PGO
TIGRA125

 長所: 1安定性 2後席居住性 3照射力
 短所: 1標準タイヤ 2ヘルメット収納力

 今回試乗したのは台湾メーカー:PGOが製造するティグラ125、2015年モデル(2014年製)である。最高出力13.5psを発揮するこの水冷エンジンは、G-MAX125(旧称alloro)にも搭載された。

 85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にしたところ、100mで71km/h、200mで82km/h、300mで88km/h、400mで91km/h、500mで94km/h、600mで96km/h、700mで97km/h、800mで98km/h、900〜1,500mで100km/h、延々と直線が続けば平地下り共に111 km/h (全てメーター読み)までは見たが、一般公道ではなかなか見ることはできないだろう。

 アイドリングは毎分1,700回転前後で針がブレている。インジェクションモデルなのにちょいと不整脈なご様子だ。アクセルを全開にするとクラッチが繋がるまでの半テンポはやや大人しいがその後は元気に加速していく。大きめな車体をソコソコ機敏に走らせているとは思うが、“他の追随を許さない走行性能を発揮します”という代理店のコメントはいささかオーバーだと思う。その一方で加速騒音が思ったより煩くないこと、ライトスイッチが無効になってヘッドライトが常時点灯すること、輸入車なのに型式が記載されていることから、もしかすると日本向けにセッティングされている可能性がある。駆動系を変更すれば加速が向上するという情報もあり、それなら競合する無改造車に追随されないかもしれない。

 運動性能はかなり高い。まず安定性がすばらしい。メーター読みで3km/hも出ていればハンドルの微操舵すら必要ないほど足を接地せずに進み続けることができる。毎日通る道ならば、信号の変化を予測し早めに減速しておくことで目的地まで一度も足を接地せずに移動できるかも知れない。ホイールベースも長く高速域でも直進性に不安は生じない。

 旋回性も良好である。無理に大径ホイールを履いてないのでスムーズに倒し込める。フレームはG-MAXほどガチガチではなく、あらゆる速度域で不安を感じない適度な剛性を備えているという感じである。フラットステップなスクーターのなかでは剛性が高いほうだ。フラットステップなスクーターだとハンドルポストから下はパイプ1本しかないのが多いが、ティグラのフレームはハンドルポスト下から2本に分かれていて、スポーツバイクで言うところのダブルクレードルの上部を取っ払ったような形状をしている。エンジンも燃料タンクも下にあり、だいぶ低重心に設計できたのだろう。

 前後共にステンメッシュホースを通して油圧をキャリパーに伝えるディスクブレーキで制動力(強さ・加減)も素晴らしい。
 但し、せっかくの運動性能制動力も標準タイヤが全てをランクダウンしている。その銘柄はチェンシン:C-6031F/R、サイズはF:110/70-12、R:130/70-12だった。車体の大きさとタイヤのサイズ、ホイールベースなどのディメンションはとても良いのだが、タイヤのグリップ限界が低すぎるのだ。バンク角を増やしていくと腰が砕けて後輪はアウト側に滑ってしまうので豪快に倒し込む気になれない。凍結防止のために縦溝が彫ってある路面においても、タイヤには相応の太さがあるにもかかわらず、雨天時は極めて接地感の低い直進状態だった。短制動(急制動)では乾燥路面の20km/h未満からのリアのみのブレーキでも滑る。乾燥路面の40km/h以上ならフロントのみでも滑り出すことがある。ストッピングパワーも強いしコントロールしやすいので、上手く加減すれば標準タイヤでも実用になるが、実用レベルで満足してはこの車体が勿体ない。標準タイヤのまま運用するのであれば、雨天時は運行前点検だと思って必ず前後タイヤの限界をその都度確認しておきたい。

 ユニットスイング式ながらも乗り心地もなかなかいい。これには5段階(代理店サイトでは3段階)に硬さが調整できるリアサスペンションとふっかふかシートが貢献しているだろう。シートが2次サスペンションとして機能しているが、姿勢や視線が動いてしまうのはいかがなものかと。

 車体はヤマハ・シグナスXよりわずかに大きく、ホンダ・@125とほぼ同等サイズである。センタースタンドを立てた状態ではフロアの高さもシートの高さもシグナスXと良く似ているが、着座してみるとフロア先端の傾斜角度が緩くて足がいくらか伸ばせるので着座姿勢シグナスXよりだいぶ楽である。ただし、足を伸ばした先に深さがなく、つま先か踵(カカト)のどちらかしかひっかけておくことができないのが惜しい。つま先から踵まで足裏面積の全部をフロアに収めようとすると必然的に着座位置を後方にずらすことになるが、そうするとハンドルが遠くなって猫背になってしまうのと、両足ともつま先立ちの足着きになってしまうのである。
 身長が170cmない私が適性に着座すると、片足は地面にべったり、もう片足は踵が数cm浮く程度の足着き性である。足置き性足着き性どちらも欠点と指摘するほど悪くはないが、どちらも満足することもできない。一方を向上させようと着座位置を変えるともう一方が更に悪化する。フロアをあと数cm低くして、フロア先端の傾斜をもっと上まで延長して欲しい。燃料タンクをフロア下に配置し、フラットなフロアに仕上げ、給油口を左膝の前に持ってくるとどうしてもこういう問題が生じるのだろう。

 シートは表皮のグリップが高く、クッションの厚みもあって、ふっかふかに柔らかい。グランドアクシスのようにただ柔らかいだけでなくある程度はコシがある。短時間走行であれば座り心地の良いシートと言える。長時間走行での疲労箇所は大腿筋と大臀筋だった。そして腰も少々疲れた。柔らかシートは局部や痔には優しいのだが、段差を通過した際にシートが大きく沈むので、姿勢を安定させるために余計に筋力を使ってしまうようだ。シートはもう少し弾力というか反発力があったほうがいいと思う。そしてフロアの高さやつま先を真っ直ぐに伸ばしきれないのも疲労を助長している。

 後席は運転者がだいぶ後ろに下がってきてもまだ座れるだけの長さがある。クッションも厚みがあってふっかふかである。グラブレール(メーカー呼称はリアラゲッジブラケット)は順手で左右を掴むも良し、逆手でケツの後方を掴むも良し、シートとグラブレールの境界部分にケツを落としても良し。このグラブレールはカーボン調のカラーリングを施しているが炭素繊維でも金属でもなく樹脂製である。
 背もたれが欲しければこのグラブレールをリアキャリア(税抜9,800円)に交換し、BOXを取り付けよう。
 後席用ステップは収納状態から押し込むとパカンと飛び出してきて、収納するときも押し込むだけである。運転者がリアステップに足を置こうとすると後方に逃げてしまうので、専ら同乗者専用のステップである。このサイズのスクーターだと信号停止中は運転者の足と同乗者のつま先が当たってしまうのは仕方がない。それが不快になるほど同乗の機会が多ければもっと大きいスクーターに乗るしかない。

 

 収納力。開口面積が広いトランクだが、アライのMサイズのジェットヘルメットMZをどんな位置に置いてもシートを閉じることはできなかった。トランク内部の突起に幅がありすぎる。どうしてもMZを収納したいならシステム内装のうち顎の部分を外すしかない。ジェットでさえこの有様ではマトモなフルフェイスはまず無理だろう。
 どうしてもヘルメット2個入れたいならば、1個は耳までしか覆われていない半キャップ以上ジェット未満のヘルメット、もう1個は半キャップになるだろう。
 プラスチックの突起2個でメットホルダーとしているが、シートヒンジ付近のスペースに余裕がなくて、左右ともにMZを引っ掛けるのに苦労した。それにしても本体とシートをネジ1本貫通させるだけでシートヒンジにしているほど潔いとは、、。
 内寸は底部で前後に57cmもある。小型三脚なら収納できるし、中身の量にもよるが最大で25L位までの登山用バックパックなら収納できそうだった。
 なお、開口部のスイッチは内部照明ではなく、SYM車同様の点火カットスイッチである。DCソケットも開口部付近にある。

 インナーラック(メーカー呼称はラゲッジケース)も開口面積が広いわりに深さが足りないのでスマホ等の貴重品を置くにはお勧めできないし、600ml位までのペットボトルは入るものの、寝かせておくしかない。コンビニフックとフロアまでの高さも不足していて、買い物袋を吊り下げるにはいいが、バックパックを吊り下げようとすると浮いてしまう。

 

 積載性。フロアはフラットだが、ここに荷物を置いてしまうと足の置き場にかなり困る。アドレスV125のように後席用ステップを利用することはできない。後席の上に荷物を置くと、ふっかふかシートで荷物が安定しない。ゴムネットで固定しようにも後方はグラブレールに引っ掛けるにせよ前方は引っ掛ける場所がない。現状でどうしても荷物を車体に固定したいと言うのならJフック付の長いゴムロープでグラブレールとリアステップを括っていくしかない?これではあまりに作業時間がかかるので、最低でもグラブレールをリアキャリアに交換するか、トランクに入らないものは素直に諦めてバックパックを背負うしかない。ステップスルーでトランクスペースもあるものの、車体の大きさに見合う積載性・収納力ではない。

 操作性。アッローロと同様のメインスイッチである。キーがどの位置でも、すなわちエンジン始動時でもPush+左回転でシートを開けることができるのが特徴だ。サイドスタンドも出したまま、始動・発進できてしまう。給油口は中央位置でPush+右回転で左膝付近の蓋がパカンと開く。給油ノズルを差し込みやすい形状で、自動停止した後の継ぎ足しもガソリンのピンク色が良く見える。とても給油作業がしやすい。
 ウインカースイッチはヤマハ同様に左右スライドスイッチの中にプッシュキャンセルスイッチを内蔵するタイプである。ヤマハ同様というよりヤマハそのものではないのか?というスイッチがいくつかある。ホーンスイッチも下にあり咄嗟の時に親指で押しやすい。ハザードスイッチも付いている。

 G-MAXと共通のバックミラーはハンドルからの張り出し量が少ないわりには後方視認性が犠牲になっていない。ミラーアームの高さが丁度よく、すりぬけも結構行ける。鏡面はもう少し大きくて歪みが減れば更に良かったと思う。

 

 メーターパネルはエンジン回転のみアナログで、あとは警告灯とあデジタル表示で行う。警告が灯火と液晶表示で被る内容があるのが少々うるさい。メインスイッチをONにすると全ての灯火がいったん点灯したうえで液晶画面上をTIGRAが走り抜ける。無名のボタンが上下にあり、上ボタンでODO→TRIP→OIL交換時期セット位置→瞬間燃費計とループする。ODOの時に上ボタンを長押しするとkm表示とマイル表示を切替え、TRIPの時に上ボタンを長押しすると区間距離をリセットする。下ボタンを長押しすると液晶表示のデザインパターンが切り替わる。メーターパネルの情報力に関しては他の追随を許してないかも。
 燃料計は目盛りが6つある。80km走行したら目盛りが5に減り、そこから1までは15km(登坂)〜40km(下り坂)毎に減っていった。目盛りが1になるとに液晶画面がチカチカ点滅する。比較対象区間304.7kmを走行したところ、距離計は327.7kmを示し+7.5%の誤差になった。その区間の平均燃費38.5km/Lになった。燃料タンク容量は6.8Lということなので航続距離は市街地で180km、ツーリングで250km持つかどうかといったところだろう。

 ヘッドライトはH4 55/60Wハロゲンバルブがハンドルマウントされている。ロービームでは約15m先までの高さを照らし、ハイビームではかなり遠方の青看も捉える。照射範囲はどちらでも十分に広い。単純な照射力ではかつてのスペイシー125の方が明るかった気がするし、競合車種ではシグナスXも55/60W だが、ティグラは更に進行方向を照らしてくれるので、暗黒の峠道や雨天時はとても重宝した。ただしポジションランプが同一レンズ内にあるので前方からの被視認性はシグナスXやトリシティ等に及ばないと思う。画像はハザードを焚いた状態で撮影している。

 ティグラは、ある程度の実用性を持ったスポーツスクーターが欲しい人にお勧めしたい。150cc版を選択すれば更に行動半径が広がるだろう。運動性能・操縦性はG-MAX>ティグラ>シグナスXの順に優れ、実用性はその反対となる。私ならどう選ぶか。
 G-MAXティグラで迷ったら、剛性重視ならG-MAX、乗降性重視ならティグラを選ぶ。しかしG-MAXほどの骨格を持ったスクーターならば125ではなく220に乗ってみたい。
 シグナスXティグラで迷ったら、値段と収納性重視ならシグナスX、居住性重視ならティグラを選ぶ。しかしシグナスXは足元があまりにも狭すぎるのでお勧めできない。
 やっぱり一番悩むとすればティグラ125ティグラ150の選択だろう。

2015.9.15 記述

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