カワサキ
エリミネーター125

 長所: 1質感 2足着き性 3低速トルク 4操縦性 5航続距離 6オプション
 短所: 1動力性能 2燃費 3操作性

 カワサキはEU向けに開発したエリミネーター125を1997年に日本でも発売した。当時は8,000回転で最大トルク1.0kgmを、9,500回転で最高出力13psを発揮するバイクらしい高回転型のエンジンだったが、排ガス・騒音規制に対応するために二度にわたってパワーダウンされた。03年以降は3,000回転で最大トルク0.81kgm(7.9Nm)を8,000回転で最高出力7.3ps(5.4kW)を発揮する、小排気量車としては例を見ないほど低回転型のエンジンに生まれ変わった。実際、今回試乗した08年式最終モデルは今まで乗ったどのバイクにも似ていないエンジンの回り方であった。

 寒い日の最初の始動はチョークを引く必要がある。セルで起こすと優しいエンジン音が目覚める。クルーザーと言えばV型2気筒でドッコドッコドルンドルン鳴らすのが一般的だが、その振動と騒音を嫌う人はいると思う。エリミネーター125は上級アメリカンが持つ威圧感とは無縁で、静かで振動も少ないシングルエンジンを搭載している。始動から全開まで終始ライダーを煽らず、そして周囲を脅かさない。その代わりそのエンジンサウンドに芸術的要素は全くない。

 排ガス対策のためなのか、チョークを戻してもアイドリング回転数が高かった。平地であればスロットルをほんのわずかに回せば、あとはクラッチを繋ぐだけで車体が動き出す。そしてひとたび動き出してしまえばアクセルは完全に戻しても、そのままゆっくりと5速までシフトアップできてしまう。この時の速度はおよそ3km/h(1速)〜15km/h(5速)だった。最大トルクとなるエンジン回転数は発進時にドンピシャのようで、今まで取り上げた125ccMT車で最もエンストしにくかった。発進停止の多い市街地走行でもクラッチワークが全く苦にならない。

 85kgの負荷をかけて、平地でアクセルを全開にしてみた。約200mで60km/h、約600mで80km/hに達し、約1000mで85km/hを確認したが(全てメーター読み。以下同じ)、その後はさっぱり伸びない。ギアごとの平地最高速は1速25km/h、2速45km/h、3速65km/h、4速・5速共に85km/hぐらいである。下り坂で5速94km/hを確認した。出力ダウンに合わせてギア比を変更しなかったのか、この5速は全くと言っていいほど加速力がない。専ら巡航用である。

 低回転では超がつくほど粘る一方で回してもなかなか付いてこない高回転。125ccのエンジンというよりも、電動アシストされた50ccエンジン、ないしは振動のないディーゼルエンジンという感じである。

 シフトアップはとても楽だが、その際はアクセルを完全に戻しておかないとクラッチを繋いだ瞬間にぐいっと車体が前に出るくらい、低回転が強い。シフトダウンもめちゃ楽である。試しに結構な速度からギアだけ落としていってもスリップせずに、1速まで減速できた。逆にブレーキだけで急制動してもフロントはストロークの長いサスでゆったり吸収してくれるし、リアも大きく滑り出す前に音が鳴るので、路面とタイヤが今どんな状況にあるのか掴みやすい。前後同時に制動しつつシフトダウンを併用すれば、まず止まれない状況はないと思う。しっかりとした車体とゆったりとしたシートで安心して身を任せることができる。

 操縦性。このキャスター角、そして足を前に投げ出すポジション、着座姿勢は全くのクルーザーである。停止寸前と発進時だけは左右に倒れ込もうとする傾向は若干ある。でもいったん動き出してしまえばビシッと安定する。ステップも高い位置にあり、コーナリングで寝かせてもステップは擦らない。この直進性に甘えてリーンウィズのままスイスイとコーナーを駆けることができる。

 ヘッドライトは上級車と同じ55/60Wハロゲンを採用し、夜間の峠道も安心して走ることができた。バックミラーはコストダウンが顕著に現れるところだが、エリミネーター125は後方視界に優れ、調整部分の動き方や見た目の質感も高い。原付二種ステッカーとナンバープレートを隠せば125ccとは思えまい。

 快適性はおおむね良好である。運転席は幅が広くて後席との段差が背もたれになるのでケツがしっかり安定する。それでもさすがにステップは遠すぎて、長時間走行では内股が疲れてくる。シートに深くケツを押し付けて、ステップで踏ん張るか、時折ガニマタになって股の負担を減らそう。それとスロットルを絞り続ける右手首も疲れてくる。どうせ回しても速くならないのだから、唯我独尊、周囲など無視してマイペースで走ろう。

 デザインのために後席の座面を極端に後傾させたモデルもある。そういうのに比べればだいぶマシだが、アメリカンの例にもれず後席は運転席より高い位置にあって幅も狭い。座面も微妙に後傾し、後席用ステップも前方寄りに付いていて、特に発進時、同乗者は後方に仰け反りやすい。シートバンドにしっかり掴まるか、運転者に抱きつかせようという設計である。長時間2ケツするならシーシーバー(背もたれ)が欲しいところだ。

 積載性。エリミネーター125はタンク上部には計器が付いていてタンクバックで積載を稼ぐことは難しい。標準では後席の座面だけが頼りでフックもマトモに掛けられないが、リアキャリアを装着すると後席の座面と連続した広大な積載スペースが登場する。

 メーカー純正オプションではシーシーバーとリアキャリアを同時に装着することができない。同乗者に背もたれを提供しつつ荷物を積みたければ、リアキャリア上にリアボックスを取り付けるか(収納力重視)、シーシーバーと本皮製のストラットバッグを組み合わせるか(デザイン重視)選ぶことができる。その他にもエンジンガードや大型のウインドスクリーンも用意されている。エリミネーター125のオプションは無駄なものが一切なく、使い勝手も見た目も良い。全部まとめ買いして使用状況に応じて着せ替えるのも楽しいだろう。

 操作性。クラッチレバー・ブレーキレバーがとても軽くて良かったのだが、ウインカーやホーンなどのスイッチ類は上級車種からそのまま移植したかのようで、ちょっとデカすぎる。エリミネーター125は筋骨隆々な人はあまり乗らないだろう。どちらかというと女性や年配向けのバイクだと思う。ゆえにスイッチ類はもう少し小さくしたほうがいいと思った。

 イグニッションメットホルダーは車体左側に、ハンドルロックは車体右側に、同じカギを使う3箇所が全てバラバラの位置にある。しかもこのハンドルロックはKSR110と同じで扱い辛い。停車してからバイクを離れるまでとても時間がかかる。アメリカンならこれが当たり前なのだが、いまどきのスクーターは全て1箇所にまとまっている。その利便性に勝てる魅力がないと実用車たる125ccクラスで生き残ることは難しい(ていうかもう生産終了だし)。

 比較対象区間304.7kmを走行したところ距離計は298.9kmを表示した。この区間の平均燃費は修正後で30.7km/Lになった。これだけ低回転が強いのだから40km/Lくらい走るのかと思ったが、期待外れだった。それでも13Lも燃料が入るので航続距離はとても長い。

 この操縦性足付き性の良さはあらゆる人をバイクの世界にいざなう。MT免許を取得して初めて公道デビューする女性に、そして景色をゆっくり楽しみたい人にお勧めできる。ただし安心感と引き換えの鈍足だけは覚悟しておくように。

2009.5.18 更新/ 2005.4.17 記述

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