キムコ
レーシングS125

 長所: 1剛性 2運動性能 3制動力
 短所: 1フロア高 2動力性能 3ヘルメット収納力 4ウインカー被視認性

 キムコは2009年に発売したレーシング125FI(以下先代という)を7年ぶりに更新させた。今回試乗したのは、2016年に台湾で生産された日本向けのレーシングS125である。

 足着き性4型シグナスX-SRよりわずかにいいと思う。170cmに届かない私が運転席に深く腰をかけると片方の踵が浮いてしまうが、ほんの少しだけ前に着座すると両足ともべったり地面に接地した。

 シート表皮のグリップは問題なし。シートは左右に最大約30cmの幅があり、長さも約40cmあるので標準体型であればシートにケツが収まる。足元は水平に近いフラットなフロアステップとその前後に足を置ける場所がある。公式サイトでは自由度の高いライディングポジションとして画像?をツーリングモード、?は名称なし、?をアーバンモード、?をレーシングモードと大層な名前を付けているが、私に言わせれば普通の走り方で常用できるのは?のみで、同じ姿勢で体がきつくなってきたら、???で凌ぐ、というレベルである。

 ?はステップとシートで踏ん張れる姿勢である。4型シグナスX-SRよりも運転席と後席の段差がはっきりしていてケツを押しつけ易い。ステップの傾斜角度を先代より緩くしたものの、根本的に床が高すぎるので、快適に走行できるのはせいぜい1時間程度である。内股が疲れたら?に足を引っかけてガニ股になるといくらか楽になる。背中が疲れたら?に足を置いて上体を前傾させるといくらか楽になる。ちなみに??に足を置くとバイクを振り子のように左右に振りやすい。尾てい骨が痛くなったら?に足を引っかけてケツを浮かせるといくらか楽になる。?は5cmくらいしかステップ幅がないのにブーツが引っ掛かってくれる。

 長時間乗車では疲労度の高い順に内股、背筋、尾てい骨だった。尾てい骨や背筋の痛みは着座姿勢を時折変えることでだいぶ改善できるが、内股だけはどうしようもなかった。先代と比べると?だけはわずかに進歩したと思うが、?より後方は変わらない。シートクッションは4型シグナスX-SRよりわずかに良かったと思うが居住性や着座姿勢をトータルで判断すると4型シグナスX-SRとイーブンだと思う。レーシングSにしてもシグナスX-SRにしても公道外での使用がメインなのだろうか。

 後席は運転席より良好である。座面長は25cm、座面幅は前30cm〜後20cmほどある。後端に行くほど絞り込まれる後席が多いなかで比較的ケツを置きやすい後席である。スタンディングハンドル兼グラブバー(タンデムグリップ)がとても掴みやすい。手が差し込める前後長が23cmもあるのだ。?タンデムステップはボディから左右に各10cm出ていて着座姿勢、乗降性ともに良好だが、運転者が足を接地する度に互いの足が鬱陶しいのはコンパクトなスクーターの宿命か。

 2ケツするとフロアの高さが操縦を妨げているのがより明らかになる。出力もさらに余裕がなくなり、流れに乗るためにもバランスを取るためにもアクセル常時全開にしたくなる。

 ハンドル幅は約67cmだが、ブレーキレバーの方がだいぶはみ出して左右間で約73cmもある。ミラーのそれは約81cm。すりぬけはやはり?に足を置いた方がしやすかった。

 前後共に2個のピストンでローターを挟むディスクブレーキは非常に強力である。制動力はあからさまに4型シグナスX-SR より優れている。標準装着するタイヤの銘柄はKENDA K702。サイズはF:110/80-12、R:120/70-12 であった。凍結防止のために縦に溝が掘ってある路面では、DRYでは楽勝、WETでは全く影響を受けないわけではないが、まあ大丈夫なレベル。

 短制動。効きが早いディスクだから意地悪くリアのみ急制動すればDRYだろうがWETだろうが滑ることは滑る。しかしいきなりグリップがゼロになるのではなく、滑りながらも粘りを感じるので安心感がある。フロントのみの急制動では、座面のケツが前にずれるほどフロントサスがしっかり縮んビシッと止まる。大概は滑らないのだが、前輪がロックするのを警戒してフロントブレーキをわずかに緩めた際、路面とタイヤの間ではなく、ローターとパッドの間で摩擦を残しながらも滑ってしまう現象を初めて体験した。無茶しなければ雨天通勤にも十分使えるブレーキとタイヤだと思う。

 運動性能も優秀。発進から停止直後まで全域で直進安定性が高い。このフロア高にしては微速すりぬけでの安定性も高い。非常に素直なハンドリングで旋回性もいい。走行中にわざとハンドルを左右に振ろうとしても、その動きをバイクが抑え込もうとしてくる。バンク角が深く、寝かせても不安感が少ない。先代のレーシングFIシグナスX-SRよりも不安感が少ないのは車体全体がカチッとしているからだと思う。フラットフロアなスクーターにしては車体剛性が高い。運動性能に関してはフロアの高さだけが本当に残念だ。

 車体性能(フレーム、サス、ブレーキ)に対して物足りないのが動力性能(エンジン)である。ワンワン唸るわりには速度に反映しない。しばらく乗っていると慣れてしまうのだが、やっぱりゴムベルトで変速するCVTはMT車に比べるとダイレクト感に劣る。高回転を維持してビンビンに走りたいならGSX-S125あたりの方が楽しいのではないか。

 乗り心地は、フロントサスはOK。リアサスは5段階のプリロードアジャスターを中央にセットしてみたが、ときどき大きな衝撃を受けることはあった。ユニットスイング式だから仕方ないと思う。このあたりは先代シグナスXとの優劣はよくわからなかった。

 発進加速。85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にしたところ進行距離ごとのGPS速度表示は次の通りになった。100mで52km/h、200mで71km/h、300mで77km/h、400mで80km/h、500mで83km/h、600mで84 km/h、700mで86 km/h、800mで88km/h、900〜1,100mで89 km/h、1,200〜1,400mで90km/h、1,500〜1,600mで平地最高速91km/hを確認した。このときレーシングS125のデジタルメーターは93 km/hを表示していた。GPSを基準にすると最高速での速度計誤差は(93-91)/93=+2.1%と推定する。下り坂ではメーター読みで98 km/hまでは見ている。

 比較対象区間(新)307.1kmを走行したところオドメーターは305.1kmを示した。(307.1−305.1)/307.1で距離計は−0.65%の誤差があると推定する。その区間の平均燃費は満タン法で39.8km/Lとなった。市街地走行では38.2 km/L になった。
 先代より体感加速は落ちたが燃費はわずかに向上している。ホンダeSP、ヤマハBLUECORE、スズキSEPなど日本勢の最新型エンジンに比べると燃費はかなり悪いと言える。

  

 収納力
 トランクは深さが足りなくてアライ製ヘルメットのQuantum-J(M/L)とMZ(M/L)で試したがどんな向きにしてもシートを閉じることができなかった。その一方で開口部は広いので、登山用の30Lデイパックをなんとか無理やり収納することはできた。中身が多いと収納できなくなるので、25Lまでのデイパックを推奨したい。
 ヘルメットホルダーはシートヒンジ付近にプラスチックの突起が2つある。左右どちらにもQuantum-J(M/L)、MZ(M/L)を引っ掛けることが出来るのだが、突起が太いので、左ホルダー側は2個のDリングを通すのがややきつい。
 フロントポケットは開口部が大きいので500mL程度のペットボトルでは走行振動で暴れないか心配したが、意外にも飲みきったペットボトルでも右下角の位置で安定していた。

 積載性は平均以上。フロアステップ?の寸法は前後に21cm左右に41cmある。大抵の2Lペットボトル6本入り段ボールが置くことが出来る。その際、足は?か?に逃がすしかない。後席の上に荷物を置いてスタンディングハンドルにゴムネットを引っかけることができた。スタンディングハンドルの太さが絶妙だからゴムネットがフックできるのである。標準状態でもわりと積める。
 コンビニフックは固定タイプでフックも大きい。アライヘルメットのDリングも引っ掛かる。以上で足りなければオプションのリアキャリアを取り付けよう。

 操作性その他。
 先代譲りのメインスイッチは図柄だけでは意味が分かりづらい。メインスイッチはどの位置でも鍵を反対に捻ればシートを開けることができて便利ではある。加えて巻き取り式のスプリングがシートを開いた状態をキープしてくれるのも有難い。勢いよくシートが開くようにスプリングを強く再設定する人もいるだろう。

 スイッチ類はかつてのホンダ車と同じものではないか。ウインカースイッチは一般的なプッシュキャンセル式を採用。リレーのカチカチ音が懐かしい。

 メーターは白、緑、青、黄、赤と実にカラフル。MODEとADJと2つのボタンがある。表示内容を切り替えるのはMODEかと思ったらADJでないと切り替わらなかった。配置逆じゃね? ひょっとしてやっちゃいました? TRIP計のリセットはMODEとADJの同時押し。紛らわしいので表示内容変更はMODEで、リセットはADJ片押しにして欲しい。トリップメーターをリセットしているにもかかわらず、走り出してから10mもしないうちに100mを刻んでしまうことがあった。また、肉眼では感じないが、デジタルメーターとGPSビデオカメラとのフレームレートの相性が合わず、動画を再生すると数字が暴れてなかなか読み取れない。発進加速の動画は何度も計測し直すことになってしまった。

 ヘッドライト は2つの35Wハロゲンバルブが常時点灯する。ロービームで照射範囲は左右に180度近くあり、上下は足もとから約15m先までを照らす。ハイビームに切り替えると、左右180度は変わらず、上下は足もとから約50m先までを照らす。LEDヘッドライトとの違いは周囲もうっすら照らしているので、突然横から何かが飛び出してきても気づくのが早い。暗黒の峠道では、遠くまで照らすハイビームの方が予測運転がしやすいが、クリッピングポイントの照射はロービームでも十分対応できた。ロービームへの切り替えが遅れると漏れなく対向車からパッシングを受けるので、相応の照射力があることが分かる。ちなみにパッシングも可能で、ロービーム位置で更に下に押し続けることでハイビームとロービームの同時点灯状態を維持できる。このときハイビームの照射範囲・距離に中央部分の明るさが上乗せされる感じである。LEDポジションランプも併用していて、35Wハロゲンバルブとしては照射力・被視認性ともにトップクラスだと思う。ヴェクスター125を試乗した際にも感じたが、単灯よりも双灯の方が明るく感じるのは、左右のバルブ(光の波)で重ね合わせの原理が働いているからだろうか。

 ヘッドライトはいいのだが、ウインカーの被視認性が悪い。画像は連写したなかで最も明るく左ウインカーが点灯しているものを選んでいるのだが、リアはほとんど分からない。肉眼とデジタルの目では見え方が異なるにしても、レンズ面積を増やしたり、ライトスモークレンズを採用するなどして早急に改善して欲しい。

 バックミラーはデザインに走った多角形状である。映像の立体感はあるのだが、淵部分の歪みは目立つし、KYMCO文字も邪魔。鏡中央部分(裏)でミラーアームとマウントしているので、鏡面を360度回転させることができる。すりぬけ重視の方は90度立てるだろう。右側のミラーが正ネジというのも今どき珍しい。サイドスタンドを出してもエンジンが停止しないのも今どき珍しい。

 燃料タンク容量は5.5L。ノズルが差し込みやすい給油口だが、油面が見えづらいので、ノズルを深く差し込んでゆっくり給油することを推奨したい。燃料計は白い目盛りが4つと赤い目盛りが1つある。満タンにしてから平均して約40km走行するごとに白い目盛りが1つずつ減っていく。白い目盛りが4つなくなると同時に赤い目盛りが点滅して給油を促す。燃費から逆算すると点滅する時点での残油量は1.5L、あと60km航続できるかどうかというところだろう。短距離・短時間走行ならもっと少ないはず。
 航続距離はツーリングでも最大40km/L×5.5L=220km。遠出向きのスクーターではないようだ。

 運動性能や剛性感は4型シグナスX-SRAEROX155より高いのではないかと思う。それだけに逆にパワー不足を痛感してしまう。フロアの高さは街乗りにも遠出するにも弊害で、RACING-S150で公道外をフルバンクするのが本来の楽しみ方のように思う。

2018.1.2 記述

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