ホンダ・クロスカブ110
JA45

単独評価
 長所: 軽快感 燃費
 短所: 前輪制動力 前後制動バランス

先代クロスカブと比較して
 長所: 下記以外のほぼ全て
 短所: 価格 膝が寒い、足が汚れる ハンドルクランプ

現行スーパーカブ110 JA44と比較して
 長所: 操舵安定性 旋回性 乗り心地 路面適応力
 短所: 価格 足着き性 照射方向

 2018年2月、先代のクロスカブ(NBC110XD)に後継機種クロスカブ110 (C110XJ)が登場した。細かい話だが、今回は50ccもラインアップされたため車名に110という数字が追加された。また標準仕様から独立したJA45という型式が与えられた。以下、クロスカブ新旧比較では機種コードを用いて先代をXD、現行をXJと呼び、世代間比較ではスーパーカブ90以前のカブシリーズを鉄カブJA07以降のカブシリーズをプラカブと呼び、その中で先先代をJA07、先代をJA10、現行標準仕様をJA44、現行クロスカブ110をJA45と呼ぶことにする。

 加速性能。85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にすると、GPSは、100mで48km/h、200mで63km/h、300mで72km/h、400mで75km/h、500mで79km/h、600mで81km/h、700mで82km/h、900mで83km/h、1,100mで84 km/h、1,200mで85km/hを示した。横風を強く感じたので、このコースを逆走させて頂いたらGPSが90km/hを示した。平地だと85〜90km/hあたりが最高速か。ちなみにGPSが90km/hを示すときXJのメーターは94km/hを示していた。GPSを基準にした+4.4%の速度計誤差はホンダ車にしては小さいものだった。下り坂ではメーター読みで100km/hまでは見ている

 変速比・減速比ともに継続だが、なぜか取扱説明書では速度レンジに記載変更があった。XDでは速度範囲として1速0〜30km/h、2速0〜55km/h、3速20〜80km/h、4速30km/h以上、シフトダウンは3速へは80km/h以下、2速へは55km/h以下、1速へは30km/h以下と記載していたが、XJでは速度範囲として2速13〜55km/h、4速25km/h以上、シフトダウンは3速へは75km/h以下と変更されている。ギアをいたわれというメーカーのメッセージだろうか。

 お燃費。比較対象区間307.4kmを走行したところ、オドメーターは311.0kmを示した。距離計の誤差は+1.2%と推定する。その区間の平均燃費は63.3km/Lになった。新しい排ガス規制に対応した影響で燃費公表値がXDより落ちているが、差があったとしても微々たるものである。

 シフトフィーリング。今回のXJでは、前へ前へとシフトアップするのは停止中でも走行中でも全く問題ないばかりか、従来よりも軽い操作でも確実に入るようになった。しかし、停止中に4速から再度4速までロータリーシフト(ダウン)してみると5回ペダルを後ろに踏むことになるが、これを2回繰り返す10回のシフト操作のうち後半の1〜2回はギアが移動しないことが多かった。
 ちなみにXD最終モデルの新車卸し状態では10回のシフトダウン操作で3〜4回はギアが移動しなかった。増してやJA07だとスロットルを併用しないと何回踏んでもシフトダウンが一向に進まなくなることすらあった。これらに比べればXJはだいぶ改善しているのだが、停止中のシフトダウンについては鉄カブの精度に遠く及ばない。これは4速・2段クラッチ採用車のクセと考えるしかないだろう。停止するまでに1速までシフトダウンを済ませておくか、停止してから1速までシフトアップするのが、プラカブの操作方法なのだと。

 車種間比較

 まずは同期対決。
 操舵安定性JA44に勝る。これはタイヤを太くしたうえで前後共通サイズとすることでフロントの立ちを高め、ワイド&アップなハンドルを採用した効果だと思う。さらに着座位置を高めたことで前方視界が開け、倒し込みもスムーズになったし、バンク角も増えたし、すり抜ける際に縁石に接触しにくくなっている。リアサスペンションの踏ん張りが良いために、コーナリング剛性も高まり、発進時の蹴り出しも鋭くなっている。JA44だとシートが低くてリアサスが柔らかいので、コーナーを攻めようとするとステップを擦らないか冷や冷やしてしまう。JA45のシートクッションはJA44より最後端位置で8mmほど厚いので長時間でもケツが疲れにくい。シート裏のマウンティングラバーも厚くてケツに伝わる振動も減っている。

 つまり操縦性快適性JA45JA44に勝っている。

 その一方で、ステップの後ろだけでなく、前にも真横にも足を垂らして余裕で両足ともべったりと接地できるほどJA44足着き性は良い。またフロントキャリアがオプションで用意されているJA44では、フロントに荷物を積むことで、フロント荷重を高めてハンドリングを好みの重さに仕立てることができる。JA45PRO(JA42)のフロントキャリアを取り付けることは可能だが、部品代だけでも3万円するのと、フレームマウントのためハンドルの軽さは変わらない。照射方向が操向に従うのも標準仕様(JA44)のみの特典だ。

 次に新旧対決。
 XDはメーターユニット、ハンドル、トップブリッジそれぞれの隙間が大きくてハンドルが高すぎるように見えた。ぶら下がるようにして乗っているように見えて滑稽な姿だった。XJではそれらの間隔が狭まり外見が引き締まった。ハンドルの高さが変わったように見えたが、ほとんど違いはなかった。6cmの全高ダウンはメーターユニットの高さだと思う。一方でハンドル幅は2cm狭くなったが、着座姿勢にほとんど変化はない。

 シートは形状が少々鋭角になり、クッションが柔らかくなったことで足着き性が向上した。シート表皮もグリップの良いものに変わった。股下77cmの私が着座すると、XDではステップの後方に足を垂らしても片足をべったり着くと、もう片方はつま先立ちだった。XJでは、ステップの後方に足を垂らせば両足共にべったりと接地できる。この安心感は舗装路より不整地で差が出るだろう。

 では、XJのシートが一方的に優れているか?というとそうでもない。XJに着座すると若干ながらケツが前傾するようにクッションが沈み込む。上体を安定させるために、無意識のうちに後方寄りに座り直す自分がいた。長時間走行では降車する瞬間に尾てい骨が一瞬痛むのは、シートクッションが柔らかくて尾てい骨がシートに圧迫されるからだと思う。短時間走行ではXJの方が柔らかくて印象が良かったが、座り始めが硬くても姿勢が安定し尾てい骨が圧迫されにくいXDの方が長時間走行では疲労が少なかったように思う。XDのスポンジにXJのシート表皮を組み合わせればツーリングでは最良になるだろうが、XJの足着き性も捨てがたい。

 なおXJでも停止寸前に早く足を出そうとステップの前から足を垂らしてしまうと、停止寸前にステップに足を噛みつかれるので注意したい。今回も可倒式ステップを採用して足を戻しやすくしているが、スプリングを内蔵していないので、持ち上がったステップは踏み直さないと元の位置に戻らない。

 エンジンを何かで包んだかのように全域で静寂性が向上している。燃費も落ちていないし、シフトフィーリングも改善している。

 XJ最大の改良点は操舵安定性ではないかと思う。
 直進中はそう変わらないし、停止直後に足を着かずにじっとしていられる時間がXJの方がわずかに長い。違いは変な事をしたときの安定性がかなり向上しているのである。
 XDは走行中に何もしなければJA07標準仕様より直進性は良いのだが、走行中にわざとハンドルを左右に振ってみるとJA07標準仕様と同等かそれ以上に方向性を失う危ういハンドリングだった。一方でXJで走行中にわざとハンドルを左右に振ってみてもJA07標準仕様XDよりかなり落ち着いていた。この差は緊急回避やフロントを捕られた際に現れるだろう。
 XDXJのディメンションはほとんど変わらない。シート高は784mmで同じだし、ハンドルの高さも実測でいくらも変わらなかった。ホイールベース5mm延長もドライブチェーンのサイズアップに伴う後軸位置の変更ではないかと思う。違いを作ったのはフロントホイールのリム幅拡大(1.40→1.60)と標準タイヤそのものかもしれない。

 XJの標準タイヤはIRC:GP-5(D)という銘柄で、前後共通サイズの80/90-17 44Pだが、回転方向の指定と前後輪を区別する刻印があった。XDの標準タイヤ=CST:C-6512F/Rは模様だけギザギザが入っていたが、オフロード性能は考慮されていないシロモノだった。舗装路で旋回するとXDの方がタイヤの端まですんなり寝かせられるが、その先は安定感に乏しかった。一方のXJはタイヤの端までは抵抗があるが、いざ端に乗せるとまだコントロールできる範囲がある。そして砂利道も走ってみたらXDJA44よりXJの方が砂利でタイヤが弾かれることが少なかった。今回のタイヤは溝が深くなり、溝と溝の間隔もあるので路面を噛みやすくなったのだと思う。縦溝が掘ってある路面を走行してもタイヤが捕らわれることはなかった。XJのタイヤはXDより汎用性が高まったと思う。不整地での戦闘力を更に高めたいのならTIMSUN TS808あたりに履き替えるといいかもしれない。

 乾燥路面での短制動。フロントブレーキレバーがグリップに接触するほど強く握ってもフロントはロックしない。その前にフロントサスがじっくりと吸収してしまう。その一方でリアブレーキペダルを強く踏むとスリップ音を出しながらわりとすぐに後輪が滑り出す。前後同時に制動してもリアは滑りやすい。リアを滑らない程度にフロント中心に、、、と言いたいところだが、制動力が後輪に偏っているのはXDと同じだった。リアブレーキシューがXDと同じ06430-KRF-B80を装着しているので、XJもシリーズで唯一130mm径のリアドラムを採用していることになる。
 以前試乗したXDにヤバいほど前輪制動力の弱い個体があったが、今回試乗したXJも最終モデルのXDもそれより改善されていて相応の制動力はあった。フロントサスのストロークが長いせいかJA44より制動フィーリングは良いが、どちらも絶対的な制動力は前輪ドラム径の大きいJA07標準仕様に及ばない。一般公道を走るバイクにこの程度の前輪制動力しか与えないのは感心できたものではない。

 

 フロントブレーキロック機構は先代を踏襲している。ロックしておけばバイクが下り坂で自走することはないが、ロックしたままでも、ちょっとパワーダウンしたバイクとして普通に走行できてしまう(笑)ブレーキがタイヤに、タイヤがエンジンに負けているのではなかろうか?

 JA44と比べるとブレーキレバーがやや遠くて下がり過ぎているように思う。しかしブレーキレバーを起こしてしまうと右ミラーもいっしょに仰け反ってしまう。鉄カブもブレーキレバーが遠くて下がり過ぎていたので、使わないことを前提とした配達車特有のフロントブレーキなのだろうか。

 XDだと左集中スイッチボックスが大きくてウインカースイッチを右に倒す以外は全ての操作が遠かった。その一方でXJのスイッチボックスはコンパクトなものになり、スイッチ間の距離も近くなりアプローチはしやすくなった。また、ホーン誤鳴防止のためにXDとは逆の左押しタイプのホーンスイッチにしたようだが、それでもウインカーから指を戻す際に鳴らしてしまうことはある。そもそもホーンスイッチを上に配置している限り誤鳴は殲滅できないと思う。ホーンスイッチとウインカースイッチの間に左親指を構えていればとっさのときにホーンは鳴らせるが、構えているのは疲れるし、ホーンスイッチは親指移動の少ない下側に配置した方が緊急時に操作しやすいと思う。ちなみに鉄カブ・プラカブ含めて集中スイッチが最も操作し易かったのは、JA07標準仕様だと思う。

 長時間走行してもそれほど疲れなかった。強いて言えば、フロントブレーキがプアすぎるので、常にブレーキの構えをしていなくてはならない右手首が緊張にさらされていたことと、降車の際に尾てい骨が一瞬痛むことだった。ライトがもう少し明るければ目もいくらかラクになるだろう。

 ヘッドライトはLEDを採用した。操向を無視するフレームマウントだから期待はしていなかったのだが、CB125R、PCX(JF56)、GSX-R/S125、NMAXよりも使えるヘッドライトだった。光り方についてはLEDの特徴で、“明るい”というより“白い”。そして光が広がらず、行ったきり戻ってこないという感じである。照射範囲はCB125Rよりも広かった。ロービームはライト本体から見て左右に160°くらい、ライダー本人の目線からみても左右に100°くらいの広さで照射し、上下には0〜15m程度照射する。0m?そうバイク直下も照らしている。このためフレームマウントのくせにクリッピングポイントもある程度は照射してくれた。ハイビームはロービームの照射に加えて遠くの青看まで照らしてくれるが左右には広がらない。ハイビーム時に左右の斜め上まで照らしてくれるようになれば35Wハロゲンバルブをマルチリフレクトさせたものに追いつけると思うのだが、LEDの光り方だと対向車を眩惑してしまうのだろう。さらなる改良を期待したい。

 メーター情報はアナログの速度計に距離計、そして燃料計しかない。目盛りは細かくない。満タンにして100km走ってやっと燃料計の針がFullを刻み、そこから30km走って中央のラインを刻み、さらに50km走って赤い警告ゾーンの始まりを刻み、さらに40km走って警告ゾーンの終わりであるEmptyを刻み、そこから55km走って給油したが、燃料計の針はEmptyを刻んでから2mm程度は動いていたが、給油するだいぶ前には動かなくなっていた。給油時点の走行距離は275km。燃費から逆算した航続距離は63.3km/L×4.3L=272kmなのでガス欠直前だったわけだ。ツーリングするならもう少しタンク容量が欲しい。

 積載性。外装がJA07のように丸くなったので、キャリア下へのステー等のアプローチもしやすくなった。しかし標準キャリアの荷掛フックがJA07標準仕様は6つあったのにJA10以降は4つに減っている。後端のフックがJA10のカバーリアトップに干渉するから撤去されたのだろう。ロープやゴムネットで最後に固定するときに後端にもフックがあったJA07標準仕様に比べ左右横にしかフックがないJA10以降は使い勝手が劣る。なおリアキャリア形状はJA44(←ここ訂正)と同じなので、荷量が多い人はJA42・JA43用に交換するといいだろう。

 ヘッドライトステーはデザイン的には丁度良いが、もう少し大きければ簡易フロントキャリアになれたと思う。現状では水平面をつくれる所で幅200mm長さ90mmしかなく、ステーも1本しか固定できないので、画像のXJも走行振動でカゴが常時揺れていた。

 ピリオンステップがマフラーに干渉しない高さにスイングアームに溶接されて2人乗りが可能になった。標準リアキャリアの格子形状を変えていないので、ピリオンシートJA07から共用できる。

 XDの最終モデルと比べても悪くなった所は特にないと思う。強いて言えば
1:値段が上がった。⇒規制対応と品質改善で仕方なし
2:レッグシールドが無くなって膝が寒いとか、足元が汚れる。⇒後付け可能
3:メーターユニットとハンドルの隙間が狭くなってハンドルに何かをクランプしにくくなった。⇒クランプ用社外パーツあり
 これくらいである。レッグシールドの撤去はエンジン冷却も問題になるが、ヘッドカバーにフィンが追加されたので問題ないと思うし、レッグシールドが無い方がCT110っぽくていいと思う。独立した収納箇所も復活したし、何より間抜けなデザインが引き締まったのが嬉しい。品質も明らかに向上している、、、、、あれっ?エギゾーストパイプの塗装がもう剥がれてる!

 燃料タンク増量とフロント制動力の向上は多くの人が望むだろう。それに加えて個人的な要望としてはフロントフォークの延長である。

 ハンドルが軽くて、着座位置も高くて、ニーグリップできないこと、それでも低重心で粘り強いので、ヒラヒラと蝶のように舞うことができる。これはクロスカブ110独特の乗り味と言っても良いと思う。それはそれで面白いのだが、オンロードバイクとしてはいささかフロント荷重が軽すぎると思うし、オフロードバイクとしてはフロントフォークの剛性が不足していると思うので、CT110のようにハンドルの高さまでフロントフォークを伸ばし、そこに丈夫なフロントキャリアを装着できるようになったらと思う。クロスカブ110は唯一のセミオートマチック・オフローダーになれる存在なので、これからも勝手に期待している。

2018.5.15 一部訂正/2018.5.12 記述

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