ホンダ・Sh-mode

 長所:1直進性 2着座姿勢 3制動力 4動力性能 5経済性
 短所:1積載性 2収納力

 2013年9月に登場した Sh-mode はベトナムで生産される原付二種スクーターである。今回試乗したのは慣らし運転直後の初期型日本仕様である。

 SH125に一番近いのかもしれないが私は試乗経験がない。今まで取り上げた車種の中では全体的なパッケージがホンダイタリア・@125に良く似ている。@125のホイールサイズを大きくして、車体を細くして、女性向けにデザインして、所々をコストダウンして、最新のエンジンに換装したという印象である。ホイールサイズ拡大で、より直進性重視のハンドリングになったが、足もとは狭くなった。車体が細くなったおかげで足付き性が向上したが、リアサスは1本になった。現行モデルで言えばSH125の廉価版ファッションスクーターという感じだろうか。

 Sh-mode に85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にしたところメーター読みで100mで66km/h、200mで80km/h、300mで90km/h、400mで95km/h、500mで98km/h、600mで100km/h、800mで平地最高速の103km/hを確認した。不自然なリミッター現象は体感しなかったが、この先を見ていない。
 進行距離ごとの到達速度ではリード125にわずかに及ばなかった。その一方で始動直後毎の加速不良は発生しなかった。

 アイドリングストップモードで比較対象区間304.7kmを走行したところトリップメーターは302.3kmを指した。距離計にマイナス0.78%の誤差があるとするならば、その区間の平均燃費48.0km/Lになった。アイドリングストップモードで市街地走行をしたときは40.3km/Lになった。燃費もリード125よりわずかに劣る結果となった。

 運動性能は速度を上げるほど高くなる直進性が印象深い。走行中にわざとハンドルを左右に振ってみても強力に中央に戻されてしまう。横風に対する抵抗力も強く、スポーツバイクに近い直進安定性と言えよう。

 速度を上げるほどに前輪のジャイロ効果が高くなり、100km/h出す頃には前輪だけが駆動しているのか思うほど前輪の回転力が強くなり、前輪自体も左右に膨らんでいるような感覚がある。これ以上スピードを出すと前輪が暴れ出してしまいそうだ。

 旋回性。バンク角が浅いとき、後輪は前輪の後を素直に追っていく。バンク角が深いとき、前輪が大回りするようになるので、意識的に後輪で前輪を追いかけて覆い被せるようにすると上手く曲がれる。前輪径(約55.04cm)が後輪径(約53.56cm)より大きなバイクの性質が現れていると思う。タイヤのグリップ次第ではもう少し倒せて速くコーナリングできるようになるだろうが、スポーツスクーターになるには決定的に何かが足りないように思う。

 ホイールサイズが大きいだけあって前輪、後輪それぞれに直進性が高いが、スポーツバイクに比べると前輪と後輪の一体感というものが不足しているような気がする。上記した運動性能で気になる点はフレーム剛性に起因するのではないかと思う。DIO110、ベンリィ110、リード125のように短制動でハンドルが遠くなる、、、までは実感できなかったが、スポーツバイクのように大きなタイヤをステップスルーできる車体に付けるとなると本来のスポーツバイクのようにはいかないのだろう。勿論、常識的な運転では何ら問題ないレベルである。

 参考までにこれまで取り上げた国内現行スクーターに車体そのものの運動性能に優劣を付けてみると、こんな感じになると思う。
 直進性は、 Sh-mode >PCX>シグナスX>DIO110>ベンリィ110>トリート≒?リード125>アドレスV125Sになり、
 旋回性は、PCX>シグナスX>アドレスV125S> Sh-mode >DIO110>トリート>リード125>ベンリィ110になり、
 剛性感は、PCX>シグナスX> Sh-mode >以下out of 眼中。

 フロントブレーキの制動方法はPCX、リード125国内仕様と同様である。右レバーでフロント2ポッドが、左レバーでフロント1ポッドとリアドラムが、両レバーでフロント3ポッドとリアドラムが作動する。

 制動力。乾燥路面にて試したところ、右レバーだけ強く握ったところ滑らなかった。左レバーだけ強く握ったらリアタイヤがわずかに滑った。このとき後輪はまっすぐ滑る。両レバーでは全く滑らなかった。強力で安心感の高いブレーキである。

 標準タイヤはチェンシンタイヤC-922F/Rである。リードやDIO110と同じ名称だがサイズは全く異なる。
 晴天時のすりぬけ走行で縦溝のある路面を通過してもほぼ不安がなかった。
 暗黒の峠道においては何度か前輪が滑り出すことがあって焦った。いとも簡単に砂利に持っていかれる傾向はスーパーカブ110に似ている。しかしカブ110と異なるのは、カブは旋回角ゼロでも前輪が捕られることがあるが、Sh-modeで滑ったのは角度がついていた時だけだった。しかも足を地面に付ける前にSh-mode は勝手にリカバリーしてくれた。
 比較対象区間には凍結防止のために路面に大きな縦溝が掘ってあるトンネルがある。そこは山頂付近にあり、天井から染み出た水で常に路面が濡れている。かつてPCXで通過した際には前後輪ともに滑っていて生きた心地がしなかった。DIO110でもリード125でも怖かった。ここをSh-mode で通過した際には後輪はまあ大丈夫だったが、前輪は滑りだしそうな気配はあった。代表的な中型スポーツバイクで通過した際は平然としていられたのでやはりC-922F/Rはグリップ不足なのだろうか。

 運転席居住性。@125よりわずかに狭いような気がするが、DIO110やリード125のような窮屈さはない。170cm位の人でジャストフィットではなかろうか。ステップスルーの前後長はフロア部分で約14cmしかない。DIO110で約15cm、リード125で約20cmなので一見すると窮屈そうな足もとだが、座ってみると印象が変わる。フロア先端の幅がDIO110・リード125で約36cmのところSh-mode で約40cmある。フロアからシートまでの高低差が、DIO110で約47cm、リード125で約42cmのところSh-mode で約49cmある。運転席の最大シート幅はリード125の約30cmと同じだが、先端にいくほどSh-mode の方が広くなる。運転席のシート長では3cmほどSh-mode の方が長い。燃料タンクを後席下に設置したために、寸法的な制約を受けることなく、背筋を伸ばしてきちんと着座できる運転席になっている。ここ最近のホンダ原付二種スクーターで一番マトモな着座姿勢である。

 シート表皮の細かい凹凸がジーンズ・レインパンツをグリップする。ケツ当たりはリード125ほどではないが、かなり硬い。ベンリィ110くらいの硬さがちょうどいいと思う。Sh-mode は着座姿勢が良くても、その姿勢のとりかたは限定されているし、シートも硬いので、ぷりっぷりっの私のケツでも2〜3時間走ったら小休憩が欲しくなる。

 リアサスは5段階のプリロード調整ができる。1〜5で一番柔らかいという1の標準位置で乗車したが、もう少しソフトでもいいかなと思う。ホイールサイズで得したのか、それでも乗り心地は原二スクーターのなかではいいほうである。

 足付き性。170?ない私が両足の靴底を地面にぴったり付けるように着座すると、前席と後席の段差の最後尾まではケツを持っていけない。走り出した直後にケツをわずかに後方にずらす座り方となる。片足ベタ片足つま先立ちならばシートに深く座ることができる。@125もそうだったが、Sh-mode の方がスリムなぶん若干足付き性がいいようだ。

 後席居住性。国内原二スクーターとしてはリード125と並んで一番いいと思う。シート面積が“比較的”広く、リアキャリアが握りやすいからだ。両手を逆手にして自らの手を背もたれ替わりにすれば、シート後端まで下がれるので野郎同士の2ケツも実用になる。もちろんキャリアの左右脇を順手で握るのもたやすい。
 後席シート長は約28cmとリード125と互角。シート幅は最大幅・最小幅ともにリード125に2cmほど負ける。座面の広さだけならリード125有利ということになるが、乗降性は Sh-modeの方がいいかもしれない。その理由はリアステップの可動方向にある。リード125は水平方向に回転するタイプなのでちょっとした足の動きですぐにリアステップが動いてしまう。一方、Sh-mode は水平ではなく斜めに角度が付いている。同乗者が下からつま先ですくわない限りリアステップが動くことはないので、乗降時にも走行時にもステップが動くという不安が少ない。
 なお、このリアステップは運転者がバックステップ代わりにするには使い勝手が悪い。運転席からは少々遠いのと、発進直後に足をステップに戻す際にリアステップがすぐに上がってしまうからだ。

 積載性・収納力
 ラゲージボックスは、Mサイズ(帽体はLサイズと共通)のアライ製のジェットヘルメットMZ(白)1個が精いっぱいである。それも底面に凹凸があるため、シートを押さえ付けないと閉じることができない。エアインテーク部分がちょうどシート裏の穴が開いているスポンジ部分に触れるのでシート・ヘルメット共にダメージはないと思うが、あまり気持ちの良いものではない。
 ヘルメットホルダーはシートヒンジ付近にあるプラスチックの突起が左右に2個あるだけ。@125時代に比べ明らかなコストダウンである。左右ともにヘルメットの金具を2枚とも差し込むことができるし、ヘルメット頭頂部の円形がボディのカーブにうまく沿うようにデザインされているのはDIO110同様である。

 フロントインナーBOX。そんなもんありません。
 バッグホルダー(コンビニフック)は@125/150に付いていたものと似ている。Sh-mode とて取付位置をもう少し高くして欲しい。
 フロントセンターカバー位置にカゴは装着できない。
 リード125はおろかDIO110より前後長の短いフロアスペースなので足もとに何かを置こうとは考えないほうがいい。

 積載性はリアシートからリアキャリアにかけての部分に期待するほかない。リアキャリア裏側には4点箇所フックがあるものの短くてイマイチ。荷物の固定にはその大きさに合わせたゴムネットを用意してリアキャリアに上手く引っ掛ける必要がある。給油の度にゴムネットを外して荷物をどかす作業が懐かしい。それが面倒であればトップBOXを取り付けろということになるが、デイパックのような大きな荷物はBOXには入らないし、フロアにも収まらないので給油時は一時的にハンドルに引っ掛けておくか、自身で持っていないといけない。積載性と収納力はスクーターとしては最低レベルと覚悟しておこう。

 操作性
 給油はメインスイッチをオープナーに合わせてバタフライスイッチを下に押すと、パチンとシートが浮いて、後席下に給油口が現れる。カギ無しの燃料キャップを開いて給油する。給油口は平均的な大きさだし、目線が近いので給油作業は至ってラクである。ところでバタフライスイッチは下にしか動かないので、バタフライという表現は相応しくないよね?とくだらないツッコミを入れてみる。
 ホーンスイッチとウインカースイッチの位置はPCXにかなり近い。いざという時にホーンスイッチに親指移動が間に合わないし、左にウインカーを出すにも大きく手を動かさないと届かなくなってしまった。一度決めた仕様は是非を問わず、あらゆる車種に展開しまくるのはホンダの悪いクセである。
 ミラーはスペイシー100のものと似ている。鏡面の歪曲はなく、左右への張り出しも平均的で後方視認性はまずまずである。
 PCXにすら装備されていない時計がメーターパネルに追加され、トリップメーター(2つ)またはオドメーターとの同時表示ができる。トリップ計と時計は別々のボタンで操作できる点もいい。速度計と燃料計はスイープ機能付きのアナログ針である。ホーンボタン以外で操作に困ることはないだろう。

 ヘッドライトはハンドルマウントの35W/35Wマルチリフレクター。35W一灯にしては明るい方である。照射範囲は左右に160°ほどある。ロービームは10mほど先を重点的に照射し、その周辺だけはロービームの方が明るいが、平均的な照射力はハイビームの方が勝る。10mより手前のクリッピングポイントについてはハイビームでもロービームと変わらない程度に照射するので暗黒の峠道ではもっぱらハイビームを使用した。
 ポジションランプがウインカー下に点灯する。Sh-mode も省電力を狙ったのか従来のウインカーを常時点灯する方法に比べ、随分とショボイ。日中ではポジションランプよりよっぽどコマネチラインの方が目立つくらいだ。被視認性は平均に留まる。

 リード125とは真逆の設計で積載性や収納力はほぼ最下位だが、『まず人ありき』のパッケージが非常に気に入った。運転者自身の居住性や操縦性を考慮したら現時点でSh-mode が最も2ケツしやすい原二スクーター(国内モデル限定)だと思う。SH125にも是非とも乗ってみたくなった。

2013.10.2 記述

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