PGO・ALLORO125

 長所: 1車体剛性 2制動力
 短所: 1乗降性 2油代

 今回試乗したのは台湾メーカー:PGOが製造するアッローロ125、2006年式モデルである。名称は異なるものの姉妹車種としてG-MAX150/200/220がある。

 車体は@125より更に一回り大きく、乾燥重量も129kgもある。それでもスリムなので思ったよりはすりぬけやすかった。車高の高さ、ホイール径の大きさも縁石への接触を避けているし、視界が開けて走行中は気持ちいい。足付き性は170cmない私だと両足ともにつま先立ちになるが、オフ車より重心が低く走行中は不安要素はなかった。問題となるのは乗降性である。フラットフロアでない=センターが盛り上がっているので、この狭い所を慎重に足を通すか、スポーツバイクのように大きく跨いで乗降することになる。後席が運転席より一段高く、後席からキャリアにかけて荷物を積んでいると更に高くなるので、その乗降は回し蹴りになる。荷物はバイクに固定するよりも背負ったほうが楽に乗降できるだろう。足の届かない私にとって最も安心できる乗降方法は、サイドスタンドに車体を預けて逆ハンにして、ブレーキレバーを握りながら乗りこむというものだった。センタースタンドがけもズッシリと重量感があった。以上より、ファッションモデル並みのタッパがない限り、女性にはお勧めできないスクーターである。

 着座姿勢はむしろ小柄な人の方がしっくり来るだろう。大柄な車体にしてはハンドルからシートまでの距離が近いのだ。シートは運転席と後席を段差ではっきり分けていて、後方に向かってラウンドアップしたところにケツ位置が限定される。足の置き場は多少前後できるものの、フロアステップが高めで緩やかにケツ上がりなので、通常の走行では前いっぱいに足を置くことになるだろう。170cmない私が着座すれば膝は水平になるまでは持ち上がらないが、もう数cmフロアを下げてもれえれば更に着座姿勢が良くなると思う。足の長い人が座るとほぼ水平まで膝が上がるだろう。

 面白いのは足首で車体を挟み込めるようになっていること。ニーグリップではなくてアンクルグリップとでも呼ぼうか。くるぶしの出っ張っている所だけは車体に当たらないようにくりぬかれている。足元中央部にガソリンタンクがあるので、フロアに荷物を置くことはできない。その利便性よりも車体を挟めることの安心感と操縦性を選んだ点はスポーツスクーターとして正解だと思う。シグナスX-FIのあるべき姿がここにある。

 乗り心地はホイールサイズをインチアップした乗用車のように硬い。走行中は路面の凹凸を忠実に拾う。それでもカタン・コトンぐらいで収まり、歩道と車道ぐらい高低差がある所をダイブしてもドッカン・バッタンという強烈な衝撃にはならなかった。不快な振動も特に感じなかった。車体剛性は高いと思う。乗り心地の硬さはサスペンションの硬さというよりもタイヤ扁平率の低さによるものではなかろうか。ちなみにタイヤサイズはF120/60-13、R130/60-13である。

 後輪の懸架位置が特殊である。リアアクスル付近から上方にリアサスを伸ばした通常のスクーターと比べると、前後タイヤが拾うどちらの衝撃も着座位置より前方から来るような感覚があった。そしてタイトコーナーで寝かせてみると、後輪ユニットがセンター付近から外側に反れ、レーンチェンジ中の4WS車のように前後輪ともにIN側に向くような感覚が、ほんのわずかにあった。

 タンデム。前後席の着座位置がはっきり分かれていて、同乗者が前にずれて来ないようにシートが設計されている。収納式リアステップで互いの足が干渉しない。リアキャリア兼用のタンデムグリップも掴みやすい。後席は恐怖を感じない程度に見晴らしがよく、薄いながらも張りのあるシートで、同乗者はシフトショックのないスポーツバイクに乗っているような乗り心地を体感できるだろう。運転者にとっても操縦に集中できるパッケージで前後ともに良好な移動を楽しめるだろう。ただし、タンデムではエンジンパワーに余裕がなく常時アクセル全開となるであろう。

 積載性。フラットフロアでないし車高も高いので重量物の積載には向いていない。フロントにカゴも付かないので、荷物はリアキャリアと後席のスペースに置くか、メットインスペースに収納するしか方法はない。メットインスペースはアライのジェットヘルメット:SZ-RAM3(M)が頬パッドを少し圧迫させることですっぽり収納できた。給油口の位置は理想的である。荷物を降ろさなくても給油できるし、しゃがまなくても給油できるし、こぼしても収納スペースを汚さない。

 長時間走行では手首足腰尻など筋骨で疲れるところはほぼなかったが、目はそれなりに疲れた。これは走行性能に比して光量が不足しているライトが原因だと思う。ヘッドライトは35/35Wバルブが中央に一灯あり、左右二個ずつのポジションランプで固め、まずまずの被視認性を確保しているが、照射力はもっと欲張って欲しかった。姉妹車G-MAX150も35Wであるが200と220は55/60Wに格上げされる。

 操作性や部品精度が低い点でも気を遣うところもあった。
 ウインカースイッチはヤマハ同様に左右スライドスイッチの中にプッシュキャンセルスイッチを内蔵するタイプである。今回の個体はスライドスイッチの動きが渋かった。イグニッションは集中ロックキーとなっている。OFFの位置でPUSH+右回転で燃料タンクキャップが開錠されるのはシグナス同様である。取扱説明書によればキーがLOCK⇔OFF⇔ONどの位置にあってもPUSH+左回転でシートが開くはずなのに、なかなかうまくいかない。シートロックが解除されてもカチッという音がないので、シートが半開したまま、その場を離れればメットインスペース照明を点灯させたままとなり、バッテリーを消耗してしまう危険がある。まあ、キックスターターが装備されているので、そんな神経質になる必要はないかもしれないが。ブレーキレバーもスポーツバイクを真似た形状でちょっと大き過ぎる。バックミラーは振動が少なく、後方視界は良好だった。

 メーターパネルは、累計走行距離、速度計、回転計、燃料計、時計、ウインカーポジションランプ、ハイビーム警告灯、キルスイッチやサイドスタンドが降りているときに点灯する始動不能警告灯、エンジンオイル交換時期警告灯(キーキャンセル方式)となかなか充実しているものの、回転計が遠慮しすぎなのと、燃料計はかなり不正確だ。7.5Lタンクなのにエンプティ位置を大幅に下回っても5.4Lしか燃料が入らなかった。適切な給油時期を把握するためにもトリップメーターは装備して欲しかった。

 動力性能は良く表現すれば低中速域にトルクを集めたと言える。85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にすると約100mで60km/h、200〜250mで80km/h、600〜700mで90km/h、延々と直線が続けば95km/hまで確認できるものの、100km/hを見るのは下り坂だけであった。スロットルグリップの重さ、そして80km/hから先の元気の無さから、シグナスX国内キャブモデル+αぐらいの動力性能しかない。それでも日常的に非力さを感じさせないパワー感があるのは、元気なエンジン音・排気音が“走っている”という実感を増幅させるからだ。高いシートからの見晴らしも良いし、速度計も実際の速度にかなり近いと感じたのも、アッローロの巧妙な演出に私が騙されているのかも知れない。

 フロントは対抗4ポッド、リアは2ポッド油圧ディスクローターをおごるだけあり、制動力はかなり良い。乾燥路面での急制動、意地悪くわざと前だけ掛けてみた。フロントがロックする直前に、まるでABSが作動したみたいに制動が断続するので、この状態から右手をわずかに緩めれば最大の制動力を得ることができよう。後ろだけ強く掛けてみるとやはり制動が断続する瞬間があり、無謀にも更に左手に力を入れると後輪が綺麗に滑り出した。WET路面でリアを強くかけるといとも簡単にスィイーーーーーと滑るのだが、滑走中の後輪直進性がすばらしい(笑)。左右どちらかに流れることもあるが、その流れが非常に緩やかな(滑り出した後輪の描く円の回転半径がとても大きい)ので全く動じることがない。前後ともに強力かつコントローラブルなブレーキと言えよう。断続現象もタイヤが頑張っている証拠であろう。

 直進性と旋回性のバランスはいい。前後13インチホイールと長いホイールベースにより停止寸前まで鷹揚に走ることができるし、適度に立ったキャスター角で旋回も得意なようだ。ただし車格に対してアンダーパワーで乗り心地も硬いので、あまり派手に寝かせようとは思わなかった。一般公道で走るアッローロ125ではなく、サーキットを攻めるG-MAX220でないとこの車体の真価は分からないと思う。

 比較対象区間304.7kmを走行したところオドメーターは295.4kmを指した。距離計にマイナス3%の誤差があるとするならば、この区間の平均燃費は33km/Lに修正される。市街地区間は28.7km/Lになった。燃費はインジェクションになった国内4stスクーター勢に比べると見劣りする。やはりエンジンに余裕がないのでは思う。そして車体に貼ってあるコーションラベルによると初回300km、以後1,000kmごとにエンジンオイルを交換せよとなっている。そんな頻繁にオイル交換していたのではガソリンとオイルを合わせた油代が2stスクーター並みになってしまうではないか。

 車体構成といいモビルスーツのような目つきといいユニークなモデルであるが、乗り心地が硬くてデイリーユースではその良さをあまり味わえない。125ccのスクーターに200ccクラスの車格を与えている。それを安全マージンと捉えるか無駄と思うかは各自の価値観に任せたい。私だったら、もうちょいお金を出してG-MAX220かランナーVXR200を買って豪快に楽しみたい。

2011.7.16 記述

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