ホンダ・GROM G

 長所:1着座姿勢 2経済性 3被視認性
 短所:1最低地上高 2照射力 3個体差?

 ホンダは2016年6月から新型GROMを輸入開始した。今回試乗したのは慣らし運転直後の2016年式・日本仕様である。エンジン、フレーム、足回りは共通で型式もJC61のままなので、機種記号の一部を取って以下、前回試乗した2013年式をDモデル、今回試乗した2016年式をGモデルと呼ぶことにする。

 最大の改善点は着座姿勢だと思う。
 運転席から後席にかけてフラットで前傾していたD〜Fモデルのシート形状が、Gモデルでは運転席と後席ではっきりと段差が設けられた。これによってシートバンド上に着座することもなくなったし、発進後の座り直しも必要なくなった。運転席のシート高が下がったことに合わせてハンドルも少々下げられた。それでもD〜FモデルやZ125PROほど上体は前傾しない。シートクッションはGモデルになっても薄くて褒められたものではないが、シートの淵で尻を囲うような形状になっているので、尾てい骨が刺さらないし、内股も引き裂かれない。シートの幅が広がって1時間くらいなら苦痛なく座っていられる。それ以降は信号停止の度にケツを浮かせれば長時間走行もこなすことができる。タンク形状も改められ、ニーグリップがしっかり決まるようになった。しかも私よりひとまわり大柄な人でもニーグリップできる寸法的な余裕がある。膝の折り畳み角度もそんなにきつくない。

 足着き性も向上している。両足ともに地面にべったりと接地できるし、その際にステップが脛に当たりにくい位置にある。着座姿勢座り心地を合わせて評価すると、新旧GROM、エイプ、XR100モタード、KSR110、Z125PRO、D-TRACKER125、KLX125、これらミニサイズMT車のなかで新型GROMが一番いいと思う。これらのなかで初めて遠出してもいいと思ったバイクである。

 こんなサイズだから2ケツ居住性が良いわけはない。同乗者を運転者に抱き付かせる着座方法はお勧めできない。両者の体重が重なって旋回時にバランスを崩しやすくなるからである。同乗者は狭いシートの上にケツを乗せて股間を弄るような格好でシートバンドに指を通し、窮屈に膝を畳んだ状態で振り落とされないようにじっとしているべきである。同乗者にとっては罰ゲームだが、操縦する側としてはその方が都合良い。

 Gモデルはクラッチレバーをそっとつなぐだけだと平地1速でもエンストしてしまった。その一方で半クラッチにすれば2速発進もできる。スロットルやブレーキレバー、そしてクラッチレバーの操作は軽い。しかしDモデルほどはでないがニュートラル(以下N)に入り辛かった。
 停止寸前に2速からNに入れようと、ペダルを軽く踏んだら飛び越えて1速に入ってしまう。その反対に、停止中に1速からNに入れようと、ペダルを軽く掬ったら飛び越えて2速に入ってしまう。どちらか一方ならば他のMT車でもよくあることだが、当方が試乗したGモデルは前者がほぼ100%、後者も40%程度発生するので、発進停止の多い市街地走行ではNを探して1〜2速間を往復するペダル操作が煩わしかった。それでいてクラッチレバーを握らずとも軽いシフトショックを伴うだけで簡単にシフトチェンジできてしまうので、これなら自動遠心クラッチでもいいだろう?と思った。反対にスーパーカブ110(JA07初期型・対策部品交換前)はクラッチレバー付けてもいいのでは、という逆の感想を持った。最近のホンダ原付二種は機械精度が低いのだろうか?それとも無調整で出荷〜納車するのだろうか?Z125PRO、D-TRACKER125は気持ち良いくらいカチッと決まったので尚更ホンダ車の印象が悪くなる。

 排気音がわずかに変化したようだ。Dモデルのリズミカルで太い音が、Gモデルでは静かで乾燥したような音になった。Gモデルはスポーツバイクとしてはちょっと色気に欠ける音になったように思う。D〜Fモデルではバイク下腹部を通って後席脇まで一気に上昇するアップマフラーだった。Gモデルではアンダータイプになった。しかも下腹部に位置する触媒がやたらにデカい。Dモデル比5?ダウンという数値以上に実質的な最低地上高は下がっている。下っ腹コスるようなアクションも林道走行も遠慮したほうがいいだろう。

 Dモデル同様に、ギアの間隔は1速と2速、2速と3速の間は広いが、3速と4速の間は狭く感じた。平地では3速でも4速でも速度に大きな差はない。4速は、3速で伸ばした速度を更に上げることは容易でなく巡航用のギアと言えよう。

 峠道は2速と3速の往復となる。Dモデルでは上りは専ら2速が頼りだったが、Gモデルでは3速の登坂力が若干向上したように感じた。ある程度速度が出ていれば3速のままジワジワ上っていくことができるし、下りに至ってはほとんど3速ホールドで走れてしまう。そのあたりはZ125PROと似ている。

 85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にするとメーター読み100mで72km/h、200mで82km/h(ここまで2速)、300mで90km/h、400mで94km/h(ここまで約24秒)、500mで97km/h(ここまで3速)、600mで98km/h、700mで99km/h、800mで平地最高速の101km/hに達した。下り坂ではメーター読みで105km/hまでは見たがもっと伸びそうだった。平地最高速の時、デジタルメーターは100 km/hと101 km/hの間を反復表示していたが、GPSは91km/hを表示していた。GPSを基準にすると速度計の誤差は(101-91)/91=+10.9%または(100-91)/91=+9.9%となる。メーター読みでは新型GROMの方が速かったが、GPS数値ではZ125PROの方が速かったことを申し添えておこう。
 比較対象区間304.7kmを走行したところ距離計は300.2kmを示した。距離計の誤差は-1.5%となった。その区間の平均燃費63.2km/Lになった。

 スーパーカブ110もびっくりする低燃費と国土交通省も眉間にシワ寄せる速度計誤差である。燃費が非常に良かったのはGROMのエンジンが優秀なこともあるが、Z125PROより慎重に走行していたからだ。慎重になった理由は2つある。ひとつはDモデル同様にリアブレーキがほとんど効かなかったので、あまり速度を出したくなかったからである。リアブレーキペダルを強く踏み続けてやっと少しずつ減速していくという有様である。ドラムブレーキより初期制動が弱くてコントロールしにくいならば、ディスクブレーキの意味がない。パーツクリーナーと間違えて潤滑スプレーをディスクローターに吹きかけてしまった若き日を思い出す(汗)。

 もうひとつは、ハンドルをわずかに右に切っていないと真っ直ぐに走れないからである。試しに停止状態でハンドルをロックさせてみるとタンク中央のラインとハンドルバーのラインが左右で角度差ができた。直進走行時、ヘッドライトユニットもわずかに右を向いていたし、右旋回と左旋回でも挙動がわずかに異なるようにも感じた。最悪の場合、フロントフォークが平行でない=キャスター角が左右で異なっている可能性があるかもしれない。この後に複数のディーラーで展示車を観察してみたところ、左右に角度差のある車体があった。初期型JF28の例もあるし、最近のホンダ原付二種にはどんな地雷が仕掛けてあるか分からない。もしも私がGモデルを買うとすれば、じっくりと現物を観察し大丈夫そうなものを選ぶ。これは展示車だからお譲りできません、と言われたら、新しい展示車が入るまで納車を待ちますよ、と返す。

 直進性は良い。低速からスーパーカブ110Z125PROよりも安定している。停止直後も数秒間、足を接地させないでじっとしていられる。ダウンマフラーで重心が下がったか?着座姿勢の向上か?VeeRubburよりいいタイヤなのか?旋回性もDモデルより若干良くなっている。走行中にわざとハンドルを左右に振ってみても前輪と後輪の方向性がバラバラになるような不安な挙動は生じなかった。

 車体は良く言えば剛性感が高く、悪く言えば柔軟性が足りない。フロントサスは制動時に深く沈むので“動いている”という印象を抱ける。一方のリアサスは今回もリンク機構を見送られた。ステップに立ち上がった状態からシートにお尻を落としてやればフラットなまま車体が下がるのでリアサスが“ある”ことは分かるのだが、フロントに比べると嫌々ながら動いているという印象を抱く。ちょっとした路面の繋ぎ目でもポンポン跳ねて視線が上下する不快感は相変わらず残っている。乗り心地路面追従性も明らかにエイプのほうが良かったし、Z125PROのほうがマシである。現状ではスーパーカブ110より走れるバイクですよというレベルであって、スポーツバイクとしては満足できるものではない。

 フロントディスクは2ポット、リアディスクは1ポットピストンでローターを押し込む。フロントの制動力はZ125PROより強く、リアの制動力はZ125PROより極端に弱い。GROMは前後の制動力バランスが極めて悪く、ほとんどフロント頼みである。Dモデルではローターとパッドの面が合っていなかったようだが、今回も同じ原因だとするならば製造業者としての資質を疑わざるを得ない。

 標準タイヤのサイズはZ125PROより一サイズ太い、F:120/70-12、R:130/70-12である。銘柄は2種類ある。Dモデルから継続するVEE RUBBER:V119Cと今回の試乗車に付いていたIRC:NR77Uである。乗車人数にかかわらず前後共に指定空気圧が200kPaというタイヤである。凍結防止のために縦溝が彫ってある路面を、若干の恐れを持ちながらも通過することはできた。
 乾燥路面での短制動。後輪のみで強く制動してもロックするほどの制動力が得られなかった。前輪のみで強く制動するとフロントサスが大きく沈み込み、タイヤがロックした瞬間、後輪がふわっと持ち上がる。Dモデル同様にジャックナイフがやりやすい。前後同時の制動ではリアタイヤが若干浮きにくくなるが、フロントサスが大きく沈み込むのは変わらない。リアが浮き出す&滑り出す限界まで強くリアを併用しないと乾燥路面でも安全に短制動できない。今回は雨天に遭遇しなかったのでWET路面での短制動は試せなかったが、V119C よりNR77U の方がグリップも旋回性も若干良かったような気がする。タイヤはランダムで組み合わされるとのことだが、選べるのなら私はNR77Uを選びたい。

 操作性や装備。
 ホンダ車では毎度同じことを言うが、ウインカースイッチホーンスイッチは従来の位置に戻してほしい。クラッチレバーとホーンスイッチを同時に操作することはないだろうが、スクーターでは左ブレーキレバーとホーンスイッチを同時操作することがあるから、それに合わせてホーンスイッチを親指移動の少ない下に戻して欲しいのだ。

 メーターパネルはDモデルからの継続のようだ。燃料目盛りは6個あり、これが5個表示に変わるまで65km走行を要し、後は30〜45km毎に1つずつ目盛りが減っていった。Dモデルより燃料計の違和感が減った。タンクも200ml容量アップし、タンクキャップもヒンジ式にグレードアップした。
 バックミラーは鏡面が丸いうえに樽型に歪曲していて映像が惨い。さらに、ミラーに映る面積に自分の腕や肩が多く占めていて、後方視界が著しく悪い。私なら速攻で取り換える。

 シート下の収納はDモデル同様に、書類と車載工具を入れ、盗難抑止アラームを設置できる程度。リアキャリアを装着しない限り、積載性はお話しにならないのも同じ。Gモデルで純正リアキャリアの型番が変更された。

 メットホルダーはシート脱着で使用可能になるが、この脱着操作がDモデルほどではないが、やはり渋い。メットホルダーもDリング片方なら良いが、両方掛けてしまうとシート脱着が更に渋くなる。

 ヘッドライトに上下二灯式のLEDを採用した。せっかく均整のとれたデザインになったのだから、こんな子供っぽい形でなく、CB1300SBあたりを真似ても良かったのでは?ロービームでは上灯がさらっと地面を照射し、ハイビームにすると下灯も合わせて点灯し、12m程度先の狭い角度だけ光を補強する。Gモデルのライトは周囲が暗くなるほど白く照射しているのが分かるが、日が暮れたくらいでは点灯していることすら分からない。また、ハイビームにしても青看を照らすほどの照射力、高さはない。総じて30Wのハロゲンバルブと同等かどうかというレベルである。良い点は光が均一に照射されることと、濃霧でも乱反射しにくいこと、そしてハイビームにしても対向車にパッシングされないことである。暗黒の峠道では当然ハイビームで走行した。自身の安全のために常時ハイビームでもいいかと思う。
 なお、ポジションランプとして常時黄色く点灯している左右のウインカーと合わせ被視認性はこのクラスでは良い方だと思う。

 面妖すぎる外観も着座姿勢もだいぶ改善し、長い時間乗車できるバイクになった。残る不満点をキャッチフレーズ(※1)とかけてみよう。
(メーター)プラス誤差に収まると油断していないか?
(リアブレーキ)惰性すら止めきれないと諦めていないか?
(ハンドル)さあ、目の前にある舵を切れ。バイクの中にある不満を、弄り倒せ。
(ヘッドライト)「LED」で照らし出す白い路面には、未だ安全などという言葉は存在しない。

(※1)『常識に収まって安心していないか?惰性に慣れきって諦めていないか?
さあ、目の前にある刺激をつかまえろ。自分の中にある自由を、解き放て。
「グロム」で走り出す新しい世界には、もう退屈などという言葉は存在しない。』

2016.7.24 記述

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