ホンダ・モンキー125

 長所:1見て良し 2走って良し 3お尻に良し
 短所:1後輪制動力 2積載性 3一人乗り

 2017年に生産終了となったモンキーが125ccとなって復活した。Z50の再現性に拘ってデザインしたというが、全体のボリュームからしてホイールサイズがやや大きく、リアタイヤが後方にオフセットしているように見える。改造後のモンキーを再現しているとも言えるし、今回はアメリカでも販売するというので、彼らの体格からすればこれがミニマムサイズなのかもしれない。今回は2018年にタイで製造されたABS無し日本仕様に試乗することができた。

 身長170?未満、股下77?、被服込み70?の私が着座して両足共べったり接地するほど足着き性は良い。タックロールシートはゆりかごのように内側にラウンドしている。たっぷりとしたサイズで大きなお尻も受け付ける。シートクッションも柔らかく、長時間走行も楽勝である。背筋もぴんと伸びて着座姿勢も良い。座ることについてはミニサイズ原付二種MT車のなかでモンキー125が最も快適だと思う。他車に比べ2人乗りできないのは欠点だが、1人に限定したからこそ得られたゆとりとも言えよう。

 着座姿勢は良好だが、ニーグリップが一般的なスポーツバイクに比べると、こじんまりしている。小さくて低い位置にあるタンクよりもシートがはじめに内股に当たるから、タンクを挟むというよりシートとタンクを一緒に上から抑え込むような感じである。リラックスして座っているとカブ同様に膝が宙に浮いてしまい、よほど意識して挟み込まないとニーグリップにならない。このことから、すりぬけや低速域での直進性GROMよりやや劣ると感じた。その一方で旋回性GROMよりもずっと良いと感じた。腰の振りひとつで綺麗なスラロームを描けるし、走行中に故意にハンドルを左右に振っても危険な挙動は出ない。何よりも接地感が段違いに良かった。

 車体の剛性感と足回りの柔軟性はエイプ100XR100モタードより硬くてGROMより柔らかい感じ。さすがにリンク式リアサスを採用するエイプ100XR100モタードのような路面追従性はないが、GROMのようにコチコチしていない。GROMで旋回するとタイヤがプラスチックで出来ているのではないか?というほど接地感が弱く腰も砕けやすかったが、モンキー125は寝かせて行ってもタイヤの接地感を失いにくいし、リアサスがある程度追従してくれるので、粘り強さと安心感がある。路面が荒いとそれなりの衝撃を前からも後ろからも受けるが、型式のB分類=レジャーバイクとしては文句ないし、まったりエンジンとのバランスも取れていると思う。変に硬いGROMは所詮はスポーツバイク界のGAGでしかなかった。

 モンキー125のリアサスペンションはプリロード調整ができないが、私の体重には丁度良かった。どちらかというとダンパーの効きが弱めだと思う。コイルスプリングのバウンドをわざと残し気味にすることで、Z50ならではのぴょこぴょこしたピッチングを演出したのかもしれない。座り心地の良いシートと相まってお尻に優しいバイクに仕上がっている。カブ主にも痔主にもお勧めできる。

 エンジンはWAVE125iGROMと基本的に同じものと言う。スーパーカブ110(JA10以降)はキュンキュン鳴って可愛げのあるサウンドを発するが、モンキー125のサウンドに色気や味わいは特に感じなかった。スロットルを捻れば静かに淡々と加速していくが、あっさりしていて何も主張して来ない。45km/hから先はエンジン音や排気音よりもブロックパターンタイヤ同様の接地音の方が大きく聞こえてくる。トルク感はスーパーカブ110(JA07)の2割増し、スーパーカブ110(JA10以降)の3割増しぐらいに感じた。まったり走るにしてもスーパーカブ110(全車)では物足りなかった動力性能が、125ccになるとだいぶ余裕が出てくる。

 取扱説明書によればギアごとの速度範囲は、1速=0〜35km/h、2速=25〜60km/h、3速=30〜85km/h、4速=35km/h〜、となっている。これはスーパーカブ110(JA44)の各段5km/h増しでしかなく、排気量アップは速度向上よりもトルクアップを目的としていることが分かる。だが、実際の速度範囲はもっと広い。軽いノッキングを感じながらもクラッチレバーに指一本触れずに危なげなく再加速できる最低速度〜最高速(メーター読み)は1速=5〜48km/h、2速=9〜77km/h、3速=18〜102km/h、4速=26km/h〜だった。スーパーカブ110(全車)ですりぬけすると1速だとギクシャクしやすく2速だとちょいダルいが、モンキー125のすりぬけは1速でも伸びが良くてギクシャクしにくいし、2速でも極低速からトルクが湧き上がるので、どちらのギアでも楽にこなせてしまう。また、巡航中に今3速なのか4速なのか忘れてしまうことがある。ギアが4段しかないにも関わらず、それくらい各段で守備範囲が広いのだ。つまり、取扱説明書の速度範囲とは“推奨速度”という意味なのだろう。

 シフトチェンジも非常にスムーズだった。新車ならではの多少の引っ掛かりはあったが、1速からも2速からもすぐに一発でニュートラルに入るようになった。ただ、クラッチを完全に繋いだ時と完全に切るまでのレバーの引きしろ(握りしろ)がかなり短い。このためシフトチェンジがチョイチョイと素早くできる一方で、じっくりとした半クラッチ走行がやり辛いと思うこともあった。例えば2速発進の一瞬とか、足場の悪いところで微速前進する時である。

 85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にするとGPSが表示する速度は次のようになった。100mで47km/h、200mで66km/h、300mで72km/h、400mで78km/h、500mで81km/h、600mで85km/h、700mで87km/h、800〜900mで88km/h、1,000mで89km/h、1,100mで90km/h、1,200mで91km/h、1,300mで92km/h、1,400mで93km/h、1,500mで平地最高速の94km/hに達した。この時デジタルメーターは102 km/hを表示していた。GPSを基準にすると速度計の誤差は(102−94)/94=+8.5%となる。下り坂ではメーター読みで108km/hまでは見たがもっとちょい伸びるかもしれない。GROMと比べると最高速はほぼ同じだが、加速力は若干遅くなったような気がする。
比較対象区間307.4kmを走行したところ距離計は311.2kmを示した。距離計の誤差は+1.25%となった。その区間の平均燃費60.7km/Lになった。

 ギア比・減速比はGROMと同じで峠道は2速と3速の往復となる。ある程度速度が出ていれば3速のままジワジワ上っていくことができるし、下りに至ってはほとんど3速ホールドで走れてしまう。

 制動力。フロントディスクは2ポットピストンだが制動力はGROMより弱くなり、リアディスクは1ポットピストンで制動力はGROMと同様に弱かった。前後バランスという意味ではGROMより良いが、フロント頼みである点はモンキー125も変わらない。DRYで前輪のみで強く制動してもGROMのようにホイホイジャックナイフできるバイクでは無くなったが、安全を考えればこちらの方が正しいと思う。
 坂道でもブレーキペダルを強く踏んでないと後退してしまう。平地でリアブレーキだけを強く踏み続けても、少しずつ減速していくものの後輪のロックにはなかなか至らない。それこそ土踏まずをステップから浮かし、つま先に全体重を乗せてブレーキペダルを踏まない限りDRYでは後輪がロックしないのでは?という位に効かなかった。ディスクブレーキの長所は初期制動力とコントロールのし易さにあると思うが、現状ではどちらもスーパーカブ110(全車)のドラムブレーキに負けている。モンキー125にはABS仕様もあるが、フロントブレーキにしかABSは作用しない。リアブレーキはもともと効かな過ぎてAntiLockなBlakeというのだろうか。

 標準タイヤはGROMと幅は同じだが扁平率が上がって外径が増している。サイズはF:120/80-12 65J、R:130/80-12 69Jである。試乗車に付いていたのはVEE RUBBER:V133。指定空気圧は前後共に200kPa、速度レンジは同じ100 km/hだが、ロードインデックス(耐荷重)が一気に増えている。凍結防止のために縦溝が彫ってある路面を、何の問題もなく通過することができた。GROMより旋回性もタイヤのグリップも良かったのは、試乗したのが連日の猛暑日でタイヤの生産地(タイ)の気候に合っていた可能性もあるだろう。

 積載性に文句をつけるバイクでないが、標準状態では何も積めない事は指摘しておきたい。デザインの再現性に拘ったというのなら、そして税抜で37万円(ABS仕様は税抜40万円)も払わせるなら、13,800円のオプションとなっているリアキャリアはぐらいは標準装備して欲しかった。
 タンクバッグが付けられるタンク形状ではないので、デイパックやウエストバッグでいいものを探すしかない。レインカバーを内蔵した登山用のデイパックなら軽いし・蒸れないし・濡れないので重宝している。ストラップを緩めれば背負ったままシートに荷重を移すこともできる。モンキー125はシートが前後に長いので一人が着座しても前後に余りが出る。その余りの部分にデイパックやウエストバッグを落とすことができる。

 スクーターに比べれば収納力も無いに等しいが、工具と書類については収納できる場所と手順を確保した。手順?ドライバーを収納する場所を開けるためにそのドライバーが必要になるスーパーカブ110(JA42〜45)に対する厭味ですわ。モンキー125は、キーを差し込むことで左サイドカバーを外すことができる。なかにはシート脱着用の6角レンチメットホルダーワイヤーを入れた工具入れが存在するが、ピン・クリップで固定されたインナーカバーを外す手間があるので、あくまで非常用という位置づけだ。ここ最近、ホンダはメットホルダーワイヤーを標準装備する車種が増えているが、メット2個を同時にフックする事を想定していないモンキー125でこのワイヤーが必要になるとは思えない。それよりもメットホルダー自体を使いやすくして欲しい。現状ではメットが邪魔でキーが差し込みにくいのと、ピストンの向きとDリングの向きが合わないのでストラップが捻じれてしまう。だから、キーの差込口は進行方向に対して後方に向け、ピストンは上下に動くものを進行方向に対して真横に向けてほしい。モンキー125の標準工具にはメットホルダーワイヤーよりもスパナやドライバーがあった方がいいと思う。

 操作性。ハンドル左側には上からディマ(ハイ/ロービーム切り替え)、ホーン、ウインカースイッチが並ぶ。ホンダは頑なにホーンスイッチをウインカーの上に置くようになってしまった。緊張した瞬間、ハンドルには握る力が入ってしまうから、親指を上に移動しにくいと思うのだが、ホンダの現役設計者はパニック時も瞬間的に親指を上に移動できる達人なのだろう。ハンドル右側には上にキルスイッチ、下にセルボタンがある。キックスターターはないが押し掛けができる。車体を押しながら足でギアを入れなければならないスーパーカブ110(全車)に比べ、クラッチレバーを繋ぐだけでいいモンキー125の押し掛けは楽だ。

 メーターはコンパクト。メインスイッチをONにすると全ての表示が現れた上で速度計の00km/hを両目に見立てた猿が瞬きする。警告灯の類はパネル外の下に並べ、パネル内は上から燃料計、中央に速度計、下に距離計を表示する。時計は装備していない。距離計はSELectボタンでODO→TRIP A→TRIP Bと切り替わり、SETボタンで距離をリセットできる。SEL・SETボタンを押すたびにメーターユニット全体が左に動いてしまうのが少々気になった。

 燃料計は6つの目盛りがあり、満タンにして42km走行したら6つの目盛りが5つに減り、さらに23km走行したら4つに減り、49km先で3つに、26km先で2つに、36km先で1つになり、51km先で1つの目盛りが点滅を開始した。取扱説明書によればこの時点で1.8Lの残量があるという。燃費60km/L×タンク容量5.6L=航続距離は336km。逆算してみると(336km−227km)÷1.8L=60.5km/L、本当だ。ひと目盛りごとの走行距離の変化は比較対象区間のアップ・ダウンや渋滞・順調を反映したもので、割と正確な燃料計だと思う。トリップメーターが2つあるから燃料計が点滅したらTRIP Bをリセットして航続距離をカウントダウンする使い方もいいと思う。

 バックミラーはデザインからしてスーパーカブC125のものと同じものになるかもしれない。左右の張り出しは少ないが、鏡面は歪みが少なくて後方視認性は悪くない。関節部はオイリーでスムーズに位置調整できた。ただ、スムーズ過ぎて右側のミラーが走行振動で徐々に動いてしまい、何度も再調整を繰り返した。まあ、だんだん渋くなっていくだろうから動かしにくいのよりはマシだと思う。

 LEDヘッドライトの照射力スーパーカブ110(JA44)以上・スウィッシュ未満、照射範囲スウィッシュ以上・スーパーカブ110(JA44)未満という感じだった。
 メインスイッチをONにしただけでは円周上のポジションランプしか点かない。このポジションランプは周囲をうっすらと照らし、劣化版マルチリフレクターレンズという感じである。エンジンを始動するとメインのライトが点く。ロービームは上下方向に3〜15m程度を照らし、左右方向はライト本体から90度程度、ライダーの視線からは60度程度の範囲を照らす。 横に長い長方形のロービームの形状がそのまま反映された照射をする。
 ハイビームに切り替えるとロービームの照射に加えて下半分も点灯し、上方向は100m先の青看も照らすし、下方向はバイク本体の真下をも照らす。ただ左右の照射範囲は変わらず、ハンドルマウントにもかかわらずコーナリング時はクリッピングポイントを照らしてくれない。バンクした時に、ライトから見て左または右斜め上を向かないとクリッピングポイントもコーナー先も照らさない。白く照らしている所はハロゲンバルブより明るいが、照らす所と照らさない所の輝度差が大きいのも相変わらずのLEDで、現状ではハイビームの直進時のみ35Wハロゲンのロービームに及ぶかどうかというレベルだ。もうひと頑張りを望む。

 止まらない、曲がらない、お尻痛い(D型)、と三拍子揃ったGROMが嘘のように足も良く動くし座り心地も良くなった。モンキー125の登場でGROMGOMI確定か。リアブレーキを改善し、スペンサーカラーで出してくれたら私も購入候補に入れよう。あとは値段。貧乏人のヒガミだが、『Z50をここまで仕上げたら40万円じゃ済まないでしょ?』と言われているようだ。株主・地主なら安いと感じるのだろうか?

 ところでモンキー125よりもっと作って欲しいのがMOTRA125だ。フレーム一体型の前後大型キャリアで過積載上等。オールテレンタイヤと自動遠心クラッチで不整地上等。キックスターターとローレンジまで付けてくれたら50万円、パートタイム式2WDにしてくれたら75万円(JB64・XGの半額)でも買いますのでホンダ様、宜しくお願い申し上げます。

2018.8.9 記述

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