プジョー
CITYSTAR125RS

 長所:1シート 2制動力 3ヘルメットを選ばない収納スペース 4速度計誤差
 短所:1足着き性 2燃料計 3燃料代 4価格

 同じ車種の同じ排気量に複数のエンジンを設定するのはクルマでは一般的だが、バイクではあまり聞いたことがない。かつて4st50ccスクーター:ホンダ・スマートディオには普及モデルの他に4バルブ・インジェクション化したZ4(BA-AF63)というスポーツモデルがあった。今回紹介するプジョー・シティスター125も2バルブ中出力版エンジン:SmartMotionと4バルブ高出力版エンジン:PowerMotion(ABS付きで税抜6万円高)を選択することができる。ディーラーで双方に試乗、オーナーさんから後者プジョー・シティスター125RS(以下RSという)をお借りできた。

 海外モデルらしくフロアは高めとなっているが、フラットフロア(=フロアトンネルがない)なので乗降性は悪くない。170cm未満・股下77cmの私が深く腰を掛けると両足ともつま先がちょんと接地するだけになる。片足だけでもべったり接地したいなら前にケツをずらして着座することになるが、シートの形状・座り心地は素晴らしく、前寄りに着座しても依然としてケツに包まれ感がある。フロア先端は50cmも幅があり、私の体格ならば膝は水平まで上がらないし、足首の傾斜角度がややキツイが、フロア先端の傾斜した部分をフットレスト代わりにして踏ん張ることもできる。私の体格なら狭くも広くもない居住性で、足着き性が苦しいスクーターである。長時間走行で肉体的に疲労した部分は内股だった。疲れるということは無理をしているということなので、やはり多少なりとも縮こまった姿勢になっているのかもしれない。
私でさえこうなのだから、足着き性が丁度良いという大柄な人が着座すると、フロア後方に置いた足首をパンタグラフのように畳んでも膝はハンドル直下まで迫って窮屈な思いをするだろう。フロアはあと数cm低く、先端の傾斜角度がもっと緩ければ運転席の体格適合性はもっと広がると思う。

 後席は座面が高くてやや乗降しにくいが、居住性は文句ない。座面の幅は先端で37cm後端でも21cmあり前後長は30cmある。後席を縁取るように設置されたグラブレールも手を差し込んで好みの位置を掴むことができる。

 乗り心地。プジョーのクルマは、その足回りのしなやかさから“猫足”に例えられるが、RSに乗った感想としては、足の“柔らかさ”よりも“落ち着き”に良さを感じた。例えば継ぎ接ぎ路面をNMAXで通過するフロントはカタカタ、リアはポンポン前後で別々の跳ね方をしてしまうが、RSだとゴトトンという統一感のある前後衝撃が少ない回数で訪れるように感じた。もちろんGSX-R/S125等のリンク式リアサスを採用するスポーツバイクと比べると、やっぱりバネ下が重いスクーターに変わりなく、5段階のプリロード調整ができるリアツインショックを採用しているからと言って特別に良いというわけではなかった。

 運動性能はどちらかというと直進性重視である。おおむね良好だが個人的には煮え切らない。

 直進性。速度が乗るほどに直進性が高まって安心感が増していく。高速域ではホントにそんなスピードが出ているのか?と思うほどビシッとしている。逆に最も不安定なのは停止寸前である。RSは20km/h位まで速度が落ちるとクラッチがスッと切れてしまうので、そこから停止するまで惰性状態で転がすことになるのだが、車体、特にフロント周辺がトリシティほどではないにせよズッシリ重いうえに、高いフロアから地面に向かって懸命に(短い)足を伸ばそうとするためか、接地寸前が最もバランスを崩しやすい。車重に対して低中回転域のトルクがやや足りないので、発進直後もやや頼りない。

 旋回性は少々気難しい。一次旋回。着座位置の高さとフロントの重さを活かして倒し込みは素早く行えるが、寝かせるほどにフロント周りが鈍重に感じる。二次旋回ではフロントの立ちが遅れ気味で、思ったほど起き上がってくれない。それほど深くないあるバンク角で寝たいのか起きたいのか、はっきりしない領域があり、攻め込む気になれない。タイヤ幅は後輪の方が太く、タイヤ径は前輪の方が大きい。これがバンク角によって操縦性が変化するハンドリングを生んでしまったのだろうか?前後輪同一サイズにするか、幅径共に後輪を大きくしたら、どう変化するだろうか。
 ちなみにフロントの重さで言うと、NMAXは非常に軽い。PCXは軽くも重くもなく平均的。

 制動力。初期制動の強さだけなら、3ポットピストンを採用していた一時期のホンダ車の方が上かもしれない。強さだけでなく、扱いやすさ、安心感も総合すると、これまで取り上げた原付二種スクーターのなかで最良かもしれない。
 左ブレーキレバーを握るとフロントブレーキも連動するSBC(注1)を採用しているが、連動する際のフロントの制動力(連動する比率)はホンダ車よりも強く感じた。またABSは前後輪共に作動するタイプである。今回、比較対象区間はずっと雨が降りっぱなしだったが、ABSが適正に作動するので、いじわるなブレーキでも前後輪とも滑らせることが出来なかった。ブレーキレバーにキックバックが生ずる事でABSの作動を知らされるが、非常に小刻みで振動も小さいので、びっくりすることはなかった。フロントはほとんどタイヤのグリップとサスストロークで吸収してしまうため、なかなかABSの作動を体感できなかった。リアにしてもタイヤのグリップを限界まで使うので、かなり強くブレーキしないと作動しない。握力が弱いとABSを作動させることすらできない人もいると思う。ちなみにABS作動後にNMAXのようなチャージ音はしなかった。

 標準タイヤのサイズはF:120/70-13、R:130/60-13。銘柄はF:ミシュラン POWER PURE 2CT、R:同 POWER PURE SC(生産国セルビア)と刻印されていた。グリップは良いタイヤだと思うが、残念なことに凍結防止の為に縦に溝を掘った路面で旋回すると、前後輪が別々の溝を踏んでヨレルことがあった。

 発進加速。85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にしたところ、GPS速度計は、100mで52 km/h、200mで70 km/h、300mで80 km/h、400mで87 km/h、500mで92 km/h、600mで96 km/h、700mで97km/h、800mで99km/h、900mで101 km/h、1,000mで102km/h、1,100mで103km/h、1,200mで104km/h、1,300mで平地最高速105km/hを表示した。GPSが105km/hを示したとき、RSのアナログメーターは105〜106km/h付近を表示していたので間をとって105.5km/hとして、GPSを基準にすると速度計の誤差はわずか+0.47%に収まっている。そればかりか、出足の400mまではむしろGPSの方がRSの速度計をリードしているくらいだった。正確な速度計に好感が持てる。

 わずかな下り勾配がかかっていそうな別コースでメーター読み112km/hまでは見ている。幸運にも新車に近い状態でお借りできたので、慣らし前後でレスポンスの向上を体感することが出来た。はじめはアクセル半開でも全開でも加速力がほとんど変わらず、キムコ・K-XCT125iのように重量級原付二種スクーターはダメかなぁ〜と思っていたが、慣らしを終えた後は、重量級にしては結構やるではないか、という印象に変わった。体感速度より実速度が高いのはGPSを用いて分かった。あまり速度感がないのは、エンジンがやたら回っているにもかかわらず不快な騒音も振動も発しないからだと思う。低中速域はNMAXPCX機敏性に及ばないが、いったん速度に乗れば同等以上に走る。

 比較対象区間307.4kmを走行したところRSのオドメーターは303.9kmを示した。距離計の誤差は−1.13%と推定する。比較対象区間の平均燃費35.0km/Lになった。燃焼効率で劣り、しかも単価の高いハイオクガソリン推奨なので、燃料代は国産勢に比べるとかなり高くつく。

 150kgという乾燥重量はKYMCO・K-XCT125iの164.4kgや、SYM・JOYMAX125iの160kgより軽くPCX(JF81)の130kgより重い。取り回しの重量感もそれに比例してズッシリしている。後席を縁取るグラブバーが掴みやすいので降車しての出庫作業に苦労するものではないが、ガス欠で長時間押し歩くのはご勘弁願いたい重さである。エンジン停止時にセンタースタンドを立てた状態で後輪を回してみても重い。そもそもセンタースタンドを立てるのもかなり重い。

 現状では積載性は後席の座面が頼り。座面は緩やかにラウンドしているのでゴムネットのフックをシート淵に引っ掛けなければならない。BOX取り付けを前提とした専用リアキャリア(税抜14,600円)なら用意されている。
 フラットフットボードは見た目よりグリップが良く、雨天時も靴が滑らなかった。フラットなので足元に荷物を置く事を期待するだろうが、フロア奥行きは前後に14cmしかないので、灯油ポリタンクや2Lボトル×6本入り段ボールなどは置くことが出来ないので、ユーティリティハンガー(コンビニフック)にカバンをぶらさげる程度である。そのハンガーはフロアから36cmの高さに付いている。フロアからハンドルを切った状態のグリップ先端までは55cm、フロアからメインスイッチまでは52cmの高さがあるので、もっと高い位置に取り付ける事ができたはずだ。その方がぶらさげる物の足への干渉が減って使い勝手が向上すると思う。

 ヘルメットホルダーが無いので、トランク内を荷物で埋めた場合はコンビニフックなどに引っ掛けるしかない。

 収納力。トランク内は凹凸が多いのでデイパックの類は入れにくいが、ヘルメットは2個同時収納できるものもある。前半部分は半キャップまたはそれより少し大きくて耳が隠れる程度の中途半端なものしか収納できないが、後半部分はフルフェイスを収納することができる。MサイズのARAI:MZ、Quantum-J、OGK:RT-33、ASAGIの4つで試したところ、いずれも立てても、横幅の広いASAGIでさえ、90°寝かせても干渉することなくシートを閉じる事ができた。但し、シートを閉じている最中にヘルメットがシート裏とトランク内で上手く滑ることで、ヘルメット自らがベストポジションに移動するので、ヘルメットとシート裏側は至近距離にあるか接触している可能性がある。よって、後ろに収納するヘルメットにはカバーを掛けておきたいし、シートを閉じる際は丁寧に操作し、収納した状態で着座することは避けたほうがいいと思う。

 ハンドル下左側に小さなポケットがあるが、12V電源に差し込んだ充電対象物を1個入れる程度の空間しかない。

 操作性その他。
 ハンドル幅は約75cm。ミラーtoミラーは約93cmある。バックミラーは片側で9cmずつはみ出しているおかげで自らの背後まで見えそうなくらい後方視認性が良い。もう少し高い位置にミラーがあれば視線移動が減って更に良くなると思う。ブレも歪みも少なくて映写にも不満はない。鏡面の調整は首関節だけでなく、ハンドル取り付け部分も回転するWナット式なので調整の自由が利く。すりぬけ重視の方ははみ出しの少ない社外品へ交換したくなるだろう。

 メインスイッチはシンプル。時計回りにハンドルロック→OFF→ON。OFFの位置で反時計回りに回すとシートOPENで、OFFの位置で押し込みながら反時計回りに回すとハンドルをロックできる。給油口の開閉は足元にあるリッドに鍵を差し替える。メインスイッチを回せばカチッという音とともにわずかにシートが持ち上がるのでシートを開けるのは容易だが、シートを閉じるのに難儀した。シート自体が大きく重さもあるくせにダンパーやストッパーの類は付いていないので、ハンドルを真っすぐにしてシートを完全に開かないとシートが落下してしまう。シートを取り付けるヒンジもガタついているので落下の勢いだけではシートは閉まらないし、上からシートを丁寧に押してもストライカーとストッパーがうまく噛み合わない。シートが閉じてないことに後で気づいたこともあるくらいなので、シートがちゃんと閉まっているのかシートを“持ち上げて”確認する作業が毎回必要となる。

 左集中スイッチはコンパクトで一般的な配置なので操作しやすい。ホーンスイッチは下にあり、左ブレーキレバー(前後連動)との同時操作ができる。なお、ホーンスイッチと左右対称に位置するセルスイッチは共に下向きに押すスイッチになっている。上にあるウインカースイッチはプッシュキャンセルした状態でも左右に再合図できる。合図中はスーパーカブ110CD125Tよりも大きな音でピイィーッピイィーッピイィーッと鳴るので少々恥ずかしい。早朝深夜だと近所迷惑になりかねない。


 ディマスイッチ(ロー/ハイ切り替え)の前方にロービームを一時的にハイビームに切り替えるパッシングスイッチがあるが、ハイビーム時にパッシングしても何も変化は起こらない。ウインカースイッチと対称の位置にあるハザードスイッチも操作しやすい。

 ヘッドライトは消費電力35W×2のハロゲンバルブを光源とする。左右両方のハロゲンバルブがポジションランプと共に常時点灯していて被視認性は良い。人間や動物は目が2つある物体を“顔”と認識するようで、左右を切り替えて点灯する車種より右直事故に遭う可能性は減ると思う。
 照射力についてはロービーム時の照射範囲は上下に2〜10m程度、左右は本体から30°程度を照射している。左側通行に合わせて右側への照射をだいぶ遠慮しているように思う。正直言って物足りない照射範囲だ。ハイビームに切り替えると照射距離は一気に伸びて、暗黒の峠道でも走ることができたが、やはり右側への照射は遠慮しているように思う。ロービームハイビームの落差が大きいので、夜間は常時ハイビームで走行したい。試しに迷惑を承知で夜間にハイビームで走行してみたが、偶然かもしれないが一度も対向車から“眩しいぞパッシング”は喰らわなかった。

 メーター。画像の1外気温計。オーナーさんの車体は道路施設で表示される温度よりだいたい5℃ぐらい高い表示だったが、ディーラー試乗車は逆に5℃ぐらい低い表示だった。あまり当てにならないようだ。2燃料計3時計4オドメーター(累計距離計)。5航続距離計6トリップメーター(区間距離計)。7水温計1から7までは常に同時表示されるので、8のスイッチを1回押しただけではトリップが点滅するだけで、リセットしたければ点滅中に再度8を長押しすることになる。
 速度計とエンジン回転計の針を逆回転にしたり、様々な情報を同時表示したり、と見た目はなかなかゴージャスなメーターだが、流行りの燃費計は装備されていない。

 2燃料計の目盛りは8つある。満タンから70km程度は目盛り8個のままだったが、それ以降は目盛りが動き出した。目盛り4個まで下がったかと思うと満タンから120km時点では8個まで回復して、再び目盛り4個まで下がったかと思うと満タンから240km走行時には目盛りが8個に戻った、、、、のも束の間、そこから25km走る間に最後の目盛り1個が点滅するほど一気に減っていった。減り始めるのが遅いだけの燃料計なら数多く経験してきたが、ここまで目盛りが往復するバイクは初めてだ。
 なお、5航続可能距離計と思われる数字が常時表示されている。燃料計の目盛りが8個のときは230km、7個=200km、6個=170km、5個=140km、4個=110km、3個=80km、2個(点滅)=50km、1個(点滅)=20km、つまり目盛り一つごとに航続距離表示を30km減らすだけの単純なものであり、燃料噴射量を計算している様子は全くない。ちなみにエンジンによって燃料タンク容量も異なっている。PowerMotion搭載車は9Lで、SmartMotion搭載車は8.2Lと公表されている。これが正しければRSは35km/L×9L=最大315km航続できることになる。燃費から逆算すると、目盛り1個(点滅)になった時点で約1.4L残っていたことになるが、、、そもそも目盛りが全く信用できないので、TRIP計を頼りに給油タイミングを探るしかない。

 良いところは本当に素晴らしいのだが、糞の役にも立たない燃料計と威張るほど明るくないヘッドライトおフランスの格を下げている。居住性についてもフロアをもう少し下げてフットレストを設けて体格適合性が広がれば、シティ・スターどころかツーリング・スターを名乗ってもいいと思う。125ccで税抜499,000円も取るならそこまでやってもらいたい。

 ちなみに低中回転域のトルクが強いSmartMotionの方が60km/h位までは速いと感じた。市街地走行がメインなら機敏性を取ってSmartMotionをお勧めしたい。その一方で、早朝深夜に通勤する方、高規格道路で遠出する方には爽快な高回転サウンドと伸びを堪能できるPowerMotionをお勧めしたい。

 スピードファイト125にもチョイ乗りした。出足の一瞬に大きな“加速の溜め”があるが、いったん走り出すとシティスターSmartMotionよりも機敏で足回りもよく動くので、市街地向きだった。速度を上げないと良さが出てこないのがシティスター(特にRS)なので、ネーミングと実態が異なっている。 プジョー製125ccスクーター3車種のうち、おフランスで生産しているのはシティスターのみである。SmartMotion搭載車であるスピードファイトは中国産であるため、SmartMotion搭載のシティスターもエンジンは中国から輸入しているらしい。

公式サイトURL https://peugeotscooters.jp/citystar/

(注1)SBC=Synchro Braking Concept=前後連動ブレーキ

記述 2019.7.31


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