キムコ
G-DINK125i

 長所: 1足着き性 2直進性
 短所: 1着座姿勢 2収納力

 今回試乗したのは台湾メーカーであるキムコG-DINK125iの2014年モデルである。GRAND-DINK、 DINK、G-DINK、とDINKと名の付くスクーターがいくつもある。G-DINKと書いてジーディンクと読む。すなわちG-DINK は必ずしもGRAND-DINKの新型というではなさそうだ。GRAND-DINKの後継はDOWNTOWN125iが受け持ってSYM・JOYMAX125i=GTS125iと対峙し、ひと回りコンパクトなこのG-DINKSYM・RV125iあたりを標的にしていると思う。

 発進加速。85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にするとメーター読みで、100mで63km/h、200mで77km/h、300mで85km/h、400mで90km/h、500mで94km/h、600mで96 km/h 、800mで97km/h、1,000mで平地最高速の98km/hを示した。クラッチが完全に繋がるまでの一呼吸はもどかしいが、その先は高回転をキープして元気なエンジン音が聞ける。軽量スクーターから乗り換えても大きなストレスを感じない程度の発進加速力は持っている。出足の一瞬はJOYMAX125iよりやや速く感じるが、少し進むと逆転されるのではないかと思う。

 比較対象区間304.7kmをキビキビ走行したところ燃費32.6km/Lになった。大柄な車体をストレスなく加速させると燃費もこの程度になってしまうのだろうか。この区間でオドメーターは319.7kmを指し、+4.9%もの距離計誤差が出た。

 動き出した直後の安定性はJOYMAX125i RV125iよりも良いと思う。走行中にわざとハンドルを左右に振っても頑固なまでに直進を保とうとする。一方で、腰の振りひとつでスラロームも容易にこなす。ただし通常のカーブなら問題ないが、速く走ろうとするとボロが出てくる。旋回中に段差を踏んで車体がバウンドすると前輪と後輪のトレースがズレることがあるのだ。後輪径より前輪径が大きなバイクの特徴が現れている。

 リアサスは硬さを調整できるタイプだが、一番ソフトな位置にしても段差を通過した際のショックは大きめである。そして車体全体のバランスから言って中央というかフロア部分の剛性がやや頼りない。JOYMAX125i と比べると乗り心地剛性感、そして中速以降の直進性も及ばないと思う。RV125iと比べると同等の乗り心地と中速以降の直進性だが剛性感はやや及ばないと思う。後述する着座姿勢がそう感じさせる一因かも知れない。

 短制動。ステンレスメッシュホースを奢る前後ディスクブレーキを採用するだけあって効き始めも早く、加減もしやすいブレーキである。乾燥路面ではリアだけ強くかければ滑り出したが、後輪が流れる前にスリップ音が聞こえるので握力を抜けば後輪はグリップを取り戻す。前輪中心の制動では問題なく止まる。一方のWET路面ではフロントだけでもリアだけでも滑り出すので怖かった。前後同時にうまく加減しないと雨天時は安心できない。標準タイヤはMAXXIS、サイズはF:120/70-R13 R:140/70-R12だった。

 雨天時でもうひとつ気になるのがカッパを着用していても浸水しやすいことである。ハンドル位置が高いので手首から雨水が侵入しやすく、腕がカッパの中で濡れるのだ。シートもケツの安定を図ったためか窪んだ形状をしており、シートに雨水がたまりやすくレインパンツの縫い目から容赦なく雨水が侵入してきて不快極まりない。スクーター用の膝掛けやナックルバイザーが欲しくなる。

 運転席
 着座姿勢は、ハンドルが高くて+フロアも高くて+シートは低い=アメリカンのようである。足をフロアに置いてしまうと肚(はら)が浮いてしまう。フロア前方の傾斜した部分に足を投げ出さないと姿勢が安定しない。操縦しやすくなるのは発進して地面にあった両足をそのポジションに移した直後からになる。停止寸前に片足を地面に移そうとした際にもグラッと安定感を失いやすい。
 足着き性は両足がほぼべったり接地する。大きな車体のわりに足着きがいいのは、座面を大きくえぐって低くしているからである。

 後席
 ステップの位置が高いので、小柄な人には乗降性がやや苦しいかもしれない。そして大柄な人が座ると股が開きやすい。キャリア兼タンデムグリップはしっかり掴めるのだからバックレストをもう少し高くしてくれればどの体格の人にとっても着座姿勢はもっと安定すると思う。さらに座面積は広いのだが、座面がやや前傾しており、ケツが前にズレようとする力が働く。ところがシート表皮のグリップは高いので、ズボンとシートの摩擦は維持され、ズボンの中で体だけが前に前にズレてくる。長時間走行では股間がだんだん追い詰められてくる。もうひと頑張りしてほしい後席である。

 シートを低くしたことによって、収納力は犠牲になった。開口部こそ大きいものの深さ不足でデイパック等は収納できない。特に前席下が浅い。前席下から後席下にかけて小型三脚などの長尺物を入れると、後席下は半キャップしか収納できなくなる。アライのジェットヘルメットMZ(Mサイズ)を後席下に収納すると、前席下は半キャップ型のヘルメットも入らずカッパや工具などに留まる。収納容量についてはPCXと同等でシグナスXには劣る。

 

 メットホルダーはシートヒンジ付近に金属のフックが左右に用意されていて、2人分のヘルメットを引っ掛けることができる。
 ハンドル下、左側にポケットがある。DCソケットを装備してスマホなどを充電ができるほか、コンデジまたは350mlペットボトル1本が収納できた。このポケットは施錠できないので貴重品を置き忘れないよう注意しよう。
 ハンドル下中央のいわゆるコンビニフックは、フック部分にカラビナのようなスプリングが仕込んであり、走行中の衝撃によって荷物がバウンドしても、フックから荷物が外れないように工夫されている。

 フラットフロアのため、2Lペットボトル6本入りの段ボール箱ならものによっては横置きできるが、伸ばした足と干渉してしまうので、積載中はつま先や踵の一部をフロアに引っ掛けるか、両足を横に垂らした格好になる。

 リアキャリアらしき平面が後席シートバックにあるが、面積が狭いしフックもない。専用ポーチに入れたカッパを巻きつけておく位の効用しかない。リアキャリアと称するオプションの金属プレート(12,800円)を介してBOXを取り付ければダクト付フルフェイスもモノを選ばず収納できる。が、この手の大型スクーターにBOXを付けてしまうと、ただでさえデカい図体が更に長くなって駐輪する場所を選ぶことになる。

 後席座面にいくらか荷物を載せることができる。タンデムグリップ部分にゴムネットをフックすることもできるが、motoFIZZのように細いフックならシート淵部分に引っ掛けることができる。それなら積載中にもシート開閉ができる。

 

 操作性その他。メインスイッチがOFFの位置だとカギを抜いてもハザードランプが点滅するので緊急用として使える。サイドスタンドを出すとエンジンは自動停止する。給油口のフタは施錠できない代わり、給油キャップに直接カギを挿入する。
 メインスイッチONでヘッドライトが常時点灯する。H4の55/60Wとのことだが、特にロービームでは正直そこまでの照射力はあるように思えなかった。配光範囲も特に広いわけではなく、ハンドルと同じ方向を照射しないので、タイトコーナーが連続する暗黒の峠道ではクリッピングポイントからズレまくっていた。夜間は積極的にハイビームに切り替えて走行したい。ヘッドライト左右に装備したLEDのおかげで正面からの被視認性はまずまずである。もしもウインカーをポジションランプとして常時点灯させれば被視認性は更に向上するだろうという意味で、ハザードランプを点灯させた状態を撮影してみた。後方からの被視認性はレンズ面積が大きくて文句ない。

 メーターはエンジン回転のみアナログ、他はデジタル表示する。MODEボタンによってマイル/キロメートル表示を切り替えることができる。ADJustボタンによってオドメーターとトリップメーターを切替え、押してる時間の長さでトリップをリセットする。
 バックミラーは鏡面積の広さ、ハンドルからの左右の張り出し量、高さ、いずれも問題なく、後方視認性すりぬけは悪くないが、ミラー表面にKYMCOなんてプリントしなくてもいいですから。

 大柄な車体のわりに足着きが良く、発進加速にストレスを感じないし、早く安定するのは長所だが、大柄な車体のくせに着座姿勢収納力に満足できないのが歯がゆい。積極的にお勧めできるスクーターではないが、他人とは違う珍しいものに乗りたいとか、バルタン星人やマジンガーZのカオが好きなら候補に加えてもいいだろう。

 キムコについてはバイクそのものよりも輸入元に一抹の不安を抱く。ホームページのキャッチフレーズは私以上に日本語がおかしいし、旧版のカタログ表記と実装に違いがあったので問い合わせようと思っても電話番号すら記載がない。メール送信ボタンを押してもエラー表示が出たり。しかるべきときにきちんと対応できるのか疑問が残る。

2015.8.23 記述

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