ホンダ・ディオ110
JF58

単独評価
 長所:1コスパ 2静寂性 3燃費
 短所:1フロアステップ幅 2航続距離

アドレス110(UK110)と比較して
 長所:1静寂性 2制動力 3質感
 短所:1動力性能 2収納力 3操作性

 ホンダは中国製だった先代ディオ110(以下JF31という)を2015年3月にベトナム製に切り替えた。今回試乗したのは日本国内向けのディオ110(NSC110CBFF、以下JF58という)の初期型である。

 サイドスタンド、車載工具2点を標準装備した。旧型海外モデルに装備されていたポジションランプは外され、燃料タンクキャップも本体とリンクしていない。
 空冷版のeSPエンジンを初採用し、キックスターターも継続装備している。キックスターターで始動させるとアイドリングストップスイッチの位置にかかわらず、アイドリングストップ機能は作動しない。バッテリー電圧低下時の再始動性を担保している。

 85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にしたところ100mで63km/h、200mで75km/h、300mで82km/h、400mで87 km/h(ここまで約24秒)、500mで90km/h、600mで91 km/h、700mで92 km/h、800mで平地最高速93km/hを確認した。まれに97 km/hまで伸びることもあるが、わずかに下り勾配だった。下り坂では107km/hまでは見た。勾配の緩い上り坂なら90km/hに届くこともある。JF31で50km/h、ブリーズ110で60km/hまでしか出なかった勾配のキツイ坂でJF58なら65 km/hまで出る。ちなみにアドレス110(以下UK110という)だと70km/h出る。

 進行距離ごとの到達速度はJF31ブリーズ110を上回るが、平地最高速はほぼ変わらない。クラッチが切れるかどうかという極低速域で動かしてもJF31ブリーズ110同様ストレスフリーである。

 JF31の加速特性や登坂能力を改善し、不満を感じない程度の動力性能は得た。UK110と比較すると、単独乗車でのアクセル全開は出足からUK110が有利で、60km/hから先は更に差が開いてしまう。市街地戦ではUK110に全く歯が立たない。しかしJF58は2人乗車のハーフスロットルでも動力性能の落ち込みが少なくて思ったよりも実用になる。そして静寂性については今まで乗ったことのある原付二種スクーターの中で一番だと思う。加速音よりも減速時に聞こえる航空機のような音の方が大きいのではと思えるほどだ。先代と比較しても常用域で出力が増したのに逆に静かになっている。125cc水冷eSP勢より全域で静かになって燃費も良くなったぶん、動力性能が抑えられたエンジンと表現することもできよう。やはり直近の加速騒音規制はメカにとってもメーカーにとっても弊害だったのだろうか。

 比較対象区間304.7kmを走行したところメーターは300.4kmを示した。距離計にマイナス1.4%の誤差があるとするならば、その区間の平均燃費は54.5km/L(アイドリングモード)に修正される。現時点でこれまで取り上げたスクーターの中で最も低燃費である。この区間をアイドリングストップモードで走れば更に良い数字が出るだろう。ちなみに市街地走行では39.4〜45.7km/L(アイドリングストップモード)という数字が出た。こちらは必ずしも条件が同じではないので断定こそ控えるがUK110とほとんど差は見られなかった。

 乗り心地も若干だが改善しているように思う。JF31は足回りが硬く、視線が常時上下に揺さぶられる感覚があったが、JF58ではそこまでの不快さを感じなかった。

 運動性能は相変わらず良くも悪くもない。
 14インチホイールなので、車体そのものの直進性は10インチモデルより良いし、極低速域での安定性もUK110よりわずかに良い。しかし走行中にハンドルをわざと左右に振ってみるとスーパーカブ110(JA07)のような危うさが現れる。ハンドルで曲がろうとするのではなく、ケツを振って向きを変えるように意識すると安定性を保ったまま車線変更やコーナリングをこなしてくれる。

 すりぬけ戦闘力はハンドル幅でJF58=69cm、UK110=66cm、ミラーtoミラーでJF58=82cm、UK110=77cm。いずれも寸法的にはUK110が有利だが、極低速での安定性はJF58が有利である。一応イーブンとしておこう。

 旋回性もイマイチである。その理由は着座姿勢剛性感にあると思う。

 まずは着座姿勢。フロアからシートのまでの高さが約51cmと余裕があるのにフロアステップの幅は先端で約35cmしかない。上品に足を揃えてお行儀よく座るだけなら長所にさえ挙げられる着座姿勢である。女性向きなのである。男性が座ると、バーのカウンター席に両足首をそろえて高い所に座らされているようだ。旋回時を例えるなら、前軸と後軸を結んだ線を旋回ロール軸と仮想し、両足首をそのロール軸の下で揃えて振り子式にステップ荷重を行っているような感覚がある。バイクを正面から見ればライダーのガニ股が、押さえペンチのようにロール軸を挟んでいるようなイメージである。動力性能が向上したぶんJF31より旋回時の怖さは減っているものの、JF58の狭くて低いフロアステップでは落ち着かない。

 UK110も似た傾向だが、フロアとシートの高低差が約48cmとわずかに短く、フロアの後傾も大きい。フロア表面のギザギザも荒くて靴裏を押さえる効果が弱く、つま先のはみ出しもJF58より大きい。ハンドル幅も少し狭く、それらの結果、JF58より一段と落ち着かない着座姿勢ではあるものの、なぜか旋回はJF58ほど怖くなく、バイクを倒しているイメージに近い。

 そして剛性感。短制動時に先代ほどハンドルが近づくわけではないが、やっぱりフラットステップなスクーター=フレームが立体構造でないスクーターに強い剛性は期待できないのだろう。細いタイヤということもあり、派手に寝かせてコーナリングしようという気になれない。単独乗車よりも2人乗車時の方がむしろ振り回せるくらいだ。

 標準装着されていたタイヤは銘柄もサイズも先代と同じだが、ベトナム産のチェンシンタイヤ=CST:C-922だった。F=80/90-14、R=90/90-14。短制動を試したところ、乾燥路面では右レバーのみで制動しても、左レバーのみ(前後連動)で制動しても車輪がロックしなかった。WET路面でさえ右レバーのみで制動しても前輪はほとんどロックしなかった。雨天時での安心感はPCXUK110よりも高い。直立直進状態での制動なら雨天時でもアドレスV125と同じように使える。凍結防止対策として縦縞模様の溝が路面に掘られている所では、やはり細すぎるタイヤ形状が災いして少々肝を冷やすことはある。

 先代よりもディスクローターサイズが小さくなり、ローターを挟み込むピストンも1つのみになってしまったが、制動力に不満はない。むしろ先代の方が動力性能やタイヤに比して贅沢すぎるフロントブレーキだったと思う。

 居住性は先代同様である。
 運転席。地面にちゃんと足が着いてシートとフロアの高低差もあるので膝は楽である。先端で35cm、中央でも39cmしかないフロアステップ幅は170cmない私が普通に着座してもつま先がフロアから追い出されてしまう。シート表皮はグリップが先代より良くなった。シートは厚くはないがケツはすぐに痛くはならなかった。長時間走行で疲労を覚えるのは、つま先が落ちないよう常に緊張している内股だ。格納式のタンデムステップをバックステップ代わりに使えないこともないが、位置が後ろすぎて高すぎてこちらもイマイチ姿勢が安定しない。

 後席は乗降性も着座姿勢も良好だが、薄めのシート厚と先端23cm後端15cmというシート幅が短時間限定を物語る。フロアステップとシート全体の幅さえ広げてくれれば十分な居住性を得てさらに魅力的なスクーターになれるのに。

 積載性
 リアキャリアはキャリア上の4箇所の穿孔を通してBOXを装着することを主に想定しているようだ。キャリアと後席と高さが合っていて、ボディとのクリアランスも十分にあるので、BOXを付けなくても後席からリアキャリアにまたがってある程度大きな荷物をゴムネットで固定することができる。キャリアアームはボディとキャリア取り付け部分から8.5cmも前に出ているので、アームにゴムネットの網を引っ掛けることができるし、取り付け部分にフックを引っ掛けることもできる。その一方で、キャリア後半に下向きに付いている荷掛けフックは短いので、ゴムフックどうしをキャリアごと挟み込んで引っ掛ける使い方になるだろう。荷台としての幅は前半34cm後端16cm、荷台としての長さは取り付け部分からキャリア後端まで27cmある。
 足元はフラットだが、いかんせん面積が足りないので荷物の置き場と考えないほうがいい。フロアから55cmの高さにあるコンビニフックもフックが小さいので、文字通りコンビニの袋に向いている。

 収納力
 インナーポケットは左右独立しているので、大きなもの、長いものは入らない。右側はメインスイッチが邪魔で薄いものしか入らない。しかも右脇がガラ空きなのでここにポケットティッシュを入れておいたら巻き込み風でどっかに飛んで行ってしまった。スマホなど置いておくと前輪が衝撃を受けた際に落ちてしまう恐れがある。左側は600mlペットボトルやぐるぐるに巻いた薄いカッパ下ぐらいなら入った。
 メットインスペースに収納できたMサイズのヘルメットは、ジェットではアライ:MZ、フルフェイスではショウエイ:Z7までだった。トランク内部が隆起しているので、いずれも絶妙な所に前向きに置き、しかもわずかに浮いたシートを上から押さえてシートが閉まるというレベルである。くれぐれもヘルメットを収納した状態で着座しないように。数cm浮いたシートを無理やり押さえつけて何とかシートが閉まればいいというレベルなら、アライ:Quantum-Jもなんとか行けた。アライ:RX-7RR5 はどうにもならなかった。つまりUK110にもUZ125にもヘルメットの収納で負けるということだ。

 プラスチックの突起を左右2本立ててメットホルダーとしているのは先代と同じだが、下向きでないと引っ掛けることができなかったMZが今度は上向きにしても引っ掛けることができるようになった。UK110よりもヘルメットが引っ掛けやすかった。

 操作性その他。
 メインスイッチを『SEAT』の位置に合わせてバタフライスイッチを押すとシートが開き、給油口も登場するように改善された。しかしカギを(押しながら)回すだけでハンドルロックとシートオープンができるヤマハ、スズキの方がエンジン停止から連続操作できて使いやすいと思う。

 ウインカースイッチ(下)とホーンボタン(上)の位置逆転は継続採用されている。左方向指示もホーンの単独操作もブレーキとホーンの同時操作もやり辛いので、従来の位置に戻して欲しい。メーターパネル内のウインカーパイロットランプは左右共用でしかも小さいので日中は目立たない。ウインカーの点滅音も聞こえないので、JF58のウインカーの消し忘れ現象が今後あちこちで観察できるだろう。

 ヘッドライトはマルチレフレクター式のレンズでカバーされた35/35W HS1 バルブがハンドルにマウントされている。ロービームは約180度の幅を照らし、上方は先行車の窓に差し掛からない高さを照らす。ハイビームにすると上下に照射範囲は広がるが、幅は同じで、10m前後の中間帯は照射が少し薄くなる。ハイにしてもそれほど眩しくならない。暗黒の峠道では専らハイビームで走行し、すれ違いの時だけロービームに切り替えた。進行方向を照らしてくれるし、良心的な配光特性だと思う。照射のメリハリはUK110が勝るが、照射のマナーはJF58が勝る。
 ポジションランプがないので、夜間の被視認性UK110に劣る。

 この個体はバックミラーの調整にちょっと力んだが、走行振動でズレることはなかった。鏡面の淵付近は多少歪みがあるものの面積が広くて写り自体はそう悪くはない。ハンドル幅(69cm)より左右で約13cmもミラーを張り出したのに、ミラーアームの高さを下げてしまったため後方視認性が先代より落ちたのが残念だ。

 燃料計は50〜60km走るとFullに差し掛かり170km走るとEmptyに差し掛かる。100km走ってもFの位置から微動しない車種があるなかで割と正確な方だと思う。燃料タンク容量は5.2L。燃費の良さからすれば航続距離スーパーカブ110と同等だが、他のスクーターと比べてしまうとヤスモノゆえの差別化なのかと勘ぐってしまう。
 フロアステップのボルトがむき出しになっているのは相変わらずだが、インパネがボディ同色となり質感は向上している。この紺色もなかなか渋い。リード125の2015年モデルでも採用された。

 ホンダ原付二種、乗用スクーターの最底辺であるDIO110が今回大きく進歩した。なんといっても動力性能の改善が大きい。ベンリィ110もこの空冷eSPに換装すれば台数が増えるだろうし(スーパーカブ110からの移行が増えるだけか?)、リード125だって収納力向上のために少しでもコンパクトなこの空冷eSPに載せ換えるという手もありだと思う。

 動力性能、収納力、一部の操作、単純な値段でUK110に負けるが、静寂性、制動力、質感などはJF58が勝る。滑りやすいUK110の標準タイヤを速攻で交換するとしたらコストパフォーマンスだってJF58が逆転するかも知れない。

2015.7.26 記述

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