ホンダ・NAVI110

 長所:1価格 2着座姿勢 3ニーグリップ 4メーター誤差
 短所:1手間 2航続距離 3その他諸々

 今回試乗したのは2017年にホンダがインドで生産したものを業者が並行輸入した車体である。

 足着き性は良い。ステップは一見すると可倒できそうに見えるが固定式である。運転席のステップと後席のステップの間に足を垂らせば身長が170cmない私でも両足がべったりと接地する。ステップに足を乗せたときの膝の高さは水平より下がり、背筋もぴんと伸びて、ハンドルの高さや開き具合も自然である。着座姿勢GROMZOOMER-Xより良い。しかし着座姿勢が良いということは体重がかなりケツに掛かることを意味する。シートは厚みも弾力も幅(最大箇所で約23cm)も乏しく、全長約67cm(そのうち運転席が約40cm)のどこに座ってもすぐにケツが痛くなってくる。座り心地についてはエイプ、XR100モタード、KSR110、D-TRACKER125、KLX125、旧型GROMよりはマシ、Z125PRO、現行GROMと同等、原付二種スクーターのなかではほぼ最下位だと思う。1時間毎に休憩を入れたくなる。信号待ち等でシートからケツを浮かす瞬間が最も尾てい骨が痛む。シート表皮のグリップだけは問題ない。

 後席。アシストグリップ(またはグラブバー、取り回しハンドル)の側面は手が通らない。後方部分しか掴むことはできない。アシストグリップに腰を当てるほど後方に着座すると密着度が下がるし姿勢も安定する。ステップ位置が高いので股は開き、必然的に運転者のケツを挟むような着座姿勢となる。シートクッションは厚くないので、タンデムするにも短時間に留めたほうがいいだろう。

 エンジン始動はセルかキックになる。その日はじめての始動であれば、よほど暖かくない限り、チョークレバーを引くことになるかもしれない。始動してアクセルを何度か煽ってみてエンストしなければアイドリングはほとんど安定している。様子を見ながら徐々にチョークレバーを戻していけばいい。こんなキャブ車特有の始動ルーティンが懐かしい。

 NAVI110をキックで始動させてみて、手動チョークを採用するスクーターの短所を経験した。キャブ時代のスーパーカブであれば、スタンドを掛けていようがいまいが、左手チョークレバー、右手スロットル、右足キックペダル、この3点を同時操作してスムーズにエンジンを始動させることができた。ところがスクーターのキックペダルは車体後方左側、車体中央よりだいぶ後軸寄りにあるのでバイクに跨ったままではキックしづらい。センタースタンドを掛けてバイクの左脇に立ち、右足でキックする。このときスロットルを煽りたければハンドルを右に切って右手が届くようにしなければならないし、チョークレバーを調整したければハンドルを左に切って左手が届くようにしなければならない。ハンドルを右に切ればチョークレバーはさらに遠くになり、ハンドルを左に切ればスロットルグリップはさらに遠くなるのだ。つまり3点を同時操作して迅速に始動させることが難しいのだ。ほとんどのスクーターが自動チョークなので、今まで気にも留めなかったことだった。

 アイドリング時は不規則にエンジン回転が上下し、それに合わせてヘッドライトの明るさも変化するが、それが動物の呼吸のようで面白い。インジェクターのキンキンする音にも悩まされない。スロットルを回して車体が動き出す頃にはエンジンの振動もだいぶ下がり、60km/hくらいまではとても静かである。排気音・駆動音は、今まで試乗したことのあるバイクのなかでは、トゥデイAF61、スペイシー100、ベンリィ110辺りに似ている。

 85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にするとGPSは100mで56km/h、200mで65km/h、300mで70km/h、400mで74km/h(ここまで約26秒)、500〜600mで77km/h、700mで78km/h、800mで79km/h、900〜1,600mで80km/h、1,700〜2,100mで81km/h、2,200mで83 km/h、2,300mで84 km/h、2,400〜2,500mで平地最高速の85km/hに達した。下り坂ではGPS値で88km/hまでは見ている。GPSが85km/h を示しているとき、アナログメーターは88 km/hを指していた。GPSを基準にすると速度計の誤差は(88-85)/85=+3.5%となる。GPSとメーターの乖離は全域で3km/h以内に収まっていた。最高速はメーカー公表値では81 km/h とのことだが、試乗車はそれを上回っていた。最高速も加速力もいまどきの原付二種スクーターのなかでは遅い部類に入るが、変にデチューンされたような形跡はなく、遅いなりにも全域においてスムーズな変速で好感が持てる。

 比較対象区間(新)307.1kmを走行したところオドメーターも307.1kmを示した。このクラスで初めて距離計に誤差が生じなかった。速度計も距離計もホンダ原付二種の中でも、原付二種全体の中でもメーター誤差が極めて少ない車体と言える。比較対象区間の平均燃費54.9km/Lになった。あくまで参考値として市街地区間では48.9 km/L になった。インジェクションでもeSPでもないがHET(Honda Eco Technology)と称して低燃費ぶりをアピールするだけはある。

 しかしいくら燃費が良くても通勤用途はちょっと苦しいと思う。3.8Lタンクで航続距離が短いだけでなく、燃料計もないから約120km走る度に燃料切れによる断続的な失速現象に遭遇するのである。幹線道路を走っていれば左に寄せて停車するのも難しい。燃料コックは回転方向だけでなく上下にも動いてしまうので、厚手のグローブをしていると走行中にリザーブ(上)へ切り替えるのが難しい。燃料計がないバイクも久しぶりなので、結構スリリングだった。

 車体の剛性感は並みである。一見クレードル形式に見えるフレームだが、スクーター同様のアンダーボーン方式を採用する。燃料タンクを支えるサブフレームはシート下付近から伸びていた。

 操縦性はなかなか良い。フロアではなくステップなので荷重を掛けやすいのだ。ニーグリップできるのも操縦性向上に寄与している。

 操縦性は良くても運動性能が平均以下なのが残念だ。直進安定性は速度が上がればそれなりに安定するが、極低速域ではハンドルがふらつきやすく、すりぬけ時はしばしば足を接地させたくなる。旋回性は膨らもうとする前輪と倒れ込もうとする後輪がしばしばケンカする。バンク角を増やしていくと後輪がアウト側に滑ってしまうこともある。直立状態から30°以上車体を傾けるなら路面とよく相談したほうがいい。サスペンションは前後共に硬い。工事中で凹凸のある路面を通ろうものなら、このクラスのどんなスクーターでも味わったことのないほどの衝撃を連続して受けることがある。ユニットスイング方式だから後輪が大きく衝撃を受けるのは仕方がないが、NAVI110の場合、同等レベルの衝撃を前輪からも受けるのだ。廉価版50ccスクーターにかなり近いレベルのフロントサスである。ところで、このフロントホイールは2stジャイロキャノピーエイプと酷似している。

 絶対的な制動力についてはスーパーカブ110(JA10)よりわずかに強いかどうかといったレベルである。前後共にドラムブレーキなので初期制動がとにかく遅い。おまけにブレーキレバーも遠いので、ブレーキの構えをキープし続けるのも楽ではない。標準装着されていたタイヤのサイズと銘柄は、F:90/90-12 54J TVS CONTA350、R:90/100-10 53J TVS CONTA350M。前後ともインド生産のチューブレスタイヤで速度上限は100km/h と刻印されていた。このタイヤは凍結防止のために縦溝が彫ってある路面が苦手だった。FとRそれぞれが別のタイミングで溝に嵌ってしまうので、車体がヨレヨレして安心して走れない。こんな時もニーグリップできる安心感が恐怖を和らげてくれた。

 短制動乾燥路面でRのみの急制動ではジワーと左右どちらかに滑り出す。くどいようだがこんな時もニーグリップできて安心だった。Fのみで急制動してもなかなか滑り出さない。WET路面ではRのみでは当然滑り出すのが早まり、Fのみだと停止寸前にズッと滑った。今回、暗黒の峠道が一部積雪していて、標準タイヤのグリップの低さを体感することになった。Rが右に右にと滑るだけで全く前に進まなくなってしまった。MT車であれば2速3速でクラッチミートすればそもそも滑らずに進めたのかもしれないが、強めにクラッチミートするCVT車のため上手くトラクションコントロールが出来なかった。それでもNAVI110は両足がべったり接雪できるし、内股で車体を抑えられるので、転倒する恐怖を全く感じることなく運行を続行することができた。

 長距離・長時間走った後は、体がぐったりしてしまった。着座姿勢はいいのだが、シートが硬い、サスも硬い、ブレーキレバーも遠いので、肩に力が入り過ぎていたのかもしれない。総じて快適性は低く、こいつで長距離ツーリングを続けようものなら冥土にNavigationされてしまうかもしれない。

 

 シート下には車載工具が嵌めてあるほか、書類入れにしては大きな収納空間があり、グローブくらいなら畳んで入る。タンク下のBOXには雨具一式が入りそうだが、開口部が狭く、半キャップでも厚めなものは収納できない。BOXを取り外したところで、アライのフルフェイスも収まりそうにない。お米などの重量物ならフロアにベタ置きするメリットもあろう。正直こんな中途半端なタンク下空間を設けるくらいなら、もっと燃料タンク容量を増やした方がいいのでは?リアシート上に荷物を置こうにも、シートとアシストグリップ側面との間が狭すぎてフックが掛からないし、ロープも通しにくい。安価で頑強なリアキャリアをオプション設定して欲しい。

 アシストグリップと一体化したメットホルダーはシート脱着で使用可能になるが、まずこの脱着操作が渋い。それとアシストグリップを固定するナットがメットのDリングに干渉してなかなか引っかけるところまで持っていけない。左右1個ずつ、楽に引っかけられるのは半キャップだけ。左側にMZ(Mサイズ)、右側に半キャップを引っかけてシートを装着するのが精一杯で、Quantum-J(M)に至ってはヘルメット自体がシートに干渉してシートを本体に再装着することができなかった。アライのヘルメットはDリング側のストラップが短いのがメットホルダーとの相性を悪くしている。ヘルメットを被ったとき、折り返したストラップの先端部が顎の真下にくるのを忌避しているのだろうか。

 操作性装備
 バックミラーは鏡面外周付近の歪曲が大きく、警告のためのプリント文字も煩くて、後方視界はあまり芳しくない。
 ハンドルに溶接されているハンドルブレースは太さ約9mmである。何をクランプするにも細すぎる。
 メインスイッチ、ハンドルロック、給油口、シート脱着は全てカギの刺し替えを要する。さらにオプションのBOXはワンキーではなく別のカギである。
 セルボタンのみハンドル右側にあるが、それ以外は全て左側に集中している。左ブレーキレバーを握った状態をキープする機械式のパーキングブレーキ機能を装備している。ウインカースイッチはプッシュキャンセル式。ホーンボタンはその下にあり、ブレーキレバーとホーンの緊急同時操作を可能にしている。

 ライトスイッチはエンジンが始動するまで切っておくために重宝するだろう。ハイビーム/ロービームの切り替えはプッシュボタン式である。絶妙な位置でホールドするとハイ/ローを同時に点灯できる。
 ヘッドライトはフェニックス社製のHS1 35/35Wハロゲンバルブを採用。4〜12m程度の照射はロービームの方が強いが、ハイビームの方が上下共に照射範囲は広い。明るい〜薄暗い程度では照射しているのも分からないこともあるが、周囲が暗くなれば暗くなるほど頼りになるし、ハンドルと同じ向きを照射してくれる。対向車の眩しいぞ!パッシングは喰らわなかったので、常時ハイビーム運行でもいいかと。

 新車状態ですでに溶接箇所が錆びているし、リアフェンダーがひん曲がっているなど、細かい点を挙げれば短所だらけのバイクになるが、ニーグリップできるスクーターの効用と可能性は実感できた。そこでGROM、ZOOMER-X、NAVI110、この個性的な3台は思い切って大部分を共通化して新調してはどうだろう。これはZOOMER-Xをニーグリップできるスポーツスクーターとして復活させる意味を込めている。同じ外装に同じフレームを用い、タンク下にエンジンを設けるMT車がGROMで、シート下にエンジンをぶら下げるCVT車をZOOMER-Xとする。そしてZOOMER-Xの足回りやエンジンのグレードを下げたものをNAVIとする。同じ外見で異なる操縦性のバイクを用意する遊び心をホンダに期待したい。

https://www.honda2wheelersindia.com/navi/

2017.4.7 記述

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