ホンダ・スペイシー125

 長所:1ライト 2乗り心地 3運転席居住性 4静寂性 5整備性
 短所:1旋回性 2すりぬけ 3前後制動バランス

 スペイシー125は1983年に登場したホンダの4サイクル・ミドルスクーターである。95年に登場したこの3代目は水冷エンジンの空冷化と燃料タンク容量の減少で、ヘルメット収納スペースを設けた。また、足踏み式のリアブレーキを左手動式に変えて安全性も向上させた。
 マイナーチェンジは、2000年に平成11年排ガス規制に対応し、2002年には前後連動ブレーキを採用し、04年に外装を少し変更して現在に至るが、8月いっぱいで生産終了される可能性が高い。
 前回試乗したのは17,000km走行した3代目初期のモデルである。こいつは発進直後に非常に大きな振動があって私の評価を落とした。中古車ゆえ、各ねじが緩みつつあった可能性がある。

 今回試乗したスペイシー125は、3,000km走行した04年以降のモデルである。メーカーサイト内の“スペイシー125の歴史”では加速騒音規制の対応について明記してないが、前回試乗したモデルより発進が穏やかになり、振動も嘘のように消えているので、おそらくマイナーチェンジの際に対応していたのではないかと思う。
 非常におだやかであるが、その加速は全域でスペイシー100より速い。リード110(4st)には発進で負けそうだが、中速以降はスペイシー125の方が伸びる。全域での滑らかな変速はさすがホンダのスクーターである。

 イグニッションをONにするとメーターとライトがすぐに点灯する。セルでしか始動できないのだから、エンジンが完全にかかるまではライトは付かないで欲しい。振動はアイドリング時に認めるが、発進直後から気にならなくなる。一旦動き出してしまえばバックミラーで後続車のナンバーを読み取れるほど振動が小さくなる。

 クルンクルル〜〜ンという耳当たりの優しいエンジンサウンドは、唸ってばかりのスペイシー100に比べ落ち着きと高級感がある。80km/h以上は音色が変わるものの、前回のような苦しそうな音ではない。むしろ爽快なくらいだ。まったり系のエンジンにさえ高回転の楽しみがある。これこそホンダのエンジンである。かつてのスペイシー125はスタートダッシュで2ストスクーターに置き去りにされ、長い直線で追い付き、追い抜くという動力性能であったが、排ガス規制・騒音規制が適用された後は2ストもかなり去勢されてしまい、発進加速からして2st最終モデルたちにそう劣るものではない。

 とにかく静かで変速も滑らかなので体感加速はあまり速くない。より発進の遅いカブ90の方がまだ軽快感があるくらいだ。負荷85kgで全開加速を試みた。暖かい日中では約150mで60km/h、約350mで80km、約800mで90km/h(全てメーター読み。以下同じ)だったが、なぜか涼しい夜になると約100mで60km/h、約200mで80km/hにまで向上した。平地最高速95km/h、上体を伏せて99km/hまで確認できたが、一般公道では90km/hに届かずに次の赤信号に引っかかるだろう。

 比較対象区間304.7kmの平均燃費が35.1km/Lだった。オドメーターが312.2kmだったので、地図ソフトが正しいとすればメーター誤差は約+2.5%ということになる。これによって修正すれば燃費34.2km/Lとなる。

 今回は峠も走行した。相変わらず攻める気にはなれない。やはりクッション性重視のフロントサスだが、今回のモデルは前回ほどサスがヘタってないのか、いくぶん動きが締まっていた。旋回性は、リーンウィズで車体だけをバンクさせる程度の旋回なら問題ないが、ハンドルを切ってより小さく旋回しようとすると挙動が変わってくる。右に左にとコンパクトなS字を描いてみると前輪の接地点がどこにあるのか分かり辛くなる。このフワついたフロントサスは小さく曲がろうとするほどに、まとわり付くような動きをする。この状態を回避するため、旋回中はなるべくハンドルを切らずに、また後輪には常に駆動をかけておきたい。直進の全開走行でもフロントはビシッとしているとは言えない。ちょっと言い過ぎかも知れないが、タイヤの代わりにヨガボールでも履いているのかと思う瞬間もあった。

 ホイールベースも数値以上に短く感じる。路面の凹凸、特に縦溝などを踏んだときに前輪がヨレやすい。スペイシー125で2ケツして“すりぬけ”るなら、直立直進の、それも左右ミラー間の幅が十分にある場合のみに留めた方がいいだろう。単独乗車であっても渋滞停止中のクルマの間を縫ってまで先を急ぐようなスクーターではない。

 制動力。4サイクルならではのエンジンブレーキが、加減速の多い街中での速度管理を楽にしている。ブレーキレバーに手を添える頻度が2ストスクーターよりだいぶ少ない。新たに採用した前後連動ブレーキだが、過信は禁物である。単独乗車でブレーキレバーを強く握って急制動を試みたところ、左(連動)だけだと、いとも簡単に後輪がロックしてテールスライドした。同じ力で両方握ってもまだ後輪がロックしやすい。しかもスリップしたときの回転半径が小さく、けっこうバランスを崩しやすい。個人オーナーさんが提供してくれたこのスペイシー125、どうりで転倒痕があるわけだ。乾燥路面ではスポーツバイクのようにフロント主体で制動したほうが良さそうだ。滑りやすい路面では、、、とにかくゆっくり走るしかないだろう。
 なおスペイシー125には、左ブレーキレバーを握った状態で固定するパーキングブレーキ機能がある。ホンダスクーターには50ccでさえ当たり前の機能だったが、中国産になってから省略されつつある。

 ヘッドライトはスペイシー125の最大の長所である。ライト面積の広い55/60W。マルチリフレクターではないが、その照射力は@125より強く、ほとんどクルマ並みである。ポジションランプとして左右のウインカーも常時点灯しているので、非視認性も極めて高い。今回の走行では期待してもいないのに先行車が道を譲ってくれることが何度もあった。大した運動性能でもないのに比較的速いペースで夜間の峠道を流せたのはひとえに強力な照射力のおかげである。

 運転席居住性は現行スクーター6モデル※で一番かもしれない。シートの硬さ、おしりの支持はOK。一見するとそう広くないフロアだが、ゴム張りしたフロアが靴をグリップしてくれる。フロア先端はかなり先まで足を伸ばせるし、同乗者用のリアステップもバックステップ代わりに運転者が使おうと思えばまあ使える。時々足の位置を置き換えることで3〜4時間の連続走行も苦にならない。170cmない私でも深く腰をかけて地面にべったり足がつくが、座る位置を少し前にずらせば160cmなくても良好な足付きである。フロアは先端に行くほど低くなるので、運転する人の体格に合わせて足を付く位置を変えられる。160〜180cmくらいの人が良好な着座姿勢をとれるだろう。最新モデルのリード110がこのゆとりを引き継がなかったのは非常に残念である。

 後席居住性もなかなか。運転者と同乗者がそう窮屈することのないシート長と段差がある。そしてタンデムグリップが握りやすくて腰かけとしての効用もある。ただしスペイシー125の後席用ステップはボディサイドに内蔵されたものなので、同乗者は足首を内側にしまい、運転者のケツでニーグリップしなければならない。長時間走行では同乗者の股は疲労する。また、運転者が地面に足を付く度に両者の足がぶつかる。収納式のリアステップを採用して欲しかった。運転席はスペイシー125の方が快適だが、後席はリード110の方が快適である。両者の平均的な運転席と両者に及ばない後席を持つのがスペイシー100である。どちらも快適に過ごしたいのなら@125、マジェスティ125のようにワンサイズ大きな車体を選ぶか、250ccクラスを選んだほうがいい。

 ちなみにスペイシー125はソロよりもぴったりくっついたタンデムの方が操縦しやすかった。重心が後方に移動することでフロントに比して過剰気味なリアブレーキが使い切れるし、フロントサスへの加重が減って余計にふわふわと乗り心地が良くなるのだろう。

 積載性。足元のスペースはあまり期待できない。リアキャリアもシートと段差があってあまり大きな物は積めない。BOXの取り付けを前提にしているようだ。

 インナーラックは左右に空間があり、薄手のカッパならば左右に分けてなんとか収納できる。インナーラック中央にはこのクラスのスクーターとしては珍しく車載工具を標準装備している。しかもそれが振動しないようにカバーまで施している。

 メットインスペースは深さがあるものの、底部がもっこり膨らんでいる。Mサイズのジェットヘルメット:SZ-RAM3を収めることはできたが、後で取り出してみたら頬から首にかかるパッドが随分と押しつぶされていた。メットイン内部が洗えるように底部には水抜きの栓がある。また、底部は開閉することができるし、また、5箇所ほどボルトを外すことで、シートと一体となったメットインスペースをまるごと取り外すことができる。スペイシー125はメンテナンス性がいい。

 バックミラーは距離感が掴みやすく、アーム幅も広いので、後方視認性がとてもいい。アームはまるごとゴムで覆って振動・サビ対策をしているし、鏡面可動部の動きもスムーズだ。細かく見れば見るほど丁寧に作られている。ただし純正のウインドシールドのてっぺんは視線と重なる位置にあって運転していて非常に目障りである。

 スペイシー125はシニア向けのコミューターである。シャッターキー(集中ロック)にしない方が分かりやすいだろうし、この前後制動バランスも、とっさの時にフルブレーキできない人に向けた設定とも言える。静かに、ゆったりと、長く乗り続ける“守り”のスクーターが欲しい人にはいい選択であろう。

※現行スクーター6モデル=08.6現在の国内・原二スクーターラインアップは6台である。アドレスV125、スペイシー125、スペイシー100、リード110、グランドアクシス、シグナスX-FI。

2008.6.12 追記/2006.11.3 追記/2000.4 記述

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