カワサキ
D-TRACKER125

単独評価
 長所: 1真面目な造り 2小柄な人に嬉しいサイズ 3スタント性能
 短所: 1まな板シート

GROMと比べて
 長所: 1安心感 2登坂加速
 短所: 1価格 2燃費

 2009年12月、カワサキから双子の原付二種が誕生した。今回取り上げるのはモタードに分類されるD-TRACKER125である。発売直後に初期型2010年モデルに試乗していたが、雨と雪が降りっぱなしでいいデータが取れなかった。今回は慣らし運転直後の2015年モデルでリベンジした。

 メーカーの公式発表ではKLX125と同様の変更が2012年モデルで行われ、以降はカラーリングの変更に留まっている。初期型で煩かったチェーンとガイドローラーのビビリ音はなくなったし、インジェクターの音量も下がったような気がしないでもない。騒音規制の変更で動力性能の変化を期待したが、違いが分からなかった。むしろ全体的に静かになった印象すら受ける。

 85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にしたところ100mで67km/h(3速)、200mで78km/h(4速)、300mで87km/h、400mで91km/h(ここまで約24秒)、500mで92km/h(5速)、600mで94km/h、700mで96km/h、800mで97km/h、1,100mで平地最高速98km/hを確認した。下り坂では105km/hまでは見た。ギアごとの平地最高速は1速=36km/h、2速=55km/h、3速=73km/h、4速=92km/h、5速=98km/hだった。(以上、全てメーター読み)
 全体的にローギアな印象を受けるのは姉妹車たるKLX125と同じだが、オンロード用タイヤを履いているからだろうか、わずかに速度が伸びる。ギアの間隔は近すぎず遠すぎず、スロットルレスポンスも良好で、非力ながらもキビキビ走せることができる。KSR110(AT)でもエリミネーター125でも物足りなかった加速にキレがある。
 初速はGROMに負けるかも知れない。もしも市街地で負けたら峠道で仕返ししよう(笑)。3速を軸にした2〜4速体制で登りではGROMより快活に走ることができる。
 常時全開で走りまわる俊足系スクーターにも市街地で追いつくのは難しいだろう。しかし動力伝達の確かさとステップシフトしていく楽しさは5速MTならではのものだ。

 比較対象区間304.7kmを走行したところオドメーターは299.5kmを示した。距離計に-1.7%の誤差があるとするならば、その区間の平均燃費49.0km/Lになった。この数値は水冷esp軍団とほぼ同等である。MT車のくせにスーパーカブ110よりだいぶ悪い、なんて言わないでほしい。タイヤが違う。グリップが違う。安心感が違う。楽しさが違う。

 アイドリングは約1,400回転。そのままアクセルオフでクラッチを繋ぐと1速でも割とすぐにエンストしてしまう。2,000回転以下でノッキングするのはどのギアでも同じである。エンスト耐性はKLX125に少々負ける。発進時はほんの少しでもアクセルを回していたい。4,000回転まで回せば2速発進もできる。とりたててパワフルでもないが、回したぶんだけ力がこみ上げてくるフラットトルクなタイプである。トップの5速にシフトアップした後も速度は徐々に伸びていく。
 嬉しかったのはミッションの精度が非常に高いことだ。急停止した直後のように速度とギアに著しい乖離が生じた場合はスロットルを回しながら1段ずつ入れ直す状況もあるが、レバーもペダルも操作が軽いのに、クラッチの繋がり、ギアの入り方がはっきりしている。市街地走行でシフトチェンジがストレスにならないばかりか、むしろ気持ち良かったくらいだ。今回の車体が“当たり”だったのか、D-TRACKER125の品質が高いのか分からないが、前回試乗した初期型より良かったと思う。これなら中華ブなんて要らないのでは?

 運動性能ハンドリングは優秀だが二面性がある。
 キャスター角が立っているため極低速域、特に発進直後に若干フロントがふらつく。凍結防止のための縦溝が彫ってある路面で前輪が若干縦溝をなぞってしまう傾向がある。左側端すりぬけでも路面のつなぎ目を若干拾う傾向がある。制動時は自らの前輪によって、若干つんのめるような挙動を見せる。走る・止まる・曲がる・だけのオンロードスポーツモデルに比べると、これらの点は短所に成り得る。これは車体に対して車輪が小さいのと着座位置が高いことが影響していると思われる。そう構成したのは走る・止まる・曲がる・に加え浮かす・滑らす・動きができるバイクにするために他ならない。
 30km/h位から先は安定指向を強め、平均的なオンロードスポーツモデルと同様の直進性旋回性となる。低速域は安全に遊べるバイク、中速以降は安全に走れるバイク、その過渡はあくまで乗り手の操縦に収まるものだ。

 足回りも上等だ。
 スラロームを繰り返していると両車輪がもう少し軽くなればもっと軽快に振り回せるようになると思った。スチール・リムだったのか。さすがにアルミを履かせるコストまでは許されなかったのだろう。
 フロント倒立サスは非常にオイリーで初期は柔らかく、最後はガッチリ受け止める。短制動ではバスケットボールのように弾力的に受け止めてくれて、なかなか底付きしない。ジャックナイフ時も安定している。
 リンク式のリアサスはエイプ100ほどソフトではなくCB125Tの硬さに近い。踏ん張りがいいにも関わらず、あらゆる速度であらゆる深さの段差を通過しても舗装路であればライダーに強い衝撃を与えない。後輪を路面に叩き付けても相応に受け止めてくれる。柔から剛のフロントサスに剛から柔のリアサスがD-TRACKER125をワンランク上のバイクにしている。
 前後ディスクブレーキも良好。フロントは初期制動が早いという意味においてコントローラブルである。リアは効きの早さはなく、ペダルを強く踏んでもロックしにくいという意味においてコントローラブルである。前後いずれもタイヤやサスと相性がいいと思う。

 制動力
 乾燥路面で短制動を試みたところ、意図的にリアをかなり強く、ないしはリアだけを掛けない限りほとんど滑らなかった。フロントのみの制動では全く滑らなかった。そもそも滑る前にリアタイヤが浮いてしまう。20km/hからでもジャックナイフは可能である。リアブレーキをうまく併用すれば急制動時もリアタイヤを浮かせないことができる。
 GROMも非常にジャックナイフしやすいが、ホイールサイズやホイールベースに比してかなり高い乗車位置と低いハンドル位置で浮きやすくしている危なっかしさがある。加えてリアブレーキがほとんど効かず(現行モデル未確認)、フロントブレーキに頼らざるを得ないことが一層浮きやすくしていた。
 一方のD-TRACKER125はブレーキ、サス、タイヤなどが良く調和していて、リアが浮くか浮かないかという限界点が分かりやすい。バイクの状態がライダーによく伝わるので何をしても怖くないのだ。
 WET路面では、握力全開で握ればフロントのみでも滑ることはある。リアのみの急制動では音もなくズイ〜と滑り出す。右にも左にも流れるがステップ荷重で滑る方向をコントロールすることができる。滑るといってもPCXのように急激にグリップを失うのではなく、最後まで粘ろうとする。例えるならPCX硬質ゴムD-TRACKER125消しゴムのようだ。

 標準タイヤはダンロップ・TT900GP、指定空気圧150KPa(タンデム時のリアは175KPa)、サイズはF:100/80-14、R:120/80-14である。降雨のなか出発した初期型の試乗では、標高が上がるにつれて豪雪に変わり、除雪車まで出動することになってしまった。一部で10%超の下り急勾配を含む100kmの積雪路面を一度も転倒させることなく生還できたのはD-TRACKER125のおかげだと思う。ノーマルタイヤなのでエンジンブレーキと両足を接地させて踏ん張る足ブレーキしか使えない。この状況、スクーターだったらクラッチが切れて惰性で加速してしまうし、MT車でも重い奴は1速でも惰性がついて抑えきれないだろうし、足着きの悪い奴はそもそもブレーキとなる足が十分に雪を削らない。KLX125の方がこの状況に強いかなとも思ったが、タイヤが大きくて細いと踏破性は良くても横方向の逃げが効かない⇒言い換えれば、段差には強いが縦溝にハマるとハンドルが効かない。KSR110のようにタイヤが小さくて細いとスタックしやすい。となると意外にもこの状況でD-TRACKER125が原付二種国内モデルで最良のパートナーだったのかも知れない。適度な大きさ太さで、すぐには滑り出さないTT900GPが下り雪道に対応できたということだ。

 しかし寒さと眠さとケツの痛さで死にそうになり、二度とD-TRACKER125KLX125に乗ってやるものか、とこの時ばかりは思った。その後、三角木馬と称したシートが2012年モデルでまな板シートと称せるぐらいに改善された。これでも30分も乗っているとお尻がじわじわ痛くなってくるが、従来のように内股を引き裂こうとはせず、接触部分が硬くてただ痛いだけに変わった。痛さを常時感じながらも数時間はなんとか乗り続けることができる。座り心地はKSR110エイプ100よりマシになりGROMぐらいにはなったかなと思う。それでも私はD-TRACKER125で積極的に長時間走行したいとは思わない。シートが硬い方が路面情報を正確に伝えるだろうし、シートが細い方がシッティングからスタンディングへの移行も早いだろうけど、公道モデルなのだから、快適性を優先してシートの肉厚をもっと増して欲しい。この点だけはクロスカブが神に見える。

 足着き性は良好。170cmない私でも両足とも地面にべったり着いて、しかも両膝が少し曲がる。シートバンド(タンデムベルト)がケツの真下にくるのが相変わらず不快だが、座り心地を除けばソロでの居住性は悪くない。タンデムは寸法的にも動力的にもお勧めしたくないが、カップルでのちょい乗りなら絵的な公害にならないだろう。

 操作性
 メーターは警告系をランプ点灯で情報系をデジタル表示で行う合理的な設計である。時計、エンジン回転、速度は常時表示、距離計は累計→区間A→区間Bのいずれかを常時表示する。燃料計は装備しておらず、残量が少なくなるとランプで警告される。加えて距離計がFUELの文字点滅に変化する。煽るなよ(笑)このままだとあとどれくらい走れるかむしろ分からなくなるのでselectボタンを押して表示を切り替えよう。
 ヒンジ付の給油キャップはバイク本体から離れないのがいい。前回の降雪時はカギ穴が凍り付いてしまったが、24時間営業のスタンドで熱湯をかけてもらって開口した。マイナス下でもセル始動に問題なかった。
 バックミラーは五角形状。内側の傾斜角度はライダーの腕と平行になるが、外側の傾斜角度は幅を広げているので、すりぬけで少々気を遣う。鏡面のゆがみはほとんどなく、ハンドルからの張り出しも多くて後方視認性は問題ない。

 個人的にはウインカースイッチはもうちょいコンパクトでもいいかなと思った。プッシュキャンセルをしたときにスイッチが左右に少しガタつくからだ。ところがプッシュキャンセルした状態で左右に倒してみたら再度合図を出せることに気付いた。これなら変化の激しい渋滞路でも対応しやすい。
 ヘッドライトは35Wハロゲンバルブを採用。ロービームではレンズ形状に沿った直射光に加えマルチリフレクターで周囲をうっすら照らす。少し手前の路面を重点的に照らす平凡な配光で少々物足りないが、ハイビームにすると照射距離は伸び、照射範囲は上下にも左右にも広くなって暗黒の峠道がいくらか走りやすくなる。自身の安全のため、夜間は常時ハイビームで走行したいと思う。

 サイドスタンドは座ったまま出そうとすると取付位置がだいぶ後方にあると思う。KLX125に設計を優先させていると感じた。

 積載性。荷掛けフックが左右に一対あるものの、マフラーに近過ぎてゴムネットのフックが熱で溶けてしまうことがある。小さい荷物や柔軟性に富む荷物であれば、タンク上に乗っけてシュラウドとフレームにフックする方法もあるが、ノンキャリア状態ではデイパックを背負うなどした方がいいだろう。スタントの練習をする予定がなければリアキャリアは必需品である。なお、メットホルダーを解除してもヘルメットが落ちないようにフックが上を向いている。

 収納力。オフ車でお馴染みのポーチがテールに付いていて、車載工具や書類そしてコンパクトデジカメくらいなら収納することができる。

 D-TRACKER125は安くない。あとちょい足せば新車の250ccにも手が届く。某量販店ではGROMより7万円も高かった。しかしGROMに7万円掛けてもリアがしなやかになるとは思えないし、エイプ100にいくらお金を掛けても無茶できる剛性が得られるとは思えない。D-TRACKER125はノーマルのままでもかなり遊べるので買って損はないと思う。バイクが今どんな状態にあり、どうすれば制御できるのか、D-TRACKER125は丁寧に教えてくれる。
 ここ最近取り上げた原付二種国内モデルでトリシティ125と並んで最も安心感が高かった。スタント性能についてもひとまわりコンパクトな125DUKEと表現できる。KLX125の副産物だと思っていたが、雪道での生還やスタント性能を鑑みると、むしろ汎用性はD-TRACKER125の方が高いかもしれない。シート積載性の向上次第では私も欲しいくらいだ。贅沢をいえばライトももう少し明るいと嬉しい。

 イケメンともゆるキャラとも言い難いD-TRACKER125に大の大人が跨るとサーカスの熊ほどではないが、ちょっと違和感があるのは否めない。ツナギ以外の衣服でどうコーディネートして違和感を減らせるか貴方のファッションセンスが試される。

2015.4.28 記述

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