ピアジオ
べスパLX125

 長所: 1シート 2着座姿勢 3質感
 短所: 1燃費 2ハンドリング

 ピアジオ・べスパLX125べスパ125ET4の後継車として2005年に発売されたイタリアスクーターである。大きな特徴としてはスチールモノコックフレームとフロント片持ちアームを採用している点にある。デザイン的にはGTシリーズを踏襲するもETシリーズのコンパクトさも残したという。今回試乗したのはキャブレターモデルである。

 ボディはスチールだけでなくプラスチックも組み合わせている。どこが金属でどこが樹脂なのかは叩いてみないと区別できないほど上手く塗装されている。ボディ脇にモールを付けたり、キックアームにまでメッキ処理を施したり、メーターパネルがアンティーク調に光ったりと、同クラスの日本車ではこのような小綺麗さは見られない。

 エンジンサウンドは独特である。バイクのエンジンというよりも除草機のエンジンのようなビュオオオ〜ンという音がする。搭載されるエンジンはピアジオ・リーダーと名付けられた公表出力10.6psの空冷4ストローク2バルブエンジンである。これにCVTが組み合わせて変速される。スロットルグリップが重く、出足の一瞬も反応が遅い。シグナスX国内キャブモデルに近い感覚である。しかしいったん動き出すと結構元気に走ってくれる。

 平地でアクセルを全開にすると約100mで60km/h、約250mで80km/h、約600mで90km/h、約1,100mで95km/hまで伸びた。気温の涼しい夜間だと、約200mで80km/h、約500mで90km/h、平地最高速は100km/hまで伸びた。(いずれもメーター読み)下り坂は105km/hまで確認できた。

 比較対象区間304.7kmを走行したところオドメーターは316.8kmを差した。+3.97%の誤差があるとするならば、その区間の平均燃費は31.2km/Lに修正される。市街地区間は25.5km/Lになった。キャブ仕様とはいえ国産スクーターと比べると2ストロークモデルに近い数字である。出足の重さが災いしたか。なお燃料は9Lも入るので航続距離は問題ない。

 ホイールサイズは前11インチ後10インチという変則的なサイズである。着座位置は高く、ホイールサイズは小さく、キャスター角も立ち気味で、操縦感覚は独特のものである。スペイシー125のように纏わりつくようにフニャフニャしているわけではないし、速度を上げたからといって特段怖くなるわけではないが、少なくともこの直進性を褒める気にはなれない。まっすぐ走らせているつもりでも、緩やかに泳ぐ魚のように絶えず前輪が右に左にとわずかに遊回していて、無意識に修正舵を繰り返していることに気づくからだ。足付き性もET4より悪化しており、すりぬける際は少々気を遣う。

 思い出すに、何かの映画で主人公が古いべスパに乗っていた。そのべスパもやはり前輪が遊回していた。どことなく頼りない主人公のキャラクターとマッチしていて面白い動きと思って見ていたが、演出ではなく主人公は真面目にまっすぐ走らせようとしていたのかも知れない。

 一方で旋回動作への移行はいたってスムーズである。ケツを振る、ステップに加重をかける、ハンドルを操作する、このいずれの方法でも車体がバンクを開始する。ただし右旋回左旋回で挙動がわずかに異なるように感じた。右旋回時の方が微妙に切り始めるのが軽くオーバーステアで、路面からの衝撃もややソフトで、左旋回の方はやや切り始めが重くアンダーステアであるものの、あるところを境に逆に倒れ込みが早いように感じた。また、左旋回では路面からの衝撃を受けて前後輪でラインがずれることがあった。かなり神経を研ぎ澄まさないと感じないわずかな挙動差ではあるが、旋回特性が左右で異なり、すりぬけにも気を遣うハンドリングである以上は曲者と言わざるを得ない。

 乗り心地は硬めである。タイヤはピレリSL38(F:110/70-11。R:130/70-10)を履いていた。乾燥路面で急制動を試したところ、フロントだけだとかなり強く制動しない限り滑らないが、リアのみだと早めに滑り出す。ブレーキレバーは遠いけれど是非とも右を強めにして左右同時に握ってほしい。

 フレーム剛性は思いのほか高かった。アイドリングから発進にかけてハンドルはブルブル震えるし、全域においてエンジンからくる微振動が車体全体を覆う感覚はある。その鉄板(モノコックフレーム)は分厚いとは言えないが、段ボール箱のように薄いながらも剛性を確保している。中央1本のパイプフレーム車のようにハンドルを力強く引き寄せたってハンドルが近くなるわけではないし、上下方向にも左右方向にもフレームはしゃんとしているようだった。バンク角も想像するより余裕があった。

 着座姿勢は極めて良い。背筋がピンと伸び、ふとももは水平よりやや低い角度になって足腰に負担がかからない。シート表皮はグリップが良く、シートクッションもコシが強く、厚み・幅ともに充分で形状的にもケツの落とし所がちゃんとある。長時間乗車でも足腰尻は全くと言っていいほど疲れなかった。フロアステップは幅はそれほど広くないが、センター以外はフラットで、シートまでの高さもしっかり取られており、足の置き場や膝の角度を自由に設定できる。単独乗車でリアステップ位置にまで足を移せばシート先端を股で挟め、即席ニーグリップとなる。

 足付き性。以前125ET4に試乗した際は170cmない私でもほぼベタ足だったが、LX125だと両足ともに踵は浮いてしまった。足を接地した場所が砂利だったりすると、バランスを崩すおそれがあるので購入希望者は是非とも着座してみて欲しい。なお乗降性は悪くなかった。

 後席もシートが良い。面積が充分にあり、ケツのホールドも良い。グラブレールも順手では遠いが逆手であれば掴みやすい。ただし後席とリアステップまでの高低差があるので同乗者の身長を選んでしまう。160cm以下の人を後席に乗せるなら注意が必要だ。

 操作性は少し劣る。ウインカースイッチ、ホーンボタン、ブレーキレバー先端の位置がいずれも遠く、手の小さい人だと操作に支障が出る。特にホーンボタンはハンドルを握り変えないと指が全く届かないという人もいるだろう。着座姿勢の余裕といい、LX125は前後席ともに日本人としては平均以上の身長を要求していることが分かる。背の高いカップルが密着して乗るためのコンパクトスクーターなのだろう。
 バックミラーは曲面の歪曲が酷く、形状も丸いので正確な視界は得られない。Objects in the mirror are closer than they appear なんていう丁寧なご忠告をわざわざ曲面に印字してくれているおかげで一段と見にくくなっている。
 サイドスタンドは車体をバンクしているときだけ出しておけるものだった。バイクを起こすと自動的に収納されるものだった。駐輪場の係員が車両整理の際バイクを倒してしまわないかちょっと心配だ。サイドスタンドは短時間の使用に留めた方がいいだろう。

 積載性収納性インナーボックスはイグニッションキー全体を押し込むと開く。これはエンジン始動中でも可能だ。閉める際にはインナーボックスの蓋を押さえつつ、イグニッションキーを押し込むので両手を使っての作業となるのだが、惜しむべくは精度が低い。容量的には薄い上下のカッパであれば左右に分けてなんとか収納できる。

 メットホルダーは取り付ける金具が小さくてSZ-RAM3を引っ掛けるのに一苦労した。短時間駐車ならシート前端に仕込んである荷掛けフックの方が使いやすい。ボディが丸くえぐれているので、ここにヘルメットを掛けてもボディに干渉しない。

 メットインスペースはシート横に付いた鍵穴に鍵を差し換えて直接手で開ける。開口角度が大きく、シートはハンドルにもたれかかるまで大きく開く。シート自体に重さがあるので、風が吹いてもシートはなかなか落ちてこない。収納スペース下部に凹凸はあるが、ジェットヘルメットSZ-RAM3(M)を前向きにすればすっぽり収納することができた。この収納スペースは持ち上げるだけで簡単に取り外すことができる。整備しやすいし、取り外したトランクは穴が開いていないので洗車用のバケツとしても使える。ガッツリ積むならオプションのリアキャリアフロントキャリアは必需品だろう。

 ヘッドライトは一応マルチリフレクターだが、それほど強力ではない。たいていのバイクはライトをハイビームに切り替えると照射範囲が上向きにシフトするが、LX125は照射範囲が上下双方に広がる。常時ハイビームでいいかなという気がする。

 このスクーターは平均以上の身長とセンスのある人が乗ると一段と美しく見える。ミラーやブレーキレバーは交換できるもののハンドリングだけは変えようがない。私が短所と指摘した点まで好きになれるなら、単なる道具を超えた存在となるであろう。

2011.7.24 記述

表紙に戻る