タイホンダ・ADV150

PCX150(KF30)と比較して
 長所:1乗り心地 2運動性能 3グリップ 4風防効果
 短所:1足着き性 2足置き性 3収納力 4メーター視認性

 ADV150PCX150(=KF30、以下PCX150という。JF81以降の3代目PCXシリーズ全般を表すときはPCXという)をアドベンチャーモデル:X-ADVのイメージで衣替えした軽二輪スクーターである。インテグラをベースにしたX-ADVとは異なり、ADV150のエンジンは後輪と一体となっていてバネ下重量は重く、吸気口の位置も低いので無理は禁物である。

 アイドリングモードにして単独乗車で高速道路を流れに合わせて走行したところ、満タン法による実燃費は往路が26.7km/L(平均燃費計は27.1km/L)、復路は52.2km/L(平均燃費計は53.8km/L)になった。ちなみに同じ区間でPCX150は往路36.0km/L、復路54.0km/Lだった。今回の往路は強い向かい風が吹き荒れるなかで約800mの標高差を一気に駆け登ったので、流れに合わせるといってもアクセル常時全開だった。PCX150との燃費差については復路の方が参考になると思う。復路は下り坂でメーター読み85km/h以上出ないように気を付けたので負荷はかなり低い運転である。

 アイドリングストップモードにして一般道を走行したところ満タン法で44.0km/Lになった。比較対象区間をほぼ踏襲しているが、暗黒の峠道がまたも決壊していてルート回避をしたので距離計の誤差も測定できなかったし、タイトコーナーの連続走行も出来なかった。

 一般道と高速を含めた試乗期間中の平均燃費は40.9km/L(平均燃費計は41.8km/L)だった。PCX同様にトリップメーターがAB2つあり平均燃費もAB別々に計測することができる。PCX150より少しガソリンを喰う傾向にある。タイヤの接地抵抗ではなかろうか。

 ADV150に85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にするとGPSは次の速度を表示した。100mで57km/h、200mで75km/h、300mで84km/h、400mで90km/h、500mで94km/h、600mで99km/h、700mで100km/h、800mで101km/h、900mで平地最高速の102km/hを表示した。下り坂でも107km/h以上は出ない。107km/hに達したとき燃料噴射が断続的になる現象が発生した。このときADV150の速度計は118km/hを表示していたので、速度計の誤差は(118-107)/107=+10.2%と推定する。

 運動性能は良好。良好どころかPCX150より向上しているように感じた。着座位置が高まってコーナリングで倒し込みやすくなった。後輪はインチダウンしたものの太くなって接地面積が増えたようである。路面追従性が良いリアサスペンションとの相乗効果でコーナリングが粘り強くなっているのを実感できる。

 フロントサスペンションもたっぷりストロークがある。PCX150同様にABSは前輪だけにしか作用しない。前後両方に作用するものとは一長一短があるので優劣はコメントしない。
 常識的な走行をしている限り、フロントブレーキだけで急制動してもABSが作動することは稀である。なぜならたっぷりとしたストロークを持ったフロントサスがゆっくりと荷重を受け止めている間にタイヤもじっくりと路面を掴んでくれているからだ。ABSが作動する前にタイヤが鳴り出すので限界も分かりやすい。なお、NMAX155ADV150に比べるとABSの作動が随分と早い。

 後輪だけで急制動すると割と早めに後輪が滑り出す。しかし大きく滑り出す直前にタイヤが鳴りはじめるのでブレーキレバーを握る力をすぐに緩めればスリップを防ぐことが出来る。ADV150PCX150と異なり後輪にもディスクブレーキを奢っている。私が試乗したGROMモンキー125の後ディスクはドラムブレーキよりも効きが弱かったので同じくタイ製造のADV150の後ディスクを心配していたのだが、絶対的な制動力も高いうえに非常にコントロールし易いので安心した。やっぱり“効き”と“抜き”の早さがなければ油圧ディスクを採用するメリットはない。CT125の後ディスクも手を抜かぬよう希望する。

 タイヤの銘柄はIRC:TRAIL WINNER GP-212F/Rという大層なものだが、このパターンではせいぜいフラットダートを横切る程度の使い方だろうと思う。とはいえPCXより1cmずつ太くなったF:110/80-14、R:130/70-13サイズは、凍結防止のために縦に溝を掘った路面ではもはや何の不安もなく走ることが出来た。

 乗り心地も向上している。先代(JF56/KF18)のような段差を通過した際の強い突き上げを試乗期間中に一度も喰らわなかったし、高速走行時の疲労感もPCX150より減っている。この足回りだけでもPCX150との価格差(税抜64,000円)は充分に元が取れると思う。

 しかしいいことばかりではない。最低地上高を28mm上げたことで足着き性乗降性取り回し等が悪化している。着座位置は31mm高くなっていて身長170cm未満・股下(両足を肩幅まで広げた状態の股下から地面までの垂直距離)77cmの私が深く腰を掛けると両足ともにつま先しか接地しない。片足をべったり接地しようとすると車体がそちらに大きく傾けることになる。フロアトンネルも高いので、足を通すにしても大きく太ももを持ち上げなければならず、乗降の際にフロアトンネルに足を引っ掛けて車体を倒してしまう可能性もある。後ろにBOXを取り付けていて回し蹴り乗降がしにくいのなら、立ち上がる前にサイドスタンドを出してから降車した方がいいかも知れない。車体全体が持ち上がったことで重量感も3kg以上に増えている。あれ?PCXってこんなにデカくて重かったっけ?という感じである。 duck・tailがついに取り回しハンドルに進歩したことは取り回しの救いである。ADV150に125ccが出れば買いたいという人もおられるだろうが、取り回した後では250ccならもっと魅力が増すと思った。

 不具合ではないが、気になる事がひとつある。私が試乗した車体、高速道路で出会った車体、勤務先で見る車体、3台に共通することなのだが、車体を後ろから見たとき、後輪(後軸)が水平に対してわずかに左に寝ているように見えることである。センタースタンドを立てている状態でもそう見えるし、高速走行中の車体を観察してもそう見えるのである。仮にリアフェンダーが左に傾いていてそう見えるだけだとしたらいいのだが、、、、。タイホンダ車は何かしらあるというのが私の経験則なので、オーナーの方は一応気に留めておいて頂きたいと思います。

 運転席の前後長は約45cm、最大幅は約32cmでPCXより細長い座面のようである。数時間の着座でもケツは痛まなかった。

 ハンドル幅はグリップエンド左右先端から実測で約80cmと広く、形状もオフ車寄りの開いたものとなっている。アップライトな着座姿勢で停止寸前の速度で足を接地せずにバランスを取るのもPCXよりいくらか楽になっている。

 フットレスト(フロアステップの先端で傾斜角度が変わるところ)部分にべったり靴の裏面を合わせて足を伸ばせばニーグリップに近いホールド感を得らえるが、フットレストの傾斜角度はPCXよりなぜかきつくなってしまっている。ここはPCXと同等以下の角度にして欲しかった。

 後席は前後長で約24cm、横幅は前端約23cm後端約16cmとなり、PCXより少し狭くなっている。逆に運転席は少し長いので、前席重視に傾向を変えたのだろうか。

 後席両脇に装着されたグリップは運転者が取り回す際のハンドルとしても同乗者が掴むグラブバーにもなる。
 オプションのリアキャリア(税抜17,000円)に交換しても、グリップ機能は残るものの、シートとのクリアランスが狭くて標準グリップと比べると手を差し込みにくいし、素手で取り回すとパイプ部分で手が滑るうえにその先の金属部分に指が当たると痛い。また荷掛けフックも4つ付いているが、4つとも後席より後方の位置にあるので後席からリアキャリアにかけて大きな荷物を固定しようとするとロープの類では固定し辛い。先端にも荷掛けフックを設けて欲しかった。フック付きのゴムネットがないとリアキャリア単体では積載性がイマイチである。

 ラゲッジボックスの蓋=シートはPCX同様にストッパー構造があり、中間位置でも全開位置でも無風下であればシートを固定できる。しかし肝心の収納力PCXより落ちている。
 Mサイズのヘルメット4つで試した。OGK:ASAGI=A、OGK:RT-33=R、Arai:MZ=M、Arai:Quantum-J=Qと略する。収納結果は〇△×で略する。シート裏に全くと言っていいほど干渉しないでシートを完全に閉じることが出来た場合は〇、軽く干渉する程度でシートを閉じることができた場合は〇△、上から押さえつければシートを閉じることが出来た場合は△、上から強く押さえつけてやっとシートを閉じることが出来た場合は△×、強く押さえつけてもシートを閉じることが出来なかった場合は×とする。結果は次の通りだった。

 M=○△
 R=△×
 Q=△×
 A=×

 また、附属するメットホルダーワイヤーを噛まさずにヘルメットのDリングメットホルダーに引っ掛けられるか試したところ、いずれも出来ないわけではないが、Dリングが耳に近いAは特に難儀したし、QRにおいてもチークとシートが干渉するのでシートを動かしながらでないとDリングを引っ掛けることができなかったし、最も引っ掛けやすかったMでさえストラップをいくらか引っ張る必要がある。
 ヘルメットホルダーメットホルダーワイヤーの使用を大前提にしているようだし、収納するにしてもMZよりチークガードの短いVZ-RAMSZ-RAM4以下のジェットヘルメットを想定していると思われる。

 同乗者に背もたれを提供しつつ収納力を増やすにはトップボックス35L(税抜19,000円)が必要になる。この箱は上記したどのヘルメットでも干渉することなく収納できたうえに、ヘルメットの両脇にレインコートを収納することもできた。この箱を本体に取り付けるには、リアキャリア(税抜17,000円)+トップボックス取付ベース(税抜4,000円)+キーシリンダーセット(税抜2,500円)=合わせて税抜42,500円が必要になる。ところで、せっかく車両本体の施錠と始動に物理キーが必要なくなったのに、エマージェンシーキーIDタグボックスキーまで持ち歩かなければならない。4つの鍵を持ち歩くより、リード125のように本体と共通の物理キーを1本だけ持ち歩く方がよっぽどスマートなキーだと思う。

 左斜め下に蓋が開くグローブボックスは空間の厚みが足りずペットボトルは500mlですら入らなかった。何が収納できるか試したところ、150組Helloソフトパック(ティッシュペーパー)が何とか押し込めることができた。但し、その状態でティッシュを引き抜くことは難しかったので、花粉症の私に有難い収納空間にもならなかった。DCソケットを通してスマホ充電その他ができるので、充電対象物の収納空間と割り切るべきか。

 バックミラーは鏡面の角が増えて八角形になった。後方視界は狭くなかったので特に文句はないが、視界に無駄のない四角形か、接触に強い丸型でいいと個人的には思う。ところどころに八角形が見えるバイクなので、デザイナーの拘りなのだろう。

 左集中スイッチは、おそらくPCXと同じもの。親指が円弧上に移動する軌跡に沿ってスイッチがあるので静止物としては上手く纏まっているが、左手を浮かさずに指の移動だけでブレーキレバーホーンスイッチを同時操作するには上下位置を元に戻すべきである。
 ホンダはウインカースイッチホーンスイッチの位置を上下逆転させてしまっただけでなく、ホーンスイッチそのものは大きいのに、操作方向まで指定してしまったのである。例えばJA44は左(外)方向にADV150は右(内)方向に、という具合に、車種によってホーンスイッチの操作方向が異なっているので、複数台運用者は混乱すると思う。最も使用頻度が低いのに最も迅速に使えないと困るものだからホーンスイッチについては改善するまで言い続けたい。

 今回は路面が決壊していて同じ場所で撮影できなかったので断言できないが、LEDヘッドライトの照射の均一性はPCXより少々劣るかも知れない。ADV150は、フロントカバーがライトレンズよりはみ出している部分があって、そこが照射角度を若干制限しているように見えるのだ。

 メーターは瞬間燃費計と平均燃費計の同時表示ができるなど情報量は増えたものの、視認性は明らかにPCXに劣っている。パネルが小さいし、遠いし、文字も小さいし、日中は表面反射が大きい。まるで走行中は速度計以外見ないように、と言わんばかりに。燃料計の目盛りは9つあるが、はじめの1つを消費するのに90kmも走行したので、タンク容量からしてPCXと同ペースで目盛りが減っていくだろう。

 足回りが良くなって乗り心地運動性能が向上したものの、足着き性収納力PCXに劣る結果となった。PCX150に乗りたいけれど巷に溢れすぎていて同じものは嫌だ、とか、有料道路を走る機会が多いのでPCX150より足回りのいいスクーターに乗りたい、という人にお勧めしたい。

 

2020.3.25 記述

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