ホンダ
スーパーカブ110
(JA10) NBC110C

 スーパーカブ110(JA07標準仕様/c110-9)と比較して
 長所:1価格 2操舵安定性 3照射力 4シートクッション
 短所:1制動力 2最高速 3標準リアキャリア

 普及タイプのスクーターと比較して
 長所:1燃費 2登坂力 3運動性能 4始動性
 短所:1制動力 2収納力 3乗り心地

 ホンダは2012年、生産地を中国に移してスーパーカブ110をモデルチェンジした。国内モデルの型式はJA10、機種コードはグローバル化の意味を込めたNew Basic Cubの略とされる。今回は主に5,000km走行した2012年モデルに試乗し、そのあとに慣らし運転直後の2014年モデルにも試乗した。

 発進加速。85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にするとメーター読みで、100mで58km/h、200mで72km/h、300mで78km/h、400mで80km/h、500mで82km/h、600mで83 km/h 、700mで85 km/h、800mで86km/h、900〜1,000mで87km/h、1,100〜1,300mで88km/h、1,400mで平地最高速の89km/hを示した。下り坂では96km/hまでは見た。1速2速で無理に引っ張ればレブリミットに当たるが、3速以降は当たらなかった。

 エンジンはJA07とほとんど同じであり、車重増加に伴う低中速寄りのチューニングを施したとメーカーは云う。確かに極低速域や2速発進JA10の方が楽に動ける、差はわずかであるが。その一方で中速以降のどこまでも突き抜けていくようなJA07の加速感(注意:あくまでカブ比)は消失している。0.2psという数字が示す以上に体感加速が落ちていて、無理に回すと騒音・振動がJA07より早く出るようになった。JA07の快適速度は私的にせいぜい70km/hまでだったが、JA10の快適速度は私的にせいぜい60 km/h までである。

 ブイーンというJA07の排気音がJA10でギュイーンと変わった。おもちゃっぽいというか、チャチイなというか、チャイナらしいというか、良く言えばカワイクなってバージンベージュが良く似合う。今回ははじめから5色もボディカラーが用意された。2015年2月現在、クロスカブの3色とスーパーカブ50の緑を合わせれば、市販品としては9色のボディカバーと白黒2色のレッグシールドを組み合わせてカラーコーディネートすることができる。
 外装について付け加えるならば、JA07標準ではハンドルカバー上下はスクリュー直付けだったので、スクリーン取付けなどの際にハンドルカバーを外してみるとスクリューによって削られたプラスチック片が見て取れた。脱着繰り返したらスクリューのサイズ上げんとねってプラモデルかよ。AA04・JA10標準ではナットクリップ、ナットスプリングなどを介して上下ハンドルカバーを固定している。ハンドルスイッチカバー、フロントフェンダー、レッグシールドなども分割式にして整備性向上と補修費節約となった。ドライブチェーンケースも伝統的な金属製に戻された。接触音の少ないプラでも良かったと思うが、観察する限りはJA07のプラ外装のなかでチェーンケースが最も劣化が早いと思う。

 2段クラッチを採用する変速機構はJA07同様に前へ前へシフトアップしていくぶんには走行中も停止中もスムーズだが、停止中のシフトダウンに関しては誠に残念ながら、2012年式でも2014年式でもあまり改善していなかった。ただし、JA07初期型の、再発進するまで変速の成否が分からない曖昧な踏み応えではなく、硬いなら硬いなりに変速したか、変速しなかったのならスロットルを回して再度変速を試みるか、判断しやすくなった。停止直後、再発進までの間にニュートラル前後を1往復させる“確認シフト”が必要なくなったのは大きいかも知れない。
 なお、余談だが、JA10標準クロスカブ、2台ずつ試乗したが、同時比較したJA07修理車の方がシフトダウンのフィーリングは良かった。この修理車はかつて私がお借りしたJA07初期型であり、15,000kmを越えたあたりからギア抜けが出現するようになったという。販売店の粘り強い交渉によりメーカーが保証に応じ、複数の欠けたギアが商品性向上部品とやらに無償交換されたそうである。保証期間を過ぎてから不調をきたすところがやっかいだ。

 燃費。比較対象区間304.7kmをキビキビ走行したところ63.2km/Lになった。オドメーターは303.9kmを指し、距離計との誤差は-0.3%となった。この誤差を修正した後の市街地燃費は52.5 km/Lになった。JA07と同等の燃費を維持していると思う。原付二種燃費王をキープしているが、GROMとほとんど変わらない。

 着座姿勢は“わずかに”改善している。
ハンドルロックした状態でのハンドルとシートとの距離は、JA07標準比で垂直方向に1cm、水平方向に2cmほど遠くなりつつ、ハンドル形状は一般的なスクーターのように絞り込まれた。これによって上半身の余裕は増した。
 一方の下半身はというと、シートクッションの厚みが増えてケツに優しくなった。そして取り付け剛性が上がったのか、マウンティングラバーの吸着力が増したのか、腰を動かしてもシートがグキョっと動かなくなった。そこまではいいのだが、シートからステップまでの距離が垂直方向に2cmほど短くなって変速操作がし辛くなった。身長が170cmに満たない私ですらステップはもう少し下げた方がいいと思う。この窮屈な下半身姿勢を改善するために、私なら更にクッションの厚いクロスカブ用シート(※1)への換装を試してみたい。

 運動性能は改善している。
 JA07標準は単独乗車で攻めるにはけっこう旋回性のいいバイクであったが、いかんせん操舵安定性が悪くて運搬車には不向きであった。後ろに積めば積むほど不安定になり、自分より重い人を乗せて全開発進するとフロントアップすら可能な重心設計だった。そんなJA07標準だが、しばらく乗っていると慣れてしまう。だけど、他のバイクにしばらく乗ってからJA07標準に乗ると、あまりの不安定さに驚くのだ。すりぬけ、極低速時、停止寸前、発進直後など、10インチホイールのスクーターにも劣るほど、キャスター角がゼロなんじゃないかと思うほど、ハンドルに落ち着きがなかった。
 そこでJA10には新しいフレームを与え、ホイールベース延長と重心の前方移動を行うことで安定性を向上させたとメーカーは云う。走行中にわざとハンドルを左右に振ってみるとJA07標準と同様の不安定さが相変わらず現れるものの、通常の使用で不安を感じない程度の操舵安定性は取り戻した。

 制動力は劣化した。
 乾燥路面で急制動を試してみたところ、リアだけだといとも簡単に滑り出した。その際、テールは穏やかに左右どちらかに流れるので怖くはなかった。フロントのみの急制動ではなんとか持ちこたえる。
 WET路面では前のみの急制動で滑り出しそうな気配があったが、乾燥路面とほぼ同様の結果となった。貧弱な制動力では貧弱なタイヤのグリップ限界を早々に越えられないということなのだろうか。
 リアを滑らない程度にフロント中心に制動したいところだが、ブレーキレバーがハンドルグリップに接触するほど深く強く握ってもこの程度の制動力ではブレーキケーブルも運転者本人の手も早々に逝ってしまわないか心配だ。
 JA07標準とて満足できる制動力ではないのにモデルチェンジしてまで何でフロントドラムを小さくするのかね? 調べてみたら、現行スーパーカブシリーズクロスカブを除き、50と110、標準とPRO、全てがブレーキシューを前後で共用しているのだ。JA10標準だけなぜか部品番号が異なるものの、50標準と110標準のブレーキパネルが同じ部品なので、中に入ったブレーキシューも全て同じものではないかと推測する。つまりは、コスト優先か。
 余談だが、ブレーキをじろじろ見ていたら、2014年式の方にはフロントフォークとフロントブレーキパネルの間にゴムシートが挟み込んであった。オーナーさんが付けたものではないという。そういや2012年式の方は急制動時にカクッとしたなあ、サスがヘボいのかと思っていたが、何か挟んでないとブレーキパネルが動いてしまうのか。パネルを作り直さないでゴムシートかよ。

 標準タイヤはCST(チェンシン):C-6016(R)、サイズはF:70/90-17、R:80/90-17を履いていた。JA07標準がF:2.25-17、R:2.50-17だったので、F2.25(R2.50)inch×25.4mm/inch=F57.15(R63.5)mmとなり前後共に太さ・直径が増している。タイヤが太くなったことも安定性向上に寄与していると思う。凍結防止のために縦溝を深く掘った路面を走行してもタイヤが捕られにくくなったし、砂利道で制動してもいないのにいきなりフロントが奪われることも今回は遭遇しなかった。

 積載性は変化なし、と言いたいところだが、またしても運搬車として致命的なミスを犯している。
 JA07標準までは四角形だった標準リアキャリアはテールライトの形状に合わせて郵政的形状に後方延長されたが、それでもキャリアフレームはボディを覆い切れていない。しかも 荷掛けフックとボディ・リアサスなどが近すぎてロープ・ゴムネットなどの脱着作業がし辛いのだ。そもそも運搬車のくせにキャリア面積が狭すぎる。まるで純正ピリオンシート(※2)やBOXの取り付けを前提にしているかのようだ。更にはリアキャリアとカバーリアトップとの隙間が最大で5mmほどしかなく、BOX設置のためのステーがそもそも取り付け辛い。では先にBOXとステーをキャリアに取り付けてからキャリアをフレームに戻そうにもBOXに丁度良く穴が開いてないとボルトフランジを上から刺せない。不親切にも程がある。私だったらリアキャリアをはじめから大きいの(※3)に変えてしまう。
 JA07ではリアキャリア付近のフレームはむき出しで、それらの隙間は一番狭いところでも10mmは確保されていた。

 メットホルダーは車体の右側から左側に移動して、過密駐輪場での入出庫・メット脱着作業に改善を見る。カギ挿入部の長さは50mmから38mmに短縮され、メット脱着作業もJA07よりし易くなった。更なる使いやすさのためにメットホルダーのピストンは上向きに、カギの挿入位置はピストンより上部に、カギの挿入方向は90度後ろに向けて欲しい。そうすればカギの挿入やヘルメット脱着の際にヘルメットを支え続ける必要がなくなる。

 コンビニフック(フックラゲッジ)はレッグシールドとの間隔がわずかに広がって、アライのジェットヘルメット:MZでも引っ掛けやすくなった。メットホルダーにヘルメットを引っ掛けておくと隣接車両と接触することがあるから、このフックをメットホルダーに昇華させるのもいいと思う。

 メーター はパネル面積がやたらデカいくせに情報に乏しい。速度計だけデカくしてもね。海外モデルで装備しているシフトポジションインジゲーターをわざわざ省略してくれたものだから、やたらと小さく、日中は目立たないニュートラルランプが不憫で仕方がない。JA10になってハイビームパイロットランプが装備され、ウインカーパイロットランプが左右別に点灯するようになったが、私的にはどちらも要らないと思う。というのもロービームにおいても従来より上向きに照射するようになったので、ハイビームにしているとすぐに分かるし、フロントウインカーの点滅そのものが運転者本人に見えるからである。それよか燃料が4.3Lしか入らないのだから燃料計をもう少し大きく細かく正確に表示するだとか、機械式のトリップ計を付けてあげた方が長距離ユーザーのためになると思う。

 ヘッドライトは明るくなった。35/35Wバルブそのものの効果もあると思うが、ロービームにおいても照射範囲が上方に拡大している。特にハイビームは遠方からでも青看を照らしてくれる。テールライトもレンズ面積が拡大し、日中でもウインカーの点滅がよく分かる。照射力被視認性共に向上している。

 メインスイッチは運転者向きに傾いてカギが挿入しやすくなった。左右どちらにハンドルを向けてもハンドルロックできる裏ワザは今回も取扱説明書に記されていない。

 咄嗟の時に押せるようにホーンスイッチは親指移動の少ない下に、予定行動のウインカースイッチはそれより上に配置するべきというのが私の持論だが、、、というより殆んどのバイクがそうだったのだが、上下逆転現象はついにスーパーカブにまで侵略してきた。それでもPCXをはじめとするスクーター勢ほど扱き下ろさないのは、左ブレーキを握る必要がないカブならば、両スイッチの中央に親指を構えておくことで、いつでもホーンスイッチを押すことが出来るし、リアブレーキが足踏み式だからホーンとの同時操作を妨げないからである。

 バックミラーは丸型からスクーター同様の形状に変更された。有効視界に文句はないが、ミラー調整が渋いくせに走行中に少しずつミラーが動いてしまうのが気に入らない。JA07までのようにミラーアームとの関節をミラー中央部分にしておけば、走行振動の影響を減らせたのに。こういう細かいところほどメイド・イン・ジャパンとの品質差が大きい。

 もしも私がJA07標準JA10標準のどちらかを買えと脅迫されたなら、JA10標準を選ぶだろう。どちらも目くそ鼻くそだが、安定性が改善し照射力も向上したからである。JA10JA07に対しても同時開発された海外モデルに対しても劣る部分がある。試乗期間中は幸運にも不具合は生じなかったが、“劣化ブ”だとか“中華ブ”なんて呼ばれる理由が分かった気がする。生産地を変えてプライスダウンしたのはいいが、それ以上に品質が下がるのなら、もはやスーパーカブを名乗る資格はない。

(※1)シートCOMPシングル 77100-KZV-Y01ZB 税抜7,500円
(※2)シートCOMPピリオン 77300-096-000 税抜4,850円
(※3)キャリアラゲッジ郵政向け 81200-KZV-L10 税抜10,100円
2015.1.29 記述

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