ホンダ・リード125
NHX125D

 長所:1制動力 2動力性能 3経済性 4後席居住性
 短所:1運転席居住性 2ヘルメットを選ぶ収納スペース 3高速直進性

 2013年5月に発表されたリード125リードEXの後継モデルとして開発された原付二種スクーターである。1982年に登場し、一代限りで消滅した同姓同名の2スト125?モデルとは別の4ストモデルである。今回は慣らし運転直後の2013年初期型日本仕様と同ベトナム現地仕様に試乗した。見て分かる両車の違いはライトスイッチの有無(ベトナム有・日本無)とフロントブレーキポッド数(ベトナム1・日本3)、そして各所のカラーリング・ステッカーである。

 リード125国内仕様に85kg(俺の体重だけじゃないっす)の負荷をかけて晴天時に平地でアクセルを全開にしたところ、それぞれメーター読みで100mで68km/h、200mで83km/h、300mで93km/h、400〜600mで98km/h、700mで100km/h、800mで102km/h、900mで105 km/h 1,000mで108km/hを確認した。
 雨天時に平地でアクセルを全開にしたところ、それぞれメーター読みで100mで65 km/h、200mで78km/h、300mで87km/h、400mで92km/h、500mで95km/h、900mで100km/h、1,500mで104km/hを確認した。晴天時との差はスリップロスなのだろうか?

 リード125ベトナム仕様も同一箇所で同様に加速し、平地なのか緩やかな下りなのか判別できない非常に長い直線区間で115km/hを見たし、下りでは118km/hまで確認できた。
 両車に共通する不具合としては始動直後毎に加速不良が発生する。発進直後ではなく30?/h付近で発生するので信号右折とか状況によってはヒヤリとするだろう。始動直後にしか発生しないので規制対応デチューン車特有の変速ラグというよりも、2stスクーターの暖機未了に近い症状である。加速も加速不良も国内仕様ベトナム現地仕様に違いがないので初期型PCXのようなトルクカム云々の違いはないと思われる。加速が元気であるぶん騒音もやや大きめになっていて、うるさいというほどではないが、リード(110・EX)より賑やかになっているので、長所の静寂性を今回は外すことにした。最近のスクーターはみな静かになってきているのでよっぽど静かでないともはや対比長所にならない。

 今まで試乗したなかでは初期型PCXのタイモデル並みの動力性能でリミッター現象も体感できなかった。発進直後は車重の軽いアドレスV125K5にわずかに負けるかもしれないがいずれ追い越すかという勢いである。おっさんスクーターだったリードがついにクラストップレベルの動力性能を手に入れてしまった。

 アイドリングストップモードで比較対象区間(臨時改)305.0?を走行したところリード125の距離計は306.0?を指した。距離計に+0.3%の誤差があるとするならば、その区間の平均燃費51.1km/Lになった。アイドリングストップモードで信号停止の少ない一般国道を速い流れに乗って走行したときは54.3km/Lになった。リードEXの時より平均速度が高い走行であったにもかかわらず燃費効率ははっきりと向上している。

 運動性能は直進性重視でやはりフロントの立ちが強い。フロントは頑固にラインを維持するのに対し、ケツの振りひとつでリアはヒラヒラと向きを変える。フロアの高さ、着座位置の高さ、後軸の位置などが影響しているのだろう、スラロームを繰り返していると後輪操舵の乗り物に似ていると感じることすらある。リード125は操縦していて腰高感が強い。数値上はリードよりホイールベースが長くなったものの、むしろ後輪をケツの下の方に移動してホイールベースを短縮したのではないかと感じる。

 旋回性。旋回中に路面の凹凸を拾って車体がはねた際に前輪と後輪のトレースがずれて怖い思いをすることがあるし、路面が良くても強く右旋回すると左旋回のときよりも後輪が先に砕けて滑ってしまいそうな感覚がある。単独でゆっくり走行するなら前輪が作り出す強い直進性に甘えていられるが、カーブが続く田舎道において煽ってくる後続車を引き離そうと、少し頑張っちゃうだけでも怖い思いをすることがある。立ち上がりのフルスロットルすら怖くてできないこともある。

 気になるのは速度を上げるほどにリアの接地感が怪しくなっていくこと。横風が強くても路面が濡れていてもリアの接地感は減少する。高速×横風×雨天という条件がそろった際にはテールスライドしているのではないかというほどに後軸のズレを感じ、車体をバンクさせてないと直進状態を維持できない現象まで体感した。無風の乾燥路面を直進していても90km/hから先は恐怖を感じる。

 リード125は動力性能車体設計というか運動性能に勝りすぎていると思う。PCXと同じエンジンを積んだからといって同じようにスロットルを回せるスクーターではないことを肝に銘じておくべきだ。この動力性能は2ケツ発進や登坂での非力さを補うためと考えたほうがいい。

 ブレーキ
 コンビブレーキのステッカーとその制動力のため、ベトナム仕様も国内仕様と同じブレーキかと見落としていたが、フロントブレーキの制動方法が異なる。国内仕様はPCXとリードEXと同様である。右レバーでフロント2ポッドが、左レバーでフロント1ポッドとリアドラムが、両レバーでフロント3ポッドとリアドラムが作動する。ベトナム仕様はディスクローターこそ同じだが、1ポッドキャリパーを右ブレーキと左ブレーキで共用している。これはリード110・リード100と同様のコンビブレーキシステムである。となれば安心感は国内仕様の方が上である。
 制動力
 国内仕様でWET路面にて短制動を試したところ、右レバーだけ強く握ったところ滑らなかった。左レバーだけ強く握ったらリアタイヤが滑った。両レバーではリアタイヤが少々滑ったがすぐに止まった。ベトナム仕様で乾燥路面にて試したところ、右レバーだけ強く握ったところ滑らなかった。左レバーだけ強く握ったらリアタイヤが滑った。両レバーでは全く滑らなかった。
 両仕様ともに強力でかなり信頼できるブレーキである。乾燥路面での制動距離は見事なまでに短いが、その際ハンドルが遠くなる=フレームが変形しているのを実感した。 標準タイヤはリード(110・EX)と同じチェンシンタイヤ(但しベトナム産)C-922F/Rだった。タイヤ次第ではさらに制動力が向上する可能性もあるだろう。なお、リード125でもブレーキロックレバーが省略されているので、坂道にある料金所ではスタンドがけの手間を覚悟しよう。

 運転席居住性。リード(110・EX)同様に足もとが狭い。燃料タンクをフロア下に設置したためにフロアが高く、シートとフロアの高さも不足しているので膝が(大腿骨が)水平に近い角度まで上がってしまう。フロア前後も短いし、フロアの前面がより絶壁化しリード(110・EX)のように足首を垂直に立てて踏ん張ることすら難しくなった。ちょこんとお行儀よく着座せざるを得ない。妙に自分がちっちゃくなった気分がする。長時間走行では足首を揃えてフロア内でガニマタするか、ケツを後席にまでずらして猫背な着座をするなどして疲れをごまかした。

 シート表皮には細かい凹凸が設けられ、これで摩擦抵抗を作ろうとしたのかもしれないが、ジーンズでもレインパンツでもリードEXより逆に滑りやすくなっている。ケツ当たりもスーパースポーツと言わんばかりに更に硬くなっている。モッチモッチの私のケツでも2〜3時間が限度、それ以前に足もとが狭くて1時間も乗っていると股が疲れてくる。

 シートは硬く、サスは硬め、おそらくタイヤも硬いのだろう、よって乗り心地はスクーターというよりスポーツバイクのように硬い。小径タイヤだから路面のギャップを拾って腹に衝撃を受けやすい。

 足付き性。170?ない私が両足の靴底を地面にぴったり付けるように着座すると、前席と後席の段差の最後尾まではケツを持っていけない。走り出した直後にケツをわずかに後方にずらす座り方となる。フロアの狭さでは160?以下推奨、足付き性では170?以上推奨と設計の整合性が取れていない。ごくわずかだが着座姿勢も足付き性もリード(110・EX)より落ちたような気がしてならない。

 後席居住性。リード(110・EX)と同様、このサイズのスクーターの中では一番と言える後席の広さである。加えてリード125ではリアステップが変更された。表面積は減ったものの、面積当たりの足圧が上昇し、表面加工も改善され同乗者の足が滑りにくいリアステップになった。

 積載性・収納力
 大容量37Lを誇るラゲージボックスだが、底面の凹凸がいささか多すぎる。金魚鉢にしてみたい内部形状だ。試しに硬式テニスラケットを入れてみたが、薄ラケですらシートが閉まらなかった。スカッシュのラケットも同様である。あと数cm長さがあれば入るのだが。シートが硬くなってしまったこと、着座位置が高くなって足付き性も落ちたこと、トランク内がデコボコになってしまったこと、これらすべては従来より大きなエンジンを無理矢理収めたためではないだろうか。
 肝心のヘルメットの収納性にも明らかな向上は認められない。Mサイズ(帽体はLサイズと共通)のアライ製のジェットヘルメットMZ(白)とSZ-RAM3(銀)で2個収納を試したところ、画像のように最も入れやすかった形でならシートを強引に押さえ付けることで何とか閉じることができたが、シートは軽く変形させているし、ヘルメットも少なくともエアインテーク部分に破損の覚悟が必要である。SZ-RAM3の1個だけを前側に入れればもう少しラクに入るが、それでもシートを押さえつけないと閉まらないのは同じである。
 ヘルメットホルダーはシートヒンジ付近にあるプラスチックの突起が左右に2個あるだけ。いろんな車種で増えている方法だが、強度が心配になる。ヒンジ部分は窮屈なのでヘルメットの金具を2枚とも差し込むのは見た目ほど楽な作業ではない。

 フロントインナーBOX。施錠不可である反面ワンタッチでオープンできる小空間だが開閉の精度が低い。実質ペットボトル専用空間であり、蓋が閉まるのは350ml以下まで。差し込むだけなら555ml軟式ペットボトルがパキパキ言いながらもなんとかハマる。

 バッグホルダー(コンビニフック)は@125/150に付いていたものと似ている。取り付け位置はもう少し高くしないと足もとがウルサイし、引っ掛けるものも限定されてしまう。
 注意すべきはフロントセンターカバー位置にカゴを装着できなくなったこと。原付二種一台で生活の全てを賄うユーザーにとっては悲報である。
 フロアスペースに2L×6本入りペットボトルの段ボール箱を置いたところ薄型ケースでないと前後長不足で浮いてしまった。もともとが狭いので、フロアに荷物を載せてしまうと運転者の足の置き場がなくなるので、積載空間として考慮しないほうがいい。積載性はリアシートからリアキャリアにかけての部分に期待するほかない。

 キャンペーン対象の35Lワンキートップボックスの実用性が高かった。BOXはメインキーと同じ鍵で開け閉めとキャリアベースとの脱着ができる。なかはMZが立てた状態で必ずしも中央寄りでなくても干渉せずに入るし、その脇にまだいろんな物を収納する隙間があった。リアキャリアの裏側にはリアキャリアベースを装着するための穴開けガイドが掘り込まれていて、国内仕様だとガイドに沿って綺麗に穴開けまで済んでいる。シートとボックス双方の開閉が互いに干渉しない親切な設計だ。キャリアベースを装着するとリアキャリアが数センチ高くなってしまうので、BOXを臨時に外してより大きな荷物をリアシートにかけて積みたいときはサイズを合わせたセルスポンジか何かをリアシートに敷けばいいだろう。

操作性
 給油。メインスイッチをオープナーに合わせてバタフライスイッチを上に押すと、カコンとフューエルリッドカバーが開いて給油口が登場する。リード125で一番カッコいいアクションである(笑)。中の給油口は狭くて給油がしにくい。吹きこぼしやすい点はメーカーも自覚しているようで給油ノズルの自動停止後は追加給油しないよう取扱説明書で注意を促している。燃費計測のためレベルプレート面で安定するまでちょろちょろと給油し続けたら随分と長い給油作業になってしまった。
 PCX以降ホーンスイッチとウインカースイッチの位置逆転が続いている。いざという時に親指移動が間に合わないこんなホーンスイッチならホーンの存在自体が意味をなさないのでは?左ブレーキレバーとホーンの同時操作ができれば防げたであろう交通事故が今後ホンダ車から出てくることだろう。
 ミラーはミラーアームが短くてハンドルからの張り出しが少ない。すりぬけにはいいかもしれないが後方視認性は良くない。
 PCX(JF28)にすら装備されていない時計がメーターパネルに追加されたのは嬉しいが、トリップメーターやオドメーターとの同時表示がいずれもできない。これらの表示切り替えと時間修正やオイル交換時期表示のリセットまでをMODEボタン(とメインスイッチ)だけで行う。ボタンを押している時間の長短だけで設定変更をする使いにくい奴である。

 ヘッドライトはハンドルマウントの35W/35Wマルチリフレクター。リード(110・EX)に比べ照射力が向上したという印象は得られない。照射範囲は左右に160°ほどあり、ハイビームもロービームと変わらない程度にクリッピングポイントを照射してくれるので暗いところではもっぱらハイビームが重宝する。国内モデルではメインスイッチをONにするとテールランプ(LED)とデイライトのようなポジションランプ(LED)が点灯する。ベトナムモデルではライトスイッチをポジション位置にすると同様に点灯する。スペイシー125、リード100、スペイシー100、リード(110・EX)と伝統的にフロントウインカーをポジションランプとして常時点灯させていたのだが、省電力を狙ったのか今回のポジションランプはデイライトのような白色LEDに変わった。このポジションランプは色が白いし形状も細いので夜間ではリード(110・EX)ほど目立たないし、日中もコマネチラインと称されるV字型メッキグリルに収まっていて目立ちにくい。LEDテールライトもレンズ面積が小さくなって、被視認性はリード(110・EX)に比べて落ちている。

 eSPエンジンの搭載によって、クラストップレベルの動力性能低燃費を手に入れた。しかし、足もとが狭い、シート下が浅いという短所は従来のままだし、積載性被視認性は逆に落ちているし、パワーが増したぶん運動性能の不安も大きくなった。リード125を冷静に見ればリードEXにPCXのエンジンをぶち込んだだけの内容である。5年前にも同じことを言ったが、足もとを広くしてマトモなヘルメットが2個ちゃんと入るトランクが欲しかった。そのためにはフロントは10インチで十分だしバッテリー消費の激しいアイドリングストップ機能も要らない。リードには日常での使い勝手を極めて欲しい。

2013.9.22 記述

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