ベトナムホンダ
PCX HYBRID
JF84

PCX JF81と比較して
 長所:1機敏性 2WET路面の制動距離
 短所:1価格 2収納容量 3DRY路面の制動距離 4燃費??

 28×2=56。28×3=84。28の倍数で機種コードを決めるPCXの慣例からすると、JF84という機種コードを与えられたPCX HYBRID(WW125HVJ、以下JF84という)が3代目の本流なのかもしれない。先に登場したガソリンエンジンのみで駆動するPCX(以下JF81という)は機種コードが“3”歩下がっている。今回試乗したJF84JF81との違いに絞ってレポートしたい。

 ホンダはJF84が量産“二”輪車として世界初のハイブリッドと豪語しているが、2010年にはピアジオ・MP3ハイブリッドというスクーターが既に登場している。しかも走行モードとして、エンジンとモーターの双方で駆動するPOWER MODE、エンジンを駆動と発電に併用させるCHARGE MODE、モーターのみで駆動させるELECTRIC MODE、モーターを利用して後退できるREVERSE MODEを選択可能で、コンセントから直接充電ができるプラグインハイブリッドでもあった。

 JF84は同一モード内で切り替えることなく電動モーターが始動発電に加え駆動まで行うようになった点が新しいが、あくまで主体はガソリンエンジンにある。電動モーターのみでは駆動できないし、電動モーターを常時稼働することもできない。クルマで言うところのマイルド(マイクロ)ハイブリッドに当たる。『D』『S』『 』(※)という3つの走行モードを備えるものの、電動アシストを早めに多めに出すか否かで、早め多めの『S』モードか、標準的な『D』モード・『 』モードを選び、車両停止時にアイドリングを停止するか否かで、停止する『S』モード・『D』モードか、停止しない『 』モードを選ぶことになる。常時アイドリングを行い、なおかつ電動アシストを早めに多めに出す『DQN 』モードは備えていない。

 JF84メーターの最上部はリング状にチャージ・アシスト計が備わる。左側は電池への入力を表現するチャージ計で右側は電池からの出力を表現するアシスト計である。JF81ならこの部分をエンジン回転計にしても良かったと思う。メーターの下部は右側にガソリン燃料計、左側はリチウムイオン電池計を備える。

 ハンドル右側のアイドリングストップモード切替スイッチキルスイッチに置き換わってしまったので、ハンドル左側に通常はパッシングスイッチとして装備されることの多い場所にモード切替スイッチが新設され、アイドリングストップモード切替スイッチの機能が盛り込まれたのである。

 細かいことだが、従来はアイドリングストップ中にアイドリングモードに切り替えてしまうと、左ブレーキレバーを握ってスタータースイッチを押さないと再始動・再発進できなかったが、JF84はアイドリングストップ中に『 』モードに切り替えてもスロットルグリップだけで再始動・再発進できるようになった。

 『D』モード『S』モードの違いを探ってみたが、かなり複雑なアルゴリズムに従っているようだ。『D』モードならハーフスロットル以上でアシスト開始し、『S』モードならゼロ発進からアシスト全開ですよ、等という単純なものではなかった。というのも、渋滞をちまちま進んでいて力強い出足を全く必要としないときでも『D』モード・ハーフスロットル発進で3/5段階以上のモーターアシストで車体が飛び出すことがあるし、逆に『S』モード・ハーフスロットル発進でもモーターアシストが全く出現しないこともあるからだ。共にリチウムイオン電池計は満タン時のことである。

 ただ、以下の事は言える。

 『D』『S』どちらのモードでもアクセル全開にすれば必ず5/5段階のモーターアシストが出現する。そしてアクセル全開にしない場合で、同じアシストが出現するにも、『S』モードの方が早めに多めに出る傾向があるという事と、『D』『S』どちらのモードでもアシスト時間はわずか3秒間しかないという事である。3秒経過した後は電動モーターのトルクが徐々に減っていき4秒で完全に消失するので、実質的なアシスト“時間”は3秒間である。アシスト“量”を3/5段階に抑えるスロットルワークをしたからといって3×5/3=5秒間にアシスト“時間”を伸ばせるわけではない。アシストが消失した後は、スロットルグリップを戻せば再び3秒間アシストが可能になる。再び電動モーターのトルクを得るためにスロットルグリップを戻してエンジントルクを抜かなければならない。一見するとプラマイゼロな無駄な事をやっているようでも、バイクにはそれが生きる瞬間がある。すなわちコーナリングである。コーナー手前で減速してバンクさせるまでの一次旋回、そこから加速して立ち上がる二次旋回。スロットルを戻して再び捻る行為を我々は無意識に行っている。3秒間とは二次旋回の立ち上がりに十分な時間である。その後の直線もそのままの勢いで一気に加速したいのだが、、、、さすがにそこまでの下剋上は許されなかったか。


↑ 3秒経過時のGPS速度(左) ↓ 4秒経過時のGPS速度(左)

 調子に乗って峠道の登りでアシストを使い切るスロットルワークを繰り返していると、今まで5段階フルチャージだったリチウムイオン電池計が峠を登り切る頃には4段階や3段階に減っている。新車状態でもそうなのだから、リチウムイオン電池の劣化が進んでくると、おそらくフルチャージにならなかったり、アシスト量・時間も減ったりするのかもしれない。それと電池は寒さに弱いのを忘れてはいけない。今回の試乗はやっと酷暑から解放されたばかりの気温でほぼ新品だから、電池としては最高の条件だったはず。取扱説明書では、『外気温が0℃を下回るなど、ハイブリッド用バッテリーの温度が低い場合、チャージ・アシストレベル表示が点滅することがあります。このとき(略)充電・モーターアシスト・アイドリングストップシステムは作動しません。』と注記している。確かにアイドリングストップが作動するまでの暖気運転中はモーターアシストが一切出現しなかった。いずれは電池が劣化してアシストが弱くなったとき、初めてリチウムイオン電池の対費用効果を気にすることになるのだろう。しかしそれまではコーナリングを楽しもう。

 『D』モード『S』モードを切り替えながら、すなわち従来のPCXで言うところのアイドリングストップモードで比較対象区間324.6kmを走行したところオドメーターは335.3kmを表示した。距離計の誤差は+3.3%と推定する。その区間の平均燃費は満タン法51.8km/Lになった。平均燃費計55.4km/Lを表示していた。平均燃費計は+6.9%盛っているが、距離計の誤差を除去すれば+3.5%にまで下がる。燃費はなんとJF81を下回っていた。誤差にしては大きい燃費差である。わずか5?の車重増加で落ちる燃費じゃないし、燃費が落ちる走り方をした心当たりもないし。

 その代わり発進加速は明らかにJF81を上回っている。同日同所にJF81と比較してみた。
 JF81に85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にするとGPSは次の速度を表示した。100mで47km/h、200mで64km/h、300mで72km/h、400mで80km/h、500mで84km/h、600mで87km/h、700mで89km/h、800mで90km/h、900mで91km/h、1,000〜1,100mで92km/h、1,200mで93km/h、1,300〜1,400mで94km/h、1,500〜1,600mで95km/h、1,700〜1,800mで96km/h、1,900mで97km/h、2,000mで平地最高速98km/hを表示した。この時、JF81のメーターは104kmを表示していた。

 JF84に85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にするとGPSは次の速度を表示した。100mで52km/h、200mで67km/h、300mで77km/h、400mで83km/h、500mで89km/h、600mで92km/h、700mで95km/h、800mで97km/h、900〜1,200mで98km/h、1,300〜1,600mで99km/h、1,700〜1,900mで100km/h、2,000mで平地最高速101km/hを一瞬だが表示した。この時、JF84のメーターは108kmを表示していた。GPSを基準にした速度計誤差は平地最高速付近で(108-101)/101=+6.9%だった。101が一瞬だったので100で計算すると(108-100)/100=+8%になる。

 到達地点を基準に見ると加速性能は常時3km/h以上差が付いている。スタートダッシュで付けた差がそのまま続くということだろう。3秒間のモーターアシストが終わった後はJF81と同じ加速感である。ちなみにスロットルを戻すとチャージ表示が現れるが、やはり『D』モードより『S』モードの方がチャージ量を多く表示する傾向がある。リチウムイオン電池がフルチャージで、しかもアクセル全開でもチャージしていることがある。おそらくリチウムイオン電池だけでなく鉛電池にも充電をしているのだろう。ちなみにチャージ中はチャージ表示が出ないときよりもエンブレ効果を強くを感じる。モーターの抵抗を使ってエネルギー回生でもしているのだろうか?

 JF84の方がアイドリングがストップするまでの時間が早い。JF81は平均して3秒だが、JF84は平均して1秒である。1.5秒ぐらいの時もあるし、車輪が完全に停止する前にエンジンが停止する場面に何度も遭遇している。
 アイドリングストップ状態からの発進においてスロットルを回してから再始動・再発進するまでの反応も極わずかだがJF81より早い気がする。モーターアシストが出現しない時もそう感じるから、クラッチ等の駆動系を改善している可能性がある。

 停止も始動も早いから、アイドリングストップ車特有のストレスがほとんどないのである。従来だと3秒以内に再発進する可能性があったり、右折待ちの直前にアイドリングストップモードアイドリングモードに切り替えていたが、JF84は違いを観察するため『D』と『S』の切り替えはしていたが、常時アイドリングである『 』モードに切り替えたいという欲求はほとんど湧かなかった。

 JF81に比べ加速力発進二次旋回で向上、そのぶん運動性能二次旋回で向上している。エンジン停止・再発進までの時間も短縮されて全体的にキレが増している。乗り心地については、やはりフロント周りが相対的に華奢なようでハンドルポスト下がカタカタ震えやすい傾向は同じ。

 以上のことから、今回のハイブリッドシステム省燃費のためというよりも発進・停止やコーナリングのレスポンスを改善することで、機敏性を向上させる効果があったと思う。JF81は良くできたスクーターなのになぜ面白くないのか、その理由の大半がイマイチなレスポンスにあることが分かった。

 

 制動力。標準タイヤはJF81と同じミシュラン:CITY GRIPだが、ブレーキシステムが異なる。JF81は右ブレーキレバーでフロントディスクの両端2ポットが作動し、左ブレーキレバーでリアドラムとフロントディスクの中央1ポットが連動するコンビブレーキであるが、JF84は右ブレーキレバーでフロントディスクの2ポットが作動し、左ブレーキレバーでリアドラムのみが作動する。前後が独立したブレーキでABSはフロントのみに作用する。

 短制動DRY路面ではJF81が有利でWET路面ではJF84が有利だと思う。
 左右同時に握ればフロントディスクローターを3ポットピストンで挟み込むJF81の方が明らかに前輪の絶対的な制動力は高く、滑る心配の少ないDRY路面ではそれが生きる。JF84で短制動すると大抵はフロントサスとタイヤが受け止めてくれるので、かなり力強く握って効かせる事を狙っていかないとABSは作動しない。作動したときのキックバックは小刻みで非常に小さく、代わりにNMAXのようなウィィィ〜〜ンという再チャージ?音に驚く。ABSは効き過ぎによるロックを防ぐものなので、2ポットのJF84より3ポットのJF81の方にこそ必要だと思った。
 たまたま制動した場所が濡れたマンホールの上だったりすると救われるから、WET路面ではABS装備のJF84の方が安心だし、増して前後共にABSが作動するNMAXの方がもっと安心だと思う。当たり前ながらリアタイヤはWET路面の方が滑りやすかったので、JF81でもJF84でも左ブレーキレバーの方に神経を集中させて制動したいと思った。

 リチウムイオン電池にスペースを取られたのでJF81に対して収納容量は減っている。しかしヘルメット1個の収納に関しては変わらなかった。Mサイズのヘルメット、アライ:MZ、同:Quantum-J、OGKカブト:ASAGI、同:RT-33の4つは、いずれも同じ結果になった。ヘルメットを前向きに置いてシートを上から押さえ付ければシートを閉じることができたし、グローブやタオルの類であればヘルメットの脇に詰め込むことはできる。シートを一旦全開にすればメットホルダーワイヤーを噛まさずにヘルメットの全てのDリングをメットホルダーに引っ掛けてシートを閉じることもできた。

 トップボックス35L(取付ベース・キーシリンダー込みで税抜25,500円)はさすがに収納力が高いし、操作性・堅牢性ともに確かな純正品である。上記いずれのヘルメットでも立てても寝かせても干渉する様子もなくボックスを閉じることができた。トップボックスに対する小言を列記させて頂くと、
1:スマートキーはワンキーシステムに対応していない。
 単体ではポケットから取り出さなくても良いスマートキーだが、ボックスキーといっしょにしていると、結局ポケットから鍵を出さないとボックスの開閉ができない。スマートキー単体なら便利なのに、ボックスと併用すると従来の物理キーより不便になってしまう。
2:脱着の手間より収納作業の手間がかかる。
 鍵を開けないと開閉ハンドルを操作できないのだが、鍵を開くと脱着レバーも同時に動く状態になり、鍵を閉めないと走行振動で脱着レバーが動いてしまう心配がある。つまりボックスを開くには鍵を開けて開閉ハンドルを開け、ボックスを閉じるには開閉ハンドルを閉じて鍵を閉じる、収納作業には2×2=4アクションが毎回必要になる。ホームセンター箱のようなルーズな使い方はできない。その一方で開閉ついでに脱着ができてしまう。駐車時にボックスを車体に付けっぱなしにしない防犯意識の高い国での使用を想定しているようだ。

 

 アイドリングストップ機能が付いたあたりからホンダのスクーターは常に注目していたが、タイヤが滑るだの、直立して走れない等、いずれの車種も二輪車として致命的とも言える欠陥を抱えていた。JF84PCXの致命的な短所であった滑りすぎる標準タイヤを更新したし、短時間駆動ではあるが排気量の制約を打破するひとつの方法として1人3役をこなす電動モーターを取り入れたチャレンジに対して、当サイトはコミューター・オブ・ザ・イヤー2018を進呈したい。

(※)ホンダは 『 』モードに対して、アイドリングストップ・システムを解除するモードとして正式な名称は与えていないようだ。

2018.9.25 記述

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