カワサキ・KSR110

長所: 1着座姿勢 2運動性能 3すりぬけ
短所: 1ライト 2シート厚 3始動性 4一人乗り 5積載・収納力

 2002年11月、ベビーギャングのKSRが4サイクルになって帰ってきた。今回は2008年式のフルノーマルモデル(自動遠心クラッチ⇒以下ATと呼ぶ)と2003年式で社外品のマニュアルクラッチに交換したモデル(⇒以下MTと呼ぶ)の2台に試乗した。小粒ながらも戦闘機であったKSR-?(2st79cc10ps×6速MT)をベースとするだけに、足回りは非常に贅沢である。前後ディスクブレーキは勿論のこと、リアはユニトラックサス、フロントはなんと倒立フォークである。この車体にカブと良く似た“まったり系”のエンジンとはミスマッチも甚だしいが、いざ乗ってみると、これが結構面白いのだ。

 見ため小さ過ぎる車体もいざ座ると、ぴったりと体にフィットする。適度に開いたシュラウドにニーグリップがしっかりと決まるし、膝も水平以下の角度で腰や腹に負担が来ない。背筋がピンと伸び、ハンドルに手を添える以外、上半身は何もやることがない。下半身だけで操縦できてしまう。直進性・旋回性も期待以上で、後輪と独立してエンジンを車体中央にマウントすることが、こんなにも運動性能を向上させるとは、改めて思い知らされた。コンパクトなだけでなく、スリムであることも長所である。縁石に引っかからないホイールサイズ、ステップ高、そして引っ込んだマフラーによって、わずかな隙間を安全にすりぬけることができる。粘りのあるエンジン特性も手伝って、今まで乗った原付二種の中で最もすりぬけ易かった。

 スポーツバイクは大きくなるほど“登り”よりも“下り”の方が難しくなると思う。しかしKSR110は下りの勾配がきつくなるほど逆にわくわくしてくる。非力なエンジンも重力を借りて全開にすれば、その加速は侮れない。車重が軽いから減速も早いし、直立した運転姿勢でブレーキダイブが怖くない。コンパクトなブレーキレバーに指をかけたままスロットルを回し始めることができる。エンジン性能を十二分に担保できる車体性能があるから、下り坂では持てるパワーの全てを使い切って上級車に張り付くことができる。前後サスペンションも柔軟性に富み、剛性も特にフロント周りが高い。どんなに寝かせてもフロントフォークの捩れを感じさせないし、バンク角に余裕があってステップも擦らない。エンジンタイヤ(ダンロップK178が標準)もグレードアップしないと折角の車体性能が勿体無いくらいだ。

 アクセルを全開にすると約100mで60km/h、約200mで80km/h、約500mで95km/hという加速力を示した。(全てメーター読み。以下同じ)意外と速いですね(笑)ちょっとでも勾配になるとすぐに90km/h以下に落ち込む。逆に下りなら100km/h以上を確認できた。エンジンがヤバそうな音に変わる手前のギアごとの平地最高速は、1速=30km/h、2速=60km/h、3速=90km/h、4速=97km/hだった。

 1速は30km/hまで伸びるのでスタートダッシュに有利だし、低速域でギクシャクしにくい。
 2速はゼロ発進可能なトルクをなんとか持っていて、実用速度まで引っ張る加速担当である。1速2速はどちらもすりぬけに使いやすい。峠の登りは専ら2速が頼りだが、ここからが美味しいという60km/hで頭打ちなので、後続車にぴったり張り付かれる。2速では回し過ぎ、3速では力不足という状況が峠の登りで頻繁に発生する。このあたりが5速を持つエイプ100・XR100モタードに負けてしまう部分である。
 20〜90km/hを広く受け持つ3速はホールド状態で平地を走れるし、峠の下りでも使いやすい。とにかく軽いからコーナー直前で十分に減速できるし、多少滑ったところで“ベタ足”できてすぐに立て直せる。
 4速は最低でも40km/hは出してないと実用的な加速を得られない。3速との速度差も小さく、市街地のみならこの4速はなくても困らない。専ら巡航用である。

 比較対象区間304.7kmのオドメーターは308.5kmだった。地図ソフトが正しいとすれば距離計誤差は+1%となる。この区間の平均燃費が40.7km/Lだったので、これによって修正すると、燃費40.1km/Lということになる。FI化した4st125ccスクーターに燃費面で追いつかれてしまった。KSR110もFI化して始動性と経済性を向上してもらいたいところだが、19年規制の適用期限をもって販売終了するとの噂がある。

 装備は必要最低限である。
 ウインカースイッチはプッシュキャンセルでないが小ぶりで使いやすい。メーター内は速度、オドメーター(累計走行距離)、ニュートラル、ウインカー点灯状態を表示する。ウインカーは近くにあるのでわざわざメーター内で知らせる必要はないと思う。となると始動前のニュートラルを表示するためだけにバッテリーを装備しているのだろうか?トリップメーターも燃料計もないので、ガス欠するまで走行してリザーブに切りかえる。ヘッドライトの暗さはトップレベルである。夜間の峠道でコースアウトして慌ててブレーキをかけることが何度かあった。それほど暗い。

 着座姿勢は良いものの、オフ車のように尾てい骨に負担がかかるシート厚である。連続走行はもって2時間(エイプ100は1時間)。それ以上は信号停止の度に立ち上がってシートからケツを浮かせていた。
 単独乗車専用であることはキャラであって欠点とは思わないが、知らないで買う人もいるかも知れないので、一応短所に挙げておく。
 リアキャリアとBOXを取り付けないと、積載性は皆無である。シートを外すとわずかな収納スペースがあり、車載工具、書類、グローブくらいなら収めることができる。同時に姿を現すホルダーにヘルメット1個を引っ掛けることができる。
 この大きさのバイクにキルスイッチは要らないと思う。逆ハンでないとかからないハンドルロックは初めて逢った。

 始動性は良いとは言えない。センタースタンドがないので、左手でチョークレバーを引きながらの右手アクセル+右足キックはやり辛い。排ガス規制対応でガスが薄いようで、アイドリングの安定を優先するとN⇒1速へのシフトショックが凄まじいし(AT)、シフトショックをなくすべくアイドリング回転数を下げると今度は始動そのものが困難になる。誰でも地面に足が付く貴重なモデルなのに、この始動性シート厚ではカヨワイ女性にお勧めしにくい。

 KSR110を検討する人はMTATのどちらがいいか考えるだろう。
 結論としてはどちらでもいい。もっとキレのあるエンジンとクロスした5速ミッションを組み合わせ、これを手動で変速するならば明らかに速くなるだろうが、温和しいエンジンに手を加えることなく4速ミッションのクラッチを手動で操作したところで大して速くなるものではない。なぜならKSR110はギアごとの間隔が広く、3速から2速へのシフトダウンはかなり速度を落とさないと手動でクラッチを繋いでも後輪がたやすくスリップしてしまう。そしてKSR110の自動遠心クラッチはスロットルを回したままのシフトダウンがジョルカブスーパーカブ90以上にうまく決まるので、手動操作の必要をほとんど感じないのだ。

 下り坂でのタイトコーナー、、、MTならアクセルオフ+ブレーキで速度を落としてから→2速にシフトダウン→クラッチつないで(ちょいスリップ)→再加速する。ATだと、アクセルオンのまま2速にシフトダウン(ちょいスリップ)→アクセルオフ+ブレーキで速度を落として→再加速する。要はペダルシフトアクセルワークの同調に慣れるか否か、好きになれるか否か、だけの違いである。

 ATがMTに劣る部分は、ニュートラルから1速へのシフトショックがかなり大きいこと、そして、“押しがけ”ができないことである。逆にATがMTに勝る部分は、エンストしないことである。ATかMTで悩むようだったら、ATを買ってしばらく乗ってみてはいかがだろうか。ATもMTも燃費・最高速に差はない。

 エンジンはまったりとしていてギアの間隔も広いので、多少いじったところでKSR-?のような戦闘力は望めない。KSR-?からKSR110に乗り換えたら、騒音・振動が減って快適になるものの、その動力性能に落胆するだろう。ではKSR110、どんな人にお勧めできるか?
 スクーターにはもう飽きたが、目を三角にしてまで攻める気になれない人、
 とにかくコンパクトで取り回しと運動性に優れたミニバイクが欲しい人、
 自動遠心クラッチは好きだが、ビジネスバイクのデザインとブレーキが許せない人、

 エンジン搭載位置・車体性能・着座姿勢の良さからくる運動性能はスクーターの及ぶところではない。どんな場面だろうが安心して振り回すことができる。メインステージを峠から市街地に代えてちょこちょこ走り回る奴。KSR110は『都会に降りた山猿』といったところか。

2008.5.28 記述

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