日産
ニュー
モビリィティ
コンセプト

 長所: 鉛蓄電池車より良い 1航続表示 2航続距離
 短所: 1無意味な2本目シートベルト 2後席乗降性 3後席防風性 4積載性

 今回試乗した日産・ニューモビリティコンセプト(以下NMCという)は日産のエンブレムが付いているが、シートベルト・アンカー・ロックやウインカーレバーが日本車と左右逆なので、実質はルノーが2012年に欧州で発売したTWIZY(トゥイジー)そのものではないかと思われる。 全長2340mm×全幅1230mm×全高1450mmという車体サイズは日本のミニカー規格(2500mm×1300mm×2000mm)にも収まっているが、乗車定員2名・定格出力8kWというのは2012年に国土交通省が提唱した超小型モビリティのガイドラインに沿うものである。現在では社会実証実験のために使用目的や業者を限定して運用が認められている状態である。

 NMCは定格出力8kW、最高出力15kWと公表されている。一方、トヨタ車体・コムスの現行モデルは定格出力0.6kW、最高出力5kWと公表されている。数字だけを並べると桁違いに力強いという印象を抱いてしまうが、旧型コムスベースたるCQモータース・U(以下Uという)の試乗経験で言うならばNMCUにスペックほどの違いはない。トルク感にしてせいぜい20〜30%増し程度。そのトルク感を維持したまま80km/hまで速度が伸びていくだけである。一般的な自然吸気エンジンの軽自動車と比べてもEVだから格別に静かというわけでもなく、開放車室のために、むしろモーター音や風切り音の大きさの方が新鮮だ。

 モーター駆動のため変速操作も変速ショックも無いが、エンジン車で当たり前のクリープ(微速前進)やヒルホールド(後退抑制機能)も無いので、坂道発進では素早くペダルを踏み替える必要があるし、勾配の強さによってはパーキングブレーキ(サイドブレーキ)も併用する必要がある。平地では力強さを感じる動力性能も、登坂に差し掛かると途端にアクセル踏み込み量が増える。この力の落ち加減で今走行中の道路に勾配があるかどうかエンジン車よりもはっきりと実感できる。

 一般的な軽自動車と比べて制動力は少し弱い。制動倍力装置もないようで、特に踏み始めはしっかりと踏まないと減速を開始しない。徐々に速度が落ちてくると車体の軽さゆえ、4輪ディスクブレーキの制動力が活きてくる。

 Uはブレーキペダルを踏んで回生状態に入るとABS作動時のように小刻みにブレーキペダルをキックバックしてきたが、NMCはブレーキペダルを力強く踏んでもキックバックして来ない。アクセルペダルから足を離すだけで回生状態に入ることは、メーターパネル内のパワー表示が回生表示になることで分かる。

 今回試乗したNMCはコンチネンタル製:コンチウインターコンタクトTS800というスタッドレスタイヤが装着されていた。。タイヤサイズはフロントが125/80R13リアが145/80R13、前後別サイズで回転方向が指定されている。よってタイヤローテーションをするならホイールから剥がしても左右間でしかできない。もっとも車重が圧倒的に軽いからタイヤのヤマよりヒビの方が早く気になってくるとは思う。

 発進加速。平地でアクセルをベタ踏みするとGPSは進行距離ごとに次の速度を示した。発進から100mで43km/h、200mで63km/h、300mで70km/h、400mで74km/h、500mで76km/h、600mで77km/h、700mで78km/h、800mで79km/h、900mで平地最高速80km/hを確認した。下り坂ではGPS表示で84km/hまでは見ている。GPSが80km/hを示しているときNMCの速度計は82〜83km/hを示しており、速度計の誤差は+3%程度と推定される。なお距離計の誤差は測定していない。

 200V電源でリチウム電池を4時間普通充電(急速充電不可)すると約100km走行できるとしている。今回の試乗車は12,000km以上走行していてバッテリーは一度も交換したことのない車体だった。燃料計(バッテリーメーター)は10個の目盛りがある。10個の目盛りが9個に減るのに走行した距離が4.2km、9個から8個に減るのに走行した距離が6.0km、同様に4.0km→6.6km→5.5km→5.2km→5.9km→6.9km→5.7km、最後1個の目盛りが消えた時点での航続可能距離は6.0kmと表示していた。目盛りひとつごとの平均走行距離は5.6kmになる。ブレ幅が非常に少なくて、メーターがメーターの意味をなしている点が、鉛蓄電池で動くUとの大きな違いだった。リチウムイオン電池はメモリー効果がほとんどないと言われているし、充放電可能な回数も多いとされている。

 今回は、信号停止の少ない制限速度50〜60km/hの一般道路を交通の流れに合わせて走行している。勾配のきつい所は走らなかったが、アクセルは遠慮することなく踏み込んでいる。目盛りが無くなった時点で50km走行していて、その時点での航続できる距離が6.0kmと表示されていたので電池を使いきると航続距離56kmだったということになる。試乗した日は融雪直後の真冬で気温は0℃あったかどうか。リチウム電池も0℃を切る温度で充電すると放電時の電圧が低下するようで(注2)のグラフによれば夏場だと航続距離はもっと伸びるかもしれない。冬場でも50km走り、バッテリー計で航続距離を視認できるなら、下駄代わりとしては十分実用になると感じた。

  

 ハンドリングはとても軽快。ただし、トレッド幅に比べて着座位置が高く、足回りもそれなりなので、若干頼りないとは思う。昨今の軽自動車に乗り慣れた一般の人が乗ると“おもちゃ”のように頼りないとびっくりするかも知れない。NMCはハンドルをちょっと左に向けると左に向かい、ちょっと右に向けると右に向かう。中央の絶妙なところにハンドルを安定させると手を離してもちゃんと直進し続ける位置がある。これはFF車にはなかなか出来ない芸当で、操向の前輪、駆動の後輪、はっきりと分担している後輪駆動車ならではの長所だと思う。ハンドルが軽くて若干頼りなく感じるのはエンジンという重量物がフロントにないからである。回頭性が良くても安定性がイマイチという典型的なRR車の挙動だと思う。Uと比べると、リアのバタつきがほとんどない代わりに、フロントの左右の揺れが若干多いような気がした。

 NMCはレーンチェンジや小回りなどの単体動作はスムーズだが、左右に振って戻すなどの異なる動きを連続してもスムーズに移行する。ハンドリングそのものは若干頼りない(というか軽すぎる)のに、車体全体としては危なげな挙動は示さない。不思議だ。メインスイッチの電源を入れて据え切りを左右に繰り返して見ると、フロントタイヤの向きに合わせてリアタイヤもわずかに向きを変えているように見えるのは気のせいだろうか?

 操作性。ハンドル、アクセル、ブレーキは一般的な日本車と同じ操作方法だが、レバーやスイッチ類は異なる点がある。
 まずウインカーレバーは日本車と逆の左側に付いていて、その先端の丸ボタンがホーンスイッチである。レバー筒を回すと近接走行音を発することができる。これは自車の前を歩いている人に注意を促すための近接走行音を任意・手動で発することができるものである。
 シフトセレクターもボタン切替えである。上のボタンで後退(リバース)、下のボタンで前進(ドライブ)、両ボタンを同時に押させる中央位置でニュートラルになる。クリープ機能がないので、勾配がきついときはインパネ左下にほぼ隠れているパーキングブレーキも併用した方がいいだろう。

 運転席。シートは前後スライドができるだけでシートバック(背もたれ)は動かない。ハンドルの前後伸縮調整(テレスコピック)や上下調整(チルト)もできない。ペダルを踏むために両足を伸ばせる空間の幅=言ってみればペダルハウスは約42cmとかなりコンパクトで、ブレーキペダルは中央よりやや右側に配置されている。一般的な国産FF車よりいくぶんマシなペダル配置である。170cmない私が両ペダルを踏みやすくなる位置に座席を合わせると、スライド量にして前から3/4ぐらいの位置になった。大抵の人が運転席に収まる空間だと思う。シートクッション、シートバック、ピロ―にパッドが付いているがいずれも薄くてクッション効果はないが、シート全体がラウンドして上手く体を支えてくれるので、1〜2時間ぐらいの走行なら耐えられるだろう。サイドバイザーが装着されていて、通常の雨風なら十分しのげるカバーリングだったが、寒さだけはどうしようもなかった。

 

 3点式シートベルトは国産車とは逆向きである。左上のアンカーからベルトを伸ばして右下でロックする。この3点式シートベルト1本で国内法規上十分なはずだが、もう1本余計なシートベルトが付いている。
 これはシートバック上部の穴からシートベルトが伸びていて、それを右側の肩に引っ掛けるものである。この右側のベルトは右肩に引っ掛けるだけでロックすることができない。ハンドルを左に切る際に右肩の動きでベルトを伸ばしてしまう。ハンドルを右に切って安全確認のために右後ろに振り向くとシートベルトが右肩から抜けてしまうこともある。拘束装置として意味がないばかりか運転操作の妨げにもなっている。右側にもシートベルトを取り付けるなら右上のアンカーからベルトを伸ばして左下にロックする3点式シートベルトをもう1本用意して左右合わせた4点式シートベルトにしないと意味がないと思う。

 後席は人を乗せるというよりも人間を荷物として収納するというレベルのものである。バイクのようにタンデム、それに屋根が付いているだけといった方が相応しい。シートは完全に固定式。座り心地は駅のプラスチックベンチを上方に延長して屋根を付け、尻・背中・頭にパッドを敷いたレベルである。それでも尻から背中にかけてラウンドした形状が妙に体を包んでくれるため、クッション効果は皆無なのに、着座感は悪くない。座席幅は広いところで約41cm、座面から天井までは約90cmだった。運転席を私の位置に合わせた状態で前後シートバックの間隔は約42cmだった。同乗者は運転席をまたぐようにして足を伸ばす。足の置き場は一番幅の狭いところで片側10cmくらいしかないが、ボディが下から覆ってくれているのでバイクの後席ステップより安心感がある。

 前方視界は運転席で塞がれ両脇が開いているだけだし、見動きは一切取れないのに包まれ感がある。というか実際に包まれている、、、というか逃げ場がないほど拘束されている。後席3点式シートベルトは右上のアンカーから伸ばして左下にロックする。運転席とは逆にすることで、力のかかり具合を分散しようということか?
 運転席を一番後ろまで下げて、辛うじて脱出ができる位の隙間が開いている。左側からの脱出は運転席のシートベルトが邪魔になるだろう。通常の乗降でも運転席のシートベルトが邪魔なので、安全を確認したうえで右側からの乗降をお勧めしたい。同乗者が左側から乗降しやすいように運転席も後席もシートベルトは左右逆に取り付けた方が良かった。これは右側通行圏(注3)に合わせた設計なのだろう。同乗者が乗降する際は運転者もシートを最前位置にずらしてあげたほうがいい。

  

 運転席の後ろに隠れているから後席の方が雨風をしのげるかと思いきや、これでもか、ってくらいに寒い風が入って来た。フロントウインドシールドの位置が運転席より遠くなることで、左右の隙間が運転席より広角になってしまっているのだ。夏なら涼しくなるからいいが、冬なら同乗者に怒られるだろう。

 積載性は悪い。空間が狭いし荷役作業も大変である。バックドアがないので、荷物は運転席シートバックとボディの狭い隙間を通さなければならないが、嵩張る荷物だとかなり厳しい。なんとか荷物が後席に進入できたとしても、座面も背面も丸いから今度は荷物が安定しない。シートベルトで荷物を固定するならまだ2点式の方が向いている。ゴムネットのフックが引っかかればいいのだが、加工しないとそれもままならない。

 将来、超小型モビリティのみを新or真・軽自動車として税制優遇するという悪政が施されたとしよう。従来の軽自動車に慣れた人々が、この手のものにダウンサイジングできるだろうか? 私は無理だと思う。エアコンもない。衝突安全性能もない。最小回転半径3.4mも軽トラックの3.6mと大差ない。軽自動車より専有面積がわずかに小さいだけで、実用性や快適性は大きく劣るので、やはりマイカーとしてではなく、インフラカーとしての道を模索するしかないだろう。今回、鉛蓄電池で動くEV車よりも航続面で実用性が高いことは試すことはできた。

(注1)ルノー・TWIZY      https://www.renault.co.uk/vehicles/new-vehicles/twizy.html
(注2)10.放電特性に関して(2)放電温度特性    http://www.edisonpower.co.jp/lithium/
(注3)世界の左側通行の国・右側通行の国の一覧     https://www.traveltowns.jp/rentacar/side-of-the-road/

2018.2.14 記述

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