ホンダ・リード125
NHX125J

 長所:1発進加速 2収納容量 3後席居住性
 短所:1運転席居住性 2ヘルメットを選ぶ収納スペース

 今回試乗したのは2018年モデルとして2017年に生産されたリード125(NHX125J、以下Jという)である。慣らし運転を終え、2回目のオイル交換直前の絶好調な状態でお借りした。2016年モデルのNHX125G(以下Gという)には試乗していないので、2015年モデルのNHX125F(以下Fという)からひとつ飛んでの変化をお伝えしたい。

 Jに85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にしたところ、GPS表示は次の通りになった。100mで51km/h、200mで67km/h、300mで76km/h、400mで81km/h、500mで84km/h、600〜700mで86km/h、800mで87km/h、900〜1,100mで88km/h、1,200〜1,400mで89km/h、1,500〜1,700mで90km/h、1,800〜1,900mで91km/h、2,000mで平地最高速92km/hを確認した。このときメーターは100km/hを表示していた。テストコースの平地区間直後の緩やかな下り勾配でGPS速度99km/h・メーター読み108km/hを確認した。GPSを基準にすると、(100-92)/92≒+8.7%または(108-99)/99≒+9.1%で9%前後のプラス誤差があることになる。

 Fの時より向かい風が強かったのか、規制対応でパワーが削がれたのか分からないが、Fより全域で加速力が減退しているような気がした。スペック上は出力が0.1kW/8,500rpm、トルクが1Nm/5,000rpm、Jでは落ちている。それでも依然としてスタートダッシュの鋭さはクラストップレベルにあると思う。

 アイドリングストップモードで比較対象区間(臨時)333.3kmを走行したところJの距離計は336.1kmを示した。距離計誤差は(336.1-333.3)/333.3≒+0.84%となった。その区間の平均燃費50.3km/Lになった。スペック上はわずかに燃費効率が向上しているが、実際はFよりわずかに悪い数字になった。

 

 前輪が後輪よりも大径なので、運動性能Fと同じで癖が強い。フロントは頑固に安定しようとするがリアはケツの振りひとつで向きを変える。スラロームではフォークリフトのように後輪で操向する乗り物を運転している錯覚さえ覚える。リード125の短所はバンク角を増やすほどミッションケースやマフラーを擦ってしまうのでは?という恐怖が増える点だが、その一方で旋回中の車体をすぐに立て直して数秒間足を接地せずに直立するオフ車みたいな芸当ができる長所もある。でもそんな長短は街乗りスクーターには要らないのでリード100のような素直なハンドリングに戻して欲しい。
 なお、Jでは旋回性の左右差は特に感じなかった。

 制動力はフロントディスクを挟むピストンが1個になって落ちている。乾燥路面で短制動を試してみると、ハンドルが遠くなる=フレームが変形するのを実感できるほどの強力さは無くなった。しかし後輪制動力とのバランスやコンビブレーキの存在意義を考えれば、むしろ今回の方が望ましいと思う。ドライでもウェットでも、左だけ(フロント連動)握ると後輪は早めに滑り出すのだから。ちなみに今回も標準タイヤはIRC:アーバンマスターMB520Zだった。

 乗り心地は向上している。ツギハギな路面での視線揺れも減った。リアサスペンションも更新したのかと思ったが、Gまでと同じ部品だったので、専ら肉厚が増したシートの効果である。従来は100均のプラスチックまな板のように薄くて座り心地の悪いシートだったので、やっと平均的な水準になったのである。

 足着き性はわずかに向上し、股下77cmの私が深く腰を掛けてもギリ踵が浮かずに接地できるようになった。フロアの部分的な絞り込みが効いたのだろう。

 シート表皮のグリップは悪くないし、シートクッションは平均的なスクーター並みの肉厚になったので、長時間走行はFより楽になった。それでも燃料タンクで底上げされた高床フロアの先端にそびえる絶壁のため足で踏ん張ることができない。足元の窮屈さから逃れるために、そして倒れやすい後輪よりも安定した前輪に体の重心を移動しようと、無意識のうちにガニ股で両肘が開いた前かがみな姿勢になってしまう。長時間走行ではフロアから両足を垂らすこともあった。長時間走行した後に疲れたのは内股と右手首が少々だった。内股については狭さゆえ。右手首はスロットルグリップの頻繁な握り替えが原因だと思う。Jは、スロットルグリップを軽く回せば元気よく発進するくせに、その先の中間加速を引き出そうとするとかなりスロットルグリップを回し増ししなければならない。回し増しでは足りずにスロットルグリップを握り替えることも多かった。

 積載性・収納力
 シート下の容量は大きくて、衣服のみなら30Lいっぱいに収納した登山用デイパックも飲み込むことができた。25Lサイズなら楽勝だろう。
 ヘルメットの収納力は、Mサイズ4個のヘルメットで試してみた。

 OGK:ASAGI=A、OGK:RT-33=R、Arai:MZ=M、Arai:Quantum-J=Qと略する。収納結果〇△×で略する。シート裏に全くと言っていいほど干渉しないでシートを完全に閉じることが出来た場合は、軽く干渉する程度でシートを閉じることができた場合は〇△、上から押さえつければシートを閉じることが出来た場合は、上から強く押さえつけてやっとシートを閉じることが出来た場合は△×、強く押さえつけてもシートを閉じることが出来なかった場合は×とする。1個収納の場合、前側に収納したときの結果を先に記し、後ろ側に収納したときの結果は後に記し、2個収納の場合は前側に収納したヘルメットを先に記し、後ろ側に収納したヘルメットは後ろに記す。
 1個収納の結果は次の通りであった。

A△・A△
M△×・M△×
Q△・Q〇
R〇△・R〇△

 Qを例にとると、Quantum-Jを前側に1個だけ収納したときは上から押さえつければシートを閉じることが出来たが、後ろ側に1個だけ収納したときはシート裏に干渉しないでシートを完全に閉じることが出来たことを意味する。
 ちなみに公式サイトではLサイズのQuantum-Jを2個並べて見せている(シートを閉じた画像ではない)が、アライのヘルメットはMサイズとLサイズで共通の帽体(外殻、シェル)を使用しているので、凹凸のあるトランクでは、内装が厚いMサイズの方がLサイズより収納し辛くなる可能性が高い。その一方でOGKカブトやSHOEIの帽体はMサイズよりLサイズの方が大きいので、Lサイズの方が収納し辛くなる可能性が高い。
 MZはエアインテークが最も出張っていて一番収納し辛かった。MZよりチークガードが短いVZ-RAMやSZ-RAM4ならもう少し収納しやすくなる可能性はあるが、逆にQuantum-Jより上位のAraiフルフェイスはどれもエアインテークが出張っているので厳しい結果となるだろう。
 ASAGIの形状は横幅があり、後ろ側に収納するときは、かなり後方に置かないとシートを閉じることが出来ないので、収納作業が面倒だった。
 RT-33は一番体積が大きいものの、前後に長い形状をしているので意外にも最も収納しやすかった。

 

 2個収納の結果は次の通りであった。
A△・Q△
A△×・R△
A△×・M△
Q△・A△×
Q△・R△×
Q△・M△
R×・A×
R△・Q△
R△・M△×
M×・A×
M×・Q△
M×・R×

 置き場所が混み合うと1個収納のときのベストポジションが取れないので、同じヘルメットを同じ側に置いても同じ結果にならなかった。
 前後どちらかに×が付けば収納不可であり、シートヒンジが前にあるため、高さのあるMを前に持ってくるとどうやっても閉まらないのにZ×・Q△のようにQ△まで表記するのは、前後どちらがよりクリアランスが少ないか参考にするためである。
 MQを組み合わせて収納するときはFとは前後を交代することになった。これはトランク形状が変わったからだと思う。パーツリストでラゲッジボックスを調べてみたら同じ番号はFGだけであった。初期型のDも違うし、現行のJも違う。
 前後どちらかに△×が付けば、なんとか閉まるというレベルなので、これも収納不可と言うべきである。前後とも△でようやく収納できるが、ヘルメットを損傷させる覚悟が必要である。当回試したなかで2個収納できる組み合わせは、わずか3通りしかなかった。
 1個収納でさえ〇になったのはMサイズのQuantum-J を後ろ側に置いた場合だけという情けない結果を見ると、JIS超の規格をクリアーするMサイズ以上のヘルメットで、干渉せずに2個収納できる可能性があるものはLサイズのQuantum-J以外にあるのだろうか?可能性があるとすればMZよりチークガードが短くてエアインテークの低いSZ-G、内装フル着脱も条件に加えたらおそらく皆無かも知れない。Quantum-Jは内装フル着脱に見せかけておいて、実は一番汚れるストラップだけが脱着できないケチ仕様である。

 ヘルメットホルダーはシートヒンジに近くに突起を左右に2個設けただけである。右側はどのヘルメットでも左側よりフックし辛かった。Dリングを2個とも通して左右いずれにもフックできたのはR。次にフックしやすかったのはMQは左側で1個のDリングのみ通せて、右側は2個通せるもののシートを中間位置まで開かないとフックできなかった。一番安いAは右側に全くフックすることが出来なかった。

 フロントインナーBOXは収納容量が増した。施錠不可だがワンタッチで開けることができる。開閉の節度が増して電源も付いた。パキパキ言いながらも670mlまでのペットボトルを収納して蓋を閉じることはできるが、スムーズに出し入れしたいなら525mlまでのペットボトルを推奨する。

 リアキャリアは後席とツライチで大きな荷物を載せやすいが、固定方法に工夫がない。リアキャリアの後半だけでなく先端にも荷掛けフックが欲しい。そのフックで同乗者の手を痛めるおそれがあるというのなら、リアステップとは逆向きの格納式フックにすればいいと思う。

 PETボトル2L×6本入り段ボール(長さ205mm高さ310mm幅300mm)をフロアに置いても大型フック(コンビニフック)には干渉しないし、50cmの高さがあるものを置いてもハンドルを切ることはできる。しかし運転者の足の置き場に苦労する。リアステップは運転者からは遠いし足を掛けると畳まれてしまうので代用不可である。このフロアの幅は最広部で44cmあるが、絶壁部は37cmしかないので、上記した段ボールを置くと、フロア先端に片側3.5cmずつしか余裕がなくなる。

 操作性その他。
 燃料計の目盛りは6個ある。こぼさないように満タン給油して、6個の目盛りが5個に減るまでに走行した距離が102km。5個の目盛りが4個に減るまでに走行した距離が29km。同様に4個→3個が26km。3個→2個が29km。2個→1個が41km。1個の目盛りが点滅をはじめるまでに走行した距離が37kmだった。6個の目盛りが5個に減るまでに走行した距離がFより増えたのは、満タン位置を正確に出すために前回よりさらに時間をかけて給油したことが原因かもしれない。いったん満タンになったと思っても給油面がチマチマ下がるので、何度も入れ直すことになってしまった。燃費50.3km/Lとタンク容量6Lから逆算すると、点滅した時点263.5kmでの推定残量は0.76L、推定航続可能距離は38.3kmである。スタート時にどれだけ給油増しするかで、微妙に計算が変わってくるが、ガス欠覚悟で走ればなんとか300km航続できる計算になる。目盛り5個から先は1つあたりの航続距離が比較的安定している点は好ましい。

 メインスイッチのOFFとSEAT/FUELの位置は統一してもいいと思うし、ホーンスイッチウインカースイッチの上下位置は元に戻して欲しい。なお、スーパーカブ110と同様にハンドルロックはハンドルを左に切っても右に切っても効くのを今回初めて知った。

 ヘッドライトの光源はLED。ロービーム時はレンズ面積があまり大きくないので、2個のポジションランプと合わせた3つの光りがひとつの模様にも見える。被視認性はソコソコだが、リード125、スーパーカブ110、 PCXと続いた2018年モデルはそれまでのLED車よりも照射範囲が広がった年だった。ただし、ハロゲンバルブを光源とするヘッドライトに比べると旋回中に進路を照らしてくれないし、照射されている所とそうでない所の輝度差が高くて目が疲れやすいし、対向車がLED車だと、光源が眩しくて対向車の周辺が見づらいのも欠点だと思う。消費電力の少なさから今後はLEDが主流になっていくだろうから、もう一歩のブレイクスルーが欲しい。

 リード125は(ハンドリング、制動力、乗り心地、居住性)の前後バランスが悪いスクーターであると、Fで総括したが、制動力と乗り心地については前後バランスが取れてきた。従来と同等のトランク収納力を確保しながら足着き性座り心地も改善している点でモデルチェンジの意義はあったと思う。
 しかしJになってもハンドリングにクセがあり足元が窮屈である点は変わらない。インチ“差”イズで安定性を狙うのではなく、足元に余裕を設けることで下半身を使っての操縦性を改善し、結果として安定性も旋回性も両立するという方向性に期待したい。そのうえで、もう少しヘルメットを選ばないで2個収納を実現できたら最強の実用スクーターになれるのだが。

2019.1.14 記述

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