ホンダ
ジャイロキャノピー
(2st)

 ジャイロXを基準にした
 長所:1防雨効果 2積載性 3直進安定性 4乗り心地
 短所:1価格 2機動性 3着座姿勢 4燃費

 

 国産バイクで唯一、屋根とワイパーが標準で付いたジャイロキャノピー。雨天時の短距離移動に重宝するので、業務用途だけでなくバイク通勤者の憧れでもある。今回は冬をまたぐ半年以上に渡る試乗に基づいてインプレする。

 座席はシート表皮のグリップが弱いのと座面がわずかに前傾しているので、走行中に少しずつケツが前にずれてくる。それを足で踏ん張らなくてはならないのだが、足付き性を考慮した低めのシート高と旋回性を考慮した高めのフロアのため、着座姿勢はあまり良くない。足はコンパクトに折り曲げるか、前に投げ出すか、ガニマタにするかの選択となる。せめて背筋を伸ばして良い姿勢を保ちたいところだが、屋根を支えている柱が垂直なため、奥深く腰掛けると制動時に車体がわずかに前傾しただけでもヘルメットが支柱にぶつかる。

 騒音もキャビン内にこもりやすく、1時間も走行しないうちに疲れてくる。ただし、ロングホイールベースのためピッチングは少なく、サスペンションの動きもゆったりとしていて乗り心地自体はなかなか良い。ホンダ・フュージョンに似た印象すら受ける。

 最高速平地で55km/hだが大抵はそこまで伸びないうちに次の信号に引っ掛かる。ハーフスロットルでも40km/hまで伸びるし、それ以上は騒々しくなるので、せいぜい45 km/hに留めたほうがいいだろう。安心して急制動できるのもそれ位までである。下り坂では60km/hまで伸びるがエンジン音がヤバ過ぎる。登り坂では坂の勾配が強くなるに従って速度の伸びも急激に落ちてくる。緩い坂では4stスクーター並みの45km/hぐらいまで伸びるが、急勾配では最高速10km/hとなることもある。坂道発進もダルイので、登りの手前で十分に加速しておきたい。

 燃費は、峠越えを含む長距離を40km/h前後で走行したところ33km/Lだった。45km/hまでしか出さない、すりぬけ多用の市街地走行では20〜23km/Lだった。他のサイトによれば業務使用では15km/L程度しか走らないという。7.3Lタンクなので航続距離は走り方によって100〜200kmと大きく変わる。

 旧型ジャイロX、ジャイロUP、ジャイロキャノピーの3台に乗ったが、旋回性直進安定性のバランスはキャノピーが一番いい、、というより、キャノピーが一番バイクに近い動きをする。43cmのトレッドに対してホイールベースは141cmと長く、前輪もシリーズ唯一12インチを採用している。屋根の分だけ高くなった重心で倒し込みもスムーズにいくし、後輪が2つとも駆動するので右旋回と左旋回に違和感がなく姿勢を回復させやすい。デファレンシャルの作動もUPより早い。余談だが、ワンタッチパーキングを掛けないで車体から手を離すと空車状態でも転倒してしまう。これもシリーズ唯一である。それだけバイクに近いと言えよう。

 ピザ屋のように過密駐輪する場合、隣接車と接触してしまう。片側に3ヶ所プロテクターが付いているが、ハンドルを切った状態ではミラーが一番出っ張るので、ミラーの先端にもプロテクターが欲しいと思った。

 ミラーはハンドルではなく、ボディに取り付けられているため旋回中にも後方視認がいい。取付位置も前方寄りで、クルマでいうところのフェンダーミラーのごとく視線移動が楽である。

 ヘッドライトは光量こそ18Wだが、照射力はカブより強い。左右2灯式で被視認性も悪くない。

 トランクスペースはとにかく広大だ。ヘルメットなら横に2個余裕で並ぶし、ネギやゴボウのように特別長いものでなければ日常的な買い物もこのトランクに十分収まる。フック付きのバンド・ゴムロープを支柱に巻けばトランク上も積載スペースに早変わりする。

 ウインドシールド面積が広く防寒防風効果は高い。しかし風が巻き込むのか冬季はやたらと背中が寒い。屋根もあるので体の前面は濡れないが、側面はガラ開きなので手足は濡れてしまう。小雨の短時間走行でなければカッパは必需品である。

 ワイパー作動はウインカースイッチと同じような左右スライド式のスイッチが右側にある。クルマでいうところの間欠モードはなく常時払拭式となっている。よほど雨が強くない限りワイパーが常時作動しているのは頻雑に感じる。押した時に1回だけワイパーが作動するボタンをワイパースイッチの上部に追加して欲しい。尚、ワイパーとウインカーはクルマと逆の位置にある。長い時間キャノピーに乗っているとクルマだかバイクだか分からなくなり、逆に操作してしまうこともある。

 雪上走行。ノーマルタイヤではやはり滑りやすい。比較的走りやすい新雪でも5cm程度が限界だ。シャーベット状の雪では平地、下り坂ならば轍を狙って走れば結構走ってくれるが、登り坂になると右に左にとテールスライドしてほとんど前進不能になった。仕方なくバイクから降り、車体を自分に傾けて、アクセル全開で自分側にテールスライドさせることでなんとか直進状態を作ってヨチヨチ登ることができた。降雪時は専用のスノータイヤ・スノーチェーン(社外品)も活用したい。

 片輪駆動の旧ジャイロXと異なるところは、旧Xはホイールスピンするだけで車体は前にも左右にも進まないが、キャノピーは左右にテールスライドする。そしてフロントが12インチのため踏破性もわずかに向上している。しかし車体が重いので、雪上での取り回しはとにかく大変である。

 凍結路面では見事に転倒してしまった。ほんのわずかしか車体をスイングしていなかったのだが、フロントタイヤが滑った瞬間、ばったりと倒れてしまった。プロテクターのおかげでミラーも割れず、車体にも軽いスリキズが付いただけだった。私自身も足で踏ん張る乗車姿勢のためにキャビンから投げ出されずに済んだ。

 スイング機構、そしてデファレンシャル低ミュー路走行には不利に働く。もし雪上・凍結路走行が多いならば、重心が低くトレッドの広いジャイロUPにタイヤチェーンを装着したものがいい。それでもダメなら初めてATV(公道仕様)を検討する価値がある。

 濡れずに・転ばず・早く運ぶ・という要求を満たすべく生まれたバイクだが全ての点で中途半端だ。そのくせ424,000円(ワゴンタイプ)という値段だけは一流である。個人売買での取引価格は新車同様でもせいぜい20万円である。

2003.7.6 記述

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