ベトナムホンダ・PCX

 長所:1快適性 2経済性 3走行性能 4航続距離 5コスパ
 短所:1標準タイヤ 2照射力 3リアスポイラー

 2014年、生産国をベトナムに移してPCXがフルモデルチェンジされた。今回試乗したのは国内仕様のPCX(WW125F、以下JF56という)とPCX150(WW150F、以下KF18という)である。特に断りのない限り両者に共通するコメントである。

 まずはJF56の燃費。
 アイドリングストップモードにして比較対象区間304.7kmをキビキビ走行したところ53.8km/Lになった。今回から装備された平均燃費計は55.0km/Lを示した。オドメーターが示した309.3kmとの距離計誤差を除去すると、満タン法で計算した燃費に対しての誤差は+0.7%となる。この平均燃費計は、トリップメーターをリセットしてからの累計走行距離から累計燃料噴射量を除した値を随時表示していると思われる。あまりに正確な平均燃費計なので驚いた。

 そしてKF18の燃費。
 アイドリングストップモードにして比較対象区間304.7kmをキビキビ走行したところ48.9km/Lになった。JF56の時より平均速度が高くて若干不利な条件だったと思うが、かなり健闘している。
 比較対象区間でオドメーターが示した309kmとの距離計誤差を考慮すると、アイドリングストップモードでの市街地燃費は40.2km/Lになった。スーパーカブ110(JA07)で同じ走行をしたところ48km/Lになった。カブより20%多くガスを食わせるだけでカブとは比較にならないほど快適なスクーターが手に入る時代が来た。 
 アイドリングモードにして単独乗車で高速道路を流れに合わせて走行したところ、平均燃費計は32.3km/Lを示した。流れに合わせると言っても14psしかないKF18ではアクセル常時ほぼ全開である。しかも約800mの標高差を一気に駆け登っている。高速走行で30km/Lを下回ることはまずないだろう。

 発進加速。 JF56に85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にするとメーター読みで、100mで46(63/55)km/h、200mで73(77/78)km/h、300mで85(87/90)km/h、400mで93(94/94)km/h、500mで99(97/98)km/h、600mで101 km/h、700mで103(100/100) km/h、800mで104km/h、900mで105km/h、1,300mで106(103/107)km/h、1,400mで107km/h、1,600mで平地最高速の108km/hを示した。JF56(JF28初期/JF28最終)という順番で3つの速度を並べてみたが、この数字を鵜呑みにするのなら、国内モデルの400mまでの到達速度はモデルチェンジごとに遅くなっていることになる。JF56ではリセットしたトリップメーターが0mから100mに変わるのが早い気がした。その場所でアクセルの空ぶかしは一切していないのだが。まあ、でも出足の一瞬は確かに大人しかった。

 KF18に85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にするとメーター読みで、100mで58km/h、200mで81km/h、300mで92km/h、400mで100km/h、500mで105km/h、600mで107 km/h、700mで109 km/h、800〜1,200mで110km/h、1,300mで111km/h、1,600mで平地最高速の112km/hを示した。ここで燃料カットのようなリミッター現象が発生し、下り坂においても112 km/hから先を見ることはなかった。速度計に+10%の誤差があるとするならば100 km/h丁度に抑制しているということになろうか。

 どちらも前半は大した発進加速じゃない。JF56は40〜60 km/h 付近で加速がもたつく先代のような不自然さはないものの、KF18に比べると80km/h以下では随分とパワーを絞り込まれているような感じがする。JF56KF18のどちらかで迷うなら、常用域の加速がだいぶラクになるKF18を推したい。

 JF56KF18に共通して気になることがある。アイドリングストップ状態からの発進においてスロットルを回してから再始動・再発進するまでの反応が初期のJF28より若干遅くなったような気がする。対向直進車より先に右折しようとアクセルを回しても一瞬のタイムラグがあるので注意したい。右折待ちの際はアイドリングモードに切り替えた方がいいかもしれない。
 再発進が半テンポ遅れるくせに、発進直後に回したスロットル量よりも大げさに飛び出す傾向がKF18にあった。慣れてしまうレベルだが、スラロームやジグザグすりぬけでスロットルワークに神経を使う瞬間もあった。
 それとJF56にだけ加速不良が発生した。20〜30km/h付近でスロットルを回しているのに逆に失速してしまうのだ。リード125の時と異なり、始動毎ではなく、その日の最初だけ発生する。アイドリングストップモードのパイロットランプが点灯する頃には正常になるので、暖気未了時のみの不具合と思われる。2スト時代を回想させる。

 運動性能については先代と同じである。低速時の軽快感と高速時の安定性を両立しているし、剛性感のあるフレームと良好な着座姿勢操縦性快適性もすばらしい。原付二種2輪スクーター国内モデルでは現時点で最も快適にツーリングをこなすだろう。しかしこの安定性は14インチホイールのジャイロ効果とフレーム剛性に頼り切った直立直進・ドライ路面に限ったもので、バンク角が大きくなると途端に安定性を失ってしまうのが惜しい。直進でも速度を上げるほど安定性が高まるが、同時に腰高感も高まっていく。まるで高速で回転する独楽(コマ)であるかのように。段差を通過した際にアンビリーバボーな衝撃を後輪から受けることもある。ポテンシャルは高いが走行性能よりも経済性に重きを置いたスクーターなのだろう。

 乾燥路面で急制動を試してみたところ、後ろだけ(といってもフロント1ポッド連動)なら滑り出したが、前のみや前後同時ならほぼ大丈夫だった。乾燥路面なら滑り出す直前にスリップ音が聞こえるのが救いである。

 WET路面で急制動を試してみたところ、前だけ、後ろだけ(といってもフロント1ポッド連動)そして前後両方と、いずれの場合でもタイヤが滑り出した。最悪なパターンでは、マンホール上でも路側帯ペイント上でもないのに20km/hからのフロントのみの急制動でも滑り出した。雨天時はかなり慎重に運転せねばなるまい。標準タイヤ:IRC SS-560Sugoi Suberu korogariteikou zeroの略号なのか。高速モデルたるKF18にまでこんな滑るタイヤを履かせるとはホンダもいい度胸をしている。

 

 PCXは比較的2ケツされることが多いので、今回のモデルチェンジで私が一番評価したいのがシートである。無論、先代に比べれば、という話であって、マジェスティ125等のソファスクーター勢とは比べるべくもない。
 運転席シート表皮はグリップの良いものに交換され、シートクッションは厚くないが弾力が良く座り心地はリード125Sh-modeよりソフトであった。座面形状については体格を制約するようなコブは撤去されたし、ケツの落としどころが設けられ、安定してケツを置けるようになった。足着き性もわずかながら良くなったと思う。ちなみに運転席の前後長は約43cm、最大幅は約32cm、これはリード125の前後36cm幅30cmを超えている。
 アクセルペダルを踏むような自然な角度でフロアに足を置ける、この着座姿勢の良さと相まって長時間乗車が全く苦にならない。ハンドル位置は高めだし、足を前に投げ出すポジションのため、仰け反り気味になるのは相変わらずだが、先代のように長時間乗車で少しずつケツが前にズレていくことはなくなった。足は前に投げ出すだけでなく真横に置いてボディを挟み込む着座姿勢も可能だ。

 後席も面積が増えてケツが置きやすくなった。前後長で約30cm、横幅は前端で約28cm後端で約17cmとなり、先代の前後19cm前端23cm後端14cmに比べればだいぶマシになった。シートクッションは薄いが弾力があり、結果としてリード125Sh-modeと比較しても遜色のない後席居住性・座り心地となった。JF56の登場でリード125の存在価値が半減したと思う。

 

 このリアスポイラーは先代同様デザイン上のアクセントに過ぎず、タンデムグリップとしても取り回しハンドルとしてもキャリアとしても荷掛けフックとしても機能しない。プッシュピンを外すだけで純正リアキャリアを装着できるようになった点だけは進歩しているが。

 グローブボックスはDCソケットが装備されスマホ充電その他ができる。ペットボトルは500mlは勿論のこと伊藤園の600mlまではなんとか押し込んでカバーを閉じることができる。カバーの開閉精度も上がってストレスは減った。

 シートも開閉精度が上がった。シートを閉じる際は、後席端を押してもいいが、中間位置からシートを落とした方が閉じやすかった。また、ハンドル操作を妨げず、シート下が雨に濡れない中間位置でシートホールドされる工夫がシートヒンジになされた。金具を1つ仕込んだだけだが、ダンパーの分だけ収納量を減らすよりいい。

 メットホルダワイヤーを噛まさずともメットホルダーにマトモなヘルメットを引っ掛けられるようになった。Mサイズのジェットヘルメット:MZなら上向きでも下向きでも、金具2個ともなんとか引っ掛けられる。メットホルダーそのものとシートヒンジ部分の形状を改善した効果である。2個引っ掛ける際はメットホルダワイヤーが必要になる。

 トランクはMZが前半部分に収納できる。シートを閉じる際に若干ヘルメットの頬パッドを圧迫するが、まあいいだろう。後半部分は薄手のカッパやグローブを押し込むプラスαのスペースである。無理にヘルメットを2つ収納するのなら、安全性の保証できない物になる。ヘルメットの代わりにプロテクター付きのライディングジャケットもモノによっては畳んで収納できる。motoFIZZのようにフックが細いゴムネットならシート開閉を妨げない方法でヘルメットを後席部分に固定できる。

 消灯時は量産型エヴァのような、点灯時は新種の蛾か何かのような個性的なマスクで被視認性は良い。
 このライトを直視すると突き刺すように眩しい。だが、このライトが照らすモノは眩しいだろうか?銀色の先行車でさえ白に見間違うほど白く照らすし、角度がぴったり合えば先行車のマフラーの中まではっきり見える。しかし、上下にも左右にも角度にして約60度の範囲だけ白くするだけで、照射された光はほとんど拡散しない
 ハイビームにすると左右双灯のロービームに加え、中央部が追加して発光する。上方角度が若干増えるものの、青看を照らすような威力はなく、左側端すりぬけでハイビームにしてもクルマはほとんど反応してくれなかった。暗黒の峠道においては目を凝らさないとクリッピングポイントが良く見えなかった。進行方向を照らさないボディマウントの欠点と指向性の高い(=拡散しにくい)照射をするLEDの欠点が重なったからだと思う。照射力・照射範囲ともに物足りない。スーパーカブ110(JA10)のヘッドライトの方がまだマシである。高速モデルたるKF18には一抹の不安が残る。

 ストームトルーパー似のテールライトは表面積が拡大し、被視認性の向上は認めるが、ホンダ原付二種の最底辺を支えるDIO110にも似ていることで、ダウングレード感が漂うようになった?

 このページの画像はヘッドライトのドアップ以外は全てロービーム+ハザード点灯させた状態で撮影したものだが、日中、見る角度によってはウインカーの点灯が全く分からない。CB1300と同時期に全灯LED化して話題になったPCXだが、LEDは灯火としてはまだまだ未熟なようだ。

 初期のPCXではアイドリングストップモードを常用して始動不能になるというクレームが相当数あったという。そのため、バッテリーの電圧が低ければモードスイッチの位置にかかわらず常時アイドリングするようにシステムが更新された。全灯LED化も、節電が第一目的と思われる。始動性を担保するならCLICK125iのようにキックスターターを装備して欲しい。

 メーター内は速度をアナログ表示し、その他はデジタルで表示する。速度計の針は外周が回転して針が上から伸びてるかのようなギミックを採用。念願の時計燃料計とともに独立して表示される。オド→トリップ→平均燃費はモードスイッチを押すことで選択表示する。オド表示状態でモードスイッチを長押しすると時刻調整、トリップ表示状態でモードスイッチを2秒押すと距離計リセット、平均燃費表示状態でモードスイッチ押しながらメインスイッチOFF→ON操作でエンジンオイル交換時期警告をリセットすることができる。1個しかボタンはないが、リード125より格段に使いやすくなった。
 燃料計の目盛りは9つもあるのにはじめの1つを消費するのに110kmも走行した。そこから先は約30km走行する度にひと目盛り減っていったが、燃料計の不正確さはもう気にならなくなった。8Lタンクで航続距離は大幅に増えたからだ。

  

 メインスイッチバタフライスイッチを継続採用している。ONとOFFの間に『SEAT&FUEL』を設けているが、わずらわしいのでOFFの位置でバタフライスイッチを押せるように『SEAT&FUEL』とOFFの位置を統合して欲しい。鍵を抜くと自動的に鍵穴をシャットしてくれるが、暗い所では解除作業がし辛いので、鍵穴の角度にもうひと工夫が欲しい。

 ホーンスイッチウインカースイッチの上下逆転はいつまで続けるのだろうか?とっさの際にブレーキとホーンの同時操作ができないと何度言わせれば気が済むのだろうか?
 一方でハザードスイッチが追加され、これはなかなか使いやすい。途中で鍵を抜いても点滅を続けるあたり緊急時を考えている。メーターパネル内のウインカー表示がやたら大きいのは、ハザード消し忘れ予防のためだろうか?

 バックミラーは先端を尖らせて鏡面積を狭めている。先代と同じものだが、なぜか今回試乗したJF56の左ミラーは歪曲が激しかった。大してカッコいいミラーじゃないのだから、もっと後方視認性に気を遣ってほしい。

 バイク単体でのデザインは先代の方が美しいと私は思うが、純正ロングスクリーンを装着した状態でもそんなにカッコ悪くならない点では新型の方が良くなっている。放置プレイが得意になりつつあるホンダだが、さすがに売れるモデルには手を加え、総合的な使い勝手はやっとクラス平均に届き、精度も国産時代に戻りつつある。

 あとは、多少燃費落ちてもいいからタイヤは太く小さく粘り強くして旋回性と安全性の向上を求む。リアスポイラーは手が通せてフックも掛かるようにして同乗者の安全性と積載性の向上を求む。照射力が不安なLEDヘッドライトを標準起用するのは時期尚早だと思う、特に高速モデルたるKF18には。あとはウインカーとホーンの位置を元に戻すこと。PCXの不満点をひとことでまとめると、実は安全性なのではないかと。

  2014.12.19 記述

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