ベトナムホンダ
4代目PCXシリーズ

3代目と比較して
 向上点:1 HSTC装備 2 後輪接地感 3 リアブレーキタッチ 4 ヘルメットフック 5 収納力
 退化点:1 運動性能のバランス 2 燃費

 早いものでPCXシリーズも4代目になる。124ccのガソリンエンジンのみで駆動するPCXJK05、156ccのPCX160KF47、始動・発電・駆動補助まで行う電動モーター付き124ccのPCX e:HEVJK06と略称し、これら3台をまとめて4代目とする。それぞれの先代モデルであるPCXJF81PCX150KF30PCX HYBRIDJF84と略称し、これら3台をまとめて3代目としてコメントする。

着座姿勢、足着き性について

 着座姿勢についてはNMAXはフロアが前後に長いので、足を前に投げ出してフットレストで踏ん張る乗り方に向いているし、大柄な人が足を前に逃がしやすい。170cmに満たない私が着座するとハンドルがやや高めで遠めある。足着きも考慮すると適正身長の幅は165〜190cm位だろうか。PCXは大柄な人が足を前に投げ出してフットレストで踏ん張る乗り方をするとNMAXより窮屈に感じるかもしれない。PCXは170cmに満たない私が着座するとハンドルの高さも含めてドンピシャ。フロアからシートまでの高さがあるので椅子に座るような自然な姿勢もNMAXより取りやすい。シートに深く座ると足着きは両足ベッタリではないが、支障はない。適正身長の幅は160〜180cm位だろうか。3代目より居住性が向上したという人もおられるが、広くなった印象は抱けなかった。辛うじて言えばフットレストに足を伸ばした際、カカト側が1〜2cm程度伸びたかも知れない、という程度で私の体格では3代目と変わらない居住性だった。

運動性能について

 後輪だけに着目すれば3代目より旋回性は向上している。後輪の淵が更に使えるようになって、もっと寝かせてコーナリングしてみようという気持ちになった。リアホイールサイズは1インチダウンしたものの、後輪を太く厚くして接地面積と扁平率が増加している。リアサスにも調整を施したようで旋回中にも後輪が先代より上下に良く動くようになって乗り心地の向上も実感できた。一般的に、エンジンをフレームに載せているバイクの方が後輪から受ける衝撃が少ないが、4代目はスーパーカブ110(JA44)あたりと同等にまで乗り心地が向上しているのではと感じた。ユニットスイング式の宿命のため路面の凹凸でドカンッと強い衝撃を喰らう事が無くなったわけではない。ただし旋回中の後輪は上下だけでなく左右にも動きが増えて、腰が砕けるような挙動も3代目より増えたように感じる。

 後輪の外径は小さくなったが、前輪は幅が増えている。バンク角によって前後輪の接地点の変化に違和感を覚えるようになった。前後輪のバランスで言えば“フロントの立ちが強くなった”あるいは“フロントが出しゃ張るようになった”ように思う。旋回性だけを考えるのなら、フロントホイールもリアに合わせて1インチサイズダウンする等の選択もあったと思う。

 走行中にわざとハンドルを左右に振ってみた場合、かったるそうに鷹揚にスラロームを開始する3代目に対し、4代目は左右に振れば前輪と後輪の進行方向が乱れはじめ、同じことをした場合のスーパーカブ110の危うさすら想起させるときがある。直進性の高さ、復元力の高さ、安心感という意味では3代目の方が優れていたと思う。対向車や先行車が予想外の動きをした為に回避行動をとる、というような状況にならない限り、走行中にハンドルを左右に振ることなど無いのであまり神経質になる必要はないだろうが、3代目が持っていた良好なバランスは崩壊したと思う。

 4代目が3代目より運動性能が“悪くなった”とまで断言しないのは、4代目は立ちの強さが擦りぬけや微速前進での直進安定性に貢献しているからだ。また、凍結防止のために縦溝を刻んだ路面を走行しても3代目より更にタイヤが捕らわれることが減ったと感じたからだ。

乗り心地について

 乗り心地について補足すると、強い突き上げは減ったが、弱い突き上げを受ける“回数”は増えたような気がする。衝撃をどこで吸収するか、そのウエイトをフレームから肉厚タイヤに変えたのかもしれない。市街地から峠道の速度域では3代目のシャキっ(稀にドガっ)としていたものが、4代目でグデグデになってしまった感があるが、高速走行では悪い印象が減った。後輪からの強い突き上げをほとんど喰らわなくなったし、これ以上飛ばしたらいよいよ前輪がブレ出すのでは?という恐怖感も無い。ではではと、試しに高速走行中にハンドルを左右に振ってみたら、、、、やっぱり3代目より姿勢が乱れた。

制動力について

 4代目は後輪もディスクブレーキになり、全車で前輪ディスクのみに作用するABS仕様に統一された。リアディスク化によって後輪の効き具合が手に取るように分かるようになった。ブレーキレバーを握る力も頻度も減って疲労感は減少した。落ち着いて走行できている時はいいと思うが、短制動ではどうだろう。

 DRY路面ではかなり強く握らないと前輪のABSを作動させることは出来なかったが、リアブレーキレバーを強く握るといとも簡単に後輪は消しゴムのようにブラックマークを路面に残す。その際に後輪は右にも左にも流れる。スポーツバイクのようにフロントブレーキをメインで使いリアブレーキは添える程度に使うといいかもしれない。ただしフロントブレーキを中心に制動するバイクとしてはいささか前輪の制動力が足りないと思う。DRY路面での絶対的な制動力は3代目のJF81KF30のCBS仕様の方が強かったように思う。

 WET路面ではABSを体感しやすい。ブレーキレバーへのキックバックは制動時の速度≒リリースする制動力になるようで、30km/h位からの短制動ではキックバックは感じず、ウィ〜ンというABSモジュール音しか聞こえない。40km/h位から弱くて小刻みなキックバックを感じ始め、50km/h以上でブレーキレバーを強制的に戻す動きも出てきた。わざと滑らせようと狙っても、それが叶うことは無かった。本当に前輪はスリップ知らずで凄いと思う。だが、前後バランスという意味ではどうだろうか。

 WET路面だとリアブレーキは更に滑りやすくなるので加減が難しい。右(前輪)は強く握るだけでいいが、左(後輪)は滑らないように神経を集中させなければならない。パニック時に左右で握り具合を変えるほど余裕があるだろうか。NMAXのABSは前後共に作用するので、左右の手ブレーキを同時に強く握るだけで勝手にリリースしてくれるので制動力を目一杯使い切ってくれる。スロットルグリップを巻き戻す右側は半テンポ遅れるので、咄嗟の時に左ブレーキレバーしか握れないことがある。パニックブレーキではNMAXの方が安心だと思う。

 なお、標準タイヤはJK05JK06ミシュラン:CITY GRIPだったが、KF47IRC:SCT-006/007を履いていた。過去の試乗経験からIRCのタイヤにはあまり良いイメージを抱いていないが、常識的な運転をしている限り、KF47で雨天走行をしても危険な目には逢わなかった。

 4代目はHSTC(※1)が装備された。ABSが制動のリリースに対し、HSTCは駆動のリリースと言えよう。どちらも前後輪に回転差が生じたら作動するシステムである。万が一の転倒を避けるためコーナリングではHSTCの作動は試さなかった。砂利道でワザとスロットル全開で発進してみたらABSモジュールの音と共に後輪が滑らないように駆動力を抜いてくれた。そのおかげで危なげなく直立直進状態を継続することができた。HSTCPCXよりも林道走行が想定されるADV150にこそ与えるべき装備だと思う。

 

加速力・最高速について

 JK05に85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にするとGPSは次の速度を表示した。100mで53.2km/h、200mで70.7km/h、300mで78.7km/h、400mで84.7km/h、500mで88.1km/h、600mで90.5km/h、700mで92km/h、800〜900mで94km/h、1,000mで平地最高速94.8km/hを表示した。この時、JK05のメーターは100kmを表示していた。GPSを基準にした速度計誤差は+5.5%と推定する。
 JK05の加速データは先代のJF81に少し負けていたのが気になったので、後日異なるコースで異なる2台の発進加速を新旧比較してみたら瓜二つのグラフになった。このときの最高速(GPS値)はJF81は100.2km/hでJK05は98.2km/hだった。細かく見ると加速性能も最高速も新型になって落ちている可能性がある。

 JK06に85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にするとGPSは次の速度を表示した。100mで54.1km/h、200mで69.8km/h、300mで77.6km/h、400mで84.5km/h、500mで87.7km/h、600mで92.5km/h、700mで95.8km/h、800mで98.3km/h、900mで99.8km/h、1,000mで100.3km/h、1,100mで平地最高速101.8km/hを表示した。この時、JK06のメーターは108kmを表示していた。GPSを基準にした速度計誤差は+6.0%と推定する。JK06の加速データは先代のJF84に非常によく似ていた。

 KF47に85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にするとGPSは次の速度を表示した。100mで57.6km/h、200mで77.3km/h、300mで85.5km/h、400mで91.7km/h、500mで95.8km/h、600mで98km/h、700mで99.7km/h、800mで100.7km/h、900mで101.7km/h、1,000〜1,400mで102.8km/h、1,500mで103.1km/h、1,600mで103.4km/h、1,700〜1,800mで103.6km/h、1,900mで平地最高速104km/hを表示した。この時、KF47のメーターは110kmを表示していた。GPSを基準にした速度計誤差は+5.8%と推定する。ちなみに高速道路ではゼロ発進から900m弱で112.0km/h(GPS値)に達することもあった。このときメーターは119km/hを示していた。120km/h以上は下り坂でしか見ていない。

燃費について

 JK05で比較対象区間(臨)324kmを走行したところ、オドメーターは323.8kmを示した。距離計の誤差は‐0.06%と推定する。その区間の平均燃費は満タン法で49.5km/L、平均燃費計は51.5km/Lと表示していた。前回のJF81より燃費がわずかに悪化している。発進加速を同日に新旧比較したときも明らかにJK05の方が高燃費だった。

 JK06で比較対象区間(臨)324kmを走行したところ、オドメーターは321.5km を示した。距離計の誤差は‐0.77%と推定する。その区間の平均燃費は満タン法で49.0km/L、平均燃費計は52.3km/Lと表示していた。燃費の為のハイブリッドではないと謂うが、誤差レベルとはいえ純ガソリン車のJK05に負けるのは嬉しくない。

 KF47で比較対象区間(臨)324kmを走行したところ、オドメーターは322.8kmを示した。距離計の誤差は‐0.37%と推定する。その区間の平均燃費は満タン法で45.0km/L、平均燃費計は44.8km/Lと表示していた。
 いつもの高速道路、標高差約800mの高速道路を流れに合わせて登坂したところ30.9km/L、80km/h程度で下坂したところ47.7km/Lになった。ちなみにKF30はそれぞれ36.0km/Lと54.0km/Lだったので、それぞれ14.2%/11.6%も燃費が悪化していることになる。

 3車いずれも先代より燃費は悪化している。原因のひとつにタイヤサイズの変更による接地面積増加もあるかもしれないが、なんといってもEURO5への対応だろう。この燃費悪化で燃料タンク100ml増量を無効にするほど航続距離も3代目より落ちているが、それでも相対的に長い距離を走れるので短所にしない。ホンダでさえこれだけ性能が落ちるのだから、ヤマハやスズキのスクーターがEURO5に対応させたらどれだけ性能が落ちるだろうか?今後はEURO6も控えている。もはや内燃機関に対する虐めとしか思えない。

アイドリングストップハイブリッドについて

 JF84は電動アシストを早めに多めに出すか否かで、早め多めの『S』モードか、標準的な『D』モード・『 』モードを選び、車両停止時にアイドリングストップするか否かで、停止する『S』モード・『D』モードか、停止しない『 』モードを選ぶことになっていた。組み合わせとしてはアイドリングストップしない『S』モードは選択できなかった。

 JK06は電動アシストを早めに多めに出す『S』か標準的な『D』という選択と、アイドリングストップするか否かの選択は切り離されて、JF84では選択できなかったアイドリングストップしない『S』モードを選択できるようになった。 しかしスイッチは一つだけなので、長押しでアイドリングストップする⇔しないの選択、短押しでDモードかSモードの選択を行う。このスイッチはJF84と同じで左集中スイッチの人差し指付近にあり、一般的にはパッシングスイッチに使われる配置である。

 アイドリングストップ状態からスロットルグリップを回して再発進するまでのレスポンスがモデルチェンジの度に向上しているように思う。初代や2代目PCXは発進が半テンポ遅れるので、交差点で右折待ちする場合は停止直前にアイドリングモードに切り替えていたが、3代目以降はその必要もないくらいに再発進のレスポンスは向上している。特にJF84JK06は動き出すのがガソリン車よりも早いと感じる。

 『S』モード『D』モードの違いは相変わらず複雑な制御マップに沿っているようで、こういうときは必ずこうなると断言はできない。アシスト/チャージ計を観察していると、信号停止も勾配変化も少ない道をまったり走っていると『S』と『D』に全く違いが発生しないことがある。ハーフスロットルで発進してそのまま巡航に移る場合は『S』でも『D』でもアシストもチャージも全くしないことがある。画像は満充電時の全開発進でアシストが切れる過程の速度だが、『S』と『D』でほとんど差はない。  かといって下り坂でアクセルを急に全開にしたときにレベル5でアシストする『S』に対し、レベル2〜3程度しかアシストしない『D』だったり、登坂でガバッと開けるとレベル4〜5でアシストする『S』に対し、レベル2〜4のアシストで手を打とうとする『D』だったり。勾配で『S』と『D』でアシスト量を変える傾向があるが、リチウムイオンバッテリーの残量が減り出すと違いが大きくなるようだ。強いて言うならアシスト優先の『S』に対し、チャージ(温存)優先の『D』だろうか。

 『S』モードは電気残量などお構いなしにスロットルを戻せば再びすぐにレベル5のアシストを引き出せるのでタイトコーナーが続く某峠道でアグレッシブに走っていたら登坂区間でリチウムイオンバッテリーを使い切ってしまった。電量計の最後のセグメントがアシスト/チャージ計と共に点滅していた。頂上付近では只の重い125ccになってしまった。標高差でいうと700m程度が限界のようだ。そのままアグレッシブに走行を続けても下り区間で4/5まで回復し、市街地に戻ってきたらいつの間にかフル充電になっていた。

 4代目PCX3台の発進加速をグラフで比較してみたらJK06は発進から5秒間程度はKF47にほぼ匹敵する加速を示していて、モーターアシストの効果を確認することができた。峠道の登坂でもJK05に対するトルクアップは体感できるし、スロットルの開け閉めを頻繁に繰り返す状況でならKF47並みの動力性能をKF47より静かに体感することができると思う。

 アイドリングストップするまでの時間は車両が停止してから約3秒かかるJK05KF47に対し、JK06は約1秒だった。車両が停止する前にエンジンが停止することもある。ブレーキを掛けて惰性で転がすとメーター読み2km/hくらいでエンジンが停止する。停止後を基準にするならこの場合は0秒ないしは−0.5秒になる。逆に車両が停止してから1.5秒位なこともあるので、平均して約1秒である。JK06に慣れてしまうとJK05KF47のエンジンが停止するまでの3秒間が本当に長く感じる。その3秒間、体はずっと振動に晒されているし、市街地走行では3秒以内に再発進することも多く、エンジンを停止した事が無駄になることもある。アイドリングストップをキャンセルしようかどうか考え出してしまうのである。すぐに停止してすぐに発進するJK06なら振動という肉体的ストレスからもスイッチ切り替えに悩む精神的ストレスからも解放される。今日の峠道、『S』と『D』どちらで駆けようか?という楽しみもあろう。

 ここにJK05+83,000円(税抜)を払う価値があるかどうか各自で判断して欲しい。収納量が減ってしまい燃費も変わらないという現実は変えようがない。お金の話をするならば、エコカー減税を謳うなら、クルマより圧倒的にCO2排出量が少ないバイクに対して軽自動車税を課すのはどうかと思う。ハイブリッドのJF84JK06なら補助金を出してもいいくらいだ。

 余談だが、JK06はモーター単独で走行することはできないので、FIT等と同じe:HEV(※2)という呼称を使うのは統一感がなくて不適切だと感じる。

収納力について

 収納箇所は2か所ある。
 フロントインナーボックスは小物用の空間。PETボトルなら各種600ml、伊藤園の650ml、クリスタルカイザーの700mlがすっぽり収納できた。他にも収納できるPETボトルがあるかもしれない。PETボトル以外では、ソフトパックの150組ティッシュがなんとか突っ込めたので花粉シーズンには重宝した。蓋の無いインナーラックだと走行中に飛んで行ってしまうことがあるので。USB Type-Cソケット(3A×5V=15W以下)も標準装備しているが、施錠無しで開け閉めができるのでくれぐれもスマホを外し忘れないように。3代目より空間が太くなったように思うが、充電対象物とPETの同時収納は苦しそうだ。

 ラゲッジスペースの収納力は、Mサイズ4個のヘルメットで試してみた。
 OGK:ASAGI=A、OGK:RT-33=R、Arai:MZ=M、Arai:Quantum-J=Qと略する。収納結果〇△×で略する。シート裏に全くと言っていいほど干渉しないでシートを完全に閉じることが出来た場合は、軽く干渉する程度でシートを閉じることができた場合は〇△、上から押さえつければシートを閉じることが出来た場合は、上から強く押さえつけてやっとシートを閉じることが出来た場合は△×、強く押さえつけてもシートを閉じることが出来なかった場合は×とする。特に説明がない限りヘルメットは頭頂部を上(うつ伏せ)にして前向きにする。

 JK06の収納結果はシートが閉まりやすい順番に並べて次の通りになった。
 R=〇△、A=○△、Q=〇△、M=〇△
 フルフェイスのRはほとんど〇に近かった。前後に長く頭頂が低い形状が効いたのだろう。QMよりシートを閉じ易いが、再びシートを開けようとしてSEATスイッチを押す時にかなり硬くなるので、無理が生じている可能性がある。閉じるまでの採点ならQ=〇△だが、開けることを採点したらQ=△×になってしまう。閉じ易い方が開けにくいとは想定外だった。

 リチウムイオンバッテリーを搭載していないJK05KF47は後席下にも収納空間が広がっている。シートが閉まりやすい順番に並べて次の通りになった。
A=○、R=〇△、M=〇△、Q前向き=△、Q後ろ向き=△×、後ろ向きでもなんとか閉まる。

 上記1個収納に加え、半キャップヘルメット(立花:GT-500DX2、以下Gと略する)と組み合わせて2個収納も試した。Gは逆さにひっくり返さないとシートが閉じないが、更に前に向けるか後ろに向けるかで結果が異なる。
A+G前向き=△、A+G後ろ向き=△×、いずれもシートは閉じるもののシートオープンスイッチは異常に硬くなるので、厳しく評価すれば×。
M+G前向き=△×、M+G後ろ向き=△。
R+G前向き=△×、R+G後ろ向き=△。
Q前向き+G後ろ向き=△、Q後ろ向き+G前向き=△、Q後ろ向き+G後ろ向き=△。
Q後ろ向きは1個収納よりGを組み合わせた方がシートを閉めやすいのは、シートを閉じる途中でGQを丁度良い位置に押してくれているのだろうか。

 シートヒンジ付近にある左右2個のプラスチック突起がメットホルダーで、3車に共通する。上記4つのヘルメットは左右どちらのホルダーも全てのDリングを引っ掛けてシートを閉じることが出来た。Qのみ、特に左側は引っ掛けるのに力を要するが、今回試したヘルメットではQ以外はシート半開状態でも引っ掛ける作業が出来た。メットホルダワイヤーは不要になって同梱されなくなったこと、JK05KF47については半キャップを組み合わせて2個収納できる可能性を示したのはいいとして、ラゲッジスペース底部が皿状に盛り上がっていてQuantum-Jの1個ですらシートが開けにくくなるのは問題だ。収納容量をliterで計測しても水を入れるわけじゃないんだから、もう少し深さというものを追及して欲しい。

積載性について

 トップボックス35Lスマートキーシステムタイプが同時発売された。スマートキーに連動した事実上のワンキーシステムである。取付ベース・リッドオープナー込みで税抜50,000円は高すぎるだろう、という人に向けて従来モデルのトップボックス35L(取付ベース・キーシリンダー込みで税抜25,500円)も併売している。従来モデルを選ぶとリード125本体と同様の長い物理キーを使う事になる。

 積載性というより装着性ないしは操作性と言うべきだが、ハンドルパイプに直接何かをクランプするのがモデルチェンジごとに難しくなってきている。4代目はリザーバータンクが左右両方に付いたし、配線とハンドルパイプが至近で結束されているからだ。

操作性その他について

 メーターパネルは全体的に見やすくなった。特にハイブリッドのJF84はメーターパネルの上枠いっぱいにアシスト/チャージ計が広がっていて大げさだったが、JK06は速度計の横にこじんまりした円形のアシスト/チャージ計を配置した。SELectボタンを押すごとにODO→TRIP→HSTCとループしてSETボタンで距離計をリセットしたりHSTCのON/OFFを切り替えることができる。

 燃料計のセグメントは9個あり、目一杯給油してから90〜110km走行してセグメントが9個から8個に減り、そこから先はJK05で36〜44km走行毎に、JK06で27〜45km走行毎に、KF47で26〜38km走行毎にセグメントが減って行った。セグメント1個あたりの走行距離のブレ幅が少なくて好感が持てる。下道ツーリングでの航続距離はJK05JK06で400kmに届くかどうか、KF47で360kmに届くかどうか。

 バックミラーは3代目のキャリーオーバーと思われる。

 ヘッドライトは気のせいかも知れないが、3代目よりハイビーム時の照射距離が少し伸びたような気がする。照射範囲は直立状態では不満がないものの、ハイビームに切り替えてもコーナリングでは進行方向を照らさない。タイトコーナーの先を照らすには、直立状態では対向車を眩惑する斜め上の方向になるから、バンク角やハンドルの切れ角に応じて照射方向を自動的に変えるヘッドライトを5代目以降に期待したい。光源をLEDに変えてから随分とややこしくなった。
 被視認性については、隈取りだけだった3代目のポジションランプに眉毛が加わった。夜間に観察してみると、隈取りも眉毛もヘッドライトと一体化して見えるので、3代目よりライトが大きくなったように見える。3代目の隈取りはヘッドライトと少し離れていて反りが強かったので、表情が豊かだった。対向車から見て光る部分の表面積が大きいのは4代目だが、3代目の方が視線を惹くような気がする。
 3代目のテールランプ⇔ストップランプの切り替えについては明るさだけが変わるものだったが、4代目は上下テールランプの中央に新たにストップランプを追加した。そこまではいいのだが、テール/ストップ/ウインカー全てに面積が足りない。なんでこんなに薄くするのか。安全性よりデザインが大切なのか? 後方からの被視認性はトータルではあまり改善していないように思う。ナンバー灯の照射範囲は明らかに広くなったようだ。

総括

 3代目まで順調に進化してきたPCXだが、4代目は進化よりも落差の方が目立ってしまった。eSP+は消費者にとっては何もプラスになっていないし、3代目で築いた高剛性フレームと前後輪のバランスを捨てて、僅かに収納力を増やして何がやりたかったのか? 更なる電動化を見据えて従来より大型のリチウムイオンバッテリーを収納する空間が欲しかったとか? PCX ELECTRICの新型が登場すれば自ずと答えは出るだろう。

 バイクとしての性能が落ちたにしても、安全性使い勝手が向上してくれればまだいいのだが。ABSについてはスクーターに導入するならば、前後共に作用するものを前後連動機構とセットで装着してくれた方が親切だと思うし、ホーンスイッチも左ブレーキレバーと同時に押せるように戻してくれないと“ホンダ車ならではの欠点”として毎回指摘したい。使い勝手については何と言っても初代から放置されているダックテイルだ。グラブバーにもタンデムグリップにもならないし、荷掛けフックもないから当然リアキャリアにもならない。リアBOXにもシート下にも収納できない大きな物を運べないのが、PCXを街乗りバイクに留めてしまっている。

 この数か月間、様々なオーナーさんから新旧の車体をお借りして何度も試乗してきたが、今回のモデルチェンジはHSTC装備(とスマートキー連動のBOXが用意された事)だけが目玉だったと思う。乗り慣れてしまえば4代目も十分にいいスクーターなのだが、この程度の改良では少なくとも3代目から買い替える価値はない。

(※1) HSTC=Honda Selectable Torque Control。いわゆるトラクションコントロール。
(※2) e:HEVの説明。https://www.honda.co.jp/etechnology/ehev/ 『日常は、ほとんどをモーターで静かに走行。高速になると効率の良いエンジンで走行。』

記述 2021.5.26

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