ホンダ
スーパーカブC125

単独評価
 長所:1着座姿勢 2運動性能 3取り回し
 短所:1価格 2積載・収納性 3標準タイヤ 4航続距離

スーパーカブ110<JA44>と比較して
 長所:1制動力 2操舵安定性 3機敏性 4質感 5着座姿勢
 短所:1価格 2足着き性 3積載・収納性 4後席居住性 5互換性

 カブ誕生60周年という節目に登場したスーパーカブC125(以下JA48という)は初代スーパーカブC100を参考にしてタイでデザイン・開発されたグローバルモデルである。2017年のモーターショーで展示したところ反響が大きかったので日本国内でも販売されることになった。

 足着き性は私の体格にぴったりである。すなわち、股下(両足を肩幅まで開いたときの股間下から地面までの垂直距離)77cmの私が、ハンドルが遠くならない程度になるべく後方に着座した場合に、両足が地面にべったり接地して足が伸ばせない状態である。両足をべったり接地したければ少なくとも160cm以上の身長は必要になると思う。JA48を諦めざるを得ない女性も出てくることだろう。

 シートスーパーカブ110(C110JJ以下JA44という)より広く厚くなった。最大幅は29cm、長さは37cmある。着座すると座面はわずかに前傾するような気がするが、シート表皮のグリップが良くて走行中にケツはズレてこない。表面は柔らかいものの着座すれば適度に硬さもあって疲れにくい。長時間走行ではクロスカブ(JA10)に次いで疲れず、短時間乗車の座り心地とのバランスを考えると、カブ史上最高のシートかもしれない。

 着座姿勢もカブ史上最良ではなかろうか。JA44よりシートは高く、ハンドルを低くした結果、走行時の前方視界が広がった。操舵安定性が向上したのは荷重がいくらかハンドルに載るようになったこともあると思う。鉄カブからJA07に移行した際に適合する体格を大きくしたが、JA07からJA10・JA44に移行した際にシートとステップまでの距離がわずかに短縮されて膝の折り畳みがきつくなった。JA48では再び大きく設定し直したようで、JA07よりも膝の折り畳みが緩くなってエコノミー症候群になりにくくなった。日本人の平均身長は伸びているし、アメリカでも販売するのだから必然だろう。
 私の体格だとシート最後端まではケツが下がらないので、リアキャリアに載せたホームセンター箱が意外にも背中に接触しなかった。

 シフトフィーリング。シフトペダルの踏み込み量がJA44に比べて増えている。JA48はシーソーペダルの前端から後端までの寸法が305mmもある。特に後ろペダルまでの長さが増えていて、シフトダウンの際はステップに置いている土踏まずを後ろにずらさないとペダルをマトモに踏めないようになった。ストローク量、スライド量が増えてしまったシフトチェンジだが、シフトフィーリングそのものはおおむね向上している。前へ前へとシフトアップするのは停止中でも走行中でも確実に入る。

 しかし、停止中に行うシフトダウンの成功率は、JA44よりもかなり悪かった。と言っても“変速しない”というわけではなく、最後まできちんと“変速し切らない”という感じである。アクセルをちょい回せばすぐにカチリとギアが入るので、走行距離が増えて当たりが付けば改善する程度の事かもしれない。ギアが入っていない時はシフトポジションインジゲーターで『−』表示をする。ギアが入れば遅滞なく『1〜4』表示をする。このあたりのフォローはJA44より親切なので、ギアが1回で変わらなくてもストレスをあまり感じなかった。
 停止中のシフトダウンについてはやはり鉄カブの精度に及ばない。4速・2段クラッチ採用車にはシフトポジションインジゲーターは必需品ではなかろうか。

 それにしてもプラカブになってからシフトチェンジペダルの形状がころころ変わっている。ステップに土踏まずを置き、つま先のシフトアップペダル⇒土踏まずのステップ⇒踵のシフトダウンペダルまでの3点をほぼ水平に配置して、常に変速の準備ができているのがJA07のペダル形状。ところがJA07でシフト精度・ギア精度の問題が発生して、より確実に踏み込んでもらいたくなったのか、あえて踵のシフトダウンペダルの高さを跳ね上げてしまったのがJA10、JA42〜45のペダル形状。上記3点をほぼ水平近く配置するも、シフトアップペダルとシフトダウンペダルを同時に触れることができないように、シフトダウンペダルを後方に追いやったのがJA48のペダル形状。私的にはチェンジペダルの形状はJA07が良く、これに滑り止めの処置さえしてもらえればベストだったのだが、JA10以降はステップに置いた左足をずらさないと変速がし辛くなってしまった。

 サウンドは良く言えば太い音になったが、個人的にはJA48の音色に魅力を感じない。JA07JA10・JA44の方がまだ伸びるときのワクワク感がある。エンジン音・排気音はGROMに最も近いと感じた。モンキー125は独特のタイヤパターンからオフ車にも似たトラッキーな音が発生し、速度が伸びてくるとそれがエンジン音・排気音より賑やかになるので、GROMの方が近いと感じるのだ。アイドリング時や巡航状態ではJA44より静かなようだが、スロットルを多めに回していくと、グガガガ〜ンという苦しそうな音に変わる。振動も相応に大きくなるところもGROM似で、高級なカブをイメージしているとがっかりするかも知れない。

 加速性能。85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にすると、GPSは、100mで45km/h、200mで63km/h、300mで73km/h、400mで77km/h、500mで82km/h、600mで83km/h、700mで84km/h、900mで87km/h、1,000mで88km/h、1,100〜1,200mで89km/h、1,300〜1,400mで90km/h、1,500〜1,600mで91km/h、1,700mで92km/h、1,800mで93km/h、1,900mで平地最高速94km/hを示した。このときJA48のメーターは102km/hを表示していた。GPSを基準にすると速度計の誤差は(102-94)/94=+8.5%になる。

 進行距離ごとの到達速度はモンキー125とほぼ同じだった。以前試乗したWAVE125iのように突き抜けるように加速しない。特に1速のスタートダッシュはマフラーに何か詰まっているのかと思うほど吹けが悪い領域が低〜中回転域にある。これは規制対応のための触媒が障害になっているのかもしれない。2速にシフトアップするまでの間に大抵のスクーターに置き去りにされてしまうだろう。

 取扱説明書では速度範囲として1速0〜30km/h、2速13〜55km/h、3速20〜『85』km/h、4速25km/h以上、と記載しているが、実際はメーター読みで1速40km/h、2速70km/h、3速90km/hまで伸びる。更にレブリミッター(燃料カット?)が作動するところまで引っ張れば2速はメーター読みで78km/hまで伸びた。ちなみに上記『85』のところを80に置き換えるとJA44、JA45と同じものになる。加速も最高速もJA44に比べて大して違わないが、逆に必要以上に回さなくてもテキパキ動いてくれるのが、JA48の特長である。低中速のトルクを重視したエンジンなのだろう。速く走ろうとしてスロットルを絞りまくるより、ハーフスロットルでまったり〜テキパキ走る方が幸せになれると思う。

 その幸せはすりぬけ燃費で実感できた。
 JA44の1速は頭打ちが早くてギクシャクしやすいし、2速発進はトルクが湧き出るまでちょっと時間がかかるが、JA48は1速でも伸びが良く、2速も粘り強いので、どちらのギアを使ってもJA44より障害物を縫うようなS字すりぬけがしやくなっている。しかも自動遠心クラッチなのでモンキー125GROMと違ってエンストの心配は皆無である。スロットルワークに対する発生トルクの範囲をギアごとに任意選択できるから、路面状況によってはスクーター以上にコントロールしやすい。ハンドル幅は約71cm、ミラーtoミラーも約74cmと、すりぬけを妨げるサイズではない。

 ミラーは型番こそ違うけどモンキー125と同じものに見える。ハンドルからあまり出張ってないので、すりぬけを妨げない程度に後方視界も確保する落とし所の上手いミラーだと思う。映りも特に悪くなかった。

 比較対象区間333.3km(※)を走行したところ、オドメーターは336.0kmを示した。距離計の誤差は+0.8%と推定する。その区間の平均燃費64.0km/Lになった。排気量は多くても燃費はJA44に負けていない。燃料計の減りが早いので感覚的にはガスを食ってる気がするのだが、スタンドに行ってもガソリンが少ししか入らない。

 

 直進安定性プラカブで最上。停止寸前にバランスを取るためにハンドルをわずかに微調整したくなることはある。また、走行中にわざとハンドルを左右に振った場合にバイク自らそれを回復させようとするほどの神ハンドリングではないが、そうした場合に前輪と後輪の行きたい方向がバラバラに拡散していくほど危険なハンドリングでもない。JA44でも完全には消し切れていなかったJA07の危険性=接地感の低さ、ふわついた操舵感はほとんど姿を消している。
 旋回性も通常の舗装路で常識的な運転をするならば全く問題ないが、現状では褒めるほど良くはない。なぜなら縦溝を拾いやすい標準タイヤを履いているからである。操舵安定性プラカブでは最もいいが、フロントに重い荷物が載っている時の安定性はスーパーカブ90にかなわないだろう。ボトムリンク式のフロントサスペンションにはそれなりにメリットがあったと思う。もっともJA48はフロントに荷物を積めないから比較できないのだが。
 若干懸念する点もあるが総合的に見ればカブ史上最良の運動性能と言って差し支えないと思う。

 乗り心地は現状でもJA44より良いけど期待したほどではなかった。座り心地の良さが乗り心地の良さに繋がっているものの、価格差を埋める程ではない。JA48はタイヤとサスを交換するだけでもっといいバイクになると思う。

 JA48の標準装着するタイヤはIRCのチューブレスタイヤ、F:NF63B YD、R:NR94 という銘柄でサイズはF:70/90-17 38P、R:80/90-17 44P だった。低速安定性も旋回性もJA44より向上しているから、てっきりサイズアップしていると思いきや、前後ともJA44と同じサイズだった。

 短制動。Rだけ強く制動すると大きなスリップ音と共に後輪が滑り出す。Fだけ強く制動すると大抵はフロントサスが受け止めてくれるが、後輪がわずかに浮いたり、スリップ音と共にわずかにフロントタイヤが滑り出したりもした。1ポットピストンなので、絶対的な制動力は平均的なスクーターにはやや劣るものの、やはり機械式ドラムブレーキより油圧式ディスクブレーキの方が少ない力で制動できるし、加減もしやすい。
 DRY路面でさえフロントが滑り出すこともあるのだから、WET路面は十分に注意したい。かつて試乗したWAVE125iほど滑りまくるわけではないが、どうもIRCのタイヤには良い印象を抱けない。また、直立直進状態でのグリップは悪くないが、寝かせていくとグリップが弱くなっていくし、凍結防止のために設置された縦溝を拾いやすく、縦溝付きコーナーでは、前輪と後輪が別々に縦溝を拾って車体がヨレることもある。縦溝がなくても旋回中に凹凸箇所を通過すると強い衝撃を受けて前輪と後輪のトレースが容易にずれて怖い思いをすることもあった。

 チェーン駆動車ならではの抵抗の少なさで取り回しが軽い。ハンドル位置の低さも取り回し易さに貢献している。JA44より車重は約11kg重いが、取り回し易さは同等である。集合住宅の自転車駐輪スペースにバイクを駐車する場合、自転車収納ラックをスライドするためのレールがPCXのような重いスクーターにとっては大きな障害となることがある。そんなとき、ホイールサイズが大きくて取り回しの軽いバイクだと何食わぬ顔で自転車ヅラしてちゃっかり止められる。
 なお、JA48はキャリア面積が狭すぎて、キャリアにBOXを載せると取り回しハンドルとして掴むところがなくなる。

 

 取り回しの軽さは押しがけでも有効で、助走しなくても3or4速で力強く車体を押せば簡単にエンジンが始動するし、自動遠心クラッチなので始動した後も勝手に走り出す心配もない。キックスターターは装備していないが、それが必要になるほど電圧が弱ってくれば、おそらくスマートキーも反応しなくなってEMモード(JF81を参照)の手順を踏む羽目になるだろう。あーメンドクセー。
 スマートキーは先進性を追求するPCXには似合っているが、全ての車種に相応しいとは思わない。収納力重視のリード125ならBOXとのワンキーシステムを想定して物理キーのままがいいと思うし、機械仕掛けが魅力のカブも物理キーの方が似合うと思う。そもそもスマートキーじゃなきゃヤダって人が、自分の足でカッチャカッチャギアチェンジしたいと思うかなあ?

 なお、JA48のスマートキーは生意気にもJF81/JF84のスマートキーよりボタンが1つ多い。盗難抑止アラームも標準で付いているからである。随分とゴージャスですね。

 メインスイッチのポジションはLOCK−OFF−ONと3つしかないのでPCX(JF81、JF84)より分かりやすい。しかも90度横に向いているので、右回しか左回しかで悩む必要がない。前=LOCK、下=OFF、後ろ=ONと覚えてしまえば暗くても操作できる。メインスイッチからFUEL・SEAT OPENの位置はなくなり、シート左下のスイッチを押すとシートロックが外れる仕組みになった。ここを押して数cm浮いたシートを持ち上げるとシートヒンジ付近のヘルメットホルダー(2個)、右サイドカバーオープナー、給油口の3点が登場する。ヘルメットホルダーの位置はJA07からここにすれば良かったのにと思う。なお、Mサイズのジェットヘルメット:MZは左右どちらにも引っかけることができた。Dリングは2個とも掛かるには掛かるが少々きつかった。

 メーターは充実している。アナログ速度計を外周に置き、腕時計の画面くらいの大きさしかないが、中央に液晶メーターを内蔵している。上から燃料計、ギアポジション、距離計、時計を表示する。通常のデジタルメーターでは一番大きく速度を表示する所にギアポジションが陣取っているのが特徴である。ベゼル下のスイッチを押すごとにODO→TRIP A→TRIP Bと切り替わり、ODO表示しているときに長押しすれば時刻修正、TRIP表示しているときに長押しすれば距離がリセットされる。ボタンは1つしかないがシンプルで分かりやすい。

 燃料計の目盛りは6個あり、満タンにして約60km走って5個になり、そこから平均20km毎に1つずつ目盛りが減っていき156km走行時に最後の目盛りが点滅を始めた。航続距離64km/L×3.7L=236kmから逆算すると、最後の目盛りが点滅を始めても(236km−156km)÷64km/L=1.25L 残っている計算になる。ここで2個あるTRIP計の1つをリセットして走行可能距離カウントダウン計にしておけばギリギリまで給油せずにあと236km−156km=80km走れるという目安になる。途中でガス欠したら失格。最も給油量が多かった人が優勝な!って何のゲームだよ。

 3.7LのJA48といい、3.4LのHA06といい、どうしてタイのバイクはタンク容量が少ないのだろうか。最低でも5.0Lは欲しいところだ。

 ヘッドライトも含めて全てがLEDになった。メインスイッチをONにするとポジションランプ的なレンズ中央の横直線が光る。うっすらしていて照射力はほとんどない。エンジンを始動するとレンズ上側のロービームが光る。ライト本体から見て左右に160°くらい、ライダー本人の目線からみて左右に90°くらいの広さで照射し、上下には3〜12m程度照射している。かなり暗い所で初めて気が付いたのは、ロービームでもほぼ頭上の高い角度にも照射している(というか配光が漏れている?)部分があった。照射角度が若干左側に寄っているような気がする。ディマスイッチをハイビームに切り替えると、レンズ下側のハイビームも光る。上下には1mくらい先からかなり遠くの青看まで照らすが左右には広がらない。そしてコーナリングの先を照らさないのも相変わらずなので、更なる研究を期待したい。

 右押しのホーンスイッチはウインカースイッチの上にあるので、予め親指を浮かせて構えていないと鳴らせないだろう。毎度の指摘で恐縮だが、ホーンスイッチは鳴らしたくない時に押せなければ意味がない。同じように思うなら、業界のリーダーとして国際規格を変えてやるくらいの気概を見せて欲しい。

 細かい点ではJA44では左右どちらにハンドルを切ってもハンドルロックできたが、JA48はハンドルを左に切らないとハンドルロックできないようになった。また、サイドスタンドを下げている状態でギアを入れるとエンジンが停止してしまう。一般的なスクーターに近づいている。

 

 収納力は絶望的。右サイドカバーオープナーを押すと右サイドカバーがすう〜っと開く。鍵やドライバーを挿さなくてもカバーが開くのはカブとしては実に新鮮だが、登場する収納空間は高さ5cm幅12〜18cm深さ3cmしかない。このカバーの大きさからカッパの一組くらい入るのかと期待したが、中身はあまりに狭く車載工具か書類がやっとではないか。余計なギミックを省いたJA44のサイドカバーの方がいい。

 積載性も低い。今のところフロントキャリアのオプション設定はない。仮に社外品が出たとしてもJA44よりヘッドライトが低い位置にあるため高さが稼げない。唯一の頼りであるリアキャリアは小さすぎる。荷掛フックも4つしかなく、しかも玉付きフックでないので紐の類は滑る心配があるし、かといってメッキ塗装じゃないから金属製・プラスチック製のフックだとキャリアに傷がつく恐れがある。しかもJA42〜45との互換性もないので、キャリアの車種流用もできない。これだからビジュアル系は困る。

 タンデムシートのオプション設定があるが、ここでもC100に似た平板で狭いもので、居住性はあまり期待できたものではない。

 デザイン的にはハンドルを切った際のレッグシールドとフロントフォークカバーの隙間の大きさにげんなりしてしまう。キャリアの水平面がわずかに傾いていたり、スイッチASSYとハンドルカバーの噛み合わせ(チリ)が左右で異なっていたりと、細かく見ていくと上質さは上っ面だけなのかなと思えてくる。

 走りは歴代最高の“スーパーカブ”であることは認めるが、総支払額40万円コースにしては詰めが甘い。ABSも付いていないし、標準タイヤタンク容量もイマイチで荷物も積めない。そのくせ必ずしも皆が必要としていないスマートキー盗難抑止アラームなどを過剰装備して価格を正当化しようとしている。『目的地は、新しい自分』と謳うように、従来のカブユーザーよりも新規の顧客を開拓したいようだ。個人的には“積めないカブ”に用はないので、モトラ125を妄想し続けることにしよう。

(※)9月の台風でまたもや路面が崩壊し、更に迂回距離が増えることに。

2018.10.15 記述

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