ホンダ・リード125
NHX125F

 長所:1動力性能 2制動力 3経済性 4後席居住性
 短所:1運転席居住性 2乗り心地 3ヘルメットを選ぶ収納スペース

 2013年に登場したリード125(以下NHX125Dという)はクラストップレベルの動力性能と低燃費、そしてシート下の収納容積を持っていたが、不具合、欠陥なども目立つスクーターだった。不具合のひとつである始動直後の加速不良はECUのアップデートで解決した模様。欠陥としては車軸に問題があったと考える。これは試乗中の違和感と路上観察から得た私の結論である。

 違和感は次の3点だった。
1: 速度を上げるほどに薄れる後輪の接地感。
2: 車体を右にバンクさせてないとまっすぐ走れない高速直進性。
3: 右旋回の方が左旋回より後輪が内側に砕けやすい旋回性。

 路上観察で分かったのは、走行中はシートの左側にケツをずらして座わり、信号停止中は右足を接地する人が多いということ。
 私も試乗中はそうだった。なぜ着座位置がしっくりこないのだろう?なぜ右足ばっかり接地するのだろう?なぜ右足で接地でないと安定しないのだろう?と自問していた。

 これは路面に対して垂直に立てたバイクを真後ろから見て、後軸が路面&前軸と平行ではなく左に傾いてしまっているからである。停止中も走行中も車体を右側に傾けていないと安定しないのである。車体を右に倒すことで、路面に対する前軸と後軸の傾きを均等化しようと無意識に体が調整しているのである。NHX125Dの観察機会が増えて分かったことである。

 今回、2015年式のリード125(以下NHX125Fという)に試乗してみて、上記1:と2:の違和感がほとんど払拭されていた。まっすぐ座ってまっすぐ走るようになったし、メーター読みで90km/h出しても怖くなくなった。車体を後方から観察しても後軸の傾きが分からないぐらいになった。3:についてはまだ違和感が少し残っている。もしかすると前述した傾きの他に、進行方向に対して後輪がわずかに左に操向している可能性も否定できない。次期モデルで改善されていれば、そうであったと言えるかもしれない。

 今回の年次変更では始動性が担保された。PCX同様に、アイドリングストップに電圧監視機能が付き、電圧が低ければスイッチをアイドリングストップ側にしていてもエンジンが自動停止しない。バッテリーもYTZ7SからGTZ8V(急速充電不可)に変更された。キックスターターがないから早めに交換しておこうと、数年おきに交換するバッテリー代がバカにならない。通常の自動車用バッテリーより高いGTZ8Vのせいで一か月のおこづかいがパーになるお父さんもいるだろう。

 NHX125Fに85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にしたところ、GPS表示は次の通りになった。100mで60km/h、200mで70km/h、300mで79km/h、400mで82km/h、500mで87km/h、600mで89km/h、700mで91km/h、800mで92km/h、900mで93 km/h、1,000mで94km/h、1,100〜1,200mで95km/h、1,300〜1,400mで96km/h、1,500〜1,600mで97km/h、1,700mで平地最高速98km/hを確認した。このときメーターは107km/hを表示していたので、GPSを基準にすると速度計には(107-98)/98≒+9.2%のプラス誤差があることになる。

 画像のとおり、下り坂ではGPSで105km/h、メーター読みで115km/hまでは確認している。この時の速度計誤差は(115-105)/105=+9.5%になった。前回試乗したNHX125Dとその現地モデルと比べると、体感的にも数値的にも加速性能がわずかに落ちている。平成28年排ガス規制に対応したわけではなさそうだが?

 アイドリングストップモードで比較対象区間(新)307.1kmを走行したところリード125の距離計は304.5kmを示した。距離計誤差は(307.1-304.5)/307.1≒−0.85%となった。その区間の平均燃費53.1km/Lになった。加速力は微減、燃料消費も微減している。

 ディメンションに変更はないので運動性能も同じである。フロントホイールの方がリアより大きいので立ちが強い。フロントは頑固でリアはケツの振りひとつで向きを変えるが、旋回中にスロットルを絞り増すとコーナーで膨らむ膨らむ。良く言えば直進重視のハンドリングである。NHX125Dよりリアは落ち着いているが、それでも左旋回より右旋回の方が、、、。相変わらずクセの強いハンドリングだが、だいぶ恐怖は失せている。

 制動力は相変わらず強力。乾燥路面での制動距離は見事なまでに短いが、その際ハンドルが遠くなる=フレームが変形するのは今もなお実感できる。フレーム剛性はソコソコ。そしてドライでもウェットでも、左だけ(フロント1ポッド連動)握っても左右同時(フロント3ポッド作動)に握ってもスリップ音とともに後輪は早めに滑り出す。スポーツバイクのように右レバーを中心に、後輪が滑らない程度に左レバーを添えたい。というか、添える程度にしか使えない左レバーを連動ブレーキにする意味があるのだろうか?
 緊急時のライン修正のためリアをあえて滑らせるという方法がある。そういう上級者向けなら、左レバーは後輪単独にして、むしろ右レバーを前後連動にするという方法もあるだろう。反対に初級者向けスクーターにしたいなら、もう少し後輪はグリップして欲しい。ちなみに標準タイヤはIRC:アーバンマスターMB520Zだった。

 現状だと左レバーを握った際に連動する前輪の制動力が弱いので、後輪を滑らせない程度に左レバーを握っていたのでは前輪の制動力をほとんど使えていない。左レバーで連動させるフロントピストンを1→2個にするとかして、連動比率を変えたほうがいい。あるいは連動機構を省いたほうがいい。路面ごとに短制動の練習をして体で覚えた方が確実だ。機構が増えるということは故障の原因も増えるということ。検査対象外のバイクは乗りっぱなしにされることがあるので極力シンプルな方がいいと思う。

 乗り心地NHX125Dは狭くて高いフロア、薄くて硬いシート、後輪の頼りなさから、シートの上に正座して走るとこんな感じ?という腰高感・恐怖感があった。NHX125Fも乗り心地はほとんど変わらない。ユニットスイング式であることを差し引いても、段差を通過した際に受ける衝撃は前輪よりも後輪の方が遥かに大きい。ツギハギな路面では視線が常に上下に揺さぶられることもある。アドレスV125K9もそんな視線揺れがあった。eSPエンジンの重さを小径後輪で支えるから凹凸に嵌りやすいのだろう。
 乗り心地が良くできるならそうして欲しいけど、無理なら無理で、あえて逆に前輪を10インチに下げてしまって路面衝撃の前後バランスを整えつつ、居住性(運転席の足元を広げる)と積載性(足元を広げつつフロントにカゴを付けられるように)を向上させるという選択肢もあると思う。走行性能や乗り心地はPCXに譲りましょう。

 足着き性はあまり良くない。170cmない私が深く腰を掛けると踵が浮いてしまう。燃料タンクで底上げされた高床フロアに絶壁ステップの組み合わせだから、運転席は居住性操縦性も悪い。シート表皮のグリップは良いが、シートクッションは薄くて硬いので、長時間走行では、足首を揃えてガニマタ、ケツを後席にまでずらして猫背、両足をだらんと垂らす、のいずれかで疲労軽減。毎日使う道具にこそマンマキシマム・メカミニマムの思想を反映して欲しい。
 後席は至って宜しい。シートクッションの厚みを増せば座り心地もPCX(JF56)に追いつけるかもしれない。

 積載性・収納力
 シート下は37Lもあるが、浅さと凸凹がヘルメットを選別する。Mサイズ(帽体はLサイズと共通)のアライ製のジェットヘルメットMZとフルフェイスヘルメットのクワンタムJで2個収納を試したところ、MZは前半部分に、クワンタムJは後半部分に置いて、上から押さえつければシートを閉じることができたが、使っていくうちにエアインテーク部分が破損するおそれはある。MZを後半部分に置いたり、クワンタムJを前半部分に置くと、1個だけでもシートは閉じることができなかった。

 ヘルメットホルダーはプラスチックの突起が左右に2個あるだけ。

 フロントインナーBOX。施錠不可だがワンタッチで開ける節度の低い小空間。軟式ペットボトルなら555ml、硬式ペットボトルなら500mlまでが強引に差し込める目安である。蓋が閉まるのは350ml以下のペットボトルと、いなば金のだしカップ3個が目安だった。

 バッグホルダー(コンビニフック)の取り付け位置はもう少し高くして欲しい。足下に荷物を置くと足の置場が余計になくなってしまうので積載性はリアシートからリアキャリアにかけての部分に期待するほかない。荷掛フックをキャリア部分だけでなく、スタンディングハンドル部分の先端にも設けて欲しい。ゴムネット派にはそれだけでも使い勝手が飛躍的に増す。

 

 操作性
 燃料計の目盛りは6個ある。こぼさないように満タン給油して、6個の目盛りが5個に減るまでに走行した距離が62km。5個の目盛りが4個に減るまでに走行した距離が39km。同様に4個→3個が33km。3個→2個が29km。2個→1個が41km。1個の目盛りが点滅をはじめるまでに走行した距離が41kmだった。燃費53km/Lとタンク容量6Lから逆算すると、点滅した時点での残量は1.37L、航続可能距離は73kmと推定できる。燃料計が点滅をはじめるまでに走行できたのは245kmだが、ガス欠を覚悟すればギリ300km走れることになる。前回は燃料をこぼさないことばかりに気を取られたが、目盛り1つあたりの航続距離は比較的安定している点は好ましい。6Lタンクで6個の目盛りだから、ざっくばらんに1目盛りあたり1Lと考えても差し支えないだろう。

 給油の仕方も、最初はノズルを深く差し込んでトリガーを半分くらいの力で引き、逆流防止機構が働いたらそこで給油停止するのがベスト、目一杯給油したいなら、自動停止するごとにノズルの高さを徐々に上げていってトリガーを引く力も徐々に弱めていけばいい。そこまでやっても航続距離が大して伸びるわけではないので、最後は諦めが肝心(笑)。

 メインスイッチにLOCK、OFF、SEAT/FUEL、ONという4つの位置があるが、エンジン停止後すぐにシートを開けたい小生はOFFとSEAT/FUELの位置はいっしょでいいと思う。それと緊急時にブレーキとホーンの同時操作ができないのでホーンスイッチは下に、ウインカースイッチは上に、戻して欲しい。そのうえで左集中スイッチをもっと深く沈めてくれれば更に同時操作がしやすくなる。

 時計があるだけでも嬉しいが、オドメーター/トリップメーターと同時に表示できない。表示切り替えと時間修正やオイル交換時期表示のリセットまでを1つのボタンとメインスイッチだけで行うので、修正の仕方を忘れてしまいそうだ。ちなみにNHX125Fはオイル交換時期をカスタマイズできるようになったという。

 ヘッドライトは35W/35Wマルチリフレクター。この光り方だと50Wくらいは欲しいが、ハンドルマウントのため進行方向を照らす点はいい。ピンポイントの“明るさ”というより“白さ”はPCXLEDヘッドライトにかなわないが、ハロゲンバルブは照らされている所と照らされていない所の輝度差が少ないので、鹿が飛び出して来たり、小動物が足下を横切っても発見しやすい。不思議なもので、照らされる側=鹿の逃避行動もハロゲンの方が早い。

 ハンドリング、制動力、乗り心地、居住性、いずれにも共通して引っ掛かる要素がある。リード125の短所を一言でまとめるなら前後バランスではなかろうか。それを改善したうえで、マトモなヘルメットを2個、“傷つけずに”収納できるようになったら当サイトのコミューター・オブ・ザ・イヤーを進呈したい。初期モデルの危なっかしさはだいぶ失せたので、この動力性能と収納空間に魅力を感じるなら候補に挙げてもいいと思う。

2017.10.16 一部訂正/ 2017.10.3 記述

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