ホンダ・リード110

 長所:1静寂性 2経済性 3後席居住性 4積載性
 短所:1運転席居住性 2ヘルメットを選ぶ収納スペース

 ホンダは中国合弁企業で生産されるSCR110をホンダ・リード(4st)として2008年1月から日本で販売することを決めた。原付二種に対する19年排ガス規制をクリアーすべく水冷4stエンジンに電子制御燃料噴射装置PGM-FIを採用している。リードというネーミングを4stスクーターに付けるのは初めてのことで、同姓同名の過去の2st50ccモデルと区別するために以下、リード110と呼ぶことにする。今回は慣らし運転直後の08年式初期型モデルに試乗した。

 スペイシー100/125とデザイン的に大きく異なるのは、ヘッドライトを上部(ハンドル)に戻したことである。ポジションランプとして常時点灯している両ウインカーは下部に移設され、両者は大きく離されてしまった。これによって被視認性は少し落ちたがフロントにカゴを装着できるようになった。照射力についても35Wにランクダウンしている。実用的な照射力は直進状態ではスペイシー100が有利でコーナリングではリード110が有利だった。ライト面積・光量照射方向の違いである。

 フロントにカゴを装着できるようになったこと、リアシートからリアキャリアにかけてフラットに設計したこと、リアキャリアの淵はどこでもフックがかかること、以上より積載性はスペイシー100/125より大きく向上した。特にリアシートからリアキャリアにかけての積載性は原付二種としては秀逸で、バイク便ライダーも注目するだろう。

 一方でフロアはフラットだが、足の置き場が狭いのが玉に瑕。ホンダ・トゥデイも似たような形をしているのだが、前に行くに従って絞られていくフロアの、先端にある窪みにつま先または踵を引っ掛けないと踏ん張れない。ボストンバックのような大きな荷物をフロアに置いてしまうと運転者は足の置き場がなくなる。同乗者用のステップはあくまで後席用の位置にあり、しかもアルミ製なので運転者が足をかけるとツルっと収納方向に滑ってしまう。大きな荷物は専らリアキャリアに載せろということか。足元のアドレスV125、リアキャリアのリード110、両者はほぼ互角の積載性だと思うが、リアキャリアの改良次第では再びアドレスV125が引き離すことになろう。

参照: http://www.marutomiauto.co.jp/sale/rscareer/index.html

   

 収納力フロントインナーボックスはカギを使わなくても開閉できて使いやすいが、やはり大きなものは入らない。せいぜい右側には工具・書類を、左側には小さく小さく畳んだビニールパンツ(カッパ下)くらいである。

 座席下のメットインスペースはRV125EFI、シグナスX、アドレス110よりも空間が広く、確かに原付二種最大容量だが、深さが足りない。メーカーサイトでは『フルフェイスヘルメットに加えてタンデム用ヘルメットの収納も可能』を謳い、フルフェイス1個とジェット1個を収納して見せているが、Mサイズのジェットヘルメット:SZ-RAM3とSZ-Mで試してみたところ、一番入れやすかった画像のような位置に2個並べても、シートが変形するほど強引に押し潰さないとシートを閉じることができなかった。メットインスペース内部に膨らみがあり、呆れたことにエアインテーク(効果)=突起物のないSZ-Mの1個ですら押さえ付けないとシートが閉まらなかった。これでは景品表示法でいうところの有利誤認表示ではないのか。

 『スネル規格を満たさない安全性の低いへルメットならば2個入る場合があります』に書き換えたほうがいい。たった1個のジェットヘルメット収納でこんなに苦労させるようではスポーツバイクユーザーのセカンドバイクとしてはお勧めすることはできない。ホンダは09年1月、カラーバリエーションを追加した際に撮影に使用したヘルメットを表記した。

立てても寝かせても閉まらず
半キャップと組み合わせても閉まらず

 運転席居住性着座姿勢はそう悪くないのだが、やはり足の置き場が狭い。足首を水平に置くにせよ、つま先を直立させてカカトを引っ掛けるにせよ、どちらにしても狭い。95年発売のスペイシー125、98年発売のリード100、03年発売のスペイシー100、歴代モデルのいずれも不満のなかったフロアステップが、まさか最新モデルの短所になるとは思ってもいなかった。メインフレームを変更せずしてこれを改善するために、12インチのフロントタイヤを10インチにサイズダウンしなくてはならないとしても“走り”よりも“ゆとり”を売りにしてきたシリーズだけにやむを得ないと思う。

 一方で後席居住性はこのサイズのスクーターの中では一番と言える。シート表皮のグリップ、シート長の余裕、シートの硬さ、いずれもいい具合である。後席はキャリアの淵がグリップとして握りやすいし、やっと収納式ステップを採用して同乗者の股の負担が減った。信号停止で運転者が足を接地させる時に同乗者のつま先に触れることが全くないわけではないが、前席・後席ともに我慢のできる範囲である。リード110の2ケツ居住性はホンダ・@125を一回りコンパクトにしたような印象を受けた。これで運転者の足の置き場に余裕があれば、2ケツ操縦性ももっと良くなるはずである。

 スペイシー100と同じバックミラーを採用している。かつてはミラーアーム全体をゴムラバーで覆っていたリード100や@125だが、コストダウンのために、関節部分のみゴムで囲うものにランクダウンしている。それでも全体的な質感はスペイシー100よりも向上している。アルミホイールは“らしい”色をしているし、言われなければ中国製とは分からないと思う。

 PGM-FIを採用して始動性、発進加速、静寂性、燃費が向上している。ハーフスロットルでもスルスル〜と速度を伸ばしていくこの出足の軽さには驚いた。スペイシー100/125よりも全域にわたって静かで振動も少ない。変速も恐ろしくスムーズである。発進から実用速度までの快適性は今まで乗ったスクーターの中でもトップレベルにあると思う。喉に痰が詰まったような発進のスペイシー125や唸るだけで力の出ないスペイシー100などもう過去の話である。

 荷物を含めて85kgの負荷をかけて全開加速を試みた。100m強で60km/h、約400mで80km/h、約600mで最高速の平地85km/hに達し、エンジン音的にはまだ余裕がありそうだが不思議とその後は伸びなかった。出足の軽さと裏腹に最高速はスペイシー100と変わらない。5ccアップの排気量は13kgの増量で食われてしまったか。あるいはパワーよりも収納容積向上のためのコンパクトさを目指した107ccエンジンなのか。まさかとは思うが85km/h付近でリミッターを効かさなければ持たないエンジンというわけではあるまいな?しかし、高速域よりも低速域を重視したのは実用車として正解である。

 制動力乗り心地などは特にスペイシー100と変わらない。サスペンションも丁度良い硬さでフレーム剛性についても不安はなかった。

 ホイールベースはスペイシー100より40mm延長された。気持ち車体の直進性が少し向上したかもしれないが、全体的な操縦性はスペイシー100の方が良かった。前述したフロアステップの欠点が重心移動をやり辛くしている。コーナリング時の足出しもスムーズでないため、心理的にバンク角も浅くなる。標準タイヤもCHENGSHIN-TIRE(中国)製なので、無理な運転は控えた方がいいだろう。なお、収納容積拡大のため、燃料タンクはフロアに移設された。しゃがみ込まないと燃料を入れられない。

 燃費は比較対象区間の平均値が43.4km/Lになった。発進の軽さが効いてるのか、市街地走行でもあまり変わらない燃費だった。別の機会に街乗りだけの燃費を測定してみたくなった。最高速についても、もっと伸びる個体があるかもしれない。比較対象区間304.7kmのオドメーター値は308.3km。地図ソフトが正しいとすればリード110の誤差はわずか+1%。これによって修正しても最高速は84km/h、平均燃費は42.9km/Lである。

 一家に一台あれば買い物に、送迎にと活躍できるファミリーバイクである。もうちょっと運転席の足の置き場に余裕があり、マトモなヘルメットが本当に2個入るなら胸を張ってイチオシのモデルにするのだが、単独使用がメインだったらやはりアドレスV125がお勧めである。それはなぜか?アドレスV125は、たった1個しか収納できなくてもスネル規格を満たすヘルメットを飲み込むスペースを持ち、十分な2ケツ居住性でなくても1人の男性をちゃんとした姿勢で座らせる運転席を持っているからだ。リード110はどちらかというと後席や荷台で選ぶスクーターになってしまった。

2009.1.19 追記/ 2008.4.18 記述

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