作動するまでは伸びず、4速については3速で出した速度を更に上げることも容易でなく専ら巡航用のギアと言えよう。それでも低中回転のトルクが豊かなので、普通に走るぶんには平地で50km/hになる頃には4速までシフトアップしていた。

 峠道は2速と3速の往復となる。上りは専ら2速が頼りだ。勾配が緩くなったら3速に上げることもできるが、その分スロットルを余計に捻る必要があるので、結局は2速で伸ばしきった方が早い。下りはほとんど3速ホールドで行ける。徐行速度まで落ちても気持ち半クラすれば、2速に落とさずとも再加速してくれる。納豆のように粘りっこく、どこまでも糸が伸びていく回転フィールは横型エンジンならではのもの。これを楽しめるか否かで貴方との相性が分かる。

 走行中や急制動時にも車体はカッチリしている。フロントサスはちょっとしたブレーキでも大げさに沈み込む。一方のリアサスは硬めで動きも平凡。ちょっとした路面の繋ぎ目でもポンポン跳ねて視線が上下する不快感はアドレスV125(〜K9)を思い出した。乗り心地路面追従性エイプのほうが良かった。GROM/MSX125の車体を見ると寸法的にプロリンクサスを設置できそうに見えるが不採用となった。単なるコストカットか?それとも路面追従性(柔)よりもウィリー時の安定性(剛)を選んだのか?リアフェンダーを外せばウィリー角度が直角に達してもテールランプが接地しないし、、、ひょっとしてこのシートもケツで座るより足で踏むための硬さなのか?

 リアサスの跳ねる傾向に加え、端が使えない標準タイヤを履いているので、旋回性については厳しく評価せざるを得ない。コーナーで車体を寝かせると早くもリアがアウト側に滑り出そうとするので、あまり振り回す気になれない。実際、WET路面だとリアタイヤはすぐにサイドスリップする。“新しい刺激に、気をつけろ”とはこのことだったのか。一方で濡れた縦溝路面でもタイヤが捕られなかったのは太さが十分あるからか。 リード125よりマシだが、ノーマルタイヤどうしの比較ではZOOMER-Xより旋回性が劣ると思う。遊べるバイクとして売りに出すのなら、ダンロップ・TT93GPあたりを標準装着して欲しい。

 フロントディスクは2ポット、リアディスクは1ポットピストンでローターを押し込む。リアはステップから足を浮かせて踵で強くブレーキペダルを踏み込めばやっとロックするが、つま先でブレーキペダルを思い切り踏んでもほとんどロックしない。というより、リアブレーキが単独ではほとんど効かない。フロント単独での制動はリード125をはじめとするホンダの国内向け原付二種スクーター勢と互角だが、前後同時の制動では3ポットが作動するそれらに負ける。タイヤに合わせて制動力も控え目にしたのだろうか。

 標準タイヤは前後ともVEE RUBBER V119Cという銘柄でサイズはF:120/70-12、R:130/70-12である。
 WET路面での短制動。前輪だけで急制動すると、フロントサスが大きく沈み込み、もう止まると思いきや、突然スリップ音を出してスーーッと前輪が滑り出した。前後同時制動でも同様だった。直立状態であればまっすぐ滑るのでブレーキレバーを握る力をすぐに抜けば大丈夫だったが。
 乾燥路面での短制動。後輪のみだと止まる寸前でやっと後輪がロックして少し滑る。前輪のみだとフロントサスが大きく沈み込みタイヤがロックした瞬間、後輪がふわっと持ち上がる。ホイールベースのわりに着座位置が高くて荷重移動が早い。お尻をべったりシートに着けていても(=ライダー本人が体重移動をしなくても、膝でタンクを持ち上げなくても)容易に後輪が浮くのだ。フロントサスの柔らかさ、立ち気味のキャスター角、タイヤの太さ、すべてがジャックナイフしやすさに貢献していると思う。これも“新しい刺激”なのだろう。確かに私のような素人には125DUKEよりジャックナイフしやすい。日常走行での快適性を優先するなら、もう少し硬いフォークオイルに交換したほうがいいだろう。

 足着き性は良いとも悪いとも言えない。というのもシートが前傾しているため、身長が160cmもあればそれぞれに応じたベタ足ポジションがどこかしらにあるからだ。ただし操縦しやすい着座位置とベタ足となる着座位置が異なるので、発進後にケツを後ろにずらす必要がある。ケツをずらすのが面倒であればつま先立ちとなる。ちなみに170cmない私が操縦しやすい位置にケツを持っていくと前後席を仕切るシートバンド上になる。

 シート。前傾したシートなので走行中にケツが前にズレるかと思いきや、シート表皮のグリップが高くケツはほとんど動かなかった。シートクッションはカマボコ板のように薄くて硬い。30分も乗っているとケツが痛み始めるが、シートの幅が広いおかげでエイプ、KSR110よりまだ救われている。信号停止毎にケツを浮かせれば4時間くらいはなんとか持つ。

 着座姿勢は良好。エイプ・KSR110より着座位置が高く、見晴しがいい。コーナリングでの倒し込みも早い。膝の高さもカブ110より下がりペダル操作もしやすい。ただしハンドルは低めである。トップブリッジからちゃんと伸びたハンドルだが、背筋を完全に伸ばした乗車姿勢をとるには、これでもまだハンドル位置は低いと感じた。ハンドルやペダルに比べるとシートだけが高い位置にある。この軽くスタンディングさせたような着座位置が腰高感を生み、制動時のフロントダイブや旋回時の後輪滑りを強調するのだろう。

 エイプ100/XR100モタードと同様に2ケツ居住性が悪い。というよりも運転者がきちんと座ると同乗者の座る所がほとんど残らない。それでも無理に2ケツするのなら、同乗者は運転者に掴まらなければならず、前後席を仕切る段差もないので制動の度に運転者にのしかかる。その密着度は半端ない。着座位置を前に詰めた運転者の両肘は開き、いよいよ運転操作にまで支障が出てくる。2ケツできるだけでも感謝すべき商品企画なのだろうが、ダメなところはダメとはっきり言っておかないと商品が成長しない
。 ところで、単独乗車であればケツの下、同乗しても掴めない、このシートバンドは無用だと思う。代わりに後席両脇にアシストグリップを設けて欲しい。取り回しハンドルと簡易キャリアも兼ねて。

 スロットルやブレーキレバー、そしてクラッチレバーの操作そのものは軽いが、ニュートラル(以下N)に入り辛かったのは両車に共通する。
 GROM。1速からNに入れようと、ペダルをすくい上げたら飛び越えて2速に入ってしまう。または、2速からNに入れようと、ペダルを踏んだら飛び越えて1速に入ってしまう。どちらか一方ならば他のMT車でもよくあることだが、GROMはどちらも高い頻度で発生するので、停止前後にNを探して1〜2速間を往復するペダル操作が面倒だった。
 MSX125の場合はもっと深刻で、1速とN(約1,700回転)の間にもう1か所、頻繁に入り込む場所があった。そこに入るとスロットル全閉なのにエンジンが2,000〜2,500回転まで上昇する。Nランプが点かないのに、動力も一切伝達しない不思議なポジションである。クラッチレバーも3割握るだけで動力伝達ゼロになるほど、後半の“遊び”が多すぎた。このことからも自動遠心クラッチでもいいと思った次第である。

 エンジン始動はセルのみ。エンジン停止は手動で2通り、自動で1〜2通りある。手動停止はメインスイッチのOFFに加え、エンジンストップスイッチ(キルスイッチ)を装備する。自動停止は、転倒時のイグニッションカットオフシステムと、GROMにあってMSX125にはないサイドスタンド連動機能である。これは走行中にサイドスタンドを下ろすか、サイドスタンド使用+ニュートラル時にクラッチレバーを握らずにギアを入れるとエンジンが止まるというものである。エンジンストップスイッチもイグニッションカットオフシステムもスタントライダーには有難い装備ではなかろうか。

 ウインカースイッチは手首を握り変えなくても指が届くので操作しやすい。しかし方向指示は予定行動である。咄嗟のときに使用するホーンスイッチの方が押しやすい位置に付いていることの方が望ましいが、ここ最近のホンダ車の例に漏れずホーンスイッチがウインカースイッチの上に付いている。しかも無駄にデカいので、鳴らしたくなくても指が触れてしまうことがある。鳴らしたい時に鳴らせず、鳴らしたくないときに鳴らしてしまう、だから腹立たしくなる。しかしクラッチレバーとホーンを同時操作することはまずないので、ウインカーとホーンのスイッチ位置逆転はスクーターほど大きな問題とはならない。

 CB500X譲りのメーターパネルはメインスイッチをONにするとスイープ機能が働いて、その気にさせる。時計と距離計を同時表示すること、距離計は累計のほか2つのトリップ計を持つので有難い。設定変更もセレクトボタン(右)とセットボタン(左)が独立して操作しやすい。リード125のように1個のボタンを押し時間の長短だけで設定変更するタイプは不便極まりない。燃料目盛りは6個あり、これが5個表示に変わるまで115kmもの走行を要した不正確性は全バイク共通ものだ。

 バックミラーは鏡面が丸いうえに樽型に歪曲していて映像が惨い。この点もKSR110に似ている。さらに、ミラーに映る面積に自分の腕や肩が多く占めていて、後方視界が著しく悪い。私なら速攻で取り換える。

 シート下の収納は書類と車載工具(MSX125に標準、GROMはなし)を入れ、盗難抑止アラームを設置できる程度。個性的な形状のタンクはタンクバックの装着を困難にしている。シートの長さも絶対的に不足していて、リアキャリアを装着しない限り、積載性はお話しにならない。オプションのリアキャリアはフレームとリアフェンダーの間に挟み込んで固定する、正に“取って付けた”かのような構造で剛性が心配だ。シグナスXのように走行振動でBOXが小刻みに揺れたりはしないだろうか。また、リアキャリア装着後はテールライトが極端に引っ込んだ位置になるので、キャリアからはみ出すほどの荷物を載せる場合はテールライトが隠れないよう気をつけたい。

 メットホルダーはシート脱着で使用可能になるが、まず、この脱着操作が平均的なスポーツバイクに比べてかなり渋い。メットホルダーもストラップの金具をかなり通しにくく、メットを引っ掛けた後のシート装着はさらに渋くなる。使うのが次第に億劫になるだろう。ジェットヘルメットのシールドを全開にすればタンクとハンドルの間にうまくのっかる。この状態でストラップとハンドルをワイヤーで結んでしまうのも短時間ならアリだと思う。

  

 ヘッドライトプロジェクター内蔵式で斬新な顔立ちになった。  照射力そのものは35/35Wと大したことないが、光が均一に照射される。15m付近の照射だけはロービームの方が若干優れるが、下(クリッピングポイント)も上(青看反射)もハイビームの方が優れるので、暗黒の峠道では専らハイビームを使用した。日中もハイビームを使用し、夜間すれ違いだけロービームに切り替えるという感覚でいいと思う。  被視認性はこのクラスとしてはなかなか良い。GROM/MSX125を正面から見ると個性的な形状のライトがライダーの股間で光っていて、“変な奴が近づいてきたな”と対向車もすぐに気づいてくれるだろう。GROMだとフロントウインカーが車幅灯として常時点灯するので更に目立つ。ウインカーの形状自体もMSX125とは異なっている。

 柔のエイプに剛のグロム。両車の性質はかなり異なる。フロント倒立フォーク、リアは平凡なモノサス、ブレーキは前後ディスク、ニーグリップできる燃料タンク幅など、むしろカワサキ・KSR110を強く意識した作りとなっている。

 私の体格からするとKSR110はジムカーナにはいいがスタントするにはいささか小さ過ぎるサイズだった。GROM/MSX125は安心感が得られる最小限で、入門者が無茶できる最大限の、絶妙なサイズだと思う。KSR110をひとまわり大きくした結果、さすがに膝下だけで操縦するのは難しく、腰まで捻らないとクイックな動きはできないが、そのぶん巡航時の安定感・安心感は増したし、応急用ではあるが2ケツも可能となった。KSR110D-TRACKER125のどちらかで迷ったなら、両車の性質を兼ねる、あるいは両車の間を埋めるホンダKSR125改めGROM1台で事足りるというわけだ。MT車1台の投入で、MT車2〜3台しかタマがないカワサキを国内市場から排除しようという情け容赦ない企画だ。

 Gotukute RObotmitaina Monkeyでもいいが、モンキーそのままの形を相似拡大したモンキー125も是非とも見てみたい。

2014.5.30 記述

表紙に戻る