KTM
125DUKE

 長所: 1スタント性能 2前方視界 3取り回し 4ヘッドライト
 短所: 1足着き性 2ミラー視界 3積載性 4テールライト

 2011年、Ready to raceをコンセプトとするKTMからアグレッシブな125が誕生した。欧州免許規制の上限値15psを発生するDOHC水冷エンジンを搭載した125DUKEである。高品質な部品を組み合わせるもののインドで生産することで税抜428,000円を実現したという。今回試乗したのは慣らし運転直後でリミッター解除前の初期型モデルである。

 インジェクションで吸気するので始動性は良い。アイドリングはポコポコポコという小さな乾燥音を発する。エンジンはモーターのようにスムーズに回りつつも、単気筒らしい鼓動感も残っている。驚くことにハンドルグリップ、ステップ、タンク、いずれを通してもエンジンの振動がほとんど体に伝わってこない。全域でYBR125/XTZ125Eより振動が少なく感じた。

 音量は4,000回転まではとても静かで7,000回転以降はさすがに賑やかになる。音量的な快適性を保ちたいなら6,000回転までがいいだろう。ちなみに各ギアでの5,000回転時の速度表示はメーター読みで(以下同じ)おおむね1速で20km/h、2速で28km/h、3速で38km/h、4速で47km/h、5速で55km/h、6速で63km/hとなる。各ギアの間隔が8〜10km/hと狭いので、クロスミッションと言って差し支えないと思う。

 トルク特性は4ストらしくフラットである。すりぬけの際もギアを1速まで落とす必要はなく、2速に入れたまま半クラッチ操作で楽に徐行できる。1,500回転を下回らないとノッキングしないので市街地走行でも実用性は高い。4速以下であれば2,000回転からでも緩やかに加速できるが、5速だと最低3,000回転を、力強く加速するならどのギアでも4,000回転はキープしておきたい。D-TRACKER125やYBR125に対して優位に立てるのはやはり高回転域であり、125DUKEとて回してナンボの小排気量車である。

 85kgの負荷をかけて上体を伏せないで平地でアクセルを全開にしたところ、おおむね100mで63km/h、200mで78km/h、300mで90km/h、400mで93km/h、500mで96km/h、700mで100km/h、1,500mで107km/hを確認した。各ギアの平地最高速は1速で40km/h、2速で58km/h、3速で75km/h、4速で91km/h、5速で107km/h、トップギアの6速は5速で出した速度を維持できても、それ以上伸ばすことはほとんど不可能なので最高速は不明としておこう。6速は巡航用と割り切るべきである。発進加速は俊足系のスクーターと同等かわずかに及ばないかもしれない。

 比較対象区間304.7kmを走行したところオドメーターは315.5kmを指した。距離計に+3.5%の誤差があるとするならば、その区間の平均燃費は38.6km/Lに修正される。市街地走行でも30km/Lを下回ることはなかった。この動力性能からして決して大食いではないが、ハイオクを指定しているので燃費は平均より下回る。

 制動力は優秀。運動性能に至っては控えめに表現してもここで取り上げたバイクの中でトップである。

 タイヤはインドMRF社のREVZ−FC/Cという銘柄、サイズはF:110/70R17 R:150/60R17である。このクラスとしては立派な太さを持っている。試乗中に解凍直後〜シャーベット状の路面が長く存在したが、クルマの流れに乗って走行しても一度も滑ることはなかった。例の山頂トンネル内の縦溝が彫ってある路面でも全く動じることなく通過することができた。

 乾燥路面で短制動を試したところ、リアだけを強く制動してもかなり粘ってくれた。多くのスポーツバイクではリアだけの急制動だとわりとすぐに滑り出してしまうのだが、、、、予想外のこの粘りは、リアタイヤのグリップとリアサスの路面追従性が共に優れているからとしか私は説明できない。

 BYBRE(バイブレ=ブレンボの別ブランド)製の対向4ポットキャリパーを採用したフロントブレーキは非常にコントローラブルで、狙ったところにピッタリと制動することが出来る。フロントだけを強く制動しても乾燥路面では全く滑ることなく倒立フロントサスがしっかりと受け止めてくれる。シート位置が高くて前方寄りなので制動時は荷重がかなり前方に移動する。あまりに短制動が過ぎるとリアが浮き出す。キャスター角も立ち気味でオフ車のようにワイドハンドルなので、意図的にジャックナイフさせても車体はすごく安定している。

 意外と重いマフラーの大部分をエンジンとリアサスの間に収め、着座位置は前寄りで後軸は後ろ寄り、ライダーは自分自身が重心の中に存在していることを体感できる。両手首と腰の三点を結ぶ直線がほぼ正三角形になっていて、そのハンドリングも重心の中で行うことができる。前後左右あらゆる方向に対して機敏に荷重移動が出来る。運動性能・操縦性というよりもはやスタント性能といった方がいいかも知れない。ふた回り大きい車体にもかかわらず、まるでKSR110のように本人と一体になって自由自在に振りまわせるのである。

 燃料込みで130?もあると思えないほど取り回しが軽いのも重心が中央に集中しているからだろう。

 乗り心地は良い意味で硬めである。足回りは実にしなやかで、段差を通過してもすぐに減衰するので恐怖感がまるでない。

 本人が意識するか否かを問わず、肉体は微細な振動や揺れに対しても常にストレスを感じている。動力性能を遥かに上回る制動力と車体性能を持つことが長時間走行においていかに疲労を少なくするか125DUKEは教えてくれた。信号停止が多いと内股は痛くなるけどね〜

  

 足着き性。125ccとしてはシート位置が高くシート幅もあるために足着きが良くない。170cmない私がまたぐと片足をべったり接地させるともう片方の足は完全につま先がわずかに地面に触れるだけとなる。両足ともにカカトを浮かせるなら、つま先をついて少し足首が曲げられる。問題となるのはリアシートに荷物を載せている場合の乗降性である。もともと運転席より一段高い位置に後席があり、そこに載せた荷物の存在は乗降時の回し蹴りの角度を一段と上げなければならない。それこそ力士の股割りである。そこまで足腰が柔らかくないと言うならば、サイドスタンドを先に立ててからステップに立ちあがって(スタンディング)乗降するという方法をお勧めしたい。
 ところが125DUKEはステップより後方にサイドスタンド・ガイドがあるので、跨ったままサイドスタンドを立てようとすると途中でスネがステップに当たってしまう。チェンジペダルとステップの間にガイドがあれば跨ったままでも操作しやすいのだが。

 小柄な方でこの乗降方法さえ苦痛になるのなら、旋回時のロードクリアランスを多少犠牲にしてでも車体をローダウンするしかない。リアサスのエンドアイを交換し、サイドスタンドを切断・溶接で短縮し、フロントフォークのクランプ位置を下げることで5cmほど車体をローダウンできるという。KTMのディーラーに問い合わせてみたら新車購入時であれば35,000円くらいでやってくれるという。

 足着きが悪く感じるのはシート形状にも要因がある。走行中はニーグリップのホールド感(操縦性)が高く、長所にもなっているのだが、シート幅、とくに前方(タンク側)の幅が広くて足付きの際、内股に強く干渉するのである。シートクッション座り心地よりも路面からの情報を正確に読み取り、荷重移動時のズレをなくすために敢えて薄めにしたかのように見える。走行中に時折スタンディング姿勢をとればケツの痛みは和らいだ。アップライトな乗車姿勢で見晴らしはいいし、腰痛にもならなかった。長時間走行で疲労した箇所は内股だけだった。

 リアシートも固めである。乗降性は問題ないが、シート形状は後ろにいくほど徐々に幅が狭くなっていくので、同乗者はアシストグリップに両手を順手で差し込みケツごと掴むようにして座らないと安定しない。それでも運転者としては抱き付かれるよりマシで、後軸が後席のヒップポイントよりまだ後方にあるせいか、重くて高い荷物を載せたような感じで2ケツしても操縦性がそう悪くはならなかった。しかし動力性能にいっそう余裕がなくなるのは125として致し方がないところだ。このバイクの性格からして後席は付いてるだけでも有難いと思うべきか。

 積載性はあまり良くない。タンクバックを選ぶ独特のタンク形状だし、リアシート面積も狭い。あまり大きな荷物を載せるとテール/ストップランプが隠れてしまいそうだ。フックを引っ掛けるとすればリアステップを格納する可動部分くらいしかない。リアフェンダーは取り外すことを前提にしたような作りで剛性が期待できなさそうだし、後席のアシストグリップも手で掴むぶんにはいいが、フックを引っ掛けるには太すぎるし、後端が開いているので抑えが効かない。仕方がないので後席の下を一周してフックどうしを引っ掛けた。ヘルメットホルダーもないので、ブレーキレバーとヘルメットの金具に錠前を付けてみた。

 収納力も低い。リアシート付近のカギを回すとリアシートを脱着できる。シート裏面には車載工具がバンドされている。シートの中は配線もあるので、折り畳んだ書類に薄めのグローブが入るかどうかという程度でしかない。

 操作性。各種スイッチ類は標準的な作りである。クラッチレバーやブレーキレバーも軽くて扱いやすい。その一方でブレーキペダルが内側に引っ込んでいて、踏みづらかった。もう少しペダルを外側に延長して欲しい。

 液晶メーターパネルは様々な情報を提供する。時間・距離・速度・燃費・ギアポジションはデジタルで、エンジン回転・水温・燃料はバーグラフで表示する。距離計は累計距離と2つのトリップメーターを切り換えできる。この燃費計は瞬間燃費にしては変化に乏しいし、平均燃費にしては絶えず変化している。それらの中間的な値を表示するようで、現在の走り方でどの程度燃料を消費するか示すものと思われる。冬季始動直後で20km/L台を表示し、峠の登りでは30km/L台、巡航が続くと40〜50km/L、下りが続くと60km/L台に乗る。信憑性は高そうだ。

 ミラー。ハンドル幅が広いので腕が開いた乗車姿勢となる。ミラーの1/3以上は自らの腕・肩が写ってしまう。曲面の形状も先端が鋭角になっていて視界はいっそう狭くなっている。左右にもっとミラーを張り出せばいくらか改善するだろうが、そんなことをしたら、ミラーtoミラーの幅がもっと広がって更にすりぬけ戦闘力が落ちる。

 ライト。メインスイッチをONにするとヘッドランプ下のスモールライトやテールランプ、メーターパネルの液晶画面、そしてハンドルに付いた各種スイッチまでが判別できるようにアイコンが白く点灯する。ライトスイッチはないものの省電設計をしていて、サイドスタンドを立てるとエンジンが自動停止して、少し間を置いてヘッドライトも自動消灯するようになっている。

 ヘッドライトはH4バルブ55/60Wのハロゲンランプをマルチリフレクトしている。ロービームでもなかなかの照射力だが、ハイビームに切り換えると上下左右全ての照射範囲が広がって夜間走行で重宝する。運動性も操縦性も動力性能もクラストップでライトも明るいのだから、暗黒の峠道で最も速く安全に走行できたことは言うまでもない。

 ウインカーレンズは小さいがLEDによってはっきり点灯するので思ったより被視認性は悪くなかったが、テール/ストップランプはさすがにこれでは小さ過ぎるのでは。後方から見ると尾骶骨のあたりに小さなテールランプが光り、万が一ナンバー灯が切れたら夜間はスポーツサイクル並みの被視認性でしかなくなる。ミラーとテールストップランプさえ改善してもらえば安全性もクラストップレベルとして挙げたい。

 今までインプレしてきたなかで、ただ速いだけの125なら他にも存在したが、ここまで高い安心感を持ったものは存在しなかった。ストリートでオシャレに流すもヨシ、下道でまったりツーリングするもヨシ、リアフェンダー外して私有地で無茶するもヨシ、峠で下り最速を目指すもヨシ。この軽さと低振動のまま、トルクだけもう少し向上すれば更に楽しいバイクになるだろう。今夏発売予定のDUKE200に期待するのはそれである。

2012.1.2 記述

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