ホンダ・スペイシー100

 長所:1安全性 2静寂性 3価格
 短所:1加速力 2燃費

 ホンダ・スペイシー100(4st)リード100(2st)の後釜として2003年9月に発売された原付二種スクーターである。中国合弁企業で生産することで4stながらもリード100よりも安い税抜き200,000円という価格を実現させた。今回は慣らし運転を終えたばかりの07年式フルノーマルモデルに試乗した。

 外見はスペイシー125のフロントにリード100のリアを合わせたかのようだ。一つ目小僧を連想させる大面積40Wヘッドライトは照射力こそ55/60Wのスペイシー125に及ばないが、照射範囲が広く、車幅灯としても常時点灯しているウインカーと合わせ、被視認性が非常に高い。夜間はスペイシー125と見違えるほどの存在感だ。

 エンジンは空冷4st102cc。これをセルモーターキックで起こすわけだが、いつも眠そうな始動音である。アイドリング時は車体がわずかに震えるが、発進直後にクラッチがすぐに繋がり音も振動もすごく少なくなる。他のスクーターでは半クラッチになりそうな極低速でも、安定して徐行することができる。この領域でイライラしないスクーターはそう多くはない。

 アクセルを全開にすればそれなりに唸るが、全域にわたって静かで振動も少ない。発進から最高速までトルクが一切凹凸しない超スムーズな変速である。その反面、加速は亀のように遅い。2ケツしたアドレスV125に発進からして大負けしてしまうのだ。その体感加速はトゥデイ(中国産・キャブ仕様)に毛が生えた程度である。

 スロットルグリップを絞る。走り始めの頃は60km/hまでの加速に約150m、80km/hまでの加速に約700mを必要としたが、走り込んでいるうちに、60km/hまで100m強、80km/hまで約400mまで縮んできた。(全てメーター読み。以下同じ)85kgの負荷をかけて最高速は長い直線区間で平地85km/h、下り坂90km/hまで確認できたが、一般の道路ではよほど信号間隔の長い国道でない限り80km/h以上を見る機会はほとんどないだろう。

 制動力はリード100より向上している。制動装置そのものよりも4stならではのエンジンブレーキが貢献しているのだろう。前後連動ブレーキもお馴染みの装備である。サスペンションは前後とも高級なものではないが、硬さは丁度良い。これ以上硬くすると衝撃吸収力が落ちるし、これ以上柔らかくすると旋回時や急制動時の踏ん張りが利かなくなる。

 フロントを12インチにしたことで安定性が向上し、リアを10インチに留めたことで小回りが効き、前後タイヤの太さのバランスが良く車体を寝かせての旋回性もいい。ハンドルを目一杯切った位置で足を接地せずにクルクル旋回できる。この安定性と旋回性の良さはリード100やスペイシー125では考えられなかったことだ。

 速くはないが、連続するタイトコーナーをスイスイこなしていく。徐々に速度を上げて、真面目に攻め込むと、CHENGSHIN-TIRE(中国)製リアタイヤが滑り出した。着座姿勢が良いためにすぐにイン側の足が接地して、不安無く体勢を復帰できた。滑り出すまで車体をバンクさせてもフレーム剛性についての不安はなかった。スペイシー100の標準タイヤは日本国内で流通する一流メーカーのものよりグリップが低いかも知れない。

 予想に反して良かったのが運動性だが、逆に予想に反して悪かったのが燃費である。比較対象区間の平均燃費は37.6km/L。発進停止の多い市街地区間では29.3km/Lにまで落ち込んだ。メーカーサイトによればリード100より30%も燃費効率が向上したというが、実際はあまり変わらないのではないかと思う。状況によっては常時全開を強いられるこの動力性能の低さが災いしているのか。
 それともエンジンを構成する部品あるいは金属材質そのもののレベルが日本のものより低いのかも知れない。そう思わせるのは、全くのコピーであるにもかかわらずオリジナルより非力さを実感した金城・ドギーの例があるからである。でなければ、これだけ非力でこれだけ燃費が悪いのは、ホンダのエンジンとは思えない。

 地図ソフトで計算した比較対象区間は304.7km。スペイシー100のメーターは320.4kmを指していた。プラス5%の距離計誤差があるとすれば、平均燃費は35.7km/Lになるだろう。

 単独での居住性。シートは程よく硬くてシート表皮のグリップも高いので、数時間乗車に耐えられる。フロアステップ先端の傾斜角度はアドレスV125より若干きついので、足をより伸ばせるのはアドレスV125である。一方でハンドルの幅・フロアの幅はスペイシー100のほうが広いので足首以外はスペイシー100のほうがゆったりしているだろう。2ケツしての居住性シート表皮、グラブバーともにグリップが高く、前後シートもメリハリのある形状で長さもあるが、同乗者のステップボディ一体式なので、信号停止で運転者が地面に足を着くたびに同乗者の足と接触する。

 ホンダのスクーターは2ケツしても挙動変化が少ないものが多く好感が持てる。スペイシー100も例外でなく、2ケツ操縦性はリード100やアドレスV125より良かった。スペイシー125との比較は難しい。なぜならスペイシー125はかなり乗り心地が良く、2ケツした方が動きが良くなるからだ。

 運転者にとってはスペイシー100の方が2ケツ操縦性はいいが、同乗者の股にとっては独立したステップがあるアドレスV125の方がラクかもしれない。2ケツ居住性2ケツ操縦性の双方で満足したいならホンダ・@125、SYM・RV125EFI、ヤマハ・マジェスティ125(同FI)あたりをお勧めしたい。

 積載性収納性
アルミ製リアキャリアの外枠部分はどこでもフックがかかるので、後席とグラブバーにかけて大き過ぎない程度の荷物は固定できる。リアキャリアは一段下がった中途半端な高さにあり面積も狭い。BOXの取り付けを前提にしているように思う。

 メットインスペースは底面の出っ張りが大きい。ジェットヘルメット:SZ-RAM3を試してみたら頬パッドを圧迫させないと収納できなかった。ジェットヘルメットにとって頬パッドの変形は安全性を低下させる要素である。フルフェイス収納可能を謳うならジェットぐらい余裕で入らなければダメだ。

 インナーボックスもないよりあった方がいいが、ちょっとした工具やグローブ、書類ぐらいしか入らない。フロントバスケットの装着もできないのだから、フロントカウル内に半キャップヘルメットを収納するくらいの空間を設けてくれてもいいと思うのだが。コンビニフックの存在とメインキーの操作でシートオープンできる点は重宝する。一方でガソリン給油口はシートを開けないと出てこない。後席からキャリアにかけて、荷物を固定しているときはいちいち外さなければならないので、ロングツーリングの際はおっくうである。

 立体的な視界を得られ安全確認がしやすいミラーだが、左右の張り出しが大きく、すりぬけするには少し気を使う。リア周りも短足なのであまり左によるとミッションケースを擦りかねない。すりぬけ戦闘力はアドレスV125にも、一回りデカイ@125にも劣る。

 総合評価。この動力性能をカバーするだけの安全性は十分に備えている。スローで面白みは全くないが、値段のわりにまとまりが良く大きな欠点は見当たらない。言わば原付二種のカローラだ。スペイシー100は19年排ガス規制の適用期限をもって生産終了となった。

2008.4.6 追記/ 2006.6.25 記述

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