ホンダ・CT125
ハンターカブ

歴代カブと比較して
 長所:1制動力 2ハンドリング 3居住性 4航続距離 5押し掛け
 短所:1価格 2メットホルダー

 今回試乗したのは2020年6月に発売された慣らし運転直後のCT125AL(以下JA55という)である。1977年頃に海外で販売されていた縦型エンジンのファーマーズバイク:CT125とは別物なので、今回はハンターカブというサブネームが付されている。以下、比較するバイクを型式を使って略称する。スーパーカブ90=HA02、スーパーカブ110標準仕様現行=JA44、同先代=JA10、同先々代=JA07、クロスカブ110現行=JA45、クロスカブ先代=JA10XD、スーパーカブC125=JA48

 まずは装備から。

 スーパーカブ110PROJA45で装備していたフロントブレーキロック機構はJA55に付いていない。油圧ディスクとは相性の悪い機構なのだろうか?右側サイドスタンドも取付不可となっている。エンジン始動時にギアが入っている状態でサイドスタンドを卸すとエンジンが自動停止する。ハンドルロックも左向きにしか効かない。あまりカブらしくない設計になっている。

 バックミラーモンキー125・JA48と同様のものだろうか。鏡面積の大きさ、淵付近の歪みの少なさで今回はJA44・JA45の方が見やすいと感じた。

 

 

 LEDヘッドライト。メインスイッチをONにすると円周上のポジションランプが点く。このポジションランプ自体は周囲をうっすらとしか照らさない。エンジンを始動すると上半分のロービームが点灯する。上下方向に3〜15m程度を照らし、左右方向はライト本体から90度程度、ライダーの視線からは60度程度の範囲を照らす。寝かせた樽のような形状の照射範囲である。ハイビームに切り替えると下半分も点灯し、上方向は100m先の青看も照らすし、下方向はバイク本体の真下をも照らすが、左右の照射範囲は広がらない。樽のなかの照射力とハイビーム時の照射距離JA44以上に見えるが、照射の均一性ではJA44に及ばない感じだった。ハンドルマウントにもかかわらずクリッピングポイントもほとんど照らさない。おそらくモンキー125と同じライトだと思う。JA55は夜間や林道での走行が見込まれるので、もっと見やすくなるように研究して欲しい。上下配置が逆転してしまった左集中スイッチと共に最も改善して欲しい部分である。

 メーターモンキー125をベースにしているようだ。かわいい演出こそないものの、情報量は同じである。デジタルの速度計距離計はODOと2つのトリップ、そして燃料計である。JA48のように時計シフトポジションインジゲーターは装備していない。燃料計のセグメントは6つあり、満タンから70〜80kmほど走行して6つのセグメントが5つに減る。それ以降は走り方にもよるが平均して30〜40km毎にセグメントが減って行き、最後のセグメントが点滅すると燃料は約1.1L残っていると記載があった。なかなか規則的なセグメントだし航続距離(60km×5.3L=318km)も伸びたので安心して遠出できるだろう。

 積載性。リアキャリアの実寸は横幅408mm、長さ456mm。広くて平らで取り回しハンドルとしても重宝するが、フックはわずか4箇所しかない。JA42・JA43のリアキャリアに比べて剛性が低そうだし、メッキ塗装じゃないので塗装剥がれが心配だ。

 収納力。リアキャリア左下に唯一の収納箇所として書類入れ(というより工具箱)が用意されていて、ここにメットホルダーワイヤーも収納されている。書類入れを開けるためにはシート下にセットされた6角レンチが必要になる。つまりヘルメットホルダーを使用する際は、メインスイッチから抜いたキーをシートロックに差し込んでシートを開けて6角レンチを取り出して、6角レンチ書類入れを開けてメットホルダーワイヤーを取り出して、ヘルメットのDリングにメットホルダーワイヤーを通してからメットホルダーに引っ掛けて、書類入れを閉めてから6角レンチを収納し、シートを閉じてキーを抜き取る、というお役所の書類業務のような手順を踏まなければならない。開ける為の工具を取り出す為に、その工具が先に必要となるJA42〜45の間抜け仕様に比べれば考えた設計だが、こんなに面倒なら二度と使わないという人も多いと思う。メットホルダーといっても針金を曲げて溶接しただけのようなもので、剥き出しのヘルメットホルダーワイヤーとの接触ですぐに塗装を剥がしてしまうだろう。ヒンジ付近に直接Dリングを引っ掛ける為にシート形状やタンク容量が犠牲になるよりマシだったと思うべきか。

 着座姿勢は良好。ハンターもクロスもワイド&アップなハンドルで基本的に標準系よりゆったりとしていて着座姿勢も居住性も良い。
 JA55に乗ってからJA44に乗るとステップとシートの高低差が小さくて、膝の折り畳みがキツイし、ハンドル幅も狭くて低いのに開いている。まるで自転車のサドル前のフレーム部分で体育座りをしているかのようだ。しばらく乗っているとそれにも慣れてしまうのだが、たまにJA44に乗るとびっくりする着座姿勢だ。
 JA48はさほど膝の折り畳みはきつくないし、ハンドルも少々絞り込まれたが、ハンドルの幅は同様に狭いし、ハンドルの高さは更に低くてシートも軽く前傾していてちょっと惨めな着座姿勢になる。オンロードではフロント荷重が増えていい面もあるのだが、JA55と比べてしまうとカブらしさを引きずっている。
 JA45はハンドルの高さはJA55よりやや低いもののJA44よりハンドル幅もあってJA44より操縦しやすくなっている。膝の折り畳みはJA44ほどキツくないが、JA55に比べればシートからステップまでの高さは短いと感じる。
 いずれにせよ私の体格で窮屈さを微塵も感じないのはJA55だけであり、歴代カブで最高の居住性だと思う。順位を付けるなら、
JA55>JA10XD≧JA45>JA48>JA07>JA44=JA10>HA02

 足着き性は全体的にJA45にやや負けるものの、想像していたより良かった。肩幅開脚時・股下77cmの私が、底の薄い長靴を履いて、特に前寄りに座らなくてもステップの真後ろに足を垂らすと両足ともベッタリ接地できる。この位置であればJA45よりステップの当たりが不快ではない。シート下で燃料タンク容量を増やしたり、サイドはマフラーを上げたり、吸気通路を設けたりで最低地上高165mmを確保しながらJA45と同等レベルの足着きを実現するのは大変だったと思う。順位を付けるなら、
リトルカブ・PRO>>HA02・JA07・JA10・JA44・JA48>JA45≧JA55>JA10XD

 シートは期待したほどではなかった。最大幅26cm、長さ33cmで直座直後のケツ当たりはJA48より硬く、JA10XDより柔らかい。短時間走行での座り心地JA48よりケツが痛みやすく長時間走行でのケツ持ちはJA10XDに負けるが、2時間くらいなら余裕で、スタンディングや小休憩すれば更にケツ持ちが良くなる。足着き性座り心地を両立するシートを作るのはかなり難しかったのだろう。足着き性座り心地は特に体格に左右されやすい点である。ちなみに私は筋肉も脂もけっこう充実した高ケツ圧である。JA55のシートは個人差を考慮しても歴代カブで3本の指に入ると思うが、車両コンセプトや値段を鑑みるとブッチギリのトップであって欲しかった。乗車時間で座り心地の順位付けるなら、
短時間: JA45>JA48>JA44>JA55≧JA10XD>JA10>(※)>JA07>HA02
長時間: JA10XD>(※)>JA55≧JA48>JA45>JA44>JA10>JA07>HA02
記憶が定かではないが、CT110のシートは(※)あたりに入ると思う。

 スタンディング(立ち乗り)で足に当たるのは右側のマフラーよりも左側の吸気通路の設定に伴って膨らんだボディカバーだった。スタンディング時のハンドルがJA45よりも高くなって立ち乗り姿勢はラクになった。セグウェイのようにずっと立ち乗りできそうだ。

 ピリオンステップの長さは左右対称でない。右側ステップを大きく右に寄せたのは、同乗者の足をマフラーの熱から守るためと思われる。同乗者を適切な乗車姿勢で座らせるために左側ステップも大きく左に寄せなかったのはなぜか?オフロード走行時のトラクションコントロール代わりにピリオンステップを活用する人もいるだろうに。おそらく左側をすり抜ける際に同乗者の足がガードレール等に接触することを恐れたのだろう。ごく短い時間だけ後席(リアキャリア)に座ってみた印象では左右非対称なステップは特に気にならなかった。タンデムツーリストは同乗者を連れて確認することをお勧めしたい。

  

 加速性能。85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にすると、GPSは、100mで42km/h、200mで59km/h、300mで68km/h、400mで73km/h、500mで77km/h、600mで78km/h、700mで79km/h、800mで81km/h、900mで82km/h、1,000mで83km/h、1,100mで84 km/h、1,200〜1,500mで85km/h、1,600〜1,900mで86km/h、2,000mで平地最高速約87km/hを示した。このときJA55のメーターは95km/hを表示していたので、速度計の誤差は(95-86.8)÷86.8=+9.4%になるだろうか。
 ちなみにほんの少しでも勾配が緩くなるとメーターは3桁を表示する。メーターが103km/hを表示するのはGPSが93.9〜94.4km/hを表示するときだったので、速度計の誤差は+9.11〜+9.69%で平均するとやはり+9.4%程度になりそうだ。

 メーターパネルをGPS内蔵アクションカムで撮影し、GPS測定値をオーバーレイさせて速度計の誤差を見ているが、測定値そのものは別として、同期のタイミングがどうも信じきれない。バイクが動き出す(僅かに)前からGPSの速度計が動き出し、進行距離の切り替わりがGPSの方が早いのはいつもの事だが、今回JA55で測定してみて、距離がどんどん開いていく現象に遭遇した。GPSの2,000m地点での86.8km/hが、JA55では1,800m地点での95km/hと表示されたのだ。

 尚、(臨時)比較対象区間297.4kmを走行したところJA55のトリップメーターは305.1kmと表示したので、距離計の誤差は+2.6%と推定する。発進加速ではマイナスなる距離が、長い距離ではプラスに出る理由が分からない。この区間の平均燃費57.7km/Lになった。比較対象区間とは別ルートをツーリングしたら62.8km/Lになった。体重の軽い人がまったり走れば70km/Lに届くだろう。

  

 JA44(青)、JA45(緑)、JA48(灰)、JA55(赤)の発進加速を比較したグラフを作ってみた。縦軸は速度、横軸は発進してからの経過秒数にしたものと、発進してからの到達距離にしたものである。発進してからの秒数は、バイクが動き出すタイミングに合うように1〜2秒ほど後ろにズラしている。結果はどちらもそっくりなグラフになった。排気量やスペックの違いこそあるものの、横型エンジンということでどれも似たようなカーブを描いている。

 このグラフを見てJA55は125ccなのに加速も最高速も大したことがない、と嘆かないで欲しい。JA55は1速での発進がかなり力強い。車重を疑うほどに出足が軽快なのだ。JA55に乗り慣れるとJA48ですらモッサリしているし、JA44に至ってはマフラーに何か詰まってるんじゃないかと思うほど遅く感じてしまう。JA55はスロットルグリップちょい回しのレスポンスが鋭くて、スロットルをほとんど回さなくても市街地を流す程度の走りはできてしまう。JA44JA45に乗ってからJA55に乗ると排気量は1.5倍くらいあるのではないかとはじめは錯覚してしまう。その代わりJA55はアクセル全開にしてもあまり速くなく、同一負荷・同一箇所・同一方向・異なる日の測定ではJA45の方が伸びなかったものの、最高速はおそらくJA45にも負けると思う。JA55のスイートスポットは低中速、ハーフスロットル以下。グラフの見た目にあまり差が出ないのはアクセル全開の状態だから。そして発進してからの到達距離を100m単位にしているからである。100mまでをもっと正確に測定できるなら、発進直後に赤い曲線がひときわ盛り上がるはずである。

 JA48とスペックを見比べてみると、後輪までの減速比も大きくなりエンジンの出力特性も低中速寄りに変更されている。円周率を3.14で計算した理論上の最高速が、JA48が101.9km/hになるのに対しJA55は88.1km/hとなる。JA55は実際もそれに近い平地最高速が出ている。

 トルク特性を低中速寄りに変えたのは踏破性を高めるためだと思う。JA55CT110(輸出仕様)と異なりローレンジに切り替えることができないので、単一のレンジで駆動力を高めるしかないからだ。低中速に寄せた影響は2つある。ひとつは最高速が伸びないこと。もうひとつは回転合わせがやり辛くなったことにある。
 トルクカーブの山が大きい=スロットルをちょっと回すと力が盛り上がるということは、その位置でスロットルをちょっと戻すと減速する力も大きいということである。エンジンブレーキが強く出て、シフトダウン時のエンジン回転を合わせるのがJA44・45・48より少し難しくなった。3段変速のHA02の感覚に近い。シフトチェンジをしなくても各段でトルクの山が来るところではJA44・45・48よりギクシャクしやすい。4速では最も使用頻度が高いであろう50〜60km/h付近にちょうどトルクの山が来てしまうので、最高速の伸び・トルクの山、いずれの面でも舗装路を走るともう1段上のギアが欲しくなる。バイパスなど走ろうものなら、ついつい幻の5速にシフトアップしてしまう。このギクシャクは丁寧なスロットルワークで消せるものだし、乗っていればいずれ慣れるだろうが、トルクの強さよりもスムーズさを優先するならJA44・45・48の方がいい。制動力も加味すると初心者に最も乗りやすいのはJA48だと思う。バイパス通行が多い人、林道に足を踏み入れる予定がない人にもJA48をお勧めしたい。

 1速が力強いJA55でも、さすがに2速発進はモッサリしている。JA44JA48よりマシではあるものの、基本は1速発進を使い、2速発進は滑りやすい路面などで使いたい。

 カブ一般でスプロケを変えたいという話をよく聞くが、制動力の弱さ、そしてせっかくの登坂力の強さからカブ110では個人的にお勧めできなかった。JA55はブレーキがちゃんと効くのでスプロケを高速寄りに変えても安全上問題はないと思う。逆に1速はウルトラローにして、舗装路は2速でも余裕で発進できるよう低速寄りにスプロケを変更したくなる人もいるかも知れない。その際、幹線道路で快適に巡航することはもはや諦めなければならないだろう。

 ホンダは今後ローレンジ機構を搭載してくれるだろうか? ないだろうなぁ
 CT110(輸出仕様)は4段変速全体を約2倍の駆動力に向上させるローレンジを装備していたが、変速パターンが他のカブと異なっていて、カカト踏み込み(つま先掬い上げ)でN→1→2→3→4とシフトアップするが、走行時はもちろんのこと停止時にも4速からニュートラルにシフトアップすることができなかった。つま先踏み込みで4→3→2→1と1段ずつ落とさないと再度1速からの発進ができなかった。クラッチレバーもないので走行中の飛び越し変速もできず、いざという時は頼りになるものの、日常的には他のカブより使い勝手で劣っていた。
 また、ローレンジ機構は走行中の高低切り替えはできないので4×2で8段変速になるわけではない。あくまで4段変速の全体が高低移動するだけで、ハイレンジの低速寄りとローレンジの高速寄りのギア比はほぼ重複している。だから、ローレンジを装備することなく、オフロードでもっと低速寄りのギアが欲しく、なおかつ、オンロードでもっと高速寄りのギアが欲しいなら、いよいよ5〜6段変速のエンジンに期待した方がいいのだろうか?

 キャンプブーム、災害増加にあやかってJA55以外にもう1台、オフロードに振ったバイクがあってもいいと思う。かつてのCT110シルクロードのコンビのような。個人的な希望。エンジンは横型でも縦型でもOK。但し、停止中にトップからニュートラルへシフトアップできるカブ系の特技は継いで欲しい。思い出すのはCD125T。こいつはクラッチレバーとシーソーペダルで走行中にも停止中にもトップからニュートラルへシフトアップできる便利な奴だった。車体は生粋のゲロアタック用オフロードバイクではなくて、踏破性足着き性を両立したファーマーズバイクのような形状がいい。ニーグリップによる高い操縦安定性と大型燃料タンクによる航続距離の延長、大型リアキャリアによる積載性、、、重くなってしまうだろうから4stなら125ccでは足りないかもしれない。

 エンジンの静粛性JA45JA44がダントツに静かで、HA02がダントツに騒々しい。JA44で70km/h出したときの騒音がHA02で45km/h出したときの騒音に近い。あとの優劣は音質の違いもあって良く分からなかった。JA48JA55を比べると、基本的には排気口が顔に近い位置にあるJA55の方が騒々しいが、レッグシールドが反射板となってヘルメット内に騒音が侵入してくるときはJA48の方が騒々しく感じた。

 始動性はかなり良い。セルスターターでの始動もキックスターターでも一発で始動する。JA44(もしかするとJA42〜45全て?)はその日初めてキックで始動させる際、何回もキックを要することがあるが、JA55JA07のように一発で始動する。そして押し掛けJA07JA44よりも明らかに楽チンでJA55の隠れた特技だ。JA07JA44などはニュートラルから4速に入れて始動させる際、助走を付けないと止まってしまうが、JA55はニュートラル状態の車体を押した瞬間に4速に入れて、軽々とエンジンが始動するのだ。取り回して感じたのは平地であれば車重のハンディを感じないばかりか、むしろJA55の方が扱いやすい。ハンドルやリアキャリアが高い位置にあり中腰にならないで済む。前輪をスタックさせたときは流石に重さを感じたが、アンダーガードパイプのおかげで楽に持ち上げることができた。

 シフトフィーリング。プラカブどうしでも皆シフトフィーリングが異なるのが面白い。JA07・JA10・JA10XD・JA44・JA45は、変速するまでに必要な踏み込み“量”=ペダルストロークが短い。そして変速するまでに必要な踏み込み“力”も(上手く変速できた場合は)少ない。要は感触が弱い。良く言えばソフトなのである。
 JA07・JA10・JA10XDはシフトそのものが成功しない事が頻発するので、フィーリングがどうこう言う以前の問題である。改善したはずのJA44はヌチャ・ヌチャと更に軽い力でシフトチェンジするようになったが、極稀にがっちりハマってしまって通常の力ではシフトできなくなるときがある。このときの固さはJA07・JA10・JA10XD以上で、フロントブレーキと共に改善しない限りJA44に付けた準欠陥車のレッテルを外すつもりはない。
 JA48はペダルストロークが増えた。またステップからカカト側ペダルまでが遠く高くなった。ステップに置く足を少しずらさないとペダル前後間移動がやりにくいかもしれない。内部構造に変更が加えられたのだろうか?踏み応えも少し変わり、カーチャ・カーチャとソフトながらも変速は確実になり、シフトポジションインジゲーターも国内向けカブで唯一標準装備している。シフトフィーリングはJA48が歴代カブで最もいいと思う。
 JA55は排気量こそ同じだがJA48とは感触が異なる。カッッチャー・カッッチャーという音で、踏み込みは量・力共に平均的である。シフトの確実性はJA48に負けるものの、踏み応えでシフトの成否が分かりやすい。カッッチャーのチャーが長いときは成功していないことが多い。かつて試乗したWAVE125iに最も感触が似ている。シフトペダルはJA48と反対につま先側が遠くなり、ゴムラバーが巻かれている。つま先を掬い上げ(かき上げ)でシフトダウンする人にも対応させたものだろう。
 ちなみにHA02の変速はガッチャン、ガッチャンと最も強い踏み込み“力”が必要であるが、変速そのものが失敗したことなど一度もない。その機械精度の高さは国宝級いや世界遺産級である。
 以上を踏まえて順位付けすると以下の通りになる。くどいようだが、あくまで変速が成功した場合のシフトフィーリングである。JA55 HA02を低めに置いたのは回転合わせに比較的神経を使うからだ。
シフトの確実性:HA02>JA48>JA55>JA44=JA45>以下はカブとして失格→JA10・JA10XD・JA07
シフトフィーリング:JA48>JA44・JA45>JA55>JA10・JA10XD・JA07>HA02

 

 運動性能。ワイド&アップなハンドルは操舵安定性が高まる。着座位置の高さは倒し込みの素早さを、ステップの高さはバンク角の増加をもたらす。つまり、同世代で比較すれば基本的にハンター・クロス系の方が標準系より運動性能が高いことになる。JA48の場合はハンドルの低さと前傾気味のシートがフロント荷重に有利に働くので、一概にJA55有利とまでは言わないが、タイヤさえ変えてしまえばオフ系の外観をしたカブの方がオンロードでも走りやすいのが事実。JA10XDJA45ではステップが可倒式になり、JA55では更にリターンスプリングが仕込まれ、バンクセンサーまで取り付けられた。やる気満々じゃん。JA48と同じくシート開閉にロック機構が加わって荷重移動で吸盤がズレてシートが動いてしまうことも無くなった。そしてなんと言っても前後ディスクブレーキによる速度管理のしやすさと精神的疲労の軽減!運動性能を順位付けるなら、
JA55>JA48>JA45>JA10XD>HA02>JA44=JA10>JA07

 運動性能で気になる点は、JA48と比べるとJA55高速域で路面のうねりを拾って車体全体のヨレを感じることがある。JA55がリムスポークホイール、チューブタイヤ、ストロークが長めなサスペンションなどで構成しているからだろう。やはりオンロードの高速域JA48に任せた方が良さそうだ。
 しかし峠道を走らせるとJA55は歴代カブ最強になる素養を持っている。上記したハンター・クロス系の特長に加え、低中速トルクの強さが更なる登坂力をもたらした。JA44が2速まで落とさないと再加速が辛い登坂でもJA55なら3速のままグイグイ昇っていける。登りも下りも3速ホールドでズボラに走ってもけっこう楽しい。

 プラカブは通常のスラロームであればスポーツバイクのようにしなやかな動きをするが、直進中にわざとハンドルを左右に振ってみると多少の優劣があるものの、JA55を除き、全て危険な挙動を示す、JA48でさえも。JA55だけは良く出来たスポーツバイクのように、左右の暴れに贖うハンドリングが備わっている。何が良かったのだろうか?ハンドル形状、着座位置もさることながら、重さが密かに効いているのではなかろうか?このハンドリングは緊急回避の時に差が出る。よっぽどオフロードで腕を磨いている人でないと緊急回避など出来ないかもしれないけど、バイクは制動(ブレーキ)・牽制(ホーン)・回避(運動性能)でしか安全を担保できないのだから、ハンドリングは良ければ良いに越したことは無い。

 ハンドリングの良いJA55だが、操舵安定性はスポーツバイクに及ばず、路面感受性はオフロードバイクに及ばない。JA55のハンドルは結構軽くて停止寸前で若干ふらつきやすい。この点は平均的なオンロードスポーツバイクに劣っている。また、フロントフォークをトップブリッジまで上げたにもかかわらず、トップブリッジからハンドルグリップまでの高低差が大きく、路面からの情報が少々ボケている。この点は平均的なオフロードバイクに劣っている。ハンドルブレースを取り付ければ若干向上するだろうが、トップブリッジをオフ車のようにもっと高い位置に設ければ尚良かったのではないか。

 

 制動力。フロントディスクを挟むピストンは2つに増えたし、リアにもディスクブレーキを装備した。前後ともきちんと効くし、コントロールしやすい。言うまでもなく歴代カブ最高のブレーキである。私が試乗したGROMモンキー125のリアディスクはイマイチだったが、JA55では改善してきたようだ。順位付けは以下の通り。JA07HA02はフロントドラム径が大きくて制動力が強かった。JA10以降はフロントドラム径が小さくなったが、クロス系はリアドラム径が大きいので状況によっては標準系より有利になるかもしれない。
JA55>JA48>JA07=HA02>JA45=JA10XD≧JA44=JA10

 フロントディスクに作用するABSPCX(EF01)やADV150(KF38)で体験したものより良かった。路面状況やブレーキレバーを握り続ける力の大きさによってABSの作動タイミングやキックバックの強弱が随時異なるので、かなり緻密に制御しているのではないかと思う。ABSは基本的に舗装路向けの装備だと思うが、苦手な路面である砂利道でわざと急制動させた場合、EF01KF38では体感10〜20cmくらい前輪が滑ってからABSが作動=ブレーキ解除されるので、手遅れ感が半端なかった。JA55だと体感5cmくらいで作動してくれるからブレーキレバーを握り続けていても平気な場合も多い。一度のブレーキで制動解除〜キックバック〜制動復帰という一連の動作を3回も繰り返す場面も体験できた。今まで滑りそうな路面に入ったらフロントブレーキレバーは一切触らない、という認識でいたが、オフロードではリアブレーキだけでは止まり切れず前輪をスタックさせて止まるしかない状況もあるわけで、作動が早くなった(と思う)ABSのおかげで今後は砂利道でもフロントブレーキレバーも併用するという選択肢ができたことは大きい。

 乾燥した舗装路面での短制動ならABSの作動を待たずしてフロントサスがじっくりと受け止めてくれる事が多い。その具合はスポーツバイクとオフロードバイクの中間的な柔らかさ。リアブレーキペダルだけを強く踏むとわずかなスリップ音を伴って後輪が滑り出し、後輪は右にも左にも流れる事はある。しかし効き出してから加減がしやすいのがディスクブレーキの長所である。

 標準タイヤはJA45と同じIRC:GP-5(D)(タイ製造)という銘柄だった。性能的には舗装路9:非舗装路1という感じで、SUV系のファッションタイヤと言って差し支えないタイヤだが、どこまで行けるだろうか試してみた。路面ごとに感じたことを以下に。

泥道
 JA10XDよりグリップが効くタイヤだが、JA55でも滑りまくるのは同じ。他のカブとの差はあまり出ない路面だったが、泥道と砂利道はADV150に対して大きなアドバンテージを実感した。ADV150の見た目は格好いいが、やっぱりただのスクーターで、立っても座ってもステップ荷重がしにくいし、テールスライドしたときに重心もいっしょにズレてしまう。これは重心が低くて後ろに寄っているスクーターならではの挙動だ。クルマでもRR車を雪道で滑らせてしまうと立て直すのが難しいのに似ている。ADV150の125cc版を望む声をよく耳にするが、お勧めしない理由のひとつに、後輪が滑り出したときに後輪の駆動力を抜くか更に高めるかでしか立て直す方法がなく、今よりパワーが無くなると行動が制約されるからである。現状、オフロードに持ち出したときADV150JA55より有利な点はパワーだけだと思う。だからADV150はそのままの大きさでむしろエンジンを大きくしてくれた方が魅力的かと。

砂利道・ガレ場
 只の砂利道なら楽勝だが、傾斜が加わると滑落の危険が増す。JA55は前後ディスクブレーキで微妙なコントロールが出来るから下りでもタイヤのグリップをギリギリまで使うことが出来るので、JA45よりかなり操縦しやすかった。

 砂利が大きくなって岩(ガレ場)になると前後共に車輪が弾かれることが多くなる。以前JA10XDで走行したときは弾かれまくって怖かった。JA45はタイヤが変わって少しマシになったものの、首根っこの弱さは相変わらずだった。前輪が岩場に嵌ったときにハンドルを強引に切ると、自転車で転んだときのようにハンドルだけアッチ向いてホイ!となりそうな頼りなさを感じていた。エンジンガードの有無よりも最低地上高の8mm差よりもトップブリッジまでフロントフォークが伸びているか否かが、ステアリング剛性路面感受性に差が出ていた。JA10XDJA45では前輪ですらどう乗せようか考えてしまう。
 フロントサスがしなやかでトルクの強いJA55は、前輪を乗っけるところまではオフ車に近いことが出来てCT110を上回る事もあるのだが、後輪も乗っけるとなると一苦労する。 CT110は軽さとローレンジの駆動力があるので、前輪が乗るなら後輪も必ず乗せられる自信がある。 オフ車はリアサスもしなやかなので、前輪と後輪を分け隔てることなく、一連の動きで乗せていくイメージが出来る。

急勾配
 GPSによれば傾斜角度27度の急勾配(インコーナーは更にキツイ)。ローレンジに切り替えられるCT110ならタイヤが滑らない限り楽勝の場所。エンジンそのものの登坂力はJA55がカブ最強であることは確認できた。登坂途中に路面が広く苔に覆われている所があった。JA55は前輪のグリップを完全に失ってしまったので進行を断念。転回しようと横向きに切り返したときに後輪のグリップも失いかけたので一時降車。このとき体感したのは、ABSは後退中に作動しなかったこと、足着きベッタリでないオフロード車だったらこの傾斜角度の横向き状態で降車できなかったかも知れない。アンダーボーンフレーム車の乗降性に助けられた。実はJA44で再チャレンジしたらエンジンはひぃひぃ言っていたけど一度も降車することなく車輪も滑らせることもなく最後まで登り切って下ることもできたのは内緒の話。差が出たのは重さ、登坂時の重心足着き性ではなかろうか?

杉絨毯
 杉の枯れた枝葉がびっしり足元を覆っている路面。路面よいうより山腹。湿っていて柔らかくて歩くだけでも足がズボズボ沈んでいく。名付けて、すぎじゅうたん。枝葉が後輪に巻き付いてくるし、車輪はズボズボ沈んで、腹が接地しやすい。ここで感じたのは、サイドスタンドの接地面積を増やして欲しいのと、右側にもサイドスタンドを設ける必要性を感じた。今回JA55が最も前進が困難だった場所。かつてCT110で来たときも困難だったので、オフ車でも難しいかもしれない。タイヤに太さがないと沈んでいくので、いよいよロコン・レンジャー(注1)やATVの出番か?

 これまで取り上げたオフ系の原付二種のなかでJA55は最もオンロードを快適に走れるバイクだが、オフロードに入れば基本的に以下の優劣になった。
オフ車>CT110>JA55>JA45>JA10XD>カブその他>ADV150・その他スクーター。
 タイヤの外径が大きいほど、最低地上高が高いほど、車体が軽いほど、トルクが強いほど、踏破性は高く、転倒する直前まではニーグリップできるバイクの方が操縦しやすい。ニーグリップできないとケツ圧・ステップ荷重とハンドル操舵でしかコントロールできないので反応が少し遅れてしまう。但しカブはエンジン搭載位置=重心が低いので、ライダーがバランスを崩しても車体は意外と肚が座っている。CT110JA55の優劣は軽さとローレンジの有無で決まる。JA45JA10XDの優劣は標準装着するタイヤの違いくらい。
 やはり餅は餅屋である。結論としてはJA55はカブ以上オフ車未満。型式のとおり、JD55(注2)ではなくJA55なんだと納得した。それでも林道ツーリングに行きたいと思った初めてのプラカブである。

 JA55は素人の私が試乗した限り不具合らしきものは見つからなかった。冷間始動直後にバックファイヤーを起こすことがあるのはご愛敬(笑)。買い物や通勤・通学など日常的な使い勝手を犠牲にすることなくオフロード入門もできる。この汎用性の高さは125ccという枠を外しても現時点で無敵のバイクではなかろうか?

 とベタ褒めしておきながら、当サイトのコミューター・オブ・ザ・イヤー2020に選ばないのは、JA55には致命的な欠点・欠陥がなくとも、革新的な要素がないからである。そしてお値段が凄い。本体だけでも高額なのに自分好みの装備に替えていったら、いくらするのだろう? そこで、取り外す予定の部品をはじめから買わないで済むようなエコなシュミレーションシステムをメーカー・サードパーティ・ディーラーと協力して構築したらどうだろう?
 その選択装備のひとつに是非、ホーンスイッチを下に戻した左集中スイッチと、積載性を大幅に向上させるフロントキャリア新設セットを加えて欲しい。
 それぐらいやってくれれば本体そのものに革新的要素が無くても購入方法に革新的な進化をもたらした(自動車の購入方法を上手く真似た)としてCOTYに推挙したいと思う。
 せっかくホンダドリームという見た目ご立派なディーラーを推進しているのだから、納期わかりません!値引き渋いです!無料の申告手続きに代行業者を使います!純正指定部品以外の取付け加工は一切やりません!ではいったい誰の為のディーラーなのか?「専売拠点を設けなければ今後は小型二輪を卸しませんよ」というやり方も独占禁止法でいうところの取引拒絶、排他条件付取引、拘束条件付取引などに引っ掛かりそうなものだが?
ぼくたちのほんださんがどんどんとおいそんざいになっていく。

(注1) ロコン・レンジャー https://www.rokon.com/bikes/ranger
(注2) ホンダ型式の法則。はじめのアルファベットは原動機や車輪数で分類。Jは90cc超125cc未満。次のアルファベットはジャンルで分類。Aはビジネス系でDはオフロード系。アルファベットに続く数字はおおよその登場順序。

2020.7.31 記述

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