タイホンダ・WAVE125i

 長所:1動力性能 2運動性能 3経済性
 短所:1標準タイヤ 2航続距離 3収納力

 ホンダの公式サイトによれば、レッグシールドを装着した低床バックボーンフレームに、一定の4スト単気筒49cc〜125ccエンジンを積み、14インチ以上のタイヤで走せるバイクをカブと定義している。すると現時点でカブシリーズの頂点に立つのがタイホンダ・WAVE125iということになる。

 WAVE125iは無難な銀色を選んだとしても外装とリムスポークが釣り合わない。今回試乗車をご提供頂いたオーナーさんは今回の試乗のためにわざわざアルミキャストホイールに履き替えて、麒麟のように精悍になったWAVE125iを披露して下さった。

 始動性が良いとされるスーパーカブ90でさえ、キックストロークを一杯に使う。蹴り落とす瞬間は一気に体重を乗せて、タイミングよくスロットルグリップを回さなければならない。一方でWAVE125iはイグニッションをONにするとFIランプの点灯とともにチャージ音が聞こえる。キックストロークの最後の部分だけ体重がかかっていればあっけなく始動してしまう。いきなりPGM-FIの効果を見せ付けられてしまった。勿論セルボタンを押せばもっとイージーに始動する。

 ストトトトトと言うテンポの良いアイドリング音はカブ90より太くて低い。低速から高速までリズムそのものはカブ90と良く似ているが、リード110の音質でオブラートしたかのように静かになっている。ハンドル、ステップから伝わる振動はカブそのものである。このノスタルジックなサウンドとヴァイブレーション、私は嫌いでない。

 変速はカブ90同様、左足でシーソーペダルを操作する。つま先で踏んでシフトアップ、つま先ですくい上げるか踵で踏んでシフトダウン。停止時のみ4速からニュートラルに“シフトアップ”できる。クラッチはペダルを戻せば遠心力で自動的につながる。ギアの間隔はけっこう空いているのだが、それを感じさせないのはトルクが強くて繋ぎがいいからだろう。速度計には1速35km/h、2速60km/h、3速90km/h、4速125km/hという目盛りが記してあるが、実際の最高速とはズレている。1〜3速は表示より伸びるし、4速は逆に伸びない。

 平地でアクセルを全開にすると、200m弱で80km/h、500m弱で100km/hに到達する(メーター読み、以下同じ)。発進直後はまったりしているが、その後はメーターが信じられないほどぐんぐん速度は伸びていく。その加速力はアドレスV125と同等かそれ以上で、併走する上級車を本気にさせてしまう。

 各ギアの守備範囲カブ90KSR110よりも広い。特にハイギアードにしている様子もないのに1速で50km/hまで伸びるというのが凄い。
 そして2速の伸びにはもっと舌を巻く。多少重くなるがゼロ発進が可能で上は87km/hまで伸びてしまう。峠道の登りもほとんど2速だけで攻め込める。カブ90が3つのギアを使って届いた速度をWAVE125iはたった2つでやってのけるのである。
 1速・2速で得た勢いは3速でも衰えず103km/hに達する。峠道の下りはほとんど3速で行ける。
 4速に入れるとほとんど加速する力はないのはKSR110に似ている。113km/hまでは確認できたが、メーター表示の125km/hまではさすがに無理だろう。3速でも100km/h出るので、市街地のみならこの4速はなくてもいい。
 実はこの速度計をあまり信用していない。体感的にはまだ50km/hちょいなのにメーターの針は既に60km/hを指している。実際よりも速い速度を示して性能を錯覚させる、いわゆる“happy meter”というやつかと思った。だが、距離計は少ない誤差だった。このクラスだと1本のケーブルで速度・距離を取るバイクが多いので、距離計の誤差=速度計の誤差だと思い込んでいた。“速度計と距離計の不一致”を初めて意識した。WAVE125iのように距離計デジタル、速度計アナログならば、距離計と速度計が連動していてもメーターパネルだけでインチキできよう。仮にそんな事があるとして誰に何のメリットがあるのだろうか。やれやれ、今まで取り上げたインプレ、速度はすべて正確なものではないということになる、、、ホント間違いだらけですな(自爆)

 各ギアの伸びが良く、スロットルを回したままのシフトダウンも綺麗に決まるので、シフトチェンジにカブ90ほど神経を使わない。ただし、発進停止が多いところで4速まで入れていると1速まで順に落としていく時のシフト回数がカブ90より1個多いのが面倒と思うときもあった。

 無理なく走るのはだいたい1速=0〜40km/h、2速=10〜70km/h、3=20〜100km/h、4=30km/h〜、ぐらいである。カブ90のシフトポジションインジゲーターはギアごとの最高速を表示するものであったが、WAVE125iのそれはエンジンをいたわる変速推奨速度と考えられる。

 低重心設計による運動性能の高さも相変わらずである。前軸と後軸のほぼ中央にクランクを置くこのエンジン配置は一般的なスポーツバイクよりも理想的だと私は思う。ヒラヒラと旋回できて実に軽快だが、なぜかステップを擦る寸前までは寝かせようという気にはなれなかった。何かが頼りないのである。サスペンションは前後共に少し硬いと思った。足回りはまだまだ向上の余地がある。気のせいかもしれないがリムスポークのほうがキャストホイールよりも当たりが優しいように感じた。

 運転席の着座姿勢は良好である。ステップとシートの距離はカブ90より離れ、膝の折り畳みが楽になった。その分シートも高い位置になり、170cmない私で丁度良い足付きになった。シート表皮はグリップがあり、制動時におしりが前に滑らない。ほどよく硬くてカブ90より疲れにくいシートだが、さすがに長時間走行では尾骶骨が少し痛くなってくる。もう少し厚みを増せばもっといいシートになるだろう。

 2ケツ居住性もなかなか。充分なシートの長さがあるし、互いの足がぶつかりにくいよう前後のステップ位置も考慮されている。しっかり握れるグラブバー(タンデムグリップ)があるので、操縦が妨げられない。スクーターより2ケツ操縦性がいいのは、フラットなフロアに靴底全体を乗せるより、ステップバーに土踏まずを乗せるほうが表面積あたりの荷重が大きく、体重移動がしやすいからだろう。もう少し太いタイヤを履けばもっと安定感が増すと思う。

 後席用のステップはフレーム側から延びているので、カブ90のように足とケツが別々にバウンドするようなこともない。ちょい乗りならグラブバーにつかまって、長く同乗するならライダーに抱きついて、まあまあの快適性が得られる。背もたれがないぶんマジェスティRV125EFIほどではないが、少なくとも格納式のリアステップを持たないスクーターやシート長の短いスクーターより快適な後席である。メットホルダーも2個ついていて、街乗りカップルバイクとしても使える。

 変速以外はすべてスクーターと同じ操作になった。ウインカースイッチは左側にあり、フロントブレーキレバーも握りやすい角度に付いている。しかもフロントはディスクブレーキである。この3点だけでも、カブのストレスからほとんど開放されている。取り回しは軽いし、レッグシールドの幅が狭いが、そのスリムさがすりぬけ戦闘力を高めている。

 集中ロックキーのため、キーを挿入したままシートをポップアップしたり、キーを差し換えずにハンドルロックしたり、シャッターを閉めて鍵穴を塞ぐこともできる。各種スイッチ類は国産スクーターでも見慣れたものばかりだが、このバックミラーは見たことがない。鏡面積が狭く、後方視界があまり良くない。ミラーアームの上下に1個ずつゴムカバーが付いているが、上下どちらも中途半端なカバーリングで、防滴・耐振いずれの効果も充分ではなさそうだ。私だったらこのミラーはすぐに交換してしまうだろう。

 ヘッドライトは18Wの2灯をマルチリフレクトしたもの。照射範囲が広くて夜間の峠道でラインを確認することはできたものの、照射力そのものは強くない。HIビームに切り替えてもかなり接近しないと標識は完全に読み取れない。標識の存在自体はLOWビームでも掴めるので、HIとLOWを切り替える意味がない。しかもLOWビームの方がより遠くのラインを照射した。現地はこれで足りるのかも知れないが、日本で使うにはもう少し光軸光量を煮詰めたほうがいいと思う。

 メーターパネルはスクーターそのものである。速度計はアナログで、ギアポジション・ウインカー・ハイビームは点灯表示し、距離計と燃料計は液晶表示される。燃料計は6段階の目盛りがある。4目盛りあるときで約1.2L、2目盛りあるときで約2.3L、最後の1目盛りが点滅したときでも約2.9Lしか入らなかった。燃料が3.8Lしか入らないので、燃費がいいのに給油回数の多いツーリングになる。しかも給油の度にグラブバーに取り付けた荷物をどけてシートを開けなければならない。

 ないよりマシだが収納力もスクーターに比べると乏しい。半キャップでさえ何でも入るとは限らない。私だったらメットはホルダーに引っ掛けてカッパを入れっぱなしにするとか、サブ燃料タンクにするだろう。積載性。フロントに小さなカゴを付けることができる。グラブバーがもう少し手前に延長されれば、もっと後席部分に荷物が積みやすくなる。ブレーキレバーやクラッチレバーから開放された左手はウインカー/ホーンの操作を担当してもまだ何かをする余裕がある。短時間の移動であれば左側のハンドルグリップにバックを引っ掛けるのもいいだろう。

 乾燥路面であれば制動力は十分である。しかしダンロップ・D104FA/D104Gがウェット路面ではたちまち滑り出した。比較対象区間には常に路面が濡れている峠道がある。安全性を試すため、この区間で“意図的に強く”制動して滑り出すバイクは少なくない。しかしWAVE125iはここで“控えめに”制動しても前後とも嘘のように良く滑るのだ。折角のエンジンも重心設計もタイヤのグリップが信用できなければ安心して走れたものではない。雨季の長いタイで大丈夫なのか?なに?本国では多人数乗車で充分トラクションがかかるって?

 もう1台のIRC・NF55/NR70もD104ほどではないが、ウェット路面では多少滑る傾向があった。モペットのように細いタイヤ形状と硬めのサスペンションが、接地面積の狭いタイヤのグリップを一瞬にして失わせるのかも知れない。雨が降ったら徐行しよう、雪が降ったら諦めよう、WAVE125iを買ったらまずはタイヤ探しから始めたほうがいいかもしれない。

 比較対象区間304.7kmを走ったときのメーター値は302.8kmで誤差はマイナス0.6%になった。この区間の平均燃費は修正後で50.3km/Lになり、カブ90に次いで2台目の50km/L超えである。時と個体を変えて意識的に速度を落として比較対象区間を走り直したところ修正後で52.4km/Lになった。市街地区間でも47.2km/Lという低燃費である。定速走行なら60km/Lを超えるだろうが、それでもけっこう回して56.8km/Lになったカブ90にはわずかに及ばないと思う。WAVE125iのスイートスポット(=より少ないスロットルでより速度が伸びる⇒最も燃費が良くなる領域)は体感的に3速・中速域だと思う。これはカブ90とほぼ同じ領域だが、かつて私のカブ90でそれを試したら72km/Lを超えてしまったのだ。

 もっとも誉めるべきは約1.5倍も排気量がありながらカブ90に迫る低燃費を出したWAVE125iである。消費燃料あたりの動力性能はWAVE125iの方が高いかもしれない。それでも粘着してカブ90を燃費王にしたい理由は次のとおりである。

 カブ90のタイヤも威張れた太さではないが、動力性能や制動力とのバランスは取れている。WAVE125iのF60/100-17、R70/90-17というサイズは見た目にもショボイし、本体の能力に相応しくない。タイヤを細くすれば接地抵抗が減って燃費は良くなるが、安全性とのバランスを考えるべきだ。ウェット路面でもう少しグリップするタイヤに履き換えたらWAVE125iの燃費は今より落ちるのではないか?
その一方でカブ90のエンジンを電子制御燃料噴射方式に改良すれば今より燃費は向上するだろう。それらの結果として両者の燃費差は今より開いてしまうのではないか。

 スーパーカブ90の運動性能と経済性にアドレスV125の動力性能と快適性を加えたような原付二種である。動力性能、運動性能、経済性、その全てに妥協できないのなら最高の選択肢である。指摘箇所を改善すれば最高のコミューターになれるだろう。しかし多くの人はもっとラクチンなリード110やアドレスV125を選ぶだろうから、よっぽど安くしないと多くは売れないだろう。ホンダもそのあたりを分かっているから正規に輸入しないのだろう。

2009.4.11 記述

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