スズキ・アドレスV100

 長所: 1価格 2前席着座姿勢 3すりぬけ 4積載性 5低ミュー路走行
 短所: 1ライト 2後席居住性 3質感 4整備性

 アドレスV100ジェンマ・クエスト90からしばらく間を空けて1991年に発売されたスズキの2ストローク原付二種スクーターである。50ccスクーターをベースに開発された原付二種スクーターの排気量は当時80〜90ccというのが相場であった。そこに快適通勤宣言のキャッチコピーで登場したアドレスV100はプラス10ccの余裕とシャープなデザインでたちまち人気モデルとなった。スリムでコンパクトなボディはすりぬけを得意とし、通勤快速どころか都内最速(渋滞時)の異名すら持っていた。

 今回試乗したのは1998年前後に生産されたAG100T。最高速は80km/hに届かず、比較対象区間の平均燃費も29km/Lに留まり、そのくせオイル燃費だけは2,705kmと異常に良かった。22,000kmという走行距離からしてあまり良い状態ではなかったと思う。ちなみに比較対象区間304.7kmを走行した際のメーター値は307.7kmで+0.9%の誤差を認めた。

 V100を一言で片付けるなら『50cc並みの車体に2st100ccのエンジン』である。私自身も610mm(当時)というハンドル幅によるすりぬけ戦闘力を期待してポンコツ250ccからAG100Nに乗り換えた過去がある。リード90だと250ccと同じハンドル幅があるし、アクシス90は同じ値段なのに82ccしかないし、4st125ccには手が届かなかった。手ごろな値段でソコソコ走ること。V100が多くの人に選ばれた理由はそこにあると思う。

 メータースケールは100km/hまで刻んであるが最高速はそこまで伸びない。高効率プラグに交換したときにAG100Nで90km/h以上伸びたことはあるが、フルノーマルではせいぜい87km/h止まりであった。燃費は市街地走行で年間平均25km/Lだった。これは当時併用していたスズキ・セピア(2st50cc)と同じだった。排気量が2倍あって平均速度も速いのに同じ燃費ということは、アドレスV100の方がセピアよりも燃費効率が高いことになる。

 最も燃費が良かったのは、39.4km/L。これは平地で50km/hになるようなスロットルを一定に保ち、信号停止の少ない国道を冬に流したときのこと。最も燃費が悪かったのは17.4km/L。これは真冬に暖気せずに片道3kmしか走らなかったときである。このわずか5分間の移動のために10分間、完全に暖気してから走ると17.8km/Lになった。2stなので冬季はスロットルを少し回していないと始動直後はエンストしてしまう。エンジンが温まるまではその場を離れることはできなかった。

 アクセルを全開にすると発進から最高速の間にもたつく領域がどこかしらにあった。変速の滑らかさはホンダ車にかなわない。発進加速もそう速くはなかった。当時の4st125ccスクーターやリード90、アクシス90あたりには負けてなかったものの、下手をすると出足の一瞬はセピアのほうが速いくらいだ。でもそのおかげで雨天時にもほとんどスリップしなかったし、5cmくらい雪が積もっても真っ直ぐ走ることができた。ワダチを狙って走れば旧型ジャイロXよりも雪上走行が強かった。

 久々に乗ってみて随分とヤワなフレームに感じた。しかし着座姿勢が良く、前後サスペンションも粘るおかげで運動性能は当時のスクーターとしては高いレベルにあったと思う。リアステップもフルバンク(笑)を想定してか先端が45度くらいにカットされていた。
 セピアZZ、アドレスVチューンと共通のアンチダイブ式のフロントサスペンションは適度な弾力がある。急制動ではきちんと荷重を受け止めてくれたし、旋回にも耐えるし、極低速でも直進性が高かった。その一方で突き上げが強く、大きな段差を通過すると、すぽ〜んと尻が浮いてしまうことがあった。これは低いハンドルと足を前に投げ出す着座姿勢も作用しているだろう。

 着座姿勢は単独乗車に最適化されている。ホンダのスクーターに比べるとコンパクトで内側にわずかに絞ったようなハンドル形状で、フロアも決して広くはないが足で踏ん張れる。170cmない私でも地面に足がべったりと付く。シートはセピアなどよりは厚みがあったが、先端が尖っているので、深く腰をかけないとケツが安定しない。長時間走行では支持の弱さが現れてふとももや腰に負担がかかる。こんなときはケツを更に後方にずらしてリアステップに足を乗せればいい。着座位置をこまめにずらせば単独の長時間走行もなんとかこなすことができた。

  

 2人乗りは緊急用である。運転者が深く腰をかけることで、もともと短いシートがタンデムでは余計に足りなくなる。後席用のグリップは針金のように細いリアキャリアが兼ねている。格納式リアステップを装備して最悪の事態を免れているが、これも運転席寄りに付いていて信号停止の度に2人の足はぶつかる。小柄なカップルでないと苦しいだろう。

 運転者がリアステップに足を置くことでフロアステップの全面積を積載スペースとして使うことができた。小型のボストンバック1個をここに載せられる。メットイン、リアキャリア、フロントインナーラック、フロントバスケットをフル活用すれば夜逃げ一人分くらいの荷物は積めるだろう。細かい事を言えば後期型に標準のインナーラックよりも、前期型の車体にメッシュインナーラックを後付けした方が使いやすかった。メットインスペース内は照明中敷が用意されていた。寝かさなくてもジェットヘルメット・SZ-RAM3がすっぽり入り、その脇にグローブなども飲み込んで収納力はアドレスV125以上であった。車体は小さいのに意外と積載性の高いバイクだった。

 ヘッドライトは30Wだが、ちょうちんのように暗くて夜間は危険極まりない。私自身もV100で直進中に対向右折車が何度飛び出してきたか数え切れない。夜間走行では常に左手はブレーキかホーンの準備をしていた。カワサキ・KSR-?/KSR110とならんで原付二種最低の照射力・被視認性である。V100は整備性も良くなかった。点火プラグひとつ取り替えるにもレンチを選ぶスクーターだった。また、ボルトの露出が多く、耐候性を考慮していない。スイッチ類の操作感触も百円ショップの商品のごとくチープであった。切るとこは切って、残すところは残す、ほんとスズキって要領がいいよな〜。

 モデル末期においても平均以上走行性能実用性を備えながら一番安かった。燃料タンク増量(といっても4.8L⇒6.0L)、集中ロックキーの採用、クラッチ改良(タイプS以降)、排ガス・騒音規制への対応など改良を重ねて15年間も生産された。アドレスV100は原付二種というカテゴリーを確立した功労者である。

2009.3.2 追記/1999.12 記述

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