キムコ
ターセリーS125

 長所:1直進性 2収納力 3後席居住性
 短所:1足着き性 2機敏性 3照射力 4燃費

 2020年6月の時点で2台のターセリーがキムコにラインアップされている。前後に16インチホイールと高出力な水冷エンジンを搭載しているのがターセリーGT125i(税抜350,000円、海外名PEOPLE GT125i)であり、今回試乗したのは後輪を14インチにとどめ収納力等に振ったターセリーS125(税抜250,000円、海外名PEOPLE S125i)である。両車の関係はホンダで言えばSH125iSh-modeの関係に似ている。

 130kgという車重と大柄な車体のためPCXよりスタンド掛けや取り回しは重く感じるものの、リアキャリア兼取り回しハンドルが握りやすいので平地であれば 苦に感じる事はないだろう。フラットステップのため乗降性は悪くないが、足着き性は海外モデルらしくあまり宜しくない。身長170cm未満・股下(両足を肩幅まで広げた状態の股下から地面までの垂直距離)77cmの私がシート後端に尻が当たるほど深く腰を掛けると両足ともにつま先しか接地しない。このときの足着きはADV150と同等である。着座位置を前方にずらせば足着き性は若干改善する。シートがやや硬めなので着座位置を前方にずらしても操縦性はあまり悪化しないが、ウインドシールドが接近する。ウインドシールドは建て付けがしっかりとしていてスクリーンも旭風防製と同等以上の品質感がある。透過性は良いとはいえ淵に近いところは視界が歪むし、ヘルメットのバイザーと二重越しになると流石に視界が綺麗では無いので、雨天時でない限り、バイザーは上げっぱなしになった。このとき後端から7cmほど前寄りの私の着座位置でバイザーを上げるとウインドシールドとの距離は12cmほどに縮まってしまう。取り回しの際は上体を前傾させるため、バイザーと接触しやすい。もしも好まないのなら暑い季節は外してしまうのもいいだろう。

 着座姿勢は両足を揃えてお行儀よく椅子に座るタイプである。フロアステップ先端の傾斜している部分=(クルマでいうところの)フットレストがないために、バックレストと組み合わせて前後に踏ん張ることはできない。この手のスクーターの操縦性はシート先端を股に挟めるかどうかが肝となる。典型的な10インチ50ccスクーターだとフロアとシートまでの距離が短いために両足を揃えると膝がシートよりも高い位置に来てしまいニーグリップは空振るし、股を閉じる姿勢で疲労してしまう。ターセリーS125はフロアとシートまで49cmの高さがあり、膝の高さは水平まで上がらず腹筋に負担は来ない。シートも硬めなので内股をかなり絞り込めばニーグリップに近い事もできる。ただし、フロアステップの幅に問題がある。足着きの際に足を垂らす位置では約44cmあるのだが、フロアステップ先端=つま先付近では約33cmしか幅がない。このため長時間乗車できるリラックスした乗車姿勢を取ると両足(両靴)はぴったり揃えた位置よりも開いてしまう。カカトはフロア幅に収まっているが、つま先の半分ほどはフロアからはみ出してしまうのだ。無理に両足(両靴)をフロア幅に収納しようとすると今度は無意識にガニ股になってしまう。フロア先端の幅をもっと広げて欲しかった。そうしなかったのは、すりぬけを考慮したのだろうか?

 運転席の居住性は私の体型ではフロアの狭さ以外に不満はない。外寸で32cmまでの靴がフロアに置けるが、寸法的に置けるというだけで、その位置に足(靴)を置いて適切な着座姿勢や操縦性が得られるかどうかは乗り手の体型に大きく左右するだろう。少なくとも運転姿勢の自由は無いと言える。試しに後席用のステップに足を掛けてみたが、位置が遠くて高い。長時間乗車の疲労軽減手段のひとつになろうが、あまり格好良い姿勢じゃないのでお勧めしない。

 後席の居住性着座姿勢は良い。シートは狭くないし無駄に広くも無い。運転席との適度な密着感がある。標準装備のリアボックスも背もたれになるし、リアキャリア兼取り回しハンドルタンデムグリップとして有効に機能する。留意点は後席乗降性。同乗者が足を大きく跳ね上げられない状態(スカート着用、柔軟性その他)ならばセンタースタンドを掛けた状態で運転席から乗降して後席に移動してもらうのがお勧めなことと、同乗者が着座した状態でスタンドを卸す最低限の体力が運転者に必要であること、若いカップルであれば全く問題にならないだろうが、問題になりそうなカップルには、PCXNMAXアドレス125などシートが低く乗降性の良い車種をお勧めしたい。

 乗り心地。リアサスペンションが3段階のプリロード調整ができる。最も柔らかい位置にセットすると、路面の凹凸を拾っても結構良く動くようになり、スクーターにしてはなかなか良い乗り心地になった。感動するほどではないがPCX(JF81等)やNMAXより若干いいかもしれない。長時間乗車の疲労箇所はスロットルグリップを回し続ける右手首が少々、姿勢を保とうとする内股が少々、夜間走行での眼精疲労は少々どころではない。

 スロットルグリップを回しても期待するような動力性能がすぐに得られない。エンジンは必死に回ってます!アピールしているのだが、いまいちキレがない。レーシングS125のエンジンがほぼそのまま載っているような印象だが、スロットルを戻して減速するとホンダ・トゥデイホンダ・スペイシー100で聞いたような情けないサウンドを発する点が更にマイナスポイントだ。

 ターセリーS125に85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にするとGPSは次の速度を表示した。100mで50km/h、200mで67km/h、300mで75km/h、400mで79km/h、500mで85km/h、600mで86km/h、700mで88km/h、800mで89km/h、900〜1,000mで90km/h、1,100mで平地最高速の91km/hを表示した。このテストコースを逆走したらGPS表示で95km/hまで伸びた。このときはウインドシールドから巻き込む風が車体を前に引っ張るように作用していた。91km/hのときは向かい風だったかもしれないので、間を取って93km/h位が平地での平均的な条件での最高速だろうか?ちなみに下り坂ならメーター読みで100km/hまで見ている。速度計の誤差はGPSで95km/h(93km/h)のとき本体のデジタルメーターは98km/h(95km/h)だったので(98-95)÷95=+3.2%から(95-93)÷93=+2.2%の範囲内にあると推定する。比較的良心的な誤差と言えよう。

 比較対象区間(臨時改)297.4kmを走行したところ7.92Lのレギュラーガソリンを消費したので平均燃費は37.6km/Lとなった。日系メーカーの最新エンジンに比べるとどうしても燃費は大きく劣る。例えばほぼ同一の区間を走行したPCX(JF81)と比べ25%劣っている。距離計の誤差は(299.8-297.4)÷297.4=+0.8%と推定。これも良心的な誤差と言えよう。

 運動性能は良好。さすがにフロントが16インチともなるとスロットルを回すと発進からフロントが強く立ち上がる。クラッチが切れて惰性走行になる停止寸前にわずかに不安定になるものの、それ以外のほぼ全域で直進安定性が高く、これはタンデムコミューターとしてプラスポイント。Sh-modeのように高速域で前輪が膨らむような現象も発生しない。コーナリングでは、フロントホイールがリアより大径なので、立ちは強いけど旋回はどちらかというと苦手なスクーターであると予想していたが、深めにバンクしても挙動は変化しにくく、良い意味で期待を裏切られた。日系国内原付二種スクーターのどれよりも直進性は高く、旋回性はホイール直径がF>Rなスクーター:リード125、ベンリィ110、アドレス125のどれよりも良く、F=R14インチのアドレス110、ディオ110、PCX(JF56)よりも良く、PCX(JF81等)と互角と感じた。ただ、車体そのものの運動性能は良くても、足の置く場所が限られていて足と尻で踏ん張ることはできない。内股をぎゅっと絞れば少しは操縦しているという感覚はあるのだが、基本的には“座る”タイプのスクーターの例に漏れず、バイク本体が持っている安定性に頼った運転になるだろう。

 制動力。贅沢なことに前後にボッシュ製のABSを装備している。これまで前後にABSを装備した原付二種スクーターに3台試乗することができた。その制動フィーリングを個人的にランキングすると良い順に次のようになる。
プジョー・シティスターRS > ヤマハ・NMAX ABS > キムコ・ターセリーS125
 シティスターRSはタイヤの能力をぎりぎりまで使う印象があり作動は遅めである。そしていざABSが作動してもブレーキレバーに作用するキックバックが非常に小さいし、そのサイクルも小刻みなので驚かなかった。ABS作動中の制動力の抜けも少なかった。NMAX ABSはABSの作動が早めだった。まるでバイクが「いつまでもブレーキレバー握ってんじゃねえよ」って怒っているかのように特にフロントはキックバックが大きかった。ターセリーS125はキックバックの大きさは3台のなかで中間的だが、キックバック→制動抜け→キックバック→制動抜けというサイクルを何度も繰り返す傾向があり、(わざとブレーキレバーを握りっぱなしにしている私が悪いのだが)、特にWET路面において制動力が抜けている時間が長くて若干の怖さを感じた。DRYではタイヤが鳴りはじめた瞬間にABSが作動するので、ギリギリまでタイヤの制動力を使っている印象はあった。

 いずれの車種もABSが無いことに比べれば安心感は高い。恐ろしくて試せないが、凍結路面ではどうなるだろうか?
 ところで、ABSが装備されることのメリットは、タイヤブレーキに粗悪品が使われなくなることにあると思う。ターセリーS125の標準タイヤはKENDA K763(F)という中国製品なのでちょっと心配だったが、制動力旋回性も不安は無かったので、要求されるグリップ水準も従来のKENDA使用車より向上していると思う。タイヤサイズはF:100/80-16 R:120/80-14なので選択肢はあまり多くないだろう。

 

 積載性というより収納力はかなり高い。リアキャリア上に標準装備するリアBOXはSHADのOEMモデル。後述する4つのヘルメットはいずれも干渉なく収納することができたし、ヘルメットの脇にレインコート等を押し込むこともできた。なおこのBOXは本体と同一のキーで施錠することができる。これが地味に便利である。
 フロアに荷物を“置く”ことは期待できない。足元中央は奥行きで15cmほどしかないし、両足を置いたら左右が塞がるので、回転式荷掛けフックを出して水筒のような長めの物を“引っ掛ける”ことくらいしか出来ない。あとはUberEatsバッグを背負うくらいである。

 蓋つきインナーポケットがハンドル下の左膝付近にある。薄手のグローブなら丸めて何とか入る程度のオマケ空間である。鍵がないのでいつでも開閉できるが、この開閉マークが逆になっているのはご愛敬。

 シート下の収納空間がかなり大きい。容量はざっと言うとPCX超・リード125未満という感じ。前後で深さの異なる空間は、前室のヘルメット収納スペースと後室の小物スペースが、脱着可能な仕切り版で分けられている。小物スペースはLowepro製カメラバッグToploaderZoom50AWがぴったりと収まる容量があり、USB充電器も装備している。なおUSB充電器はハンドル付け根右脇にも装備していて2台の機器を同時に充電できるうえに、メーター画面は充電中を自動で表示してくれるし、電圧計も時計と選択して表示することができる親切ぶりである。

 ヘルメットの収納力を、Mサイズ4個のヘルメットで試してみた。
 OGK:ASAGI=A、OGK:RT-33=R、Arai:MZ=M、Arai:Quantum-J=Qと略する。収納結果は〇△×で略する。シート裏に全くと言っていいほど干渉しないでシートを完全に閉じることが出来た場合は〇、軽く干渉する程度でシートを閉じることができた場合は〇△、上から押さえつければシートを閉じることが出来た場合は△、上から強く押さえつけてやっとシートを閉じることが出来た場合は△×、強く押さえつけてもシートを閉じることが出来なかった場合は×とする。ヘルメットは前に向けて少し左に振ると最も収納しやすかった。
A
M
Q△×
R△×(ほとんど×に近い)

 エアインテークの出っ張りがあるMもサンバイザー内蔵で幅広なAも干渉なくシートが閉まるので深さも幅も広い空間と言えるものの、フルフェイスのQRでとたんに苦戦するのは、底面の凹凸が大きくて帽体に収まらないからだと思う。シート下はジェットに収納し、フルフェイスはリアBOXに収納することを前提にしているようだ。なお中央の仕切り版を外せば、耳までしか覆ってないようなハーフジェットと逆さに置いた半キャップという組み合わせなら2個収納ができるかもしれない。

 シートヒンジ左右にプラスチックの突起が2つあり、これをヘルメットホルダーとしている。
A=Dリングが1個しかないAは左右どちらにも引っ掛けることができた。
M=右側はDリング2個ともなんとか引っ掛けることができ、左側はDリング1個のみでQよりか楽に引っ掛けることができた。
Q=右側不可。左側ならDリング1個のみで苦し紛れに引っ掛けることができた。
R=左右両側でDリング2個とも引っ掛けることができた。

 Dリングの位置にもよるが、基本的にヘルメットホルダーはジェットヘルメットの方が引っ掛けやすい。バイザーを上げることでヘルメットの外型を一時的に変形することができるからシートヒンジ付近にDリングをアプローチさせやすいのだ。

 

 操作性その他

 ミラーは鏡面の面積も映りの立体感もハンドルバーからの張り出しも全てが平均的な造りで特に不満はなかった。

 メーターの情報は充実している。上から順にエンジン回転バーグラフ、速度、距離計、時計または電圧計、燃料バーグラフが常時表示されている。メーターパネル左側にMODEボタン、右側にADJustボタンがある。MODEを押すと距離計がODO→TRIP→メンテナンス用→ODOとループする。距離計の内容にかかわらず、ADJを押すと距離単位(km/h⇔mile/h)が“いつでも”切り替わる。ADJを2秒間押すと時計と電圧計が切り替わる。そして距離計をTRIP表示しているときにADJMODEを同時に押すとTRIP計がリセットされるが、これが慣れないとなかなか上手くいかない。というのも両ボタンのタイミングが少しでもずれて、MODEが早いと距離計がループするし、ADJが早いとマイル表示に切り替わるし、同時に押しても時計と電圧計の切り替えになれば2秒後にADJの方が早かったことが結果で分かるという具合である。この煩わしさはADJボタンで距離単位を“いつでも”切り替わるようにした弊害である。そもそも距離単位なんて納車後に切り替えることはないのだから一番忘れやすい操作方法でいいと思う。

 燃料計の目盛りは5つあり、満タンから64km走行して4つに減り、更に42km走行して3つに減り、更に23km走行して2つに減り、更に38km(累計で167km)走行したら最後の1つの目盛りが点滅し、同時にメーターパネル上部の警告灯が点灯した。タンク容量は6.2L。燃費から逆算した点滅時点での残油量は約1.75Lだが、174km地点で給油した4.94Lを6.2Lから引くと1.26Lしか残っていなかったことになる。6.2Lより多めに入る可能性もある。最大航続距離は37.6km/L×6.2L=233km程度。給油そのものはやりやすかった。ノズルを深く差し込んで自動停止したらゆっくりとノズルを給油口から引き抜けば、ノズル内部に残ったガソリンが上手く給油口まで満たしてくれた。

 メインスイッチはキムコお得意の“どこでもドア”(画像はレーシングS125のページをご参照)これはキーが給油位置以外ではどこでもシートが開けられる造りになっている。給油口もメインスイッチを回すだけで開けられるのは便利すぎて逆に怖い気もするが、エンジンを停止するノッチが間に用意されているので誤って引火させる危険はないだろう。
 リアボックスに比べてメインスイッチに鍵が刺さりにくいので変だなと思ったら、鍵が少し曲がっていた。メインスイッチを回している間に曲がってしまったのだろう。この鍵は長さに比して薄すぎるのではないか。

 スイッチはかつてホンダ車が使用していたものだと思う。ハンドルグリップとスイッチボックスが少々離れているために、せっかく下にホーン、上にウインカーと従来の配置をしてくれているのに、往年のホンダ車ほど左ブレーキレバーとホーンスイッチの同時操作はやりやすくなかった。

 ディマスイッチは上がハイビーム、下がロービームになっているが、下位置で更に押している間だけハイビームになるパッシング機能がある。
 灯火類はナンバー灯を除き全てLEDを光源とする。ヘッドライトはロービームで上が光り、ハイビームとパッシングで下も同時に光る。ロービームの照射範囲はとても狭い。左右はバイク本体から約40度、ライダーの視点からは約30度の角度しかない。上下は下限は約7m先、上限は約15m先を照射している。ハイビームはもう少し遠くまで照射するようになるが左右幅が約10度と異常に狭く、夜間走行でハイビームにしていても対向車から眩しいぞ!パッシングは喰らわなかったし、ハンドルを切ってもコーナリングで必要になる左右両脇下は全く照射しない。ちなみに二重のアーチが光っているが、これはメーターパネル照明がウインドスクリーンの内側に反射したものである。下の画像をクリックすると同じ場所でハンドルを切ったときの画像を別タブで表示します。いかに役に立たないヘッドライトか良くお分かりになると思う。

 ウインドシールドにリアボックス(ワンキーシステム)を後付けするとリード125なら工賃と消費税を抜いても40,500円する。それに加えて前後ABSを標準装備しながら税抜25万円ということは実質で税抜20万円を切っていることになる。しかし、エンジンやヘッドライトなど物足りないところもあるので、日系メーカーの車種とよく吟味したい。ターセリーS125に試乗して興味が湧いたのはむしろターセリーGT125iである。税抜で10万円高くなるものの、前後16インチと高出力エンジンで運動性能の向上が見込めるし、ヘッドライトは55/60Wハロゲンバルブをハンドルマウントしているので照射力は比較にならないだろう。リア16インチが着座姿勢と収納力にどう影響するか気になるが、もしもそこがクリアーできるならSH125i対抗車としてはバーゲンプライスではないかと思えるのである。

2020.6.3 記述

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