スズキ・チョイノリ

 長所: 1価格 2デザイン 3安定性 4すりぬけ 5取り回し
 短所: 1乗り心地 2踏破性 3積載性

 鈴木・ちょい乗りは、必要最低限の装備で徹底的な低価格(税抜59,800円)を実現したゼロハンスクーターである。今回は07年式のセル無しモデルに試乗した。

 まずは装備。いつもは追加装備について語るが今回はない装備について。  バッテリー。これがないためエンジンの始動はキックで行う。バッテリーレスの辛いところはライトが暗いこと、そしてホーンの音が小さいことである。一般的なスクーターでホーンを鳴らすと真近にいる歩行者はびっくりして振り向くが、チョイノリの場合は何の音だろう?と好奇心で歩行者は振り向く。ぶりりぃ〜〜ぶりりぃ〜〜、下痢便するおしりに拡声器を当てるとこんな音になるだろうか。さすがに女性や年配の方にキック始動を強いるのは酷と見えセル付きモデルも税抜13,000円高で用意されている。

 オートチョーク。これもないのでハンドル左側にあるチョークレバーを引いて自分でガソリンと空気の混合比を調整する。でも何のことはない、はじめはチョークを引いた状態で始動して、様子をみながら徐々にチョークを戻していけばいいだけのこと。

 燃料計。前回給油時の累計走行距離を覚えてないと、とりあえずガス欠するまで走ることになる。1回目のガス欠がきたら燃料コックをリザーブに切り替えて2回目にガス欠する前にスタンドに寄る。まあ、重量が39kgしかないので、押して歩くのは全く苦にならないけど。

 ハイビームとロービームの切り替えができない。でも15Wの光量じゃどこ向けても大した照射はできないし、また迷惑にもならない。ウインカーについてはプッシュキャンセルスイッチではないし、点滅状態がメーター内に示されるわけでもない。しかしウインカーそのものが見えるからこれでいい。左ミラーは別売りである。左側端に沿って30km/hで走行するならば確かに左ミラーはそんなに必要なものではない。

 リアサスペンション。これがないために今まで取り上げたバイクで最低の乗り心地である。路面からの衝撃とエンジンからの振動・騒音は絶えずリアシートを通して運転者の頭にまでしっかりと伝わってくる。アライ製ジェット:SZ-RAM3を被っていても、騒々しい。しかし歩行者としてチョイノリの走行音を聞く限り、決して騒々しくはないのだが。

 収納スペース、積載方法が一切ない(標準状態)。キャリアはないし、メットインスペースもないし、セル無しモデルはフロントバスケットすら装着できない。フロアはカバン1個くらい置く面積はあるが、ここに荷物を置くと足の置き場がなくなる。かろうじて使えそうなのが、ハンドルパイプに取り付けるチンケな別売りヘルメットホルダー。これはバイク本体と別のカギになってしまうが、まあなんとかコンビニのビニール袋ぐらいなら引っ掛けられる。驚いたのは登録書類を入れるスペースすら用意されていないことだ。書類は携帯するか収納箇所を自分で設置するしかない。

 イグニッションをONにしてチョークレバーをめいっぱい引く。キックと同時にアクセルを吹かしてエンジンが始動する。バイクらしい懐かしい始動手順である。自動遠心クラッチなので、チョークをめいっぱい引いた状態だと後輪が回転してしまうが、エンジンがよほど温まっていない限り、チョークをすぐに戻してしまうとエンジンストップする。走行時間が長くない限り、寒冷期はチョークを完全に戻すことはないだろう。頻繁に使うこのチョークレバーはATVのアクセルレバーぐらいの大きさで左側に付いている。チョイノリのスイッチ類で最も使いやすい。

 最高出力2.0ps4stエンジンはアクセルを全開にしても大して速くなるわけではない。むしろエンジンが壊れるのではと思うほど騒がしくなるだけなので、トルクの豊かな30km/h前後で走行したい。このトルク特性と、エンジンのコンパクトさから、ヤマハ・ミントのような無変速2stエンジンを思わせるが、ホンダ・モンキーに似たこのエンジン音はまぎれもなく4stである。良くぞここまでエンジンを小さくしたものだと感心する。

 最高速は平地で48km/h、下りはメーター振り切って55km/h以上、上りは緩い坂でも40km/h以上出ることは稀で、勾配がきつくなるに従ってどんどん減速していく。燃費は市街地を30〜35km/hで走行して49.8km/L、アクセル常時全開で38.2km/Lだった。これだけ遅くて軽いのにメットイン4stモデルと燃費は変わらない。動力性能と比べればむしろ悪いくらいだ。この2.0psというスペックは、燃費のためではなく、いかにエンジンを小さくして使用原材“量”を減らし、販売価格を下げるかという発想から生まれたのだろう。排ガス規制がなければ2stエンジンを搭載していたかも知れない。

 エンジン搭載位置がすごい。スポーツバイクは勿論のこと、スーパーカブよりも低い位置、フロア下にエンジンだけでなくマフラーまでも収めている。このため最低地上高が異常なまでに低い。段差を通過するなら極力バイクから降りるべきである。

 驚いたのはその安定性。信号で停止してもしばらくの間、地面に足をつかないでいられた。低重心設計がここまで安定感に寄与するとは、、、スーパーカブ以来の感動である。そして旋回性もいい。リアリジッドがもたらす正確無比なコーナリング。調子に乗ってバンクしまくったら、タイヤのグリップが先に負けて後輪が滑ってしまった。でも足付き性がいいので転倒の恐怖は全くなかった。

 自転車並みに取り回しが良く、低速でも安定しているからすりぬけ易さもトップレベルである。前後ドラムブレーキだが制動力にも不満はない。

 あまりにコンパクトな車体でフロアの幅も狭いからもっと窮屈かと思ったが、意外とマトモな居住性だった。シートが比較的大きめでフラットなのと、フロアに前後的な余裕があるので、着座位置をずらせるのである。いろんな体格の人がそこそこの居住性を得られるだろう。これでリアサスさえあれば長距離走行も苦にならない。もう少しフロアを低めてもらえばもっと着座姿勢は楽になるだろうが、そんなことは長時間走行したアホな私だけが思うことであろう。

 視認性の高いパステルカラーと愛嬌のあるボディデザインが走る姿を微笑ましいものにしている。こんだけチンタラ走っているのに、不思議と一度も一般車に煽られなかった。

 とにかく安いバイクを作る。スズキならではの割り切りが合理的な原チャリを作り上げた。30km/hで走るなら大きな不満もないが、やはり乗り心地が良くないので女性向きとは言えない。セル、バスケット、キャリアなどを付けていったらメットインタイプとの価格差が小さくなるので、セル無しモデルを、とにかく安いゲタが欲しい人、または予備車、公官庁用としてお勧めしたい。

2007.3.21 記述

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