カワサキ・Z125PRO

 長所:1ツナギが似合う 2経済性
 短所:1リキミ過ぎてる 2収納・積載性 3居住性

 タイで生産されるKSR110(PRO)の後継機には自動遠心クラッチのZ125と手動クラッチのZ125PROがあるが、2016年から日本に正規輸入されたのは後者のみである。今回試乗したのは初期型・国内仕様のBR125HGFである。ストリートファイターZシリーズのデザインを踏襲していて小柄ながらもビューエルのようにマッチョである。側面のピボットカバーをフレームに錯覚させるのは、カバー・アウターチューブで倒立フロントフォークを錯覚させたヤマハ・VOXに次ぐ悪戯ではなかろうか。

 発進加速。85kgの負荷をかけて上体を伏せないで平地でアクセルを全開にしたところ100mで65km/h(3速)、200mで81km/h、300mで86km/h(4速)、400mで91 km/h、500mで94km/h、600〜700mで96 km/h、800mで97 km/h、900〜1,200mで98 km/h、1,300mで平地最高速99km/hを確認した。下り坂では100km/hまで見たが、距離があればもっと伸びるはず。デジタルメーターが99km/hを示したときGPSは95km/hを示していた。GPSを基準にすると速度計の誤差は(99-95/95)で+4.2%ということになる。

 ギアごとの巡航可能速度はおよそ1速0〜35km/h、2速10〜60km/h、3速20〜85km/h、4速30km/h〜である。この数字だけを見るとKSR110とあまり変わってないと思われるかも知れないが、低中回転が増強している。さすがにクラッチミートだけでの発進は不可能だったが、半クラッチにすれば2速発進も可能である。峠道は上りも下りもほとんど3速ホールドで行ける。上りタイトコーナーで速度が落ちたら2速に落とせばいいし、軽い上り坂であれば4速のまま上っていける。専ら巡航用だった4速でも加速できるようになって乗りやすくなった。伸びも良くなって1、2速だけでなく3速もレブリミッターに当たるようになった。普通に流していると、あるはずもない5速にシフトしてしまう。

 シフトペダルもクラッチレバーも非常に軽いタッチであるにもかかわらず、シフトチェンジの精度も高い。一般的なバイク同様、4速のまま停止すればシフトダウンしにくくなるが、ギアがきちんと入ってないときはメーター内のシフトポジションインジゲーターは『−』横線表示になる。エンジン回転中にクラッチレバーを少し動かしてカチッとギアがかみ合うとインジゲーターはすぐに『3』などの数字に変わる。

 比較対象区間304.7kmを走行したところメーターは299.5kmを示した。距離計にマイナス1.7%の誤差があるとするならば、その区間の平均燃費は54.3km/Lになった。燃費はGROMに及ばないがKSR110よりかなり向上している。シフトチェンジの精度といい、肉薄しつつある燃費といい、今後はスーパーカブの生産をカワサキに委託したらいかがだろう?

 KSR110、KLX125、D-TRACKER125、エイプ100、XR100モタード、そして新旧GROMより座り心地が良い。2時間位なら座りっぱなしでも平気だったし、信号停止中に時々ケツを浮かせてやれば長時間走行も苦痛なくこなせるようになった。このシートならスクーターから乗り換えても耐えられるだろう。シート表皮のグリップが良いのでシート上のライディングパンツはズレない。しかしシート形状は前下がりなので、パンツの中で体が徐々に前方に移動してきて自らのパンツで股間が締め付けられる。信号停止でケツを浮かせたついでにパンツを下げて座り直す作業が長時間走行では必要になる。

 着座姿勢 は悪いとまでは言わないが、KSR110や新旧GROMと比較すれば劣る。Z125PROは若干ハンドルが低めでステップの取り付け位置も若干後方かつ上方にあるので、上体が軽く前傾して膝の折り畳みがきつくなっている。シュラウドの開き具合が良くてニーグリップがしっかり決まるのはいいが、ポジションの自由度は低い。身長が170cmに満たない私でさえピッタリ過ぎるので多くの男性が窮屈に感じると思う。走行中は若干腕と膝に負担が来るし、長時間走行した後はケツではなく、ふとももの側面(外側広筋?)が軽い筋肉痛になった。見た目だけでなくポジションまでストリートファイターなのである。

 言うまでもなく運動性能はスクーターの及ぶところではない。しかしポジションに連動してハンドリングにも悪影響が出ている。トップブリッジを支点にしてハンドルバーが前傾して取り付けられているため操舵安定性KSR110GROMに劣っている。腰を使ってスラロームするならスポーツバイクのような高い位置からの倒し込みを軽い動きで味わえるのだが、走行中にわざとハンドルを左右に振ってみると後輪が前輪をトレースしにくいスーパーカブ110のような危うさが現れ、自分の体が上空に取り残されたような感覚になる。Z125PROはハンドルで曲がるのではない、という意味においてスーパースポーツに近い操縦性だと思う。ドライなオンロード走行に特化させたパッケージと言える。コーナーでの倒し込みはZ125PROの方が早いが、起こすのはKSR110(PRO)の方が早いと思う。更には不意に滑った際のリカバリーや故意に滑らす状況ではKSR110D-TRACKER125の方が操縦しやすいと思う。もしも同じエンジンを積んだKSR110(PRO)とZ125PROのどちらかの車体でジムカーナに出場するとしたら私ならKSR110(PRO)を選ぶだろう。

 前後にペタルディスクを奢るものの制動力は思ったよりも控えめである。フロントブレーキのみで短制動してもダイブ量が大きくなく、乾燥路面ではフロントタイヤも滑らず、D-TRACKER125GROMよりジャックナイフしにくい。フロントブレーキの効き方とフロントサスの沈み方もやはりオンロード走行向きである。リアブレーキのみで短制動すればリアタイヤはロックするが、まっすぐに滑るので怖くなかった。標準タイヤはIRC:NR77Uという銘柄でサイズはF:100/90-12 、R:120/70-12である。KSR110より後ろが太くなったが、GROMより前後とも細い。凍結防止のために縦溝が彫ってある路面ではタイヤが捕られるかどうかギリギリの線だった。もしも路面が濡れていれば滑り出す可能性もある。バンクセンサーを接地させるほどコーナーを攻めるならもう少しハイグリップで太いリアタイヤが欲しいところだが、普通に走るならまずまずのタイヤではなかろうか。PCXGROMのように即・交換を要するものではないと思う。

 単独乗車では乗り心地に不満はなく、適度に張りのあるサスだと思う。比較対象区間の走行では大きな衝撃を受けなかったし、というより段差を見つけてもヒラヒラ避けてしまっていたように思う。剛性感も特に思うことはなかった。車体が小さいので相対的にすりぬけ戦闘力は高い方だが、ポジションとハンドリングの関係で極低速域の直進安定性・操縦性ではKSR110に負ける。

 後席はリアステップの位置が高くて運転者の足とぶつかりにくいことと、乗降しやすいこと以外は良い点がない。運転席以上に膝の折り畳みがきついし、シートも狭いし、股間下に位置するシートバンドも掴まりにくい。和式便所で用を足して尻を拭くときのような体形になる。同乗者が姿勢を安定させるには運転者に抱きつくしかない。小柄な人限定の緊急席、ないしは運転者が背負うバックパックの底面を支えるスペースと割り切ったほうがいいだろう。

 積載性はほぼ無い。リアシートが狭すぎて荷台にもならない。丈夫なリアキャリアもまだ登場していない。190mlコーヒー缶くらいならハンドルのトップブリッジとメーターの間にうまく挟めるが、半分くらい飲んどかないと走行振動で倒れる恐れがある。収納についても外したシートの裏面にツールキットがゴムバンドで固定されていて、シート下のわずかな隙間にグローブを詰め込めるかどうかといったところだ。コンビニフック代わりに使えそうなのがヘルメットフック。ここにアライ:MZは引っかかったが、ヘルメットストラップの太さだけでもシートが閉じにくくなるし、ストラップのDリングが片方しか引っかからないのでメット2個は無理である。それにしてもシートロック(鍵挿入口)の位置が非常識だ。夜間は見えにくいし、汚れやすい場所でもある。ミラークランプないしはハンドルクランプタイプの汎用メットホルダーを買えということか。

 

 操作性は国内販売していた頃のKSR110よりだいぶ進歩している。ステアリングロックがイグニッションスイッチに一体化されたし、クラッチレバーがあるのでバッテリーが弱ってもエンジンの押し掛けがしやすい。ウインカースイッチもプッシュキャンセル式である。
 コンパクトなメーターに必要な情報はほぼ揃っている。警告はランプでエンジン回転はアナログで、残りの情報は全てデジタル表示である。ホンダ等と異なり、エンジン警告インジゲーターはエンジンが始動するまで消えないのが通常の状態である。上のスイッチでODO→TRIP1→TRIP2を切り替え、下のスイッチで数字をリセットする。上のスイッチをSELECT、下のスイッチをRESETと呼ばないのは時間調整時に操作を誤るからだと思う。燃料計もついている。目盛りが6つあるが、これが5つに減るまで150kmの走行を要した。あとは平均して30km走行毎にひとつずつ目盛りが減っていって300km走行で最後の一つが点滅した。ここで残量が1.8Lもある。タンク容量が7.4Lなので、60km/L×7.4L=444kmとなり、体重の軽い人が信号停止の少ない道をゆっくり走れば400km近く航続できるだろう。
 デザイン優先のバックミラーは5角形状で鏡面の淵付近も歪んでいる。ミラーアームも短めで後方視認性はあまり良くない。ミラーアームを取り付ける穴が右側より数センチ内側に移動している左ミラーは自身の肩が大きく映ってほとんど役に立たない。
 イグニッションONでポジションランプとLEDテールランプが点灯する。このポジションランプはヘッドライトバルブが切れた際に最低限の被視認性を確保できるというレベルのものであり、ヘッドライトがちゃんと点灯していれば無くても全く困らない。エンジン始動後にヘッドライトが自動点灯する。35/35Wのハロゲンバルブをマルチリフレクターレンズで照射する。HIGH・LOW共に照射範囲は左右に150°程度ある。3〜15mくらい先はLOWビームの方が明るく、それ以外はHIGHビームの方が明るくて照射範囲も上下に広がる。暗黒の峠道では遠くが見えるHIGHを基本に使い、路面に転がっているものを識別したいときだけLOWに切り替えた。ハンドルマウントのため照射が操向に伴うのは良いが、もっと明るいバルブならば目を凝らす必要もなかっただろう。ウインカーレンズはデザイン優先でレンズ面積が不足している。照射力被視認性ももうひと頑張りを期待したい。

 

 不具合?としては始動性が気になった。セル始動+インジェクションなのにキャブ車のようにアクセルを吹かさないとすぐにエンストしまうことが頻発した。アイドリングもメーター読みで1,600〜1,800回転と高めで不安定だった。もしもこの辺りが改善するなら2速発進はもっと容易になるし、1速発進もクラッチミートだけで出来るようになるかもしれない。
 当方は未確認だったがリアサスからのオイル滲みも頻発しているらしい。5月末時点で初年度分が完売という裏には、対策を施すまで輸入を自粛したのかも知れない。

 KSR110のように膝下だけで操縦できる上半身の自由度は失せたし、D-TRACKER125のように身を預けられるほどのサイズはない。Zシリーズのイメージに見事ハマっているが、所詮は4st125cc。上級車を真似たところで走りはGAGにしかならない。個人的にはもっとユルいKSR125KV125(KV75復刻版)を作ってほしいが、フルフェイスとツナギがこんなに似合うチビが他にあっただろうか。負けてもバイクのせいにできるし、勝てばライダーの腕と称賛される。見た目でだいぶ得をしている。

2016.6.4 記述

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