ホンダ
スーパーカブ110
JA44

単独評価
 長所: 始動性 汎用性
 短所: フロントブレーキ 燃料計 鍵

普及タイプのスクーターと比較して
 長所: 登坂力 運動性能 始動性
 短所: 制動力 収納力 乗り心地

JA10標準仕様と比較して
 長所: 質感 最高速 細部に渡る様々な改良
 短所: 鍵 プラパーツの噛み合わせ 価格 燃費 部品代

JA07標準仕様と比較して
 長所: 静寂性 操舵安定性 短時間の座り心地 縦溝路の走行安定性 細部に渡る様々な改良
 短所: フロントブレーキ 動力性能 燃費 長時間の座り心地

 今回は2017年11月に登場した3代目プラスチックカブの標準仕様を取り上げる。プラカブのうち先先代をJA07、先代をJA10、現行標準仕様をJA44、現行クロスカブ110をJA45と呼び、スーパーカブ90以前のカブシリーズを鉄カブと呼ぶことにする。

 積載性・収納力
 標準リアキャリアの荷掛けフックがJA07は6つあったのにMD・PROを除きJA10以降は4つに減っていて使い勝手が劣る。また、リアキャリアの格子(上から見た形状)はJA10と同じであるが、リアサスの内側に挟むように変わった。これはリアサスの交換し易さというよりも、荷掛けフックへの干渉を減らしたのだと思う。JA10とは左右リアサスの間隔も変わっているので、JA10,AA04シリーズとのリアキャリアの互換性はない。JA07のような角が取れた外装に戻されてキャリア下へのアプローチがしやすくなった。
 純正フロントキャリアJA07用と比べると中央の取り付け金具が太くなって取り付け剛性が向上し、荷掛けフックも復活した。
 ヘルメットホルダーJA10以降は車体の左側に付いて左側で乗降する際に脱着操作がしやすくなったが、ヘルメットを車体横に出張らせておくと過密駐輪時に邪魔になるので、JA48と同様にシートヒンジ付近へ移動するか、または、ベトキャリ装着後にヘルメットを置けるよう施錠可能なコンビニフックにしてもいいと思う。
 鉄カブ時代はハンドルカバーが鉄製だったので、ウインカーの付け根やハンドル自体をコンビニフック代わりに出来たが、プラカブにその剛性は期待できない。その代わりJA44ハンドルウエイト(バーエンド)に溝があるので簡易なコンビニフックとして代用できそうだ。

 鉄カブ以来の収納箇所であるサイドカバーが復活した。右側はメンテ用。左側は書類+αくらいしか入らないが、あるのと無いのとでは大きく違う。このサイドカバーを開けるためのドライバーはセンタカバー内にあり、そこを開けるにもドライバーが必要になる。この矛盾を解決するために、悪戯リスクは増えるものの、サイドカバー又はセンターカバーのスクリューをノブ(※3)に交換するという手もある。

 JA07に比べ、メインスイッチは正面を向いて鍵の挿入口は見つけやすいが、肝心の鍵そのものがJA10より更に粗雑な彫刻になり、なかなか鍵穴に刺さらなくなってしまった。
 左集中スイッチ全体をコンパクトにしても、スイッチの突起をJA10の右押しから左押しに変更しても、親指を上に持ち上げないとホーンスイッチを押せないようでは、緊急時に間に合わない。毎度の指摘ながらホーンスイッチとウインカースイッチの上下位置は戻してほしい。

 燃料計は小さ過ぎ&アバウト過ぎであまり役に立たない。70km/L走ったときは満タンにして100kmくらいでFullに重なり、そこから6つめの最後の目盛りであるEmptyに重なるまで100kmしか走れなかった。60.7km/L走ったときは満タンにして90kmくらいでFullに重なり、そこからEmptyに重なるまで80kmしか走行できなかった。市街地走行だったらもっとF〜Eの間に走れる距離は短くなる。燃費から逆算したEmptyに重なった時の推定残油量は約1.4Lとなった。燃料計を当てにした場合の航続距離JA48並みに短い。燃料計の針がF〜Eの間を指している距離が実際の航続距離の1/3程度しか占めていない。燃料計はもう少し大きく正確に、ついでに燃料タンクも4.3Lから増量して欲しい。

 このLEDヘッドライトJF56の頃より進歩している。昼間も被視認性が向上しているし、雨が降る夜間走行などで30/35WハロゲンのJA07よりも照射力が強いと感じる。LEDならではの指向性の高い白い光線が、水滴を突き刺すのだろうか。ロービームはライト本体から見て左右に160°くらい、ライダー本人の目線からみても左右に100°くらいの広さで照射し、上下には0〜15m程度照射する。ハイビームはロービームの照射に加えて遠くの青看まで照らしてくれるが左右の角度は狭い。JA42〜45のなかでJA44だけがハンドルマウントだからJA45等より照射方向の面で有利になると予想したが、ハイビームに切り替えてもコーナー先を照らさないのは同じだったので、実用上ほとんど差がなかった。今後の改良で対向車を眩惑せずにコーナー先まで照らせるようになれば、30〜40Wクラスのハロゲンバルブは出番がなくなるかもしれない。

 機械としての耐久性や整備性は向上したようだが、せっかく脱着しやすくなったJA10のプラスチック外装がJA44で再び組み立て時の簡便さしか考えていないような爪の噛み合わせ方になった。人間は手が2本しかないのだから、例えば、両側のカバーを開きながら中央のツメを外すという動作は難しい。せっかく綺麗に塗装してくれたのに脱着の際に傷を付けてしまいそうだ。また、JA07でも発生していた上下ハンドルカバーの隙間からの粉吹きはJA44でも依然として発生する。

 85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にすると、GPSは、100mで49km/h、200mで64km/h、300mで72km/h、400mで76km/h、500mで78km/h、600mで81km/h、700mで82km/h、800mで84km/h、900〜1,000mで85km/h、1,100〜1,200mで86km/h、1,300〜1,400mで87km/h、1,500〜1,600mで88km/h、1,700〜1,900mで89km/h、2,000mで平地最高速90km/hを示した。このときJA44のメーターは96km/hあたりを示していた。GPSを基準にすれば+6.7%の速度計誤差となる。

 進行距離ごとの到達速度はJA45と瓜二つである。同じ最高速が出て、なんとかオンロード用としてのメンツを保つことができた(笑)。そうなるようにJA44JA45ではタイヤ円周長と減速比を調整しているのかもしれない。また、100m地点での到達速度はJA48より伸びていたし最高速も4km/hしか違わなかった。JA10とはスペックは同じだが、上が伸びるようになった。

 燃費は旧比較対象区間305kmで平地と登りを50km/h、下り坂を60km/hに抑えて走行したところ、JA07標準仕様は75km/Lまで伸びたのに、JA44は70km/L止まりであった。規制対応の影響が大きいのだろう。燃費だけでなく、明らかにJA07より体感加速が落ちている。次に比較対象区間333.3kmで交通の流れに合わせてキビキビ走行したところJA48は64.0km/Lまで伸びたのに JA4460.7km/L止まりであった。よって普及タイプのスクーターと比較しての長所から“燃費”をいよいよ外すことにした。

 燃費でJA48にも負けるとは思わなかった。これは低中速トルクの違いが大きいと思う。JA44では2速に落とさないとスムーズに登れない坂を、JA48では3速のままなんとか上り続けることができる。峠道に差し掛かるとやはりJA48のトルクが恋しくなる。低燃費・トルク・最高速で125ccが上を行くならば、当然125ccが欲しくなる。ただ、110ccには落差が少ないという長所もあった。JA48はハーフスロットルではスムーズに加速するものの、1速で全開発進すると詰まるような領域があるのに対し、JA44はそれを感じさせない。回した分だけ素直に加速していく。それがはじめの100mに現れたのかもしれない。

 JA10以降、操舵安定性が改善し、タイヤが太くなって運動性能も向上している。シートJA44で再度変更された。前方は柔らかく後方は適度に硬いので着座すると腰が前傾するようになり膝もいっしょに下がってしまう。JA10以降、ステップとシートまでの距離がJA07よりも接近したままなので、必然的に膝の折り畳みがJA10よりきつくなった。短時間乗車であれば座り心地が良いシートなのだが、長時間乗車では膝周辺がうっ血しやすくなる。クッションが薄くて平板なJA07のシートの方が長時間乗車では逆に疲れが少なかった。JA44で長時間走行して疲れたのは、ケツ、膝、ブレーキの構えを続ける右手首だった。JA44は現状でも足着きに余裕があるので、ステップとシートまでの距離を稼ぎ、膝を楽にするために新旧クロスカブのシート(※1)(※2)に交換するのも手だと思う。

 JA45でコメントしたように操舵安定性、快適性ともにJA45に負ける。
 JA44JA45に明らかに勝るのは、足着き性と、はじめからレッグシールドが付いている事である。

 JA48でコメントしたように操舵安定性、直進安定性、快適性、そして特に制動力JA48に負ける。
 JA44JA48に勝る部分は、足着き性と、互換性社外品を利用した汎用性の高さである。

 シフトフィーリングの悪さをやっとホンダも認めたようで、ギアシフトドラムにベアリングシェル を組み込んで変速の確実さを狙った。JA45でもコメントしたように、シフトアップ方向は停止中・走行中に関わらず従来よりも軽い操作でも確実に入るようになったが、停止中のシフトダウンは改善しているものの、やはり鉄カブ時代の確実さには遠く及ばない。例えば、停止中に4速から再度4速までロータリーシフト(ダウン)してみると5回ペダルを後ろに踏むことになるが、これを2回繰り返す10回のシフト操作で1〜2回はギアが移動せずにスロットルを併用することになる。
 ちなみにギア抜けも1,500kmの試乗だけでも(覚えているだけでも)3回は発生している。いずれも停止中のシフトダウンを行った後の発進から暫くしてのシフトアップ直後に発生したので、やはり停止中のシフトダウンが成功していなかったのだろう。発進用のクラッチと変速用のクラッチを分けていなかった鉄カブで変速そのものが失敗する事など経験したことがない。

 DRY路面での短制動。フロントブレーキレバーがグリップに接触するほど強く握っても前輪は滑らなかった。その前にフロントサスが受け止める。その一方でリアブレーキペダルを強く踏むとスリップ音を出しながら後輪は滑り出す。前後同時に制動しても後輪は滑りやすい。後輪を滑らせない程度にフロント中心に、と言いたいところだが、後述するとおりフロントがいかんせん頼りないので気が滅入る。

 その一方でWET路面が意外にいい。無論マンホール上での制動は避けるべきだが、雨天時を基準に設計したのかと思う位に乾燥路面と同じように制動できた。逆に言うとこのフロントドラムがタイヤのグリップやサスの吸収力に追いつけないほど貧弱である証左だ。

 JA44の標準タイヤはJA10標準仕様から継続しているチェンシンCST:C-6016(R)という銘柄で、サイズはF:70/90-17、R:80/90-17である。直立直進状態でのグリップは悪くないし、凍結防止のために縦溝を深く掘った路面を走行してもタイヤが捕られにくい。バンク角を増やすと腰が砕けやすいので空気圧を若干高めにしてみたら、今度は旋回時のグリップ不足が気になってきた。いずれにせよ端は使えないと考えた方が良く、交換時はD107等をお勧めしたい。

 最大の不満点はフロントブレーキにある。
 まずフロントドラムのサイズが小さ過ぎて絶対的な制動力が弱い。突然正面に何かに横切られたら間に合わないだろうというレベルである。HA02後期でもJA07標準仕様でも大型フロントドラムを採用したのにJA10以降はサイズダウンしてしまった。これはクロスカブ(JA10・JA45)の後輪ドラムを除いて部品を共用化するためだと思う。安全性よりもわずかなコストダウンを優先するのが、ビジネスバイクに対する回答なのか。いまや標準仕様はビジネスユーザーより一般ユーザーの方が多いと思う。

 制動力が弱いだけなら、ドラムサイズが同じJA42,43,45も同じだが、JA44はそれに加えて制動フィーリングも悪い。
 ブレーキレバーの握りに対して初期制動が甘すぎる。これはブレーキワイヤーが柔らかいというよりもブレーキワイヤーとそれを貫通させるフロントブレーキパネルのトンネルの隙間が大きくてガタついているからだと思う。このためフロントブレーキレバーを握る手にまでフロントサスの動きが伝わってくるのだ。
 更に、フロントフォーク左側ボトムケースのガイド部分(♂)とフロントブレーキパネルの溝(♀)の噛み込みが甘く、通常の制動では数回のうち一度、フルブレーキではほぼ毎度、制動中にブレーキパネルがドラムシューに引っ張られて動いてしまい、カクッという音と共にほんの一瞬だが制動力が抜けてしまうのだ。
 原付二種現行モデル中、最低の制動力制動フィーリングである。咄嗟の時に親指を持ち上げないと鳴らせないホーンスイッチとのコンビでJA44が市街地渋滞戦において冷や苦汁の王(百獣の王)に君臨することは間違いない。
 JA10標準仕様でも生じていたこの症状をホンダはずっと放置している。親父さんが生きていれば全車回収して修理させるだろう。いや、そもそもこんな状態で世の中に出てこない。ホンダは製品を検証する機能を失ってしまったのだろうか。

 制動力に文句があるならフロントディスクブレーキを採用したスーパーカブC125を買え。こんな儲からないバイクにサービスキャンペーンなどやっていられるかってのがホンダの考えなのかもしれない。25万円で買えるJA44はフロントブレーキが惰弱な準欠陥車。フロントブレーキが効くJA48は40万円もする過剰装備車。JA44は帯に短しJA48は襷に長し、いや全然長くないか、航続距離が。必要な乗用カブは両車の間を埋めるモノ。大型フロントドラムをフロントフォークごとJA07標準仕様から移植して不具合と決別するのが喫緊かつ最低限のラインだ。フロントブレーキをディスクに換装し相応の標準タイヤを装着するならば30万円でも安いと思う。

 中身はほとんどJA10を踏襲しているので、今回のモデルチェンジは、耐久性、整備性、使い勝手などを改善することが目的だったと思う。そのついでに丸い外装に戻しただけだと思う。3回もモデルチェンジしておきながら操舵安定性(特に積載時、片手運転時)とシフトフィーリング(停車時)において未だ偉大なる鉄カブには及ばない。プラカブ鉄カブの双方の長所を融合できたなら、カブが再び神バイクとなるだろう。次回のモデルチェンジでやっと『カブが新型になりました』と親父さんの墓参りで報告できるモノになると期待する。今はまだ失った信頼を取り戻す途中である。

(※1)クロスカブ110(JA45)のシート:77100-K88-B01ZA
(※2)クロスカブ(JA10)のシート:77100-KZV-Y01ZB
(※3)サイドカバーノブ: 83501-K88-L20 / ゴムワッシャー 90502-K04-930

2018.11.20 記述

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