キムコ
レーシング125FI

単独評価
 長所: 1ライト 2運動性能 3収納力 4シート
 短所: 1運転席着座姿勢

シグナスX-FI台湾仕様と比較して
 長所: 1旋回性 2収納力 3シート
 短所: 1照射範囲 2最高速

 キムコ・レーシング125FIは2009年5月から日本国内に輸入された台湾製スクーターである。ヤマハ・シグナスX-FIを標的にしていることは誰の目から見ても明らかである。今回試乗したのは慣らし運転直後の日本上陸初期型モデルである。

 動力性能は静かさとスムーズさをもって遅滞なく加速していくという感じである。ストレスは全くないが、感動するほどパワフルでもない。しかしレスポンス自体はとても良くアクセルワークがとても軽やかだ。エンジンの回転も変速もスムーズで、良い意味でホンダ的である。@125をより静かにより大人しくした感じ。あるいはスペイシー125をより静かにより軽やかに機敏にした感じのエンジンである。スロットルを戻した時のエンジンブレーキはシグナスX-FIより緩やかで私好みである。

 発進加速はアドレスV125(K5)に及ばないが、アドレスV125S(L0)とシグナスX-FI台湾仕様の間ぐらいだと思う。このあたりは整備状況や総重量で優劣が変わるだろう。平地でアクセルを全開にしたところ最高速はメーター読みで95〜98km/h、下り坂では104km/hまで確認できた。シグナスX-FI台湾仕様と比べると市街地走行ではやや機敏で、高速域の伸びは逆にわずかに劣るようだ。私の好みで言えば低中速重視のレーシング125である。

 比較対象区間304.7kmを走行したところオドメーターは328kmを指した。距離計に+7.6%の誤差があるとするならば、その区間の平均燃費34.9km/Lに修正される。なお、通勤使用ではないものの市街地区間では修正後で38.2km/Lという結果が出た。比較対象区間よりも市街地区間の方が良い数字が出るのは非常に珍しい現象である。

 制動力は良好だ。フロントをガツンとかけてもフロントサスが荷重をしっかり吸収してくれてタイヤも粘ってくれる。乾燥路面ではリアだけを急制動しても滑らなかった。前後12インチの標準タイヤはチェンシン製だったが、常識的な走りをする限り不満のないブレーキだと思う。

 乗り心地も良好である。フロントサスもリアサスもシグナスX-FIよりもしなやかに作動する。シグナスX-FIのようにサスが硬くてシートのコシが弱いと、シートが荷重移動装置として機能しなくなるのだが、レーシング125FIはサスペンションとシートの硬さのバランスが良い。

 そしてタイヤとサスペンションとフレームの相性もいいと思う。バンク角37度を謳うだけあって旋回もとてもスムーズだった。
 それはいいとして、シグナスX-FI同様に個人的にはこのフロアステップの高さが気に喰わない。バンク角確保のためステップを高い位置に設ける。スポーツバイクのステップなら体重が掛かるからそれでいいが、高床フラットフロアだと踏み足の荷重が分散されて体重移動がし辛いのだ。また、足元に荷物を置く際もそれが落ちないようにと、余計に注意を取られる。バンク角とフラットフロアの両立を狙ったのだろうが、操縦面からも実用面(積載性)からもこのフロアステップの高さは損をしている。スポーツスクーターを標榜するならいっそフロアへの積載は諦めて、スポーツバイクのような可倒式でバンクセンサーの付いたステップを採用するという方法もあったのではないかと思う。

 運転席着座姿勢。フロア(ステップボード)は高いが、シート位置も少し高めたようだ。170cmない私がフロアに足を揃えて着座すると膝は水平の高さまでは上がらず、まあ我慢できるレベルである。シートに程良い硬さがあり、シート表皮のグリップもあってケツ当たりはシグナスX-FIより良い。一方で足を前に投げ出すと窮屈で、すりぬける際のバランスが取りにくいのはシグナスX-FIに共通している。総じて着座姿勢はシグナスX-FIよりマシだが、PCXやアドレスV125Sよりも劣っていると感じた。

 後席着座姿勢。格納式のタンデムステップを設置したことによって同乗者の股は楽になっている。運転者と同乗者の足がぶつかる頻度も減って、2ケツ居住性はシグナスX-FIよりも良いと言える。なお、シグナスX-FIも2011年モデルのSRグレードから格納式のタンデムステップを新設した。そして更新日にキムコの現地サイトを見たらレーシングには格納式タンデムステップが付いていなかった。コストダウンのために省略してしまったのだろうか?

 積載性。正面にカゴは付かないし、フロアは高いし、リアキャリアもオプションである。ヘルメットホルダーは2つある。シートヒンジ付近に設けたプラスチックの突起がそれである。ここまではシグナスX-FIと同じ。
 給油口が左膝付近にあるのもシグナスX-FIと同じだが、レーシングのインナーラックは左側部分にも少し残っていて、地図ぐらいなら入れておける。そしてシグナスX-FIのコンビニフックはインナーラックの奥にあるため荷物が引っ掛けにくいが、レーシングは高い位置に設けてフックも長い。更に、股の下シート側にもフックが収納されている。

 収納力。内部形状は凸凹していてあまり感心しないが、ヘルメットは当方の手持ちの組み合わせでなんとか2つ収納することができた。国内向けのカタログでは2個収納を謳っていないにもかかわらず、である。その際、ジェットヘルメット:SZ-RAM3は前に向けても後ろに向けても入ったが、内部の凹凸でヘルメットの内装が多少圧迫されてしまう。それが気になる人は中敷きを外してしまうと良い。同梱した半キャップは立てる必要があるので、ツバのついたものは収納できないだろう。シグナスX-FIではシートを強引に押さえ付けないとこの2個を収納することができなかった。

 操作性
メインスイッチは絵柄だけ見ていると分かりづらいが、使ってみると良く考えたものだと感心した。スイッチを一番右まで回すと勢いよく給油口が開く。OFF⇒ON⇒OFF⇒FUEL。エンジンOFFの位置が二か所あるのでハンドルロック解除状態から給油口を開こうとするとONの位置でいったんライトが点灯することになるが、走行直後に給油する場合、スイッチをいったん左に戻さなくても、右に回すだけで給油口を開くことができるのだ。一方でスイッチを左に回すと、OFF⇒OPEN、OFF+PUSH⇒LOCK⇒OPEN。つまりハンドルロックする前にも・した後にもシートオープンできるのだ。
 しかもこのシートはトーションスプリング(捻りバネ)の力でスムーズに全開する。手で押さえておく必要がないので収納作業がしやすい。ガスダンパーのようにスペースを取らないし、部品代も安いと思う。
 タンデムステップは丸型のボタンを押すとパチンと飛び出てくる。しゃがみ込まなくてもいい。手を汚さなくてもいい。軽く蹴りを入れれば良いのだ。雨天時は有難い。
 ウインカースイッチの位置が下がり過ぎていて操作し辛かったのは残念だった。バックミラーはWナット式である。本体に固定された状態で鏡面だけでなくアームも前後に可動する。付け根もゴムラバーでカバーされている。

 ホンダ・インサイトに似たメーターパネルにはアナログ式タコメーターも付いている。スイッチをONにするとメーターを一回振り切るスイープ機能がある。ヘッドライトはメイン2灯+ポジション2灯=で常に4灯が点灯している。前方投影面積に占めるライト面積がとても広く前方からの被視認性は申し分ない。両ウインカーもポジションランプとして常時点灯させておけば更に安全性が増すだろう。照射力も35Wと思えないほど明るいが、照射範囲はそれほど広くなく照射されているところとそうでないところの輝度差が大きい。マルチリフレクト効果が少し弱い。暗黒の峠道では時折、ハイ/ローを切り換えることがあった。シグナスX-FIと比べて明らかに劣る点があるとすれば、これくらいである。
 テールランプ/ストップランプはLEDを採用している。バルブを共用して光量だけでテール/ストップを使い分けるバイクは多いが、レーシングはそれに加えてテールランプ中央に独立して光るストップランプを設けて後方からの被視認性を向上させた点を評価したい。
なお、ハザード点灯はなし。パッシングは可能である。

 全体的なパッケージはシグナスX-FIに良く似ているが、多くの点で手直しされて、こいつはシグナスX-FIの新型なのかと思わせる。ひとつひとつの項目でシグナスX-FIを“わずかに”上回っていて、その“蓄積”の結果、レーシング125FIの勝ちと言わざるを得ない。ライフサイクルコストが同じであるならレーシング125FIをお勧めするしかない。
 しかしこの製品だけではキムコという会社まで評価することはできない。後から似たようなモノを出せばより良いものが造れるのは当たり前だからである。

2011.5.5 記述

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