ホンダ・クロスカブ

JA10標準仕様と比較して
 長所:1乗り心地 2操舵安定性 3縁石すりぬけ
 短所:1足着き性 2後方視界 3照射方向 4乗車定員 5積載性

CT110と比較して
 長所:1機敏性 2経済性
 短所:1不整地走行 2登坂力 3足着き性 4積載性

 2013年発売のクロスカブスーパーカブ110PRO(NBC110BNc、以下PROと呼ぶ)をベースにしてアウトドア風のルックスを与えられた17インチモデルである。豪州の郵便配達に使用されているCT110の後継機として開発され、ついでに日本にも輸入されることになった。製造は新大洲本田(中国)。日本向けモデルの型式はスーパーカブ110(NBC110c、以下標準と呼ぶ)と同じJA10、機種コードはNBC110XDとなる。今回試乗したのは慣らし運転直後の2013年式初期型モデルと同2014年式モデルである。

 比較対象区間304.7kmをキビキビ走行したところ、オドメーターは307kmを示した。+0.7%の誤差があるとするならば、その区間の平均燃費は57.7km/Lになった。市街地走行では標準が50.4km/Lになるときクロスカブが48.5km/Lになった。太くなったタイヤの転がり抵抗だろうか、市街地走行でも長距離走行でも標準にわずかに劣る燃費となった。

 85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にすると、メーター読みで、100mで57km/h、200mで70km/h、300mで75km/h、400mで80km/h、500mで82km/h、600mで84km/h、700mで85km/h、800mで86km/h、900mで平地最高速の87 km/hに達し、その先を見ることはなかった。下り坂では勾配次第だが96km/hから先は見ることがなかった。加速力最高速標準にわずかに劣る。

 操舵安定性、快適性標準に勝る。これには太いタイヤ、ワイド&アップなハンドル、厚いシートなどが貢献している。着座姿勢も良好だが、これ以上ハンドルが高いとスズキ・GN125のように上腕三頭筋が疲れてくるだろうが、長距離走行でもほとんど疲れなかった。ケツすら痛まなかったのは、カブ史上初めてではなかろうか。

 旋回性標準より少しダルい。前後共通サイズのタイヤはコーナーの入口では寝かせにくく、逆にコーナーの出口では立ちが早い。アップハンドルもコーナリングにおいては少々野暮ったい操縦になる。その反面、安定指向が高く、タイヤの接地感も増している。凍結防止のために縦溝が彫ってある道路でも不安なく走ることができた。

 すりぬけ戦闘力は状況による。左グリップエンド先端から右グリップエンド先端までは約82cmある。標準の約69cmに比べ13cmもハンドル幅が広いので、クルマとクルマの間を抜ける際は注意しよう。その一方で、車高上昇により左側端に寄ってのすりぬけで歩道側縁石にステップが接触しづらくなった。標準オフ車の中間的なすりぬけ適正である。

 短制動。乾燥路面でフロントのみ強くかけても滑らない。リアのみ強くかけると滑る。WET路面でもフロントのみ強く掛けてもほとんど滑らないが、リアのみ強く掛けるといとも簡単にロックしてくれる。その際、車体は右にも左にもズイ〜と流れる。制動力の前後バランスで言うとかなり後方に偏重している。標準タイヤはCST(チェンシンタイヤ)C-6512F/Rという銘柄でサイズは前後共通サイズの2.75-17であるが、前後の区別と回転方向が指定されている。

 現行スーパーカブシリーズ(JA10、AA04)全てが同じドラムシューを使用していると推測するが、例外でクロスカブのリアだけサイズが大きい。前輪より後輪の制動力を重視する設計は配達車・オフ車で見ることができる。
 配達物を持つ左手がハンドルから離れているのなら右手はスロットル操作と操舵で忙しいのでフットブレーキ=リアブレーキしか使わないことがある。それならリアドラムを大径化する理由はあるのだが、クロスカブのウインカースイッチは左側だし、リアキャリアは標準サイズ、増してフロントキャリアは撤去しているので過積載や片手運転を全く想定していない。
 路面によってはフロントブレーキをかけられない状況も確かにある。だがその心配をする前に、クロスカブの標準タイヤはブロックパターン調の表面デザインをしているが、オンロード向きのタイヤである。ブレーキを掛ける前にタイヤが先に滑り出す心配をしたほうがいいだろう。

 リアドラムを大径化したいならPRO用キャリアは外さないはず、あるいはCT110用ブロックタイヤを履きたいはず。このタイヤのままなら大径化するドラムはフロントであるべきだ。クロスカブはオンとオフどちらを志向しているのか分からない。

 

 足着き性標準は勿論のことKLX125より悪い。170cmない私だと片足を地面にべったり着けると、もう片方の足はつま先立ちでしかもケツはシート中央からズレてしまう。シート中央からケツを一切ずらさないとなると両足ともつま先立ちとなる。ここまで足着き性が悪くなったのは、シートが標準より厚く、型番こそ異なるが、おそらくPROと同じ前後サスを装着し、インチアップしたぶんだけ車高が上がったからだと思う。足着きは悪くなった一方で見晴らしは良くなっている。

 可倒式ステップを採用しているが、転倒時のステップ折れ損防止というよりも足着き性の悪さを補うために機能している。接地の際は足の真横にステップがあるので、もしも可倒式でなかったら発進の度に足首・脛をステップで痛めるだろう。それに破損が心配なのはステップよりマフラーの方である。せっかく標準とは違うステップを採用したのなら、ステップとシートの距離はもう少し離してくれれば着座姿勢はさらに良くなっただろう。

 ミラーtoミラーはハンドル幅よりも狭い約78cmしかない。アップハンドルにしたことで運転者の腕が上がり、ミラー鏡面の多くが運転者自身を映し、後方がほとんど見えない。安全確認を優先するなら社外品に交換した方がいいだろう。

 ヘッドライト。光量は特に文句はないが、光軸がロー/ハイ共に高くなっているので、対向車を幻惑していないか少々心配である。このヘッドライトはステー(※3)を通してフレームに固定されている。暗黒の峠道では、周囲をおおむね照らすものの、クリッピングポイントからずれまくっている。フロントキャリアを付けないのなら、ヘッドライトが荷物で隠れる心配はない。それなら標準同様ヘッドライトをハンドルに設置して進行方向を照らして欲かった。

 フロントブレーキを握った状態でロックするパーキングブレーキPROから継承している。カブはギアを入れておけば後輪は前には進まないので、過積載を想定していないクロスカブに追加する必要があるのだろうか?その一方でウインカースイッチは左側に移設している。ホーンスイッチと上下逆転したタイプである。

 豪州の要望でこういう装備になったのなら文句言っても仕方ないのだが、率直に言ってこの装備内容でこの値段は高いと思う。税抜価格は標準218,000円、PRO238,000円、クロス265,000円である。標準に対して47,000円、PROに対しても27,000円も高い。実売価格はそれ以上に差がある。

 専用装備として、アップハンドル、ライトステー、肉厚シート、可倒式ステップ、2.75-17タイヤ、大型リアドラム等が与えられた。一見するとワイルドだぜぇ〜な外観はCT110の再来を思わせるが、オフ車としての適性はいかがだろうか。

 CT110豪州仕様には副変速機があった。まあ、副変速機があったところで4×2=8速が全て有効に機能するわけではない。ローレンジの高速側とハイレンジの低速側は半分くらい被っている。せいぜいハイレンジの1速の下にぬかるみ脱出用のウルトラローなるものが1つあれば足りてしまう。クロスカブはギアが4つあるのだし、2速発進も楽にこなせるのだから、第1速だけ少々下にずらして、標準・PROより強い駆動力を発揮してもよかったと思うのだが、1〜4速の変速比はJA07以来変わっていない。
 ギア比以前の問題として地面に噛みつくようなタイヤを履いてないとダメだ。CT110XR100R公道版に試乗していて思ったのは、ブロックパターンタイヤをもってしても滑るところでは滑ってしまう。全ての路面に対して完璧なグリップを発揮するタイヤは存在しない。舗装路向けのタイヤを履く限り、ローレンジなど宝の持ち腐れになってしまう。それに今のホンダ品質でローレンジなんぞぶち込んだらギア抜け問題が再発するかも知れない。

 クロスカブ標準タイヤはブロックパターン上の模様をしているが、オフロード走行を想定しているとは思えない溝の浅さである。実際に林道を走ってみても、やっぱり後輪が砂利に弾かれてしまうので、1速2速で慎重に走らざるを得ない。ワイド&アップなハンドル、2.75-17タイヤなどのおかげで標準・PROより悪路での操縦はしやすいものの、乗り心地の良さからむしろ完全にオンロード用のタイヤと言える。クロスカブのリムサイズはJA10標準JA07標準と共通なので、むしろそれらに乗る人に対してタイヤの選択肢を提供した。

 クロスカブは左右2本のフロントフォークがタイヤ直上のステアリングステムによって1本に結合される。フロントフォークが車軸からハンドル直下まで伸びていたCT110に比べると、ガレ場のように繊細なハンドリングを必要とする際に、路面からの情報伝達が通常のハイホイールスクーターと変わらず“ぼんやり”としていた。CT110後継車を目指すならレッグカバーを撤去してでもオフ車のようなフロントフォークを採用して欲しかった。

 エアクリーナー(吸気)やマフラー(排気)の位置も標準と同じである。ギア、タイヤ、フロントフォーク全てがオンロード向き。CT(カブトレイル)ではなくCC(クロスカブ)と呼んでお茶を濁すわけである。

 皆さんにとってスーパーカブとはなんぞや?私にとってカブとは積んでなんぼの実用車である。もしもJA10シリーズを自分の下駄にすることを考えたなら、PROが最有力候補になる。PROの積載性は魅力的だが14インチホイールだと歩道と車道の境界に設けられた縁石にステップが触れやすく、すりぬけが不利になる。そこで17インチ仕様のPROが欲しいわけだが、それに近いクロスカブのままでは積載性が甘い。CT110のようなミニキャリアはヘッドライト上部に付かないし、リアキャリア面積もCT110より狭い。

 車輪関係の部品は14インチも17インチも同じ値段と仮定すると、PROから外したフロントキャリア・バスケット一式(※1)とリアキャリア(※2)は36,580円。クロスカブとして装着したヘッドライトステー(※3)とリアキャリア(※4)は19,330円。部品代の差額17,250円分だけPROより安くして欲しいのに27,000円も高い。ということは大型リアドラム、可倒式ステップなどに44,250円も払うことを意味する。しかも被視認性向上にも一役買っている作業灯は外されている。

 標準から見てもフロントに積めない、二人乗りができない、一心不乱に直射するライト、派手な色になって47,000円も高いのである。
 クロスカブより安定性の劣るJA10標準JA07標準にピリオンステップを与えるくらいならクロスカブにも付けて欲しかった。たとえ後ろに人を乗せることがないとしても、リアスイングアームにステップを付けておけば後輪に荷重を掛けてぬかるみから脱出しやすくなるのに。

 結局、2人乗りできず、ライトが進行方向を照らさないというJA10PROの欠点と大型フロントバスケットを持たない標準の欠点と、スクーター程度のステアリング剛性・情報伝達力しか持たないというJA07PROを除くスーパーカブ110共通の欠点を全て組み合わせたのがクロスカブなのである。

 装備内容は中途半端で支離滅裂。オフ性能積載性も削いでおきながら、ちゃっかりプライスアップ!現状ではトレッキングバイクとしてもビジネスバイクとしても厳しく評価せざるを得ない。しかし走らせてみるとマイルドだぜぇ〜カブ史上最高の乗り心地ではなかろうか。私だったらTC110(Touring Cub)とネーミングしただろう。そして少なくともフロントドラムはJA07標準サイズに戻し、ピリオンステップも装備する。マフラーに干渉するというのならシリーズ全体で海外モデル用のフレームマウント式ピリオンステップに替える。で、PRO価格に据え置き。フロントブレーキにWAVEシリーズ用のディスクを奢るならプライスアップしても許せるかもしれない。

 なお、今回試乗した初期型のクロスカブコピーバイク並みの出来であった。ドライブチェーンをきちんと調整してもなおフェンダーとタイヤの位置がずれているカブはよく見るが、この個体はヘッドライトステーやウインカーやハンドルまで曲がっているし、リアキャリアのフックも傾いていたり、カバーリアトップとリアキャリアのクリアランスも2〜5mmで一定していない。組み付けが悪すぎる。勿論マフラーも錆びていた。
 走らせての不具合は2つ現れた。一つは、雨天時にスロットルグリップを戻してもエンジン回転が(スロットル開度で中間程度から)下がらなくなることがあった。当然そのまま1速に入れればドンと飛び出す。2014年式では対策部品としてPRO譲りのマッドガードが装着された。もう一つは、フロントの制動力が異常に弱かった。CT110XR100R公道版と同等以上に効かないフロントドラムは初めてだった。ネットで検索してみるとそれ以外にも結構トラブルがあるようだ。
 海外生産になってからホンダ原二の初期型は不具合・欠陥が多い。『カブに始まりカブに終わる』 この名言がホンダの社命を意味するものにならぬ事を祈る。

(※1-1)81100-KZV-L00 キャリアCOMP・フロント 税抜17,900円
(※1-2)81103-GAC-650 プレート・バスケットセッティング 税抜670円
(※1-3)81103-KYF-000 プレート・バスケット 税抜670円
(※1-4)81115- KZV-L00 サブフレーム・フロントキャリア 税抜1,450円
(※1-5)81311- KZV-L00 バスケット・フロント 税抜4,940円
(※1-6)93891-06014-00 スクリューワッシャー 6×14mm 税抜35円×7個=245円
(※1-7)95701-06012-08 ボルト・フランジ 6×12mm 税抜35円×3個=105円
(※1)合計 税抜25,980円 クロスカブに装着するには別途(※1-8)が必要
(※1-8)32103-KZV-L00 サブハーネス・フロント 税抜2,700円
(※2)81200-KZV-L00 キャリアラゲッジ新聞向け 税抜10,600円
(※2)81200-KZV-L10 キャリアラゲッジ郵政向け 税抜10,100円
(※3)ヘッドライトステー 税抜 10,130円
(※4-1)81200-KZV-BOOZA キャリアラゲッジ黄色 税抜 9,200円
(※4-2)81200-KZV-BOOZB キャリアラゲッジ赤色 税抜 9,200円

2015.3.12 記述

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