スズキ・ヴェクスター125

 長所: 1着座姿勢 2居住性 3運動性能 4航続距離
 短所: 1発進加速 2トランク容積 3BOX取付後の全長

 1991年に発売されたアドレスV100がジェンマ・クエスト90(2st)の後継機種とするならば、1994年に発売されたヴェクスター125ジェンマ125(4st)の後継機種と言えよう。アドレスV100がコンパクトさと俊足を売りにしたのに対し、ヴェクスター125はゆとりあるサイズと伸びやかな走りを売りにした。今回試乗したのは2万km以上走行している2003年式=最終モデルである。

 エンジンをスタートさせるとカタカタトコトコという小さな音と振動でアイドリングする。静かな分、発進加速は残念ながら遅い。70km/hぐらいでやっと元気が出てくる。高回転になると4バルブっぽいサウンドを放つ。変速特性はおおむねフラットだが、アクセルを全開にしていても中速域で一瞬加速が停止する変速ラグが何度か現れた。

 85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にすると発進から100m強で60km/h、200m強で70km/h、400m弱で80km/h、700mで90km/h、約1,000mで平地最高速96km/hを確認した(全てメーター読み、以下同じ)上体を伏せて同じことをすると800mで100km/hになった。下り坂でもせいぜい103km/hだった。スロットルグリップが重く、加速も重々しいので、アクセルは常時全開を強いられる。加速ポンプ付きキャブレーターというからもう少しパンチがあるのかと思ったが、少し期待外れだった。今まで取り上げたスクーターの中ではシグナスX国内キャブモデルに近い加速感である。

 比較対象区間304.7kmを走行したところ距離計は310.3kmを示した。距離計に+1.8%の誤差があるとするならばこの区間の平均燃費37.6km/Lに修正される。暖かったせいか市街地区間でも30〜34.7km/Lと、ほぼ常時全開に近い乗り方をされながら燃費は悪くなかった。燃料タンクは8Lなので250km前後は航続できる。

 ロングホイールベースのため直進性は高い。その一方で小径ホイール車らしく小回りも効き、腰の振りひとつで素直にコーナリングする。タイトコーナーが続く暗黒の峠道でも右に左にとスイスイと旋回してくれ、見た目より良く動くスクーターであった。もっとパンチのあるエンジンに、もっと明るいライトを与えればもっと速く走ることができる。

 豚みたいに太った腹回りなので、いかにも鈍重そうに見えるが、それは発進加速だけ。いったん動き出してしまえばアドレスV100よりよっぽど良く走るではないか。アドレスV125(K5〜K7)のエンジンに載せ換えていたらツーリング向きの原付二種スクーターとして魅力は倍増しただろうに。

 図太いボディのくせに意外と縁石に引っ掛かりにくく直進すりぬけもけっこうイケる。ただ、路面に刻まれた縦溝にハンドルが取られやすい点はV100やV125に共通しているし、フレーム剛性もV100・V125と同じぐらいかちょっとマシかという程度に感じた。バンク角が深いときに路面に凸凹があると前後輪の軸がずれるのを実感した。太い車体のくせにリアサスは片持ちだし。まあ、ヴェクスターで攻撃的な走りをする人は少ないだろうから剛性うんぬんは、それほど気にならないだろう。

 乾燥路面で短制動を試してみたところ、リアブレーキだけだとロックして右にゆっくりと流れた。フロントブレーキだけだとなんとか持ちこたえた。ディスクローターを挟むのは1ポッドキャリパーである。瞬間的に強く握れる人にはこれで十分だが、絶対的な制動力は今の平均には満たないだろう。

 ヴェクスターのホイールはスチールリムにアルミディスクをピアスボルトで接合する珍しいスクーターである。たかが10インチホイールを2ピース構造にしてどんなメリットがあるのだろう。アルミを介すると乗り心地が良くなるとかあるのだろうか。まあ、ホイールは別としてもV100やV125よりは乗り心地は良かった。

 前後席ともに居住性は良い。
 運転席の足元は十分に広く、足は前に投げ出してもフロアに揃えても落ち着く。フロアは、足がちゃんと置けるように前半は幅が広く、足がちゃんと付くように後半は絞ってある。170cmない私がベタ足になる位置に腰を下ろすと、シートバンドの丁度前にケツがきて、同乗者はシートバンドを掴むことができた。直立した着座姿勢なので腰や股に負担はかからない。フラットシートなのでケツを前後にずらすことができて長時間走行が全く苦にならなかった。着座姿勢が良いことも操縦性を高めている。背もたれがあったらもっと楽ちんで居眠り運転ができたと思う。

 後席は広いシートスペースに格納式タンデムステップがあるのだが、多少仰け反り気味の着座姿勢になってしまう。それは、タンデムステップの取付位置が(同乗者からすれば)前寄りに付いているのと、タンデムグリップ兼用のリアキャリアが遠いからである。荷物を載せた状態でも給油できるよう、リアキャリアが給油口より後方にあるのだ。同乗者には両手でシートバンドに手を通すか、片手を給油口あたりに置くか、リアキャリアにバックレスト付きのBOXを取り付けた上に、バックレストまでの距離を埋めるものとしてデイパックを背負ってもらうと良いだろう。

 後席のヒップポイントより更に後方に車軸があり、シートもフラットなので、2人乗りでも重心変化が少なて良好な2ケツ操縦性であった。但し発進加速はいっそう遅くなるので2人乗りでも常時全開に近い運用になるだろう。

 積載・収納性は平均点。
グローブBOXは開ける時のみカギが必要で、閉める時はオートロックする。左側は500mlペットボトルを斜めに収納できる他、カッパ下、グローブくらいなら左右に分けて収納できた。

 トランクはV100同様に照明が付いている。ジェットヘルメット:SZ-RAM3をすっぽり収納できたが、内部形状がラウンドしていて、進行方向に向かって左横に寝かせるという限定付きである。内装の前方には車載工具入れ、右横には書類入れが張り付けてある。ヘルメット以外に何か収納するとすれば、ヘルメットの前のわずかな隙間に小物を詰めるか、ヘルメット内部に詰め込むしかない。トドのように太い腹なのにトランクスペースは広いとは言えない。

 フロントフック(コンビニフック)がシート前端下にあり、ここにもヘルメット等を引っ掛けることができる。面積の広いフラットフロアを荷物で塞いでしまうと、足を『超』前に投げ出すか、タンデムステップをバックステップ代わりに使うことになるが、どちらも足付き性が極めて悪くなるのでお勧めしない。コンパクトなV100・V125にできる芸当もゆったりサイズのヴェクスターになると難しくなる。

 リアキャリアは当初はリアスポイラーとミニキャリアを組み合わせたような奇怪なものが付いていたが、モデル末期に姉妹車:ヴェクスター150と同じものに変更された。キャリアパイプは太めでV100・V125よりも頑丈そうに見えるが、キャリアの幅は狭く、給油口がシート後方にある関係で取付位置をかなり後方に押しやられ、ここにBOXを取り付けると駐輪場に止めるのが申し訳ないほど車体が長くなってしまう。給油口は上を向いていた方が燃料を入れやすいが、当時セルフ給油は一般的ではなかったのだから、燃料の入れやすさよりもキャリアの取付位置を優先して欲しかった。給油口はV100と同じく横から出すか、V125と同じくシート下に設けて、シートの直後から荷物を置けるようリアキャリアを前方に移動するか、あるいは前方に拡大した方が良かったと思う。現状では給油口の位置で実用性が分断されてしまっている。

 図体はデカイが取り回しは見た目より軽い。駐輪場の奥に押し込まれると取り出すのに苦労しそうだが、外で使用する分には問題ない。

 ヘッドライトは30/30Wのクリプトンバルブを2灯横に並べ、当時としてはなかなかの明るさであった。絶対的な照射力はスペイシー125等の55W勢に及ばないものの、照射範囲は広くて夜間走行はV100とは比べ物にならないくらい安心感があった。40WマルチリフレクターのV125にも負けていない。
 フロントカバー中央にポジションランプがある。ないよりあった方が被視認性はわずかにいいし、夜間でもヴェクスターであると判別できるが、カゴを付けたとたんに隠れてしまうようでは意味がない。ウインカーをポジションランプとして常時点灯させた方が良かったと思う。

 フロアステップにゴムマットを敷いて滑り止め・錆び止め対策をしているし、ミラーの付け根のゴムも取付位置に合わせて切り込みをしている点も泣かせるが、マフラーが錆びやすいのはスズキの常で、今回お借りした個体も既にヒートガードが落ちている。各種スイッチも50ccスクーターと共通部品が多く、『上質な生活へと加速する』などと謳ってもやはりスズキ品質であることに変わりはない。メインキー、トランク、グローブBOX、給油口、どこを開けるにもカギをいちいち差し替えなければならないのは、さすが旧車である。

 ヴェクスター150は高速道路に乗ることが“できる”最安価な軽二輪スクーターだったので、ゆったりとしていて航続距離が長いことは必然であった。しかし多くの原付二種ユーザーはゆったりとしていて航続距離が長いことよりもコンパクトで安いものを望んでいたようだ。ヴェクスター125のライバルはスペイシー125でもシグナスでもなく、正反対のコンセプトを持つ身内のV100であったのかも知れない。一時期4種もの原付二種メットインスクーターをラインアップしていたスズキだが、最も売れるV100の後継車種:V125だけを残し、ヴェクスター125は2005年に生産終了となった。規制時期に合わせてヴェクスター150も2007年に生産終了となった。

2010.8.21 記述

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