タイホンダ・PCX

 長所:1着座姿勢 2走行性能 3静寂性 4燃費 5コスパ
 短所:1デザインで犠牲にした使い勝手 2シート厚 3標準タイヤ

 PCXはタイホンダで生産されるグローバルモデルで日本でも2010年3月から正規に輸入販売されている。各国に合わせて仕様が少々異なりタイ向けモデル(以下NC125Dという)はトルクカムの違いで日本向けモデル(以下JF28という)よりも加速に優れているという。今回試乗したのは慣らし運転直後の2010年式NC125Dと同JF28である。特に断りがない限り両車に共通するコメントである。

 都合何台か試乗したが、比較対象区間304.7kmを走行したときのトリップメーター値は304.9km〜308.0kmとバラつきがあった。それぞれの誤差を修正したうえで燃費は次のようになった。
 まずはNC125D
 アイドリングストップモードにして平地と下り坂を60km/hに、登りを50km/hに抑えて比較対象区間をまったり走行したところ55.3km/Lになった。今度はアイドリングモードに切り換えて比較対象区間をキビキビ走行したら46.5km/Lになり、同じくアイドリングモードで市街地をキビキビ走行したら40.7km/L〜43.3km/Lになった。NC125Dの燃費はアドレスV125よりわずかに良い結果となった。
 そしてJF28
 アイドリングストップモードにして比較対象区間をキビキビ走行したところ49.9km/Lになり、同じくアイドリングストップモードで燃費を意識せずに市街地を走行したら49.2km/Lになった。このときは普通にすりぬけして発進回数を減らしていたが、発進する時は常時3/4以上はスロットルを絞っていたし、渋滞箇所だってあった。ちなみにスーパーカブ110で同様の走り方をすると56km/Lになった。JF28の燃費はアドレスV125を凌駕し、市街地走行に至ってはカブにも迫る勢いである。今まで取り上げた原付二種スクーターの中で最も低燃費だと思う。

 かつてもアイドリングストップ機構付きのスクーターが、カブ系ミッションスクーターを脅かすほど燃費を向上させたときがあった。PCXスーパーカブ110の関係は1999年のジョルノクレアジョルカブの関係を彷彿させる。

 アイドリングストップシステムはとても良く出来ている。
 シートに圧がかかっていること、
 エンジンが温まっていること、
 10km/h以上で一度は走行していること、
 停止してから3秒を経過すること、を条件にエンジンが自動停止する。スロットルグリップを回せば静かな音ですぐにエンジンは目を覚まし、もたつくことなく発進する。そのタイムラグは皆無に近い。モードスイッチで切り替えるほか、サイドスタンドを出したり、下車後3分を経過してもストップモードが自動解除される仕組みになっている。

 走行中はストップモードとアイドリングモードを自由に切り替えられるが、ストップモードでエンジンが停止している状態からアイドリングモードに切り替えても自動的にエンジンが再始動するわけではない。左ブレーキレバーを強めに握ってエンジンスタートボタンを再び押さなければならない。だから、3秒以内に再発進する可能性が高ければ一時停止する前にアイドリングモードに切り替えるか、エンジン停止寸前にアクセルをちょっと吹かすのもいいだろう。

 ストップモードでエンジン停止中はスタンバイ表示灯がメーター内で点滅している。ヘッドライトもやや減光するものの点灯したままなので停止中は電気を消費する一方である。メーカーは『通常の使用でバッテリーの寿命が縮まることはない。』と説明するが、 販売店は『バッテリーを消耗するので通常はアイドリングモードにしておいて下さい。』と全く逆の説明をするところもある。発進停止が多い通常の市街地走行でこそガソリンを節約できるのに、バッテリーの消耗を警戒して折角の機能を使わないようでは本末転倒だ。ストップモードを常時使い続けると、交換サイクルが短くなることによってバッテリー代の方が節約したガソリン代よりも高くつくことがあるのかも知れない。アイドリングストップシステムは経済性や環境効果というよりも、むしろ運転者本人の快適性を向上するアイテムだと思った。信号停止中のわずかな時間でもエンジンの騒音と振動から解放されることで、こんなにも快適なツーリングになるとは思わなかった。もしもPCXにアイドリングストップシステムが装備されていなかったとしても全域にわたって騒音や振動が抑えられている。

 平地でアクセルを全開にしてみたところ、
 NC125Dは約100mで60km/h(全てメーター読み、以下同じ)、約200mで80km/h、約350mで90km/h、約500mで100km/h、約800mで105km/hに達し、その後は断続的なリミッター現象が発生した。下り坂で一瞬110km/hを見ることはあったものの、105〜106km/hあたりまで落ちてしまう。平地も下りも最高速105〜106km/hだった。登坂は120kg/13.7PSの@125が90km/hで登る坂を126kg/11.5PSのNC125Dが87km/hで登る。出足の一瞬はそれほど速くはないが、ハーフスロットルでも軽々と加速していく様はリード110に似ていた。

 一方のJF28は、約100mで55km/h、約200mで78km/h、約300mで90km/h、約500mで98km/h、約1.3kmで107km/hを示した。下り坂では108km/hまで伸びるのを見た。進行距離ごとの到達速度で見るとNC125Dとそう変わらないが、体感する中間加速はNC125Dに比べて明らかに劣っている。JF28は40〜60km/hで加速が鈍り、70km/h付近から元気が出てくる。その先はNC125Dと遜色ないほどパワフルで100km/hまではあっという間である。NC125Dだって充分に静かなのに、トルクカムでデチューンしないと日本の加速騒音規制は通らないということなのだろうか。  クルマとの比較では、出足は少し有利で後半は引き離されるものの、おおよそNA-ATの軽自動車の全開加速に近かった。やっぱり原付二種の動力性能は車道を走るうえで最低限のものだと思う。

 私が体感した60km/hまでの発進加速アドレスV125と比べるとUZ125K5>NC125D>UZ125L0>UZ125K9>JF28 という感じになる。K9とJF28のあたりにシグナスX-FI台湾仕様が食い込む可能性もある。リードだって発進は意外と軽い。トリートは最下位指定席である。動力性能よりも、とにかく静かなスクーターを望む方はJF28とリード(110、EX)の二択になると思う。アドレスV125もK9以降はとても静かになったが、JF28とリードは更に一枚何かで包み込んだかのように静かである。環境性能や快適性で勝るから発進加速でアドレスに負けたとしても全然悔しくないのだが、姿かたちが同じNC125Dにぶち抜かれたらやっぱり悔しいだろう。タイ・トルクカムに交換するJF28オーナーは少なくないと思う。

 私見だが、PCXはEUに輸出予定の150cc版の方がキャラに合っているような気がする。バイパスや自動車専用道路も通行したいが、125cc並みの燃費と取り回しも捨てがたい。年齢的に任意保険も安くなったが、スクーターに50〜60万円も出せるかっ!そういう人にとって150ccはとても有用だと思う。

 綺麗に舗装された乾燥路面を走る際のハンドリングはスポーツバイクらしさが出ている。 速度を上げるほどハンドルが座ってきて車体が安定していく。 後輪からエンジンまで一体となったユニットスイング式の宿命ゆえ、後輪が路面からの衝撃を受けたときの乗り心地の硬さはスクーター然としたものである。ヘタって来れば多少はソフトになるのかもしれないが、リアサスペンションにはもう少し柔軟性が欲しかった。一方のフロントサスペンションはしなやかでフレーム剛性にも不安はない。コーナーからの立ち上がりはリア主体でグイグイ持って行ける、、、というほどのパワー感・コントロール感はさすがにないが、フロントとリアのトレースを揃えるような感じで上品に走ればとても綺麗に曲がることができる。低速トルクをより太らせたエンジンを載せて、リアタイヤをいくらか太くしてグリップを高めれば、よりダイナミックにコーナリングが出来そうな気がする。

 見た目には細すぎるタイヤだが、ヒラリヒラリと軽快にスラロームしたり、ハンドルを目いっぱい切って足を接地せずに切り返せるのもこの細さが効いている。速度を上げれば14インチホイールと程良い車重が高い直進安定性を作りだし、低中速やコーナリングでは細いタイヤによる軽快なハンドリングが生きてくる。直進性旋回性のバランスはとても良い。

 エンジンの吹け上がり方とか重量感という意味ではまぎれもなく4st車なのだが、着座姿勢の良さが操縦性を高め、軽快なハンドリングと高い安定性を持っている点で、今まで取り上げたスクーターの中ではスズキ・アドレス110が最もキャラの近い存在だと思う。優劣は別にして、着座位置の高さや車体の重さから、バイクを寝かせてコーナーに入るところまでの挙動はアドレス110よりPCXの方がよりスポーツバイクに近い感覚がある。バンク角にも余裕があり、ステップ(スタンド)がそろそろ地面に接触するのでは?という位に寝かせてもなかなか擦らない。ステップの位置を車軸の高さまで落としたことも操縦性の向上に大きく貢献している。

 一方でコーナーからの立ち上がりは軽量かつ2stのパンチ力で規制前アドレス110の方が有利だと思う。トータルで見てPCXアドレス110と真正面から比較できるハンドリングに仕上げてきた。はっきり白黒つけんかい!と言われたら、旋回性のアドレス110、直進性のPCXと答える。少なく見積もっても今までホンダが日本国内で販売してきた原付二種スクーターの中では最高のハンドリングだと思う。やっとアドレス110のオーナーさんにもお勧めできる原付二種スクーターが登場した。

 着座姿勢そのものはアドレスV125やアドレス110より良い。
 アドレスV125はフロアの傾斜角度が緩く足を前に投げ出せるものの、フロアの高さはもう少し低くても良かった。アドレス110はフロアの高さを抑えたものの、足を前に投げ出した位置だけがしっくりくるポジションだった。PCXはステップの位置を車軸の高さまで落としたうえに、ステップのケツ上がりが緩やかで着座位置も高いので、足を少し後方に置いても姿勢は安定する。ニーグリップの真似ごとをしようとしたとき、アドレス110の場合は足を前に投げ出すことで足を伸ばし、シート先端を股で挟み込んで車体をグリップしたが、PCXのシートは全体的に角が取れ過ぎていて、かなり内股にならないとシート枠をグリップできない。左右の足首でフロアトンネルを挟むことで車体を簡易グリップできる。このとき足首を挟みつけてもくるぶしが接触しないように設計されている。

 着座姿勢が良くても座り心地まで良いわけではない。
 運転席はふとももや腰に負担がかかりにくい良好な着座姿勢だが、ケツの収まりが悪く座っていて落ち着かない。シートバック腰当ての頂上に尾骶骨を乗っけるくらい後方に着座しないとケツが安定しない。シート自体が駄目なんだと思う。シートクッションが薄くシート形状にも問題がある。特に前半部分は角を取り、前後にわたって幅も狭くして、座面が後方にいくに従って尻上がりとなる(緩やかに前傾している)。その結果、尻を置く面積が小さくなって尻を支持できなくなってしまった。デザイン的な理由もあるかも知れないが、なんでこんなシートにしたのだろうか?思うに、14インチホイールを採用しながらもマトモなヘルメットを収納するスペースを設け、なおかつ足付き性(170cmない私で踵が少し浮く)もソコソコに抑えて適正身長の幅を拡げようとした。そのしわ寄せがシートに来たのではないか。またハンドルは位置が高くて幅もあるので仰け反り気味の着座になる。

 後席も残念だ。格納式のリアステップを採用して着座姿勢そのものに無理はないのだが、やはりシートが薄くて、しかも後方に行くに従って徐々に幅が狭くなるから、ケツの収まりが悪い。PCXのリアスポイラーは、座面との間に手を差すことができず、タンデムグリップとして機能しない。同乗者は安心して掴まるものが車体にない。片手は運転者の腹に巻き、もう片方の手は背後のリアスポイラー上に手を広げるか、あるいは背もたれを装着するしかない。ビッグスクーター風の外見をしているからと言ってそのような座り心地があると思ったら大間違いである。ひとまわり大きなボディにもかかわらず後席居住性はアドレスV125よりちょっとマシ、という程度でしかない。

 リアスポイラーの裏側は多少えぐれているので、現状でもゴムネットのフックがなんとか掛かるが、それとて荷物の安定に不安が残るのでそのまま走行するのはお勧めしない。乗せるにも載せるにも効用の低い標準リアスポイラーはデザインに走った感がある。見た目はリアスポイラーというよりダッグテイルか。

 フロントスクリーンにしても随分と低い。ショートスクリーンに見慣れてしまったせいかこんな中途半端なものでもバイク単体ではカッコよく見えてしまう。先端には外気導入口が設けられており、見た目よりは整流効果はあったが、中途半端さは否めない。ハンドルはスクリーンを超えそうな高さにあり、大柄な人が白いPCXに跨いでいるとまるで“おまる”に跨ぐ赤ん坊のようだ。

 グローブボックスはタバコ、ケータイぐらいならすっぽり入るがグローブは畳むか押し込まないと入らないし、280mlペットボトルすら入らないほど薄くて浅い。カギがなく常時開閉できるノブだが作りがチャチで開閉に節度がない。

 トランク(収納スペース)はMサイズのジェットヘルメット:SZ-RAM3が前半部分にすっぽり入る。後半部分は浅いうえに前傾しているので境を設けない限りはヘルメットを収納したうえで薄手のカッパやグローブを押し込むという使い方になろう。ヘルメットの代わりにプロテクター付きのライディングジャケットもモノによっては畳んで収納できる。

 メットホルダーの金具は妙に長くてヘルメットとの間にメットホルダワイヤーなるものを噛まさないと実用にならない。MサイズのSZ-RAM3とSZ-Mならば画像のようにボディの窪みに合わせて引っ掛けることができたが、わざわざ工具入れからワイヤーを取り出してあごひもの金具にワイヤーを通すという作業がとても面倒臭い。もしも私がオーナーだったら直付け1個用と割り切ってホルダーの金具を短く切り落とし、ハンドルパイプに社外品のメットホルダーを増設するだろう。

荷物の有無にかかわらずシートの閉まりが非常に悪く、シート後端にあるハンガー部分を力強く押さないとシートが閉まらない。シートを開けた時のグラつきと閉まりの悪さは、シートヒンジ部分にある着座センサーを有効にするためとおっしゃる方もいるが、給油口グローブボックスまで揃ってこの精度の低さでは説得力に乏しい。

 ヘッドライトは常時二灯式マルチリフレクターを採用する。
 NC125Dは取扱説明書によれば25/25W。その配光特性は、周囲を広く薄く照らしながらも、ロービームは路面を中心に照らし、ハイビームは遠方を直射する。暗黒の峠道を走るとき多くのバイクで迷わずハイビームにするのだが、NC125Dではロービームを使う場面も多かった。というのもロービームの方がコーナー手前の路面状態を確認するのに丁度良い距離を照射してくれるからである。ハイビームの方は路面そっちのけで遠方ばかり照射して路面状態を確認しにくいのと、メーターパネル内で光るハイビームパイロットランプが(シールドの開閉状態を問わず)眩しすぎて視界を妨げるのである。

 JF28は30/35Wである。照射力はスペイシー125やシグナスXなどには全くかなわないが、30/35Wのスーパーカブ110よりは明るかった。若干光量が増したためか、光軸が下がったのか、ハイビームにしてもコーナー手前の路面状態がいくらか見えるようになった。一方で対向車への眩惑を恐れたのか、照射角度が上方に不足しているし、ハイビームパイロットランプも相変わらず煩すぎる。この走行性能からするともう少し光量の強いヘッドライトが欲しいところだが、アイドリングストップシステムとの共存は難しいのだろうか。

 ウインカーはヘッドライトの明るさに潰されない適切な位置にあり、これをポジションランプとして常時点灯させれば被視認性は一段と向上するだろう。現状のポジションランプはライトレンズ全体をX字調に光らせる効果はあるだろうが、照射力にも被視認性の向上にも大して貢献していないと思う。ヘッドライトは常時2灯式だから一方の球が切れても無灯火走行になる心配もないし。でも、ここにあるポジションランプをなくしてしまうとスカイウェイブ(CJ43A)にかなり似てしまう。

 メーター内は速度をアナログ表示し、燃料計・トリップ・オドをデジタル表示する。トリップメーター値をリセットするのに4〜5秒間も強く押していなければならない。また、せっかくのデジタルなのに、時計機能を省略している。時計については要望が多くアドレスV125Sでさえ標準装備した。燃料計の目盛は9つもあるのにはじめの1つを消費するのに97kmも走行した。(60km以下定速走行)そこから先は約14km走行する度に1目盛消費するが、残り5つになるとまたペースが落ちる。PCXに限ったことではないが、かなりいい加減な燃料計である。

 2010年に登場したホンダ・ビッグバイク勢に習い、ウインカースイッチホーンボタンの配置を逆転させた。人はそれぞれ手の大きさ・指の長さが異なるから一概には言えないが、私の場合、配置逆転によって、どちらのスイッチも遠くなってしまった。右合図はグリップを握り変えなくても出せるが、左合図・ホーンは共に遠くなった、特にホーンボタンを押している間は親指が浮いてしまい、ブレーキレバーと同時操作するのが難しくなった。同時操作したところで親指が浮いた状態では握力は半減する。この配置逆転には賛否が分かれるだろう。

 バックミラーは先端を尖らせて鏡面積を狭めているが、淵に近いところも像の歪みが少ないし、左右に張り出していてまずまずの後方視認性だった。一方ですりぬけるにはハンドルと共に幅が少し気になることもしばしばあった。

 メインスイッチで集中操作できるのは最近のトレンドだが車種によって操作方法が微妙に異なる。特に複数のスクーターを同時に所有する人はキースイッチを押しながら回すのが右だか左だか分からなくなってくるかもしれない。そこでホンダは工夫した。イグニッションキーをONとOFFの間『SEAT&FUEL』にしてスイッチを上に押せばシートオープン、下に押せば給油口が開口する。エアブレイドから引き継いだこのバタフライスイッチ、アイデアはいいのだが、私が試乗した全ての個体で給油口のポップアップ量が不足していた。一番状態の良い個体でもグローブを外して素手ですくわないと開けられなかったし、一番ダメな個体では鋭利なものを隙間に差し込まないと掬うことすらできなかった。

 シート保持についても一言。ハンドルグリップとシート表皮の摩擦力でハンドルを左に切った位置でもシートを開けたままに保持することも辛うじて可能ではある。しかし、シート取付部は微妙なガタつきがあり、保持ダンパーもないので、風が吹いたり、ケツ下がりに駐輪するとすぐにシートが落ちてくる。ハンドルをまっすぐにしてシートをハンドルにもたれかけるまで開かないと安定しない。そう、ハンドルと言えば試乗した全ての個体でハンドルが右に曲がっていた(ハンドルをまっすぐにすると前輪が左に傾く)。カブ110にもそんな個体があった。タイホンダの品質、大丈夫?

 そして標準タイヤ:IRC SS-560はグリップが弱い。雨天時に急制動を試してみたところ、前だけ、後ろだけ(といってもフロント1ポッド連動)そして前後両方と、いずれの場合でもタイヤが滑り出した。通常の雨天走行でもマンホールを通過しただけでリアがツルっと滑り出す。マンホールどころか縦縞の入ったWET路面を走行しても後輪は微小ながら滑り続けている。直進性がいいからリアが滑ってもすぐに立て直すが、フロントも滑り出すと分かった以上、雨天時は折角の旋回性能も完全に封印してかなり慎重に運転せねばなるまい。
 乾燥路面で急制動を試してみたところ、後ろだけ(といってもフロント1ポッド連動)でも前だけでも前後同時でも滑り出した。乾燥路面だと滑り出す直前に前輪も後輪もスリップ音が聞こえるのが唯一の救いである。乾燥路面の短制動でフロントがロックしてしまうバイクは私が今まで乗ったなかでは非常に少ない。実は派手に寝かせてコーナリングする際にも後輪に一抹の不安があるのだが、もしかすると乾燥路面でもタイヤが滑り始めているのかも知れない。現地モデルを並行輸入してこのタイヤが付いているのならまだ諦めがつくが、日本向けモデルにまでこれほど滑るタイヤを標準装着するメーカーの気が知れない。摩擦抵抗を減らして燃費を向上させたのか?安全性よりも燃費スペックを優先したのか?という疑惑が生まれる。

 このデザイン・走行性能・環境性能を持ちながら実売価格を30万円に抑え、しかもアイドリングストップシステムまで標準装備した意欲は大いに認める。

 しかし、ライダーの快適性安全性に直結する部分、座り心地、照射力、タイヤなどの性能を二の次にしているようでは車格的には普及クラスの域を出ていない。デザインを優先した結果、使い勝手はどうみても国内原付二種スクーターで最下位である。ご自慢のデザインとて風防やリアキャリアを付ければたちまちブッ壊れてしまう。

 以上を踏まえて以下のような方にPCXをお勧めしたい。
そろそろアドレス110が寿命を迎えるが、再びハンドリングの良い原二が欲しい人。
アドレスV125やトリートの安っぽさに愛想が尽きた人。
シグナスXやリード110(EX)の足元の狭さに耐えられなくなった人。
ちょっとイケてるスクーターが欲しいが、ビッグスクーターほどデカイor高いと困る人。
原付二種一台で全てを賄うほど生活に困っていない人。

 価格が近いからコマジェとも比べたくなる。環境に優しいのはPCXだが、乗り手に優しいのはマジェスティ125である。何と言っても両者のシートは月とスッポンくらいに質が違う。後席に人を乗せる機会が多いならばビッグスクーターマジェスティ125からPCXに買い替えるべきではない。

 エイプ、リード、カブ110、同PRO、PCXとついにホンダは原付二種を5台ラインアップした。いずれのバイクも個性的だが、これ1台で!という決定版がない。原付二種に限って言えば最近のホンダはどうもバランス感覚が落ちているようだ。

2010.9.26 記述

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